廊下に無機質に同じように並んだ客室の扉。
第三層の全体図を示した地図を見る。
イルミとカルトちゃんがいる。
それに、十二支んの大半もこの三層にいる。レオリオも。
それ以外の旅団メンバーはここにはいないようだった。
「で、どうするんだい?」
「しばらくはこの第三層に居ましょう。チケットを手に入れたことで私たちにも客室があるはずなので、そこに居るか、あるいはヒソカを探してウロウロしましょう。やがて騒動が起きて、準戒厳令が敷かれます。上に行くのは、それ以降のどさくさ紛れがいいと思います」
最初に私たちにあてがわれた客室に向かう。ツインの一部屋。
ゲレゲレをそこに待機させて、私たちは第三層をざっと見て回った。
できれば十二支ん、特にミザイストムには鉢合わせたくない。
当然、プロハンターである私の顔も。
併せて考えると、私が幻影旅団と何らかの関係を持っていることはすぐにばれる。
なんならすでにばれている可能性の方が高い。
揉め事を、起こしたくはない。
よって私はこの第三層に来た時に『愚者』を発動した。ごく自然な流れである。
私のそばに来れば、円でなくともその存在を把握できる。
そしたら逃げるだけだ。面倒は出来る限り避けたい。
第三層にはデッキや病院、映画館、大食堂も複数あるし、バーやマッサージ施設なんかもある。
イメージは大き目の都市にあるようなホテルだ。
一般人が予約し泊まれるレベルの高級ホテル、その感じに近い。
警察や裁判所などの政治特区もこのフロアにある。
ここを中心に下層を警護・管理するのだろう。
第二層より上はたぶん例外。
そこに滞在する個々人が警護や主治医をそれぞれに付けているような、そんな世界。
ヒソカを探して訪れた大食堂の一角で、私の目の端に映った人物。
フードを深くかぶり、隠れるように移動している。
「ちょっと? どこいくの」
マチさんから離れ、私は彼女に近付く。ボストンに入れた水を取り出す。
キャップを開いてわざとではないふりを装って彼女に水をかける。
「あっ、ごめんなさい! 私の部屋が近いのですぐに乾かしましょう! 本当にすみません!」
近付いて、顔を覗き込み、口の前に人差し指を立てる。そして小声でささやく。
「大丈夫、お味方です。一旦私たちの部屋にご案内します。ここでは目立ちすぎる」
彼女は私の顔を見て、深く頷き、そして私の隣についてきた。
「知り合いかい?」
「ではないですが、似たようなものです。こちらはマチさん、私の知人で信頼できる人です。さあ、行きましょう」
そして彼女を連れて三人で部屋へと戻る。
室内に入ると最初はゲレゲレに怯えていたが、おとなしいとわかるとすぐに落ち着いた。
「改めて。初めまして、
ドライヤーで彼女にかけた水を乾かしながら、私は挨拶をした。
「知ってます、戦う占い師さん。一度占ってもらいたいと思ってましたから」
まさかの私が知られていた件について。
だからおとなしくついてきてくれたのか。
「王族の方とお話しする機会などないので、何かしら失礼な点があったら先にお詫びしておきます」
「いえ、私もまさかこんなところであの戦う占い師さんにお会いできるなんて思ってなくて、嬉しいです」
その呼び名はやめてほしい……けど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「フウゲツ王子、私は上層部で現在何が行われているかを知っています。そして、王子が何を求めているのかも。ここは第三層。王子は『
彼女は無言で頷いた。
「ちょっと、話が見えないんだけど」
「ひとまず、私たちの会話を聞いていてください。質問は後で受け付けます」
マチさんには悪いけれど、今は
少しでも早く話を進めたいだろう。
「『
「出口は、消えました……多分だけど、あのトンネルは一日一回しか出すことができないみたいで、さっきこのフロアに来てからは、何度念じても出せません」
恐らくは一日一回の制約。あるいはそれが王子のオーラの限界値。
念獣らしきものは、彼女の周囲には見えない。
「それでは王子はきっとお疲れでしょう。見つかれば大騒ぎになるでしょうから、この部屋を提供しますので、明日までここに隠れてお過ごしください。……狭い部屋で、恐縮ですが」
「とんでもない! 感謝します」
「そして明日、私たちも一緒にその『
王子は目を大きく見開いて口に手を当て……そして、涙を流し始めた。
「あなたは……本当に、私の状況がわかってるんですね。すごい……」
「これでも、占い師なので。でも、何もなくてもわかるのはほんの少しだけ。だから、王子の口から、王子が異変を感じ取ったことを教えてください。……王子の主観で、何でも構いません」
私はあえて笑顔を見せる。
「王子のお話を聞いたら、私のカードで占いましょう。王子が詳細に話してくださるほど、きっと私のカードは詳しく教えてくれるはずです、今後の指針、どうすればいいかを」
フウゲツ王子は改めて、深く頷いた。涙はもう止まっていた。決意の眼差し。
「最初に変だなと思ったのは半年くらい前です……以前は、なんていうか、もっと自由でした。警護はついていたけど、他の国に旅行もできたし。その、数か月前に、あなたに占ってもらいたいと思ってソレイル共和国……天空闘技場に行きたいと伝えたんですが、にべもなく断られました。それ以後、カキンからは出ていません」
私は頷いて、話の続きを促す。
「この船のことは、その前から聞かされていました、私たちが乗ることも。それで、二か月ぐらい前に変な儀式を受けて……」
「壺中卵の儀ですね。壺の中に血を垂らして、手を差し込む……」
「そうです。それ以降、目に見えて警護が厳しくなりました。私だけでなくカーちん……あ、カチョウ王子も。他の王子は知りませんが、多分似たような状況だと思います」
王子は大きく息を吐きだした。疲れているのだろう。
「……王子、今日はゆっくりお休みください。占いはまた明日にしましょう。私たちはここに居て、王子をお守りさせていただきます。お目覚めになるまで、ずっと」
「がぁう!」
ゲレゲレの相槌と、フウゲツ王子の足元へのスリスリ。
彼のモフモフで王子の緊張が少し解けたようだった。
「わかりました……ありがとう」
王子が寝付くまで、私たちは黙ってそこに居た。
やがて寝息が聞こえてきた。そしてマチさんの小声。
「……で、どういうことなんだい?」
私はカキン王子同士の殺し合い、壺中卵の儀の説明をする。
上層階で今行われていること、寄生型の念獣の存在。
「この子には念獣はついてないみたいだけど?」
「その理由はまだわかりません。けれど彼女の得た能力、あれはおそらく移動型。あれを使えば私たちが第二層より上に行くことも容易になるはずです」
三層に残るべきか、上に行くべきか、私はまだ決めかねている。
王位継承戦にはできれば関わりたくない。とはいえ、上層部に行くためには千載一遇のチャンスであることもまた事実。
「……イルミ」
「え?」
「イルミ。アイツ、どうも気になるんだよね……
……? マチさんのカンは当たる。原作知識のない私のカンなんかより、はるかにだ。
そのマチさんが
「まあ、ひとまずはこのお姫さんだね。この子が上に戻るまで守るってことに異存はないよ。確かに話を聞いた限りでは目立つことなく上に行けそうだ」
明日、彼女が起きたら
まずは、そこから。