二十二の使徒   作:海砂

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第五十三話

 少し考えて、私は追いメールをした。

 

『ヒソカは現時点で第三層に居ます』

 

 すぐに、団長さんからメールが返ってきた。

 

『『愚者』だな。そのままヒソカの動向を逐一把握して報告しろ、オレが殺る』

 

 私たちは明日、魔法の抜け道(マジックワーム)の検証をする。

 場合によっては第一層に移動する。

 ヒソカの位置を把握するためには地図が必要。

 寝ているマチさんを起こさないように、こっそりと部屋を出た。

 その辺にいる従業員らしき人を捕まえて、紙の地図がないかと尋ねる。

 その従業員さんは快く、スタッフルームから全フロアの見取り図のコピーを持ってきてくれた。

 そして、準戒厳令が出てるから今すぐ部屋に戻るようにとの指示も共に。

 無事に地図を手に入れて部屋に戻ると、マチさんがすでに起きていた。

 

「単独行動禁止、忘れたんじゃないだろうね」

 

「すみません、起こしたくなかったもので……これを手に入れてきただけです、遠出はしてません」

 

 地図を見せる。第三層だけじゃない全フロアの図面だったのはラッキーだった。

 これで皆の居場所を把握できる。

 

「ああ、『愚者』ね」

 

「はい、それと……ヒソカとイルミさんとカルトさんは組んでいる可能性があります、注意しておいてください」

 

「それは占い? それとも何か別の確信できることがあった?」

 

「さきほどこの地図で、三人が一緒にいることを確認しました。衝突が起こっている気配はありません。つまり、そういうことなんじゃないかと」

 

 実際に調べた。今、三人は第三層政治特区の近くに居る。

 でも三人がこの第三層に居ることは言わないでおこう。

 言ったらマチさんは自分たちが行くと言い出しかねない。

 私たちはフウゲツ王子に集中していたい。少なくとも今は。

 

「それ、みんなに伝えた? ていうかヒソカの居場所もわかるんじゃないか」

 

「はい、メールで皆さんに伝えました。彼らは今第二層にいるようです」

 

「そ。それじゃ今のところどうしようもないね。今度はあたしが見張りをしてるから休みなよ。ただしフウゲツ王子が来たら叩き起こすからね」

 

 お言葉に甘えてベッドに横になる。

 ゲレゲレが隣に来て、抱き枕になってくれた。

 ノドがグゴログゴロと、すごい音を鳴らしている。

 その温もりのおかげか、私はすぐに眠りに落ちることができた。

 

 

 夢を見た。

 私は一人で泣いていた。

 私は小さい。子供だ。

 私は無力で、何もできない。

 周囲は真っ暗で、何もない。

 私は一人で泣いていた。

 そしたら、誰かが手を引いてくれた。

 ピンクの髪の、釣り目の綺麗な女のひと。

 そしたら、誰かが頭をなでてくれた。

 黒い髪の、優し気な男のひと。

 フランケンシュタインみたいなひとも、ミイラみたいなひともいた。

 他にもたくさんひとがいた。

 みんな笑って、私の手を取り頭をなでてくれる。

 私はもう泣いていない。

 私は一人じゃない。ひとりぼっちじゃない。

 暗闇はもう怖くない。

 

 

 特に何事も無く、私は目覚めた。

 

「……マチさん、私どのくらい寝てました?」

 

「そんなには寝てないんじゃないかな。まだ日付も変わってないよ」

 

「そうですか……」

 

 ゲレゲレに、ベロンと顔をなめられた。

 ザリザリしててちょっと、いや、結構痛い。

 

「食事はどうする?」

 

「ルームサービスを頼みましょう。今は準戒厳令下らしく、部屋から出ないようにと言われましたので」

 

 部屋に備え付けてあったメニューからそれぞれ料理を選び、内線電話で注文する。

 ゲレゲレ用には別途で塊肉を焼いたものを。

 ……栄養、偏っちゃうかな? キャットフード持ってくればよかったかな。

 でもすぐに無くなっちゃうしな。荷物にもなるし。

 すぐに料理は運ばれてきて、私は料金とチップを支払った。

 一番高い料理はゲレゲレの塊肉三キロだ。このゴクツブシさんめ!

 でも美味しそうにかぶりついてるのを見てると、それだけで癒されるんだよなぁ……。

 マチさんは厚切りトーストにスクランブルエッグとサラダのセット。

 私はお野菜たっぷり具沢山の中華粥。

 お野菜とらないと団長さんの真顔が浮かぶようになってしまった。トラウマ。

 夕飯としては簡素だけれど、お互いに消化の良いものを、適度な量。

 特に私は寝起きだからね。

 ゲレゲレみたいなの食べたら胃がびっくりしちゃうよ。

 

 食事をとっている間に日付が変わり、変わるとほぼ同時にピンクの扉が現れた。

 王子もまた少しでも早く先へと進みたいのだろう。

 そして、願った場所へと魔法の抜け道(マジックワーム)を繋げることができるのは、ほぼ確定。

 ついでに私の舞い踊る二十二の使徒(ダンシング メジャー アルカナ)のように二十四時間縛りではなく、日付変更が制約だってことも。

 

「あっ、ごめんなさい……お食事中でしたか」

 

「すぐに終わるから心配ないですよ。申し訳ないですが王子はそのまま、トンネルから出ないでください」

 

「はい、わかってます」

 

 実際、私たちの食事はほとんど終わっていて、すぐに全員食べ終わる。

 そして私たちは、トンネルの出口の前に集まった。

 

「次は、お二人も一緒に通れるか、ですよね」

 

「護衛たちに話はしてこられましたか?」

 

「はい、今私に直接ついている護衛は二人とも信頼できる人たちです」

 

「ならば突然部屋に私たちが現れたとしても問題はありませんね……では、参りましょうか」

 

 さてさて、私たちも通ることはできるのか……。

 まずは王子が奥に入り、次いで私……の前に、先にゲレゲレがトンネルに飛び込んだ。

 全身が見えなくなる。どうやら入ること自体に問題はないようだ。

 私とマチさんがそれに続く。中は真っ暗で、手探りで先へと進む。

 それほど立たずに、出口の明かりが見えた。

 明かりは徐々に大きくなり、全員が出た時点で扉は消えた。

 

「王子、ここは王子のお部屋で間違いないですか?」

 

「はい、私のベッドです。リョウジ! バチャエム!」

 

 王子はベッドの天蓋を開いて警護を呼び出す。

 二人の男が即座にベッドの前へと仁王立ちした。

 

「このお二人が、先ほど話したエイラさんとマチさんです」

 

「初めまして、エイラです。時間がないので率直に伺いますが、現在フウゲツ王子の警護体制はどうなっていますか?」

 

 二人は信頼半分、不信半分といった様子で私たちを見ている。

 だが黙っていても埒が明かないと判断したのか、素直に回答してくれた。

 

「直属の護衛は我々二人、他五名は全て上位王妃の所属兵だ」

 

「ハンター協会員は?」

 

「フウゲツ様にはついておられない」

 

「わかりました……可能であれば、カチョウ王子に従事しているハンター協会員を一名こちらに融通するようにセイコ王妃に嘆願してください。それから、『ネンジュウ』というワードについてはすでにご存じかと思いますが、お二人は念能力者ですか?」

 

「ネン……ノウリョク? 知らないな」

 

「私も知らない」

 

 念能力については二人とも知らないようだった、ということはフウゲツ王子は実質無防備に近い。

 私は念能力のことを掻い摘んで二人に説明した、念獣のことも。

 私たちが突然、誰もいないはずのフウゲツ王子のベッドからわらわらと現れたのも、その念能力の一端であると。

 相手の知らない重要な情報を無償で提供する。これも、信頼させる一つの手段。

 

「実際に見てしまっては、疑いようがないな……その、移動能力でフウゲツ様を船外に逃がすことは?」

 

「おそらく無理だと思われます。距離に制限があるのか、詳しくは調べてみないとわかりませんが」

 

「ネンジュウとかいうのは? フウゲツ王子にも憑いているのだろう?」

 

 ……それは……さっき、見つけた。

 ベッドの片隅でぷるぷると震えている、二足歩行の真っ白なロップイヤーラビットのような生物。

 ゲレゲレを見て失神しそうになっていた。

 あれが恐らく、王子の念獣。片手に星型のステッキを持っていた。

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」とか言われたら困るなあ、そんな感じの生き物。

 に、しては、ずっとビクビクしっぱなしだ。こんな念獣もいるのか。

 

「我々がその『ネン』をこの場で警護もしながら覚えることは可能か?」

 

「可能ですが時間がかかります。恐らくすでに非戦闘員が二名、1014号室へと行っているでしょう。あちらの手段は特殊なもので、私が教える場合は命の危険を伴うもので一週間弱、そうでなければ半年から一年はかかります」

 

「それでは意味がないな……しかし、『ネン』が無ければ王子をお守りできないこともまた事実」

 

「私とこちらのマチ、それに獣ですがこのゲレゲレも念が使えます。少しはお役に立てるかと」

 

 護衛二人の視線がゲレゲレに集中する。ぐるぅと鳴いて鼻高々である。

 

「しかし、それほどの方々が何故フウゲツ王子を……?」

 

「こちらにも事情があるのと、偶然フウゲツ王子を第三層でお見かけしたからです。事情がある故、常に王子をお守りするわけにはいきません」

 

 警護のうちの一人、黒髪の男が一歩前に進み出た。

 

「命の危機に晒されようと構わない。『ネン』の伝授を頼みたい」

 

「おい、リョウジ……」

 

「必要があることはお前もわかっているだろう。無ければフウゲツ様をお守りすることもできない。何のための王室警護兵だ」

 

 黒髪の男は、覚悟を決めたらしい。

 

「ああもう、わかったよ、お前の言うとおりだ。オレにもそっちで頼む」

 

 私の知る方法は、ウィングさんがやっていた手段のみ。無事で済むかはわからない。

 

「……上着を脱いで、私の前に後ろ向きに立ってください」

 

 彼らは言われたとおりにする。そして、私は彼らのうなじに手を当てる。

 

「ここから『オーラ』と呼ばれるものを送り込みます。温かいと思いますので、それをしっかりと感じ取ってください」

 

 出来るだけ弱く、出来るだけ静かに、私は彼らにオーラを送り込む。

 彼らの体から、オーラがほとばしり噴き出し始めた。

 

「こ、これは……!」

 

「これがオーラ、生命エネルギーとも呼べるものです。このまま吹き出し続ければお二人はエネルギーが枯渇して死んでしまうので、そのエネルギーが己の周囲を衣服のように纏うよう念じてください。身体はリラックスして、力を抜いて。集中して、オーラをとどめてください」

 

 さすがに原作のゴンやキルアほどまではいかないが、それなりのスピードで二人もオーラを纏うことに成功した。

 

「かなり集中力が必要だな、気を抜くとすぐにオーラが霧散してしまう」

 

「ああ、こうして会話をするだけでも精いっぱいだ」

 

「まずは、意識せずともオーラを身に纏うことができるようになるまで、それを続けてください。その間は、私たちで王子をお守りします」

 

「……ちょっと」

 

 マチさんが私を小突いてくる。

 

「何でこんなことになってんのさ。あたしたちの目的は王子を守る事じゃないだろう?」

 

「そうですが、私はせっかく出会ったフウゲツ王子をむざむざ死なせたくはないです。マチさんは違いますか?」

 

 マチさんはぐっと言葉を飲み込む。なんだかんだマチさんも優しいのだ。

 

「……念能力の伝授が終わったらお宝探しに行くからね。それまでの間だけだ」

 

「はい、わかってます」

 

 ゲレゲレが二人にちょっかいを出して集中力を乱れさせている。

 これもいい修行になるだろう、多分。

 

「あの……お話は、終わりましたか?」

 

 天蓋の隙間から、王子がそっと顔を出した。念獣も顔を出す。

 

「はい。王子はどうぞお休みください。ここは私たちがお守りします」

 

「ごめんなさい……ありがとう、ございます」

 

 頭を下げる王子の下で、ウサギもどきも頭を下げる。かわいいな、おい。

 

 纏をマスターすべく奮闘している二人に、後で他の上位王妃兵への顔繫ぎをお願いし、私たちは警護を始めた。

 何もなければ特にすることはない。円で室内、特に王子周辺を警戒し、あとは突っ立っているだけだ。




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