二十二の使徒   作:海砂

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第五十六話

 バチャエムとリョウジからはすでに王子の警護について一任されている。

 念能力のことをよく知っている私の方が、警護を管理するにあたって適任だろうと信じてもらえたのだ。

 よって私は1011号室の警備責任者として1014号室へ行く。

 クラピカと対等に会話できるかどうかは甚だ微妙だが、私はまだ彼に会ったことがない。

 顔を合わせて、『愚者』の影響下に置いておきたい。

 できるなら、第八(オイト)王妃と第十四(ワブル)王子も。

 

 地図を見ながら1014号室へ向かう。

 監視カメラはあるが、不審なくらい人影が見当たらない。

 準戒厳令下ということもあり、変に疑われないように、みんな最低限の外出しかしていないのだろう。

 

 そしてすぐに1014号室へとたどり着く。

 私は一度深呼吸をし、インターホンを鳴らした。

 

『はい』

 

「1011号室第十一(フウゲツ)王子警護、エイラです」

 

『鍵は空いている、入ってくれ』

 

 扉を開く。

 今日の念のレッスンが終わっていることは1011号室の従事者が戻ってきたことからわかっている。

 よってこの部屋に居るのはクラピカとサカタの二人。顔は確認した。

 王妃と王子は奥に居るのだろう。これはまあ仕方ない。

 

「初めまして。故あって非正規ルートで第十一(フウゲツ)王子の警護にあたることになったエイラと申します」

 

「クラピカだ」

 

「サカタだ」

 

 それぞれに、名乗る。

 初対面の信頼がおけない相手にフルネームを名乗らないのは、この業界では常識。

 フルネームを知る事が操作系の条件になることもあるかもしれない。

 古今東西、真名なんて言葉もあるくらい名前は重要だ。

 グリム童話のルンペルシュティルツヒェンや、日本にも大工と鬼六という似たような話がある。

 ……まあ、私はもともと名前なんてエイラしか持たないんだけど、それはただの識別名であって、真名なんかではない。

 前の名前はとっくに捨てた。

 

「まずは情報の方から……こちらは、完全ではないですが第十一(フウゲツ)王子の念獣の能力が把握できています。対価の情報によってはそれをお知らせすることができます」

 

 クラピカがすぐに答える。やはり主導権を握るのはクラピカか。

 

「こちらにはまだ同様の情報は手に入っていない。そちらの求める情報は特には何かあるか?」

 

「各王子の警護状況、特に第一王子から第五王子までの私設兵及び念獣がどの程度の規模で、またどんな能力を持っているか」

 

「それもこちらは情報をもたない……」

 

「では取引は破棄ですね。一旦この情報は持ち帰ります。今後取引できるような情報が出そろったらまたその時にということで」

 

 一方的に主導権は、握らせない。

 

「もう片方の、協定というのは?」

 

「休戦協定です。第十(カチョウ)王子と第十一(フウゲツ)王子はすでに休戦協定を結ばれておいでです。よって、第十一(フウゲツ)王子だけでなく第十(カチョウ)王子とも敵対しないことが休戦協定の条件になります」

 

「それは構わない。現在こちらは第三(チョウライ)第五(ツベッパ)第九(ハルケンブルグ)各王子と協定を結んでいるが……」

 

「できればその中に第十一(フウゲツ)王子も加えていただけると助かります。無論、そちらの返事は今すぐでなくて構いません。こちらも協定の中に第十(カチョウ)王子が入ることができるかどうか調整してみます」

 

 私はちらりとサカタの方を見る。クラピカが気付くように。

 

「それができるならばありがたい。……サカタ、王妃の警護の方に回ってくれるか?」

 

「いや、『ネン』に関する情報を交換するのであれば私も同席させてもらう」

 

 サカタ、うざい。

 

「であれば、第三(チョウライ)王子の警備体制を直属兵・念能力者の数を含め詳細にこちらに情報提供願います。それであれば、同席されてもこちらは構いません」

 

 彼はしばらく悩む。悩め悩め。

 

「……わかった、私は奥に行こう」

 

 サカタは奥の部屋へと向かった。

 

「君はサカタが何者か知っているな」

 

「私は、占い師です。未来のほんの一部を予見できます」

 

「知っている。『戦う占い師さん』を雇おうとしたマフィアの組は一つや二つじゃない、そうだろう?」

 

 クラピカも知ってたか。想像以上に有名になってたんだな、私。

 

「あなた以外に他言無用という条件で、フウゲツ王子の念獣の能力をお話しする準備があります。この部屋は盗聴・念能力その他で情報が洩れる心配はありませんか?」

 

「それは心配ない、私の能力で調べてある。……しかし、いいのか?」

 

「構いません、おそらくそれは、あなた方にとっても重要な情報足りえますから。私は信頼を得られる……それだけでも、十分です。しいて条件を挙げるならば、第十二(モモゼ)王子の死によって宙に浮いた協会員を何名か、出来るならばで構わないのでこちらの警護に回していただけると助かります。事情は合わせて説明します」

 

「わかった、確実とは言えないが伝えるよう努力しよう」

 

 私はフウゲツ王子の念獣の見た目、そして移動能力をクラピカに説明した。分かっている範囲内での制約も。

 

「なるほど……確かにその能力は魅力的だ、王位を狙うわけでない我々にとっては千載一遇の好機ともいえる。それで、事情というのは……?」

 

「フウゲツ王子には私ともう一人を除いて、念能力者の警護がいません。信頼できる直属の二人にこちらでも念を教えてはいますが、現時点で戦闘力のある念能力者は二人と一匹だけです。それ以外はすべて、上位王妃の所属兵」

 

「一匹?」

 

 あ、ゲレゲレの説明忘れてた。

 

「私のペットの虎で、念能力者です」

 

「たしかに、魔獣の存在を考えれば念を使える獣の存在も無いとは言えないな……」

 

「それに、王子ご自身の念獣に攻撃力防御力がないというのも大きな、ある意味では致命的な欠点です。なので、戦闘力のある念能力者の補強はこちらの急務ともいえます。出来るだけ信頼のおけるハンターを複数名、こちらに回していただけると助かります」

 

「了解した。複数人とはいかないかもしれないが、私の紹介という形で信頼できる人間をそちらの部屋に向かわせよう。情報の提供、感謝する」

 

 多分これで、ハンゾー辺りを回してくれるかな? と思う、多分。ダメカナ?

 本当はビスケだと一番うれしいんだけどさすがにそれは無理だろう。

 違っても念能力者なら万々歳だ。

 マチさんがいるからクラピカ自身に来られると逆にこっちが困るけど、まずそれはないだろう。

 

 クラピカの丁寧な礼を背に、私は1014号室を後にした。

 急いで1011号室へと戻る。

 部屋に入る、誰にも気づかれてないようだ、よかった。

 1011号室全体に円を展開する。特に異常もなさそうだ。

 ……警護控室でグッタリしているリョウジとバチャエムを除けば。

 特に攻撃を受けた気配はない。

 きっと練の修行でオーラをほとんど使い果たしたのだろう。よしよし。

 練の修行がうまくいっているようであれば、明日あたり、水見式をやってみるかな。

 はてさて、どんな能力になるのやら。

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