二十二の使徒   作:海砂

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第五十七話

 警護室で休んでいると、つかつかとマチさんが入ってきた。

 えっ、王子の警護は?

 疑問に思っている間に頬がジンジンした。殴られたらしい。

 殴られたことにも気づかなかった。さすが。

 ビスケに殴られた時のキルアの気持ちが今分かった。

 

「どこ行ってた?」

 

「え?」

 

「とぼけるんじゃないよ。あんたが部屋を出て行ったことはわかってる。単独行動禁止だって言ってあるだろう。あたしは同じ1011号室に居ると思ったからあんたの別行動を許したんだ」

 

……でも、私は危険の位置を把握してるし……。

 

「それは関係ない。団長が単独行動禁止といえば禁止だ。あんたももう旅団の一員だろう。文句があるなら団長に直接言え。そうでないなら必ず従え」

 

 ごもっともです。全部私が悪いです。

 

「……王子は?」

 

「ゲレゲレに『不審な動きしたらそいつ食っていい』って命じてある。言われなくともあたしもすぐに戻る。あんたも、せめて単独行動するならその理由をあたしに言え。あたしだって何の理由もなしにあんたを縛り付けたりはしない、正直なところ本当に必要ならアリだと思ってるからね、個人的には」

 

「はい……ごめんなさい」

 

「謝るのはあたしにじゃないし、今後の態度でそれを見せな。じゃあ、あたしは戻るよ」

 

 叩かれた頬はまだジンジンする。これは私のせい。反省。

 

 

 二時間ほど経って、バチャエムとリョウジはほぼ同時くらいに目を覚ました。

 二人とも纏状態を保てている。素晴らしい。

 少し早いかもしれないが、二人を応接室の方に呼び出し、水見式をしてもらうことにした。

 台所からコップを三つ借りてきて、まず私が手本を見せる。

 葉っぱは部屋にある観葉植物の葉っぱ。これはガジュマルかな?

 私の水見式の結果は以前と同じ通り、千切れて分裂しながら大量の切れ端になった。

 

「これは……?」

 

「見たとおり、水に向かって練をすることによって己の大まかな系統を識別することができます。水の量が増減すれば強化系、葉が動けば操作系、水の味が変われば変化系、水に不純物が現れれば具現化系、水の色が変われば放出系、それ以外の変化が現れたら特質系になります。私の場合は特質系ですね。念の系統は基本的に生まれつき。ごく一部の例外を除いては系統が変わることはありません。詳しくはお二人が水見式をした後に説明します」

 

 二人はそれぞれに水見式をする。

 まだ練が少し甘いのか、練ったオーラが若干飛び散っているようにも見えた。

 

「……オレは具現化系だな」

 

 リョウジの水には藻のような濁りが見え始めた。

 

「オレは強化系だな、水が減った」

 

 バチャエムのコップは水面ぎりぎりまで入れていた水が明らかに減っている。

 

「具現化系は、何らかの物質や生物などをオーラを使って具現化する能力、強化系はもともと己の持つ力を強化する、まあどちらもそのままの意味ですね。この系統をもとに発……必殺技と呼べる能力を作ることになりますが、それはまだ先の話。今はこの水見式を続けて、己の練を安定させつつ変化がより顕著になるように修行してください。これも、練の修行たりえます」

 

「わかった」

 

 二人とも、素直だなあ。素晴らしい。

 逆の立場だったらこんな小娘にここまで素直に教えを請えるだろうか。

 素直なのはいいことだ、それだけ伸びも早くなる。

 

 二人には水見式をひたすらさせて、私は王子の寝室へと向かう。

 王子は居間でくつろいでいたようで、失礼しましたと慌てて頭を下げた。

 

「マチさん、そろそろ交代しましょうか?」

 

「いや、別にいいよ。あたしは言葉もヘタだし教えるのには向いてない。あんたがあいつらについててやって、あいつらが警護の順の時に休ませてもらうよ」

 

 それだとマチさんの負担がかなり大きくなると思うんだけど……。

 

「ゲレゲレがいるから大丈夫さ。この子、意外と利口だよね」

 

 トイレ交代もちゃんと二人別にそれぞれ行っているらしい。

 ゲレゲレは、なんと洋式トイレで大も小も済ませることができるのだ、賢い。

 ちゃんと水も流すしフタもしめる。賢すぎて引く。

 

「がぁうあ!」

 

 このドヤ顔である。

 王子も落ち着いているようだし、こちらは問題ないだろう。

 

 応接室へ戻って二人の様子を見る。集中している。素晴らしい。

 私も初心に戻って修行しようかな。

 この船に乗ってからは何もしてなかったし。

 少し離れたところで、感謝の正拳突きを始めた。

 従事者の人たちがこっち見てなんかヒソヒソ言い合ってる。キニシナイ。

 

 二時間ほどして従事者たちが王子に昼食を持っていき、リョウジとバチャエムがぶっ倒れた。

 私はその間に台所に行って自分と二人のための食事を準備する。

 ハムとレタスとチーズをはさんだトーストサンドとアイスティー。

 トマトは水分が出ちゃうから食べる直前に入れよう。

 

 数時間後に二人が起きて、遅れた昼食を一緒にとる。

 

「念というものは難しいが……やればやるほど力がついて来ることがわかる、これは楽しいな」

 

「筋トレよりもわかりやすく目に見えるからな、やりがいがある」

 

 二人が楽しんで修行してくれているようで何よりだ。

 でもやりすぎないようにと釘は刺す。

 休息と休養と修行は三分の一ずつ。

 状況的にそれが許されないってのはあるけど、休む時間は意識して入れていかないとね。

 あ、オーラ使い果たしてぶっ倒れてる時間は休息に入れてますのでご了承ください。

 

「ところでエイラ殿、『発』についてだが……」

 

「ああ、そろそろそれについても考えてもいいかもしれませんね、まだ考えるだけですけど」

 

「それなんだが、オレの『発』について相談に乗ってはもらえないだろうか」

 

 バチャエムはすでに、自分の『発』について考えるところがあるらしい。

 

「練をして水が減ったのを間近で見た時に思った。攻撃した時に相手のオーラを吸い取り、そのオーラを乗せて己を強化しさらに攻撃する、といったことは可能だろうか」

 

「結論から言えば可能ですね。吸い取るといった部分が難しくはあるでしょうが他の部分は強化系の範疇に入ります。能力の幅を広げるためにも、逆に己のオーラを相手に送り込むと言ったこともできるとなおよいかもしれません」

 

 ピンときた発想ってのは何より大事だものね。

 オーラを送り込んで他者を超回復ってのも出来ればかなりの戦力になる。

 

「すごいな、オレはまだまだ目の前の練の修行だけで精いっぱいだ」

 

「それぞれのペースがあるのでそれで構いませんよ、リョウジさん。焦って能力を作ろうとしてしまう方がかえって変な能力になってしまいかねないですから」

 

「そういうものなのか……」

 

 第一層だけあって、私たちの分の食材ですら超一流品だなコレ。うまうま。

 

 

 所属兵たちのシフトは基本的に毎日八時間労働。休みは無し。

 八時間警備して、十六時間は自由時間だ。

 毎週シフトを組み立て直し、休日は適宜間に入れていく。

 一人だけが警護をする時間帯を作らないためにこれまではかなり変則的なシフトだったそうだ。

 私たちが来たことによって王子直下の警護兵が一人だけであっても単独警護になることがなくなったため、現在は上記の形におさまったらしい。

 なお、この部屋は警護兵の人数が少ないため、扉の前に警護兵は置いていない。

 王子の命令がある場合を除き、王子の就寝時間中は寝室から出て居間にて警備を行う。

 

 はーやくこいこい協会員……。

 そうすれば、マチさんの負担を減らすことができる。

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