二十二の使徒   作:海砂

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第五十九話

 水見式をしながらの王子との雑談で、得た情報。

 お宝を持っていそうなの筆頭は、当然ながら国王。

 ベンジャミン王子はそう言ったことには無頓着らしく、持っている可能性は極めて少ない。

 カミーラ王子は宝石・衣類関係のレアモノを持ち込んでいる可能性がある。

 チョウライ王子は自分が上に扱われることには執着を示すが、物に対しては執心しないらしい。

 ツェリードニヒ王子は人体関係のレアモノに興味あり。

 そういや緋の目持ってるのもこの王子だったよな。

 ツベッパ王子以下の王子は購入できる以上の物に興味はなさそうだ。

 お宝情報、以上。旅団が狙いそうなのはやはり国王のお宝だろう。

 フウゲツ王子の上位王子に対する感情も少しだけわかった。

 ベンジャミン:とても怖い

 カミーラ:ちょっとだけ憧れるけど怖い

 チョウライ:よくわからないけどそんなに悪い人じゃなさそう

 ツェリードニヒ:一番怖い、関わり合いたくない

 ツベッパ:優秀だけど厳しい

 タイソン:優しい

 ルズールス:見かけより優しい

 サレサレ:気持ち悪い

 ハルケンブルグ:とても厳しくてとても優しい

 カチョウ:何より大事

 モモゼ:亡くなってしまって悲しい

 マラヤーム:守ってあげたい

 ワブル:守ってあげたい

 

 フウゲツ王子は夜更かしさんだ。というのも、例のトンネルの検証をしなければならないから。

 別に翌日でも構わないのだが、王子自身がすぐにでも調べたいのであろう。

 日付が変わるまでにはまだ少し時間がある。

 引き続き水見式しながら王子から情報を引き出すことにしようか。

 

 ふと思い出して、私はトイレに行くと言って席を離れた。

 ゲレゲレに王子を守るよう入念に言い聞かせて。

 

 一人で満員の個室で地図を取り出す。

 団長さんの位置を調べてみた。第四層に居る。移動したのか。

 ヒソカの位置を調べてみた。第三層の政治特区のあたりから動いていない。

 イルミの位置を調べてみた。ヒソカと同じあたりに居る。

 カルトの位置を調べてみた。上記二人と同じあたりに居る。

 ……何故に、政治特区の近く?

 そういえば原作ではイルミとカルトは中央警察署の居住区に行っていた気がする。

 ヒソカもそこに行った? 原作では描かれていなかった。何故?

 そもそもミザイストムがヒソカを見逃すか?

 メイクがなかったとしても見逃すとは思えない。変装?

 団長さんに『ヒソカは変わらずイルミ・カルトと共に第三層政治特区近くに居ます』とだけメールした。

 不確定な情報は送らない方がいい。

 今はまだ、私の想像でしかない。

 

 居間に戻る。

 バチャエムが力尽きていた。コップの水も空になっていた。

 せっかくなので水を足してきてあげよう。気が付いたらまたすぐに修行に戻れるように。

 リョウジは引き続き練に勤しんでいる。藻のようなものの濁りが少し増えたか。

 王子はゲレゲレを撫でまわしていた。

 

「王子は虎が恐ろしくはないのですか?」

 

「最初は怖かったけど、おとなしくていい子だってよくわかりましたから、今は怖くないです」

 

 ゲレゲレはフウゲツ王子にお耳をカシカシしてもらってご満悦だ。

 おとなしくても普通は虎は怖いと思うけどな……その辺が王族の器なのだろうか、よくわかんないけど。

 わたしもリョウジの隣に座り水見式を再開する。

 葉っぱがちぎれては増え、それを取り払ってちぎれては増え、繰り返す。

 王子は興味深そうにそれを眺めていた。

 

「あっ、私も瞑想の修行をしなきゃですね!」

 

 えいえいむん、と気合を入れて、王子も瞑想を始めた。

 静かな部屋。

 空調の音だけが響く。

 ゲレゲレが大きくあくびをした。

 それらを王子は感じ取っているのだろう。目は閉じているので、耳と皮膚で。

 やがてリョウジがコップを倒してテーブルに突っ伏した。

 藻がテーブルに散ったのでキレイに片づけておく。

 派手な音がしたが王子は微動だにしない。意外と才能あるのかな、瞑想の。

 リョウジのコップにも水を満たして葉を一枚浮かべておく。

 私はひたすら葉を小規模再生産しては除ける作業の繰り返しだ。

 一枚がミジンコみたいなサイズになってしまったので、改めて葉っぱを取りに行く。

 そして十二時を過ぎた。

 

「王子、日付が変わりました」

 

 フウゲツ王子はゆっくりと目を開く。深い瞑想状態に入っていたようだ。

 私はマチさんを呼びに行って、合わせて魔法の抜け道(マジックワーム)の検証に入る。

 

「少しお休みになられてからの方が良くはありませんか?」

 

「いえ、すぐにでも大丈夫です。少しでも早く色々調べたいですから!」

 

「では、まずは船の外に、カキン王国の御自分の部屋にトンネルを繋ぐように念じてください」

 

 王子は念じる。しかし扉は出てこない。

 

「え……何で」

 

 おそらくそれは無理だから。カキンまでトンネルを伸ばすことができない。

 それは王子の限界値。

 オーラ鍛えたら伸びるかもしれないけれど、少なくとも今しばらくは無理。

 

 

「それでは……今夜は、カチョウ王子の部屋にお邪魔しましょう、ただしこれを持って」

 

 私が手に取ったのはメモ帳と付属のボールペン。

 

「カーちんや相手の護衛さんを驚かせないようにですね、了解です」

 

「今日は私が先に行きます。相手の護衛と鉢合わせした場合は最悪私を置いて逃げてください」

 

「そんな」

 

「了解した。その時はあたしが王子を引きずり戻す。ただしあんたも無事に帰ってきなよ」

 

「はい、その場合トンネルは繋いだままにしておいてもらえると助かります」

 

 メモ帳に最初の文字を書く。

 

『フウゲツ王子の使いです』

 

 そして王子にトンネルを繋いでもらう。今度はすんなりと扉が開かれた。

 狭い道を通って、私は進む。

 センリツと、一緒に居た人には間違いなくばれる。それも込み。

 マンホールのようなふたを開けて、外に出た。

 カチョウ王子のベッドにたどり着いた。幸い外からベッドの中は天蓋で見えない。

 すぐにカチョウ王子にメモ帳を見せる。

 王子は黙ったままでいてくれた。

 メモ帳に筆を走らせる。

 

『ここに居る現在の護衛は信頼できる者たちですか?』

 

 カチョウ王子は頷いた。

 

「王子!」

 

 飛び込んできた女の人の声。

 

「大丈夫ですか、王子!」

 

 同時に駆け込んできたと思われる男性の声。少し年がいっているか。

 おそらく原作でセンリツと共にいた人。キーニとかいう名前だったか。

 

「大丈夫よ、心配しないで」

 

「しかし……」

 

 私は口の前に人差し指を立てたまま、ベッドの天蓋を開いた。

 

「!」

 

 そして再び戻り魔法の抜け道(マジックワーム)の出口に小声で声をかける。

 

「大丈夫です、どうぞ。ゲレゲレはトンネルの中に待機!」

 

 改めて天蓋の外に出て、メモ帳に文字を書く。

 

「盗聴、監視カメラ、念能力その他による情報漏洩の可能性は?」

 

 それには男が答えた。

 

「大丈夫だ。王子の寝室にカメラを設置するなどありえないし、その他についても慎重に調査してある」

 

 その言葉で、ようやく私は一息ついた。

 

「私はフウゲツ王子の警護でエイラと申します。恐らくお二人はすでにご承知でしょうが、フウゲツ王子の能力でここへと来ました。私はフウゲツ王子の御意向で、カチョウ王子も共にお助けしたいと考えています。そちらはいかがですか?」

 

 今度はセンリツが口を開いた。

 

「私たちも、そう考えていたところです。明日の朝、そちらに連絡をする予定でした。カチョウ王子とフウゲツ王子と合同で、日曜の晩餐会にグラスハープの演奏会をしようと」

 

「そこに、あなたのフルートが加わる……そして、第一層全体にそれは流される」

 

 センリツが息をのむ。何故情報がばれていると思ったのか。

 私がそれなりに著名な占い師であること、念で軽い予知能力を持っていることなどを説明する。

 割とすんなり受け入れてもらえた。念って何でもありだものね。

 

「センリツさん、あなたのその能力はおそらく操作系ですね? その音楽で第一層の人間を眠らせるかどうかして逃げだす……それには、ベンジャミン王子とハルケンブルグ王子が障害になると思われたのですが、いかがでしょう?」

 

「……私の能力の一つ『子守唄(sleep)』は、全部で八時間の楽曲です。その能力は、強い念能力者であればあるほど効力を増す」

 

「……それは、お聞きしても?」

 

「普通の人間が聴くと、おっしゃる通り眠くなります。気付いた念能力者はおそらく耳に凝をしてその音を遮断しようとするでしょう。私の曲は、オーラを媒介にしてより浸透するように出来ている。その動作をした結果、より深い眠りへと誘われます」

 

 なるほど……それならおそらくベンジャミン王子と私設軍隊は無効化できる。

 

「方法はお教えできませんが、防ぐ手段もある。両王子にはその方法で防いでいただくつもりでした……あの、カミーラ王子ならまだわかるのですが、何故ハルケンブルグ王子なのでしょう?」

 

「ハルケンブルグ王子はすでに念獣によって操作されている可能性があります。よって、あなたの能力が操作系であるならば早い者勝ち理論によってハルケンブルグ王子には通用しない。……あくまで、可能性ですが」

 

 センリツの顔が青くなる。

 通常の意識を保ったまま操作されている人物の想定まではしていなかったということか。

 

「こちらの提案ですが、現在フウゲツ王子は第三(チョウライ)第五(ツベッパ)第九(ハルケンブルグ)第十四(ワブル)各王子と休戦協定を結ぶよう進めている最中です。その中に、カチョウ王子も加わってはいただけないかと。当然、フウゲツ王子にカチョウ王子を害する意図はありません」

 

 ……返事は、ない。この場で決められるようなことではないかもしれないな。

 

「カチョウ王子、あなたはすでにセンリツさんから念能力について知らされておられますね?」

 

「ええ、それが何か?」

 

「私たちはフウゲツ王子の念獣の能力でここまで来ました。王子にはそういった能力の心当たりはございませんか? 何でも構いません、今までと違った何か……」

 

「残念だけど何もないわね。何も変わりないわ、嫌になるくらい」

 

 少しは何か役に立つ能力があればいいのに、彼女の表情がそう物語っていた。

 

「フウゲツ王子の能力を使って第三層までなら抜け出すことも可能です。私たち二人とあなた方二人で、両王子を守れるならば第三層へ逃れるのも一つの手でしょう……私には、それは不可能だと思えますが」

 

 二人は顔を見合わせて、確かにと頷き合っていた。

 船の中では、王子たちの安全は担保できない。

 外へ、しかも(仮)新大陸以外へ逃げないと意味はないのだ。

 少なくとも、上位王妃の護衛の目からは逃れられる。ただしそれは一時的。

 私の『愚者』のような能力を持っている人間がどこかに居れば一発アウトだ。

 だとしたら、現状のままを維持していた方がいい。逃げ寄りの守り。

 

「もう一人の協会員と王妃の警護兵は信用ができますか? フウゲツ王子の警護兵二人は信用できるので、こちらで念を教えている最中です」

 

「協会員はこちら側だ。王妃の警護兵も大丈夫だろう」

 

「それではそちら側でも、王妃の警護兵に念能力の伝授をお願いします、少しずつでも構いません。無防備であるよりかははるかにましでしょうから」

 

 それと、グラスハープの会はあくまでただの演奏会に。

 全員を眠らせられないのであれば意味がない。

 センリツも頷いてくれた。

 

「それでは、他の警護兵とも相談して、他王子との休戦協定の件をご検討ください。結果が出たら1011号室の私宛にご連絡いただけると助かります、こちらからは連絡ができないので。あるいはグラスハープの打ち合わせの際でも構いません」

 

「了解しました。私たちも、他の手段がないか模索してみます」

 

「それでは、カチョウ王子、深夜に失礼いたしました。私たちは戻ります……フウゲツ王子」

 

 むん、と気合を入れて、フウゲツ王子は口を開いた。

 

「カーちん、一緒に逃げだそうね!」

 

 意表を突かれたのか、カチョウ王子はうつむいて顔を隠す。

 

「バカね、あんたたち……」

 

 そして私たちはフウゲツ王子のお部屋へと戻る。

 

 

「ゲレゲレ、いいこだったね」

 

 言われた通りトンネルで待機していたゲレゲレをひと撫でしてから、王子に休むように伝える。

 今日は土曜日。明日は晩餐会。それまでに誰かまた王子の中に死者が出るのか、あるいはそのままか。

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