二十二の使徒   作:海砂

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第六十話

 フウゲツ王子の自室に戻って、王子はすぐにお休みになられた。

 バチャエムとリョウジの二人は引き続き水見式に勤しんでいる。

 王子の意向と私たちの提案で、ゲレゲレのみを寝室に残し私たちも居間へと移動する。

 ゲレゲレには命じてある。異常があれば何よりも王子をお守りしろと。

 彼は誉れ高そうにがううと返事した。

 

「じゃあ、あたしは休憩に戻るよ。1010号室から連絡が来た時はあんたにつなげばいいんだろ?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 マチさんは応接室の方へと出て行った。

 私はどうしよう。水見式か、感謝の正拳突きか……とりま後者で。

 正拳突きをしながらも円は欠かさない。

 1011号室全体を円で覆う程度なら私でも出来る。

 

 明け方に私はハンゾーと警護を交代し、リョウジとバチャエムも疲れ果てて控室のベッドに突っ伏した。

 

「電話、あったよ。朝九時以降いつでもいいので直接部屋まで来いってさ。別に急ぐ連絡でもなかっただろうからあたしが伝言だけ受け取っといた」

 

 1010号室からの連絡。気を使ってマチさんが受けていてくれたらしい。

 

「ありがとうございます。1010号室に行くときは一緒に行ってくださいますか?」

 

「当たり前だろ、単独行動禁止。今度単独行動したら縛り上げてしばき倒すから覚悟しとくんだね」

 

 そう長い時間になるとも思えないので、リョウジとバチャエムの二人は置いていこう。

 目が覚めればそれぞれにまた練の修練に戻ってくれるだろう。

 

「マチさん、朝ごはん食べました? 私何か作ってきます」

 

「あー、適当でいいよ、そんなの」

 

 適当でいいと言われたってなにより私が食べたいのだ。

 冷凍庫からパンを取り出してトースターにセットして、鍋に湯を沸かしてポーチドエッグにオーロラソースを作って添える。

 あっ、お野菜、刻みキャベツでいいか。トマトもつけよう。

 だってここのゴハン美味しいんだもん。

 食べれるときに食べておく。ハンターにとって重要なことだぜ?

 

 マチさんの分と自分の分を作って応接室に持っていく。

 ゲレゲレ? 彼の分は従事者の方々が作ってくれるでしょう。

 何故わかるかって? 冷凍してあった牛スネ肉の塊がキッチンカウンターの片隅で常温に解凍されていたからさ。

 多分あれ、ゲレゲレの朝ごはん。

 

「あんた、結構食事にはこだわるよね」

 

「食べること、大好きですから。以前は食べたくても食べられないこともありましたしね」

 

「……ああ、ね」

 

 マチさんには拾ってもらった恩がある。いつかはお返ししたいと思っている。

 まだ叶わない。敵わない。

 でもいつか。必ず。

 

「王子が起き次第1010号室に行きましょう。警護は私とマチさんの二人で。特に問題が起こることはないと思いますが、万一のことがあれば王子をお守りすることを最優先で」

 

「了解。本来の目的に戻れるのはいつになるやら」

 

「王子からお宝の情報も聞けたしいいじゃないですか」

 

 フウゲツ王子は九時より前に目覚めた。

 なので先に朝食をとっていただく。ゲレゲレも一緒だ。

 

「ゲレゲレ。王子のお食事が終わったらちょっと王子とマチさんと一緒にお出かけしてくるからね。ゲレゲレはお留守番。他の奴らが変な動きしないかどうか見張っておいて、いいね」

 

「うがう!」

 

 焼かれただけのスネ肉をかじりながら、ゲレゲレは律儀に返事をする。

 賢いねぇ、いい子だねぇ。

 

 

 王子に打ち合わせのことを伝え、地図で危険がないことを確認し、私たちは部屋を出た。

 広くてふかふかのじゅうたんが敷き詰められた第一層の廊下。

 第五層とはまさに雲泥の差。同じ船とは思えない。

 私たちは円をしながら王子を前後に挟み警護する。私が前、マチさんが後ろ。

 そして角を曲がり、私は誰かにぶつかった。

 

「あっ、すみ……」

 

 とっさに謝りそうになった後、すぐに臨戦態勢をとる。

 私もマチさんも円を使用していた。にもかかわらず()()()()()()()()()()

 

「あっゴメン、ヒトがいるなんて思わなかった……知ってたけど」

 

「イルミ……さん」

 

 私がぶつかった相手はイルミだった。何故ここに!?

 さっき地図で確認した時は第三層に居たはず!

 

「何でアンタがここにいるんだい」

 

「ん-、しいて言うなら仕事(ビジネス)? 先に言っとくけど今回、()()は初回を除いて旅団とヒソカ、どちらにも肩入れしない。それが最初からの約束。初回だけは代金もらっちゃったから仕事したけどね」

 

 イルミは何を言っている? 旅団とヒソカ、まるで他人事。イルミは旅団に入ったはずなのに。

 嫌な予感ほど当たる。私は昨日想像した。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 不確定だから団長さんには伝えなかった。情報が今確定した。

 第三層に居るイルミは偽物(ヒソカ)

 私は本物のイルミの顔を見たことがない!

 故にイルミを想像した時に『愚者』が発動した対象はヒソカ!

 ヨークシンに居た時に見たイルミはヒソカの顔だった!

 故に『愚者』はイルミをイルミと認識しなかった、できなかった!

 

「イルミさん、どちらにも肩入れしないということは、どちらにも敵対しない。そう解釈して構いませんか?」

 

「いいよ、それで。だいたい合ってる。オレの仕事(ビジネス)の邪魔をしない限り敵対はしない」

 

 私は携帯を取り出してイルミとカルトを除く全団員にメッセージを送る。

 

『ヒソカはイルミに化けて第三層に居る。本物のイルミは第一層に居る。第五層の時点ですでに入れ替わられていた』

 

「王子、マチさん、行きましょう。彼に危険はないと思います」

 

「うん、危なくなんかないよー。現状だとヒソカにだけ肩入れしたみたいで気分悪かったからさ。じゃね」

 

 彼はこちらを見ることもなくスタスタと行ってしまった。

 確かに彼の仕事(ビジネス)の対象は私たちではないらしい。

 

「……あの時から、すでに入れ替わってたってことか」

 

「はい。そして蜘蛛がばらけるのを待っていた。ただし団長さんが単独行動禁止を明言していた、それはヒソカにとって計算外。なので誰一人やられることなく見つけることも出来ずここまで来てしまったんでしょう」

 

 フウゲツ王子がオタオタしている。

 

「申し訳ありません、王子。これは私たちの問題で王子には何ら関わりのないことです」

 

「常に私の警護だけをすることができないと言っていたのは、先ほどの方の関係ですか?」

 

「はい。それもあります。他にもありますが……今はまず、カチョウ王子の元へ行きましょう。今の私たちの任務は王子を守ることです、それに変わりはありません」

 

 王子はこくりと頷いて、私たちは1010号室を目指す。

 隣の部屋なのでそう遠くはないはずだが、距離にすれば五百メートル以上は歩いただろう。角も二回曲がった。

 1010号室のインターホンを鳴らす。

 

「フウゲツ王子警護、エイラです」

 

「今カギを開けます」

 

 かちゃりと音がする。センリツが扉を開いてくれた。

 

「お待ちしてました、フウゲツ王子。こちらへどうぞ」

 

 彼女の案内で応接室へと通される。作りはフウゲツ王子のお部屋と似ているか。

 

 カチョウ王子とフウゲツ王子、それにセンリツは晩餐会で何の曲を演奏するかを話し合っており、マチさんも警護としてそちらに加わっている。

 私はキーニと協定の件について話をしていた。

 

「例の件、カチョウ王子も加えてほしい。詳しくはここでは……」

 

「承知しました。話は進めておきます。他に何か伝えたいこと、希望することなどはありますか?」

 

「いや、情報共有さえしてもらえれば詳細はそちらに任せる。……ああ、今後は他の協会員と直接連絡を取ることもあるだろうから、話が済み次第一言連絡を入れてもらえると助かる」

 

「わかりました。それは電話で構いませんね? 毎朝定時連絡を入れていただけると助かります、こちらから連絡することはできませんので」

 

「ああ、わかった」

 

 王子たちは実際にグラスハープを準備してリハーサルをしているようだ。

 カチョウ王子も、口は悪いけど楽しそう。

 王位継承戦には関わりたくないなんて思ってた時期もあったけど。

 王子たちに出会ってそんな気持ちは消え失せた。

 二人を、守りたい。私にとって個人的に、これはヒソカより優先すべきこと。

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