二十二の使徒   作:海砂

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第六十三話

 ロデノイルとアカシの交代から数時間遅れて、ハンゾーとマチさんが交代する。

 念能力者の人数が少ないので、どうしてもこちらは変則的なシフトになってしまうのだ、仕方ない。

 私はリョウジとバチャエムのシフトの時に警護も担当しているので、実質稼働時間はあとの二人の方が長い。

 来てくれたお礼におやつのおにぎりをハンゾーに持って行ってあげる。

 具はウメボシとゴマ入りショウユオカカ、刻み佃煮昆布を添えて。

 職業病だと言って食べてはもらえなかったが、想像以上に喜んではもらえた。

 つかお前もジャポン出身なのかと尋ねられた。一応違うと答えておいた。

 でも興味津々で色々調べたとは伝えた。さらに色々教えてもらった。

 郷土料理は日本と大差なし。

 

「ジャポンもああ見えて広いからな、オレも全部知ってるわけじゃねーけどよ」

 

 とか言いながら、ホウトウだのアナゴメシだのガメニだの、そこはかとなく聞き覚えのある名称がずらっと出てきたぞ。

 どんな食べ物なのかまでは知らないけど。今度ハンゾーに作ってもらおう。

 

 ていうかここの食品庫すごいよね。梅干しまで完備してるなんて。

 一小国のマイナーなお漬物でしょ?

 

「いや、少し前からジャポン風の料理が世界各国で流行し、かなり定着してきた感があるからな。その辺のスーパーでも品ぞろえのいいところには置いてあるぞ」

 

 なん……だと……。

 帰ったら色々とスーパー巡りしてみよう。

 あっちなみにリョウジはお父上がジャポン出身なので、小さい頃はよく食卓に出てきていたそうだ、ウメボシナットウオミソシルとか。

 

 この部屋は窓がないので時間がわかりにくいが、現在夕方。

 もう数時間したらバチャエムとリョウジの交代の時間が来る。

 毎日うまく日付変更の時間帯に合わせてシフト組んだのだ。組んだの私。シフト係私。

 二人は着実に力をつけてきている。

 リョウジの藻モッサーは見た目美しくないけど。

 ちょっと前に、リョウジには「生物を具現化することは可能なのか」と尋ねられた。

 それこそがまさに『ネンジュウ』であると答えておいた。

 ただし念獣は具現化系と操作系の複合能力。

 よく考えて能力にしないと役立たずトンデモ能力が完成しかねない。

 完全自律型(フルオートタイプ)だったら操作系能力はそこまで使わないけど、その代わりこちらの意図通りには動かない可能性がある。

 リョウジの系統とオーラ量から考えたら、完全操作型(マニュアルタイプ)は多分割に合わない。

 なので、簡単な命令のみ受け付ける半自動タイプがオススメだろう。まだ言わないけど。

 リョウジは能力含めじっくりこってり育てていきたい。ウイングさんの気持ちが今ならわかる。

 修行の速度はバチャエムの方が圧倒的に早かった。

 強化系は練がそのまま強化系の修行になるっていうのもあるんだろうけど。

 でも底が深いのは多分リョウジの方だ。下手な能力にはさせたくない。

 

 警護に入る前に、改めて地図を開き各者の現在地を確認する。

 一番人数が多いのは第三層政治特区。十二支んの大半がここに居る。

 ビヨンドも最初は第一層に居たはずだが、準戒厳令による下層の監視に合わせて第三層に移動させたのだろう。

 ビヨンド一人の監視に十二支んを数名使うよりも、より流動的に出来るように。

 少なくとも十二支ん同士の移動交代は容易くなる。

 ヒソカとカルトちゃんも政治特区のそばに居たまま動いていない。

 準戒厳令の様子見をしていると言ったところか。

 

 各王子は自室から動いていない。

 1014号室にクラピカがいることから第十四(ワブル)王子もそこに居ると考えられる。

 旅団の方は……実行部隊(トッコー)が第四層、団長さんたちは第三層まで昇っている。

 ヒソカと団長さんたちの衝突は時間の問題か。

 

 イルミ(本物の方)は第一層をウロウロしている。彼の仕事(ビジネス)とは一体何だろう?

 おそらくは国王かいずれかの王子の暗殺。後者の可能性は非常に高い。

 だとすれば依頼主は誰だ?

 第一(ベンジャミン)王子ではありえない。彼は自分の軍隊に絶対の信頼を置いている。

 第三(チョウライ)王子以下はそこまで事前に考えていただろうか?

 可能性が最も高いのは第二(カミーラ)王子(とその周辺)。

 完全迎撃型(カウンタータイプ)第二(カミーラ)王子は攻撃に弱い。

 第二(カミーラ)王子自身は己の能力に自信を持っているが、その弱点に気付いた周辺の人物があるいは。

 ……意外とあの第二(ドゥアズル)王妃が食わせ物かもしれないな。

 だとしたらターゲットは第一(ベンジャミン)王子。

 いくらイルミでも一人では手こずる相手だろう。タイミングを見計らっているのかもしれない。

 彼は旅団とヒソカの対立を知っている。双方がこの船に乗っていることも。

 激突するタイミングで船は動く、物理的にも人流的にも。

 そこで人手の薄くなった第一(ベンジャミン)王子を暗殺にかかる……。

 

 うーん、どう考えても妄想の域を出ないな。

 もうちょっと頭良かったらなあ。どうも昔からおつむの出来はよろしくない。

 わからないことはカードに聞こうかと思ったが、交代の時間が先にやってきた。

 

「リョウジさん、バチャエムさん、行きましょう。睡眠は足りてますか?」

 

「ああ、バッチリだ」

 

「体調も共に申し分ない」

 

 二人とも纏はほぼ身につけられているようだ。オーラが崩れることもない。

 無意識での纏はまだもう少し時間がかかるかな。それでも想像以上に習得が早い。

 

 私は居間への扉を開いた。

 念獣がだらしなくマタを開いて寝転がっている。ゲレゲレも以下同文。

 攻撃力も防御力もないんだから、もうちょっと警戒しなさいよ、私たちが来た時みたいに。

 私が怒っているのに気付いたのか、念獣はぴゃっと起き上がってゲレゲレの陰に隠れてしまった。

 うっ、モフモフに嫌われるのは辛い。

 

「お二人は引き続き水見式を続けてください。王子は、瞑想の方はいかがですか?」

 

「とても穏やかな気分になれます。まだ、ネンノーリョク? っていうのはよくわかりませんが」

 

「はい、それで大丈夫です。次はオーラについてお教えします」

 

 警備二人が水見式をする横で、私はマンツーマンで王子にオーラについてや精孔の存在、六性図などを叩き込む。

 手のひらを合わせて、近づける。その中間に存在するオーラを感じ取る。

 

「……このへん? ですかね? なんか温かいようなものを少し感じます」

 

 両手を一センチ程度の距離まで近づけてようやくオーラの存在を感じ取る。

 それでも最初にしては上出来だ。

 

「手のひらで感じられたなら次は指先でやってみましょう。人差し指同士を先ほどと同じように近づけて、同じような温もりを感じるまで近づけて……」

 

 今度は五ミリほど。それを交互に何度か繰り返す。

 ツェリードニヒ王子ほどの才はないにしても、血のつながった一族。

 才能はあるかもしれない、ないかもしれない。

 あったらもうけもの。無くても構わない。私たちがお守りすればいい。

 

「それでは王子、しばらくはこの作業をお続けください」

 

 私は(円は怠らず)ゲレゲレの方に向かう。

 

「ゲレゲレ、おりこうさんだねー! ずっと王子を守ってくれているね。いいこちゃんだねー」

 

 そう言いながらくしゃくしゃとゲレゲレの頭を撫でた。

 気のせいか、ゲレゲレが引いている。おかしいな、褒めたはずなのにな。

 

「それと、そこの念獣さん。念獣だとアレだから名前つけてもいいかな? キュゥべえって名前でもいい?」

 

 全力で首を横に振られた。まあそうだよね、私もそんな名前は嫌だ。

 

「じゃあ、ロップ。私の国にはね、ロップイヤーラビットっていうあなたによく似た生き物がいるの。ロップっていう名前はどう?」

 

 今度はかすかに頷いてくれた。決まり。

 

「ロップは、私たちの言葉がわかるのよね?」

 

 ゲレゲレの陰に隠れながらだが、私の言葉にいちいち反応して頷いてくれる。

 少し警戒を解いておきたいな。

 

「王子の魔法の抜け道(マジックワーム)はあなたが出しているの?」

 

 今度も、しっかりと頷く。やはりこの念獣の能力なのか。

 

「じゃあ、ロップもあのトンネルを通ることはできるの?」

 

 今度はふるふると首を横に振った。耳がふわふわと動いて可愛らしい。

 トンネルを出すことはできるけど、自身がそれを通ることはできない。これは重要な情報だ。

 もしかしたら各王子の念獣は第一層から移動できないという制約があるのかもしれない。

 だとすれば他の上位王子を下層に引きずり込んで戦うといった戦略もアリだ。

 出来るだけ戦いたくはないけど。

 

「ロップには、他にも能力はある? トンネルを出す以外の」

 

 こくこくと頷いて、手に持ったステッキをくるりと一回転させた。小さな虹が出た。

 

「……きれいだね、すごいね」

 

 ロップ、どや顔。内心、使えねーと思ったことは内緒にしておこう。

 これにも王子のオーラ使ったりするんだろうか。使うんだろうな。

 

「ロップとゲレゲレは仲良しになったの?」

 

 二匹が顔を見合わせて、返事をする。

 

「がぁう!」

 

 これは想像以上に深い仲になっているとみて間違いない。間に挟まれたい。

 私の殺気を感じたロップがまたゲレゲレの陰に隠れてしまった。

 ごめんって、妄想だけにとどめておくから顔出してよ。

 

 しばらくとりとめもない話をしているうちに、ロップの警戒も薄れてきたようだ。

 そうそう、少なくとも私は危害を加えたりはしないからね。

 指先を差し出すと、フンフンと匂いを嗅いでいる。

 反対の手はゲレゲレのオデコをガッシガシと撫で繰り回している最中だ。

 きみ、オデコ好きだよね。角を収納してるからムズムズするのかな?

 それとも猫みたいにフェロモンを出す臭腺があるんだろうか、知らんけど。

 

 ロップは言葉を話せない。でもゲレゲレと同じでボディランゲージは豊富だ。

 基本ビビリ。大きな音がしたりすると王子以上に飛び上がって頭を抱え込む。

 そして残念ながら、やっぱり攻撃力防御力ともにゼロに等しい。

 まあ、王子が危機的状況に陥ったら発動する能力とかあるかもだけど、期待はしない方がいい。

 基本的に王子の性質を受け継いで生まれる念獣、フウゲツ王子の性質をそのまま受け継いでいるのだろう。

 ということは意外と土壇場に強いかもしれない。私は王子をそう見ている。

 弱く、臆病。けれど大事なもののためには力を発揮できる人。

 振り返って王子を見る。一生懸命にオーラを感じようとしている。

 生きるために、カチョウ王子と共に生き抜くために。

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