突然、船が大きく揺れた。
「王子!」
私は王子を抱きかかえ支えて掴まれる場所を探し、倒れてくる家具を避ける。
リョウジとバチャエムはそれぞれに何とかしてくれ。
ロップは最初から浮いているので問題なし。
ゲレゲレは猫らしく華麗に壁を蹴って着地した。
「王子、お怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です、ありがとうございます」
揺れは一度で済んだ。
どこかで何らかの衝突が始まったのかもしれない。
第一層の念能力者同士か、第三層の団長さん対ヒソカか。
あるいはそれ以外の可能性も無きにしも非ず。
抗争なんてセンもある。
この船問題抱え込みすぎだろう。
リョウジもバチャエムも怪我はなさそうだ。よかった。
王子の警護をゲレゲレに任せて応接室の方を覗く。
従事者たちは部屋の片づけに大忙しだ。
数名に居間と寝室の王子周辺を片付けるよう依頼して居間へ戻る。
「何だったんでしょう、さっきの……」
「さあ、大したことが起こらなければよいのですが。念の為大きな揺れには警戒しておいてください。おそばに居る間は無論私がお助けしますけれど」
従事者が四名ほど居間へと入ってきて、うち二名は寝室の片付けに入った。
居間も家具類がしっちゃかめっちゃかだ。
私たち警護も大物の移動を手伝い、従事者の二人には細かい掃除をお願いする。
厨房は偉いことになってるだろうな。
ゲレゲレは少し興奮状態で周囲を警戒している。
「ゲレゲレ、待て。大丈夫だから」
何が大丈夫なんだろう。発信源は突き止められていない。
私は自分にも言い聞かせる。大丈夫、問題ない。
少なくとも1011号室を、フウゲツ王子をターゲットにした攻撃でないことは確かだ。
ひとまずは王子の身の安全さえ確保できれば、私としてはそれでいいのだ。
「リョウジさんとバチャエムさんも、水見式に戻ってください。この状態で集中するのは難しいかもしれませんが、それ自体も良い修練になると思います」
「ああ、わかった。申し訳ないが王子はお任せする」
「はい」
フンスフンスと鼻息荒いゲレゲレを抑えながら。
可能性を考える。
第一層での襲撃であればもっと大きな揺れや衝撃があるだろう。
おそらく第一層ではない。
第二層。パリストンがいること以外情報はない。ので置いておいて。
第三層、ここが一番可能性が高い。
エイ=イ一家のゴタゴタあるいはヒソカと団長さんの衝突。
後者ならば一度で揺れがおさまったのはおかしい。
船ごとひっくり返ってもおかしくない高レベルの能力者の争い。
しかも周囲に気を使わないタイプ同士だ。一度で済むわけがない。
一番ありえそうなのは組同士の抗争か。
でも抗争でここまでの揺れが起きるかな?
船が沈むだけで世界は変わらない。誰も船を沈めようとは思わない。
さすがの旅団やヒソカでもそこまでは考えない。
何らかの確実に助かる手段を確保していない限りは。
念のために地図で確認する。ヒソカと旅団は衝突していない。
フランクリンさん・コルトピさん・シャルナークさんは第五層から動いていない。
あとのメンバーはマチさんを除いて第三層。時間の問題。導火線は短い。
そもそもそれぞれの組に能力者はどのくらいいるんだろう。
エイ=イ一家の組長以下二十四名は、全員念能力者と考えていた方がいい。
原作に出ていないだけで末端の構成員が他にもいるかもしれない。
あとの二つの組も、組長と若頭はたぶん念能力者だと思うんだけど。
それ以外は読めない。全員ってことはないと思うが。
準戒厳令になってだいぶ経つ。
そろそろ人材が第三層以下に送り込まれる頃だろう。
抗争の火種はそれによって消えるのか、それとも別のところで燃え上がるのか。
私がフウゲツ王子をここに連れてきてしまったことによる変化は?
最近、考えることが多すぎるな。仕方がないけれど。
団長さんくらい頭が良ければよかったな。そしたらもっと蜘蛛の役にも立てるのに。
情報班の私は各員にメールを配信する。
ヒソカは第三層政治特区周辺から動いていない。
周辺は十二支ん含め警備が厳重である予測がたてられる、注意されたし。
……注意なんかしない。行きたいところに行く。それが蜘蛛。
それだけの
とはいえ不必要なトラブルは団長さんたちも避けたいだろう。なので、念の為。
「あの……」
しまった、フウゲツ王子を忘れていた。
「王子もこの状況下で、瞑想の練習をしましょう。心を落ち着けることもできますし、動じない訓練にもなります」
「はい!」
むん、と気合を入れ直して、王子は元通りの位置に戻されたソファに座る。
この王子、意外と肝が太い。太くならざるをえなかったのかもしれないが。
王の器。そんなものが存在するとも思えなかったが。遺伝なのか、環境なのか。
少なくとも私にはフウゲツ王子は王としての器を備えているように感じる。
「……」
問題は、その周りをオロオロパタパタと飛び回っているロップである。
王にふさわしい念獣なんだろうか。この子が?
私が見ていることに気付いてこちらを見て首をかしげる。かわいい。
かわいいは正義だ、何も問題ない。
バタバタと片付けて回る従事者さんに後はお任せして、私も修行に入ろう。
水見式、そしてタロットの具現化。
一枚ずつタロットを見つめる。『愚者』……旅人。
太陽を背に崖を行く荷物を持った旅人。犬の姿も見える。犬。犬を具現化?
どうせ具現化するなら『戦車』を具現化したい。
『戦車』……二匹のスフィンクスが牽く馬車のような乗り物と、その手綱を引く青年。
……ないな。スフィンクスだけならともかく人間まで具現化して操作する能力は私にはない。
これを具現化したら私の他の能力全部吹っ飛んでしまうレベルだ。
『愚者』に戻ろう。注意を促す犬の存在。そのまま進むと崖から落ちてしまうよという。
感知系の能力としてなら……いけるか? 何を感知する?
一瞬で何かを感じ取り注意を促す、何かとは何か? 隠されたナニカ。
隠で隠されたオーラの感知。瞬間的に、その時だけ、隠されたオーラを強い凝無しでも見ることができる。
……こんなところかな。隠されてなければ何の意味もない。
凝をしていればある程度の隠は見破れるけれど、相手のレベルが高かったり他に集中したい時には使えるかもしれない。
マチさんに協力してもらって、
隠された糸を凝無しで見ることができた、時間は五秒ほど。
私はまた、新たな能力を一つ身に着けることができた。
役立つかどうかはまだわからない。
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・発動すると、左手にタロットカード(大アルカナのみ)を具現化する
・ただし能力を付与したカードを使用した場合、そのカードは二十四時間経たないと再度具現化することはできない
・能力を付与していないタロットカードは、ただの具現化されたカードになる
・右手で束から一枚を取り出すことによって、能力を付与したカードの能力を発現することができる
・出すことも消すことも自在にできる
『0 愚者』
・隠で隠されたオーラを凝無しでも目で見ることができる
・発動時間は約五秒
『13 死神』
・柄の長さが百六十センチほどの大鎌を具現化することができる
・発動時間はオーラが続く限り有効
・いつでも消すことはできるが、消してしまうと二十四時間は発動できない(
『17 星』
・石ころ大のオーラの塊を大量に降らせることができる
・降らせる場所は任意、狭いほど密度が濃くなる
・威力は弱い
・持続時間は数秒程度
『18 月』
・鉤状の刃にオーラを変化することができる
・生(回復)と死(毒)、二つの能力を任意に使い分けることができる
・発動時間はオーラが続く限り有効
『19 太陽』
・カードを任意のタイミングで燃え上がらせることができる
・発動時間は数秒程度だが、何かに燃え移った場合はその炎は消火するまで普通に持続する(特にオーラは使わない)
『21 世界』
・カードを引いてから一秒、時を止めることができる
・範囲は本人を中心に球状に半径五十メートル以内に限られる
・範囲内部では術者本人のみ自由に動くことができる
・範囲内にいた人物などは、その間のことを認識できない(範囲外は可能)
・時間内に範囲外から範囲内に入り込んだ場合、同様に時は止まる
・
・具現化したカードを引くことによって能力を発動できる
・効果は二十四時間、その間は他の能力を使うことができない
『0 愚者』
・任意の個体の現在地を知ることができる
・対象の顔を実際に見たことがある必要がある(写真不可)
・半径五百メートル圏内にいる場合には何もなくともおおよその方角と距離がわかる(完璧に正確ではないので攻撃は視認していない限り不可に近い)
・地図上などでは平面的にしか場所を知ることはできないが、半径五百メートル圏内の場合は高さを含め立体的に居場所の方向を把握することができる
・同時に複数の人間を調べることはできないが、都度切り替えて一人ずつ調べることはできる(二十四時間内に複数回可能)
『2 女教皇』
・パクノダの能力(
『10 運命の輪』
・ギドの能力(
・ただし独楽自体がなくても自力で具現化して操作することが可能