二十二の使徒   作:海砂

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第六十六話

 明け方、私たちは警護を交代した。

 私とマチさん。

 リョウジとバチャエムと、カラムとミレンク。

 ゲレゲレは引き続き王子から最も近い場所でお守りする。

 

「朝ごはん、パンとおコメどっちがいいですかー?」

 

 いつも夜勤の私たち、仕事上がりに私が朝食を作って食べてから休むようにしている。

 今日の朝食はごはんにお味噌汁。具は白ネギとお豆腐。

 それに塩をよく効かせた焼き鮭。

 リョウジが一口食べて突然泣き出したのにはびっくりしたが、味噌汁が今は亡きご両親の思い出の味だったとか。納得。

 引き続き水見式をしたがった二人を無理やりベッドに押し込めて応接室に戻る。

 私も休みたいんだけど、その前にやっておかなきゃいけないことがあるからね。

 そう時間はかからなかった。部屋の電話が鳴る。

 交換台からは1010号室からだと告げられた。お願いしていた朝の定時連絡だ。

 晩餐会での休戦協定の公示についてだけ伝え、電話を切った。

 盗聴の可能性大だからね、余計なことは言わないに限る。

 隣の部屋の上位王妃の警護兵が聞き耳を立てていないとも限らない。

 公示の件それ自体についてはすでにばれている可能性が高いので言っても平気。

 

 あとは今夜の晩餐会について少し考えておくべきかな。

 晩餐会の会場に私たち警護は入ることができない。

 出入り口で待っているだけなのだ。

 出入り口まで誰が行くか……まあ、私とマチさんと、あとは誰でもいいか。

 ハンゾーとゲレゲレにはこの部屋に残ってもらおう。

 王子には、晩餐会の様子をよく見てきてもらわなければならない。

 特に他の王子の様子。

 通常の様子から、休戦協定を発表した直後の様子まで仔細に渡りその目で確かめてもらう必要がある。

 

 王子の観察眼は当てになる。

 初めて会った日、この船に乗る前の様子を聞いた時。

 尋ねるまでもなくそれまでの細かな状況を説明してくれた。

 贅沢を言えば念能力に目覚めてて他の王子の念獣がどういったものかまで見られれば良かったのだが、それは本当に贅沢。

 幾人かの王子の念獣の能力は原作に載っていた。

 とはいえ詳細は不明な部分も多い。

 特に第一(ベンジャミン)王子と第四(ツェリードニヒ)王子の念獣についての情報が欲しいな。

 あと第一(ベンジャミン)王子と第二(カミーラ)王子の私設軍隊。あそこも全員念能力者よね。

 王子自身が念能力者なのは多分第一(ベンジャミン)王子と第二(カミーラ)王子だけ。

 とはいえ超級ウルトラ才能持ちの第四(ツェリードニヒ)王子がいつまでに能力を身に着けるかは不確定。

 テータちゃんさん、うまく王子の能力を明後日の方向に導いておくれよね(願望)

 

 第二(カミーラ)王子の暗殺未遂の件で、第一(ベンジャミン)王子と第二(カミーラ)王子は自由だけど外出時は監視付き。

 国王軍の監視は念能力者かな? 多分違うんだろうな。

 ムッセはネるねルネルねで消されてしまったので発見される可能性はゼロ。

 すなわち監視員は今後ずっと帯同することになる。

 それによる状況の変化は? 少なくとも両王子が直接大きな動きをすることは控えるだろう。

 やはり問題は私設軍隊。と、念獣。

 ほぼ明確に念獣の能力がわかっているのは第五(ツベッパ)王子と第六(タイソン)王子(ただし禁忌事項については不明)、第七(ルズールス)王子、第八(サレサレ)王子。

 第十三(マラヤーム)王子の念獣もおおよそ判明している。

 

 第六(タイソン)王子、第七(ルズールス)王子、あと第十三(マラヤーム)王子あたりと協定を組むことは不可能だろうか?

 ……ん? そもそも1013号室。晩餐会の時はみんなあの部屋を出るよね。

 その場合はあの部屋に戻ることは可能なんだろうか? 王子自身も一緒に出るから可能なのかな?

 一時的に元通りに部屋を繋ぐのかな。多分その可能性が高いと思う。勘だけど。

 晩餐会の時に他の警護兵との接触は可能だろうか、あるいは誰もいない(偽)1013号室の前で情報の提示をするか。

 うまくすれば第七(セヴァンチ)王妃ごと取り込めるかもしれない。

 

 第六(セイコ)王妃ともコミュニケーションとっておきたいな。

 カチョウ王子を訪ねた際にはお会いすることができなかった。

 第七(セヴァンチ)王妃の場合と違って、カチョウ王子とフウゲツ王子に差別的な関係は見られない。

 上位であるからカチョウ王子のお部屋に一緒に居るだけであって、フウゲツ王子のことを見捨てているとも思えない。

 ただ、良くも悪くも凡人。感情に左右もされやすい。

 重要な情報は流さない方がいい。念能力のことを含めて。

 そういえば第六(セイコ)王妃にハンター協会員を融通するようにお願いしたはずだけど今のところ無視されてるな。

 どちらかというとカチョウ王子寄りなのかな、やっぱり。

 

 カチョウ王子、第十四(ワブル)王子の念獣に関しては姿すら出てきていない。

 特にカチョウ王子に関しては、私もおそばに行ったにもかかわらずその姿を見ていない。

 いないってことはないと思うけど……どこに居るのか、また、どんな能力を持っているのか。

 1014号室を訪れた際にも念獣を見ることは叶わなかった。

 ただしこれは第十四(ワブル)王子自身のすぐそばに居た可能性が高いので仕方ない。

 第十四(ワブル)王子の念獣に関しては、何か情報がわかり次第クラピカからのお知らせを待つとしよう。

 教えてくれるかどうかは微妙だが、先にこちらの能力を開示している。

 蜘蛛のことさえ別にすれば、信頼関係は築けていると思う。大丈夫だといいな。

 

 ……念獣、基本的にどれもデカいけど、ロップみたいにこじんまりしたのもいることが分かった。

 ということは、もっと小さい念獣の存在もあるかもしれない。例えば、ハムスターサイズ。場合によってはゴキブリサイズ。

 そこまで小さな念獣だと視認も難しい。小さいからといって能力も小さいとは限らない。

 

 考えること多すぎ問題。

 人生で一番いろんなことを考えている気がする。

 天空闘技場が懐かしい。ぶちのめしてはタロット占いするだけの日々。

 あの頃はなーんにも考えてなかったな、楽しかったな。

 かといって今が嫌だというわけじゃない。

 王子は絶対に守りたい。正直ヒソカやお宝は二の次三の次。

 マチさんの手前、お宝情報は意識的に集めるようにはしてるけれど。

 あまり考え事ばかりしても脳みそパンクしちゃうので、私も少し眠ろう。

 控室に行くとリョウジもバチャエムも、ブツブツ言っていた割にはぐっすりと眠れているようだ。

 私も音をたてないように気遣いながら、ベッドに横になる。

 

 

 どのくらい寝られただろうか。

 再びの大きな揺れで目を覚ます。

 一度目は先日の揺れより小さく、二度目は先日の揺れより大きく。

 部屋の中が何度もシェイクされる感覚。

 振り回されているベッドを避けながら室内を見渡す。

 ロデノイルとハンゾーは何の問題もなく揺れに身を任せている。

 リョウジとバチャエム、それにタンティーノとアカシは怪我はないようだ。

 従事者の方は大丈夫だろうか。

 それより何より王子! ……は、マチさんが守ってくれると信じている。

 七度か八度……揺れが一旦おさまった頃合いを見計らって応接室に出る。

 グチャグチャである以外に異常は見られない。円に誰か入った形跡もなかった。

 今回も1011号室をターゲットにした攻撃である可能性は低い。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 従事者控室の方に声をかける。数人がよろけながら出てきた。

 怪我人も出ている。部屋の中にはまだベッドに押しつぶされた人もいるようだ。

 急いで従事者控室に入り救出する。

 命に別状はなさそうだが手当は必要だしすぐに仕事には戻れないだろう。

 従事者八名のうち、小さな怪我のみでほぼ無事なのは四名。

 全員に応急処置は施したが、四名は出来るだけ早く医師に見せた方がいい。

 応接室の受話器を取り医科学特区に電話を繋いでもらおうとするが繋がらない。

 V2(ベリイビップ)である第一層からの電話すら取り次いでもらえないということは、おそらく他の層を含め多数の怪我人が出ている。

 問題が一つ。大きな怪我をしたうちの一人が1014号室で念を教わっている従事者だということ。

 二人ともじゃなくてよかった、せめてそう思おう。

 抗争が始まったのか、あるいはヒソカと旅団がぶつかったか。

 上層に居ると下層の情報が入ってこないのはもどかしい。

 地図で確認する。旅団とヒソカではない。

 十二支んのうち三名が第三層の一か所に向かっているので、発信源は多分そこ。旅団は関係なさそう。

 エイ=イ一家の誰かかな。……今調べても仕方ないな、この部屋のことに集中しよう。

 

 居間の扉を開く。居間もまた先日と同じようにめちゃくちゃになっていた。

 

「王子、ご無事ですか?」

 

 目視で無事を確認したものの念の為に声をかける。問題ない、そう言うように王子は頷いた。

 

「何だろうね、この揺れは……」

 

「わかりませんが、ヒソカ関連ではなさそうです、さっき調べました」

 

 ロップがパニックで泡を食ってクルクルと宙を舞っている。ちょっと落ち着け。

 

「ゲレゲレも大丈夫?」

 

「がうう」

 

 多少鼻息は荒いものの、ゲレゲレも無事。カラムとミレンクもそれぞれに身を守ったようだ。

 

「従事者の中に怪我人が多数出ています。医科学特区と連絡を取ろうとしましたが繋がりませんでした」

 

「エイラさん、第一層にも病院があります。そこなら多分通じると思います」

 

 あ、そうか。そりゃそうだ。第一層に病院がないわけがない。迂闊だった。

 慌てて応接室に戻ると交換台に第一層の病院へと繋いでもらい、医師の派遣を要請する。

 するとほどなくして二名の医師と四名の看護師が部屋を訪れた。

 ……第一層がどれだけ手厚いか、この一件だけでよくわかる。

 

「骨折が三名、一名は流血がひどいものの止血さえしてしまえば意識ははっきりとしているので大丈夫です。あとの四名は応急処置だけで大丈夫です。三名は病院の方へと運びましょう、一旦入院といった形をとっていただきます」

 

 王子の了承を得て、三名を運んでもらう。病院は第一層の上から五番目のフロアにあるらしい。

 落ち着いたら第一層の設備も頭に入れておく必要があるな、脱出口含め。

 

「従事者が少なくなってしまい残った方々には負担をかけることになると思いますが……よろしくお願いします」

 

 私は頭を下げる。一緒に料理し掃除をした仲の従事者たちは、それを快く受け入れてくれた。

 さあ、ひとまずはお部屋のお片付け。まためちゃくちゃになりそうな予感もひしひしとするけれど。

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