二十二の使徒   作:海砂

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第六十七話

 1011号室だけでもてんやわんやなのだが、これ晩餐会開かれるのかな?

 ……開かれるんだろうな、何としてでも。国王の面子がかかってるし。

 

 従事者の人数が少なくなったので、もう警備だの従事者だの言ってられない。

 王子以外総動員で後片付けに入る。

 王子ですら身の回りのものは片づけてくれた。

 何もしてないのはゲレゲレとロップだけである。

 とはいえ、ゲレゲレにはこのゴタゴタの中で王子に危険が及ばないようにしっかり見張っておいてくれとは伝えてあるのだが。

 王子のそばをむやみやたらとソワソワ動いているので多分大丈夫だろう。

 私やリョウジ、バチャエムは主に居間と応接室の片付けをしていた。大きな家具が多いからね。

 元気な従事者の人たちには厨房をメインにお任せする。

 食器棚は備え付けなので冷蔵庫だけ元の場所に戻すのを手伝ってきた。

 マチさんとカラムとミレンクは王子の警護の当番でもあるので王子のおそば、主に居間と王子の寝室。

 残った警備で各控室を綺麗にしていく。

 

 これ、他の王子の居室の警護や従事者、場合によっては王子自身が怪我してる可能性もあるんじゃないだろうか。

 特に下位王子。周辺にハンター協会員(準会員含む)のいないサレサレ・ハルケンブルグ王子辺りが怪しい。

 ま、それも晩餐会になってみれば多少はわかる事か。

 少なくとも各王子の安否は判明する。

 

 

 ぐちゃぐちゃの部屋も、人手が少ないなりに昼食前には綺麗に片付いた。

 ただし全員朝食ヌキだ。おなかがすいた。

 王子用の冷蔵庫と食品庫の中身はカギのおかげで無事だったが、それ以外の冷蔵庫や食品庫の食品は床に投げ出されて汚染されてしまったものも結構ある。

 従事者が下層に連絡を取り、物資の追加を依頼していた。

 その間に私は、大きな鍋で袋ラーメンをぐつぐつ煮込む。

 こんな時に使わないで何のためのインスタント食品だろう。

 インスタントとはいえ生麺仕立てなので、あえての煮込みラーメン風。

 具材はキャベツにニンジン、タマネギにシイタケ、ネギをたっぷり刻んでごま油で炒める。

 タンパク質が無いけど、一食くらいは大丈夫だろう。

 ゲレゲレ用には冷凍庫から飛び出して放置されていた豚ロース肉を軽く油抜きして与えることにしよう。

 大丈夫、ゲレゲレなら多少汚染されてても火を通せばいけるいける。

 

 丼をたくさん用意して、ひとつひとつに麺を入れていく。

 上から炒めた具材をどんどんのせていく。

 従事者には基本王子のお食事の準備をお願いしている。

 一人で調理は怪しまれるかと思って少し手伝ってもらったけれど、私の作った方はあくまで賄い飯だ。

 

「それ、おいしそうです……」

 

 皆が黙々とラーメンをすすっている場面で、まさかの王子がインスタントラーメンにご興味を示された。

 さすがにコレを食べさせるわけにはいかないので、機会があったら改めてお作りしますとだけ伝える。

 王子用の追加の食材にインスタントラーメンを加えておいてもらおう。

 こんなにおいしいものを食べられないなんて、王子っていうのも案外大変だなあ。

 

 

 あれから船が揺れることはなかった。

 特に異常もなく、晩餐会の時間を迎える。

 フウゲツ王子には、あらかじめ伝えておいた。

 通常時の他の王子の様子と、特に休戦協定を結んだと公示した直後の他の王子の様子をしっかりと観察しておいてほしい、と。

 それと、国王の様子。

 

 晩餐会会場まで付き従うのは私とマチさん、それにロデノイルとアカシ。

 それ以外は部屋でお留守番だ。

 私とマチさんだけだったら1013号室の様子をついでに覗きに行けたんだけど、不審な動きはしない方がいい。

 リョウジとバチャエムには引き続き練の修行をしておくように伝えておいた。

 

 そして皆で王子を囲み、無事晩餐会の会場へと到着する。

 会場は別に専属の警護で固められており、私たちは会場周辺でウロウロすることも許されている。

 ただし不審な動きをすればそれは皆に筒抜けになってしまうということでもある。

 王子は何事も無く入室し、私たちは外の廊下で待機だ。

 私は愚者を発動して、クラピカの位置を把握する。

 近付いたらさりげなく逃げる、それだけ。

 マチさんを見つけられる訳にはいかない。

 

「で、どーすんのさ」

 

「待ちましょう、王子が戻られるまで。特にすることはないと思います」

 

「……中に入ってお宝の情報でも手に入れられれば良かったんだけどね……」

 

 その言葉を、ロデノイルが耳ざとく拾い上げた。

 

「お宝? というのは?」

 

「王子の警護には何ら関係のないことです、お気になさらず」

 

 彼の能力は知らないが、特に現在念を使用している様子も見られない。

 記憶弾(メモリーボム)のような、相手の記憶を読み取る能力ではないのだろうと思う。

 彼は不信そうな表情をしたものの、それ以上突っ込んで聞いてくることもなかった。

 

 晩餐会は二時間ほどだっただろうか。

 まず王子が退席する、第一王子から順に。

 第一王子が退席する際、出入り口が見える場所に第一王子警護兵以外の人間が近づくことは禁止される。

 そうして順に、第二、第三と王子が次々に退出し、やがてフウゲツ王子の順が訪れた。

 

「お疲れさまでした、王子」

 

 アカシが一歩、王子に歩み寄る。

 

「フウゲツ王子、第五(スィンコスィンコ)王妃の階令により、私はここ以降王子から離れさせていただくこと、ご了承願います」

 

「わかりました」

 

 アカシが離れた……サレサレ王子に何かあったのかな?

 

「では王子、お部屋に戻りましょう」

 

 マチさん、私、ロデノイルの三人で王子を取り囲み警護しながら部屋へと戻る。

 部屋の様子も、私たちが出た時と変わりないようだ。

 

「それではこれからは私とリョウジさんとバチャエムさんが警護に入ります。お疲れさまでした」

 

 ロデノイルに向かって頭を下げる。向こうも礼を返してきた。

 そして王子とともに、居間へと移動する。

 

「それで王子、何か変化はありましたでしょうか」

 

 私のその言葉で、王子が挙動不審になった。何か、あったのか。

 

「まず最初に……モモゼ王子はもちろんですが、サレサレ王子も晩餐会には参加してなかったです……」

 

 やはりサレサレ王子に何かあったのか。

 

「スィンコスィンコ王妃がひどく取り乱しておられたので……おそらく、亡くなられたかそれに近い状態ではないかと」

 

 揺れの時か。あるいはそれ以外に何かあったのか。

 もしかしたら二度目の揺れがサレサレ王子への襲撃であった可能性もある。

 

「それ以外の王子は、普段どおりでした、少なくとも表面上は」

 

「休戦協定の公示をした後はどうでしたか?」

 

「休戦協定に参加している王子の変化は特にありませんでした。ベンジャミン、カミーラ、ツェリードニヒ各王子は特に反応を示さず、タイソン王子とルズールス王子は少し驚いていらっしゃるようでした。第七(セヴァンチ)王妃は焦っている感じだったので、うまくすれば休戦協定に一緒に入ることが可能かもしれません。実質の権限は第七(セヴァンチ)王妃が持っていらっしゃると思うので」

 

 おおよそ、予想通りの反応かな……。

 

「他に、王子が気に留められるような出来事は起こりましたか?」

 

「さっき言ったスィンコスィンコ王妃が取り乱しておられたのと……あとは、ハルケンブルグ王子が父上に継承戦の中止を直訴されてました。中止することはない、といった反応でしたが……」

 

 それも、予想の範囲内。ハルケンブルグ王子が拘束されるということもなかった、と。

 

「お父上の反応はいかがでしたか」

 

「休戦協定の公示をした時には、少し頷いたように見えました。それ以外は特には……」

 

 国王は休戦協定もひとつの搦手とみているのだろう。

 協定を結んでいるからといって無条件に信頼できるものでもない。

 単独行動が許されるなら、怪我した従事者の代わりに私が1014号室に行って情報収集も出来るんだけど……それも、無理。

 そもそも数日経った今更人員の入れ替えなんてできるのかしら、無理かしら。

 

「……グラスハープはいかがでしたか? うまくできましたか?」

 

 晩餐会から帰ってきてから、王子はずっと緊張している。

 軽くでも、緊張をほぐして差し上げよう。

 

「……失敗しちゃいました。グラスを強く擦りすぎてひっくり返しちゃって」

 

 苦笑いをする王子。

 けれどそれは、きっとほほえましい光景だったのだろう。こんな殺伐とした状況でさえなければ。

 

「でしたら、次の晩餐会でリベンジするのもありかもしれませんね、それまでしっかり練習して、今度は失敗しないように」

 

「ですね! ……私が失敗した時、カーちんが笑ってたんです。私、それを見れただけでも今日の晩餐会でグラスハープをやって、よかった」

 

 無理にでも行動を起こすことで、精神を安定させることもできる。

 ただのグラスハープになってしまった演奏に意味はないけれど、カチョウ王子とのコミュニケーションは少しずつ元通りになってきている、かな。カードが示した通り。

 

「それでは王子もお疲れでしょうし、日付が変わるまでお休みください」

 

「いえ、シュギョーします! 私の魔法でカーちんも助けなきゃいけないから!」

 

 王子、強くなったな……最初に涙を流してた時とは違う。

 

 そして私たちはまたテーブルを囲んで、水見式と瞑想をすることになった。

 王子はまだオーラを感じ取れていないから、水見式をするにはちと早い。

 リョウジとバチャエムは、着実にオーラ量を増やしてきている。

 水見式の変化も如実に表れるようになってきた。

 

 他の王子の情報が知りたい。最も手に入れやすいのはやはり1014号室。

 単独行動禁止、マチさんを連れて行くわけにもいかない。

 何かいい方法はないだろうか……。

 とりあえず、どんなことをやってるのか明日にでも1014号室に行っている従事者の人に聞いてみよう。

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