夕飯の片付けをしに来た従事者を引き留める。
1014号室に行っている従事者さん(無事な方)はイラルディアさんというらしい。
まともに話すのはこれが初めてだ。
「1014号室ではどんなことやってるんですか?」
「ん-、未だによくわからないけど。皆で手をつないで、隣の人から来ると思われる温かいナニカを感じ取れ……みたいな? そんなことをずっとやってます」
まだオーラを感じ取らせる段階か……。
クラピカはどうやってそこから二週間(もう残り十日ほど)で念習得までもっていくつもりなんだろう。
チェーンの中に何か能力開花に関する技があるのかな?
でも、だとしたら王妃にそれを使うと思うんだけどな……。
「私も興味があるので、よかったらまたお話聞かせてください」
「この程度のことでいいなら喜んで」
フレンドリーな人だな。
現状では彼女から情報収集するしかない。1014号室に関しては。
少しの食休みを経てリョウジとバチャエムには引き続き水見式をやってもらう。
ゲレゲレは、ぐでんと転がっている。
それを真似してロップもコロコロと転がっている。かわいい。
王子は手のひらを身体の前で合わせている。
以前教えたオーラを感じる方法、それをずっと試しているようだ。
「エイラさん、前より少し離れた状態でも感じるようになりました」
手と手の隙間は二センチほど。こちらもそれなりに順調。
まだ四大行を教えているわけではないのでオーラの揺らぎに変化はないが、体の表面を覆うオーラをその端ですでに感じ取れるようになったみたいだ。
「引き続き、続けてください。それ以上距離が開くことはないと思いますが、その温もりを忘れずに常に感じ取れるように。先では手のひら以外でも感じ取れるようになるとなお良いです」
「わかりました」
今度は人差し指を近づけている。
お教えしたことを忠実に守り、修行を続ける。
王子の魔法、これで少しでも距離を伸ばせればいいんだけど。できれば船の外まで。
「王子、一つお願いがあるのですが」
「なんですか?」
「……今夜の
返事は、少し遅れる。当然だ、王子は少しでも早く魔法の全容を知りたいはず。
それでも、王子は頷いてくれた。
「エイラさんたちがいなかったら私はもうここにはいなかったかもしれません。あの大きな揺れの時に死んでたかもしれない。私とは関係のないナニカ、それに必要なんでしょう? 喜んで協力させてもらいます。その代わり、今後も私たちのこと助けてくださいね?」
最後は冗談めかして。
『私たち』と、おそらくはカチョウ王子のことも含めて表現する。
王子はお優しくて強い、そして弱い。
お守りする、絶対に。
そして今夜も
王子は晩餐会でお疲れだろうが、その素振りを見せずに「どこに繋ぎましょうか!」と笑顔を向けてくれる。
私は懐の地図を取り出して開いた。『愚者』を発動して団長さんの居場所を確認する。
第三層政治特区にほど近い客室のうちの一室。
そこを指さして王子に
地図でも
これも一つの検証にはなるのだろう。
扉は現れた。私が扉に手をかけると軽くドアは開かれた。
「私とマチさんが入ります。ゲレゲレは後から入ってきて、中で待機。いいね? 王子はこの部屋でお待ちください」
真っ暗な通路を移動する間、後ろからマチさんが尋ねてきた。
「今日はどこに繋いだんだい?」
「団長さんのところです。現状の情報を交換しておこうと思いまして」
そう時間はかからずに、出口が見える。
出口のふたを開くと団長さんの膝蹴りが頭をかすめた。ヒッてなった。ひどい。
「なんだ、お前か」
私とマチさんは
「現状の情報交換をしたいと思いまして」
狭い室内には、団長さんの他にもシズクさんとボノレノフさんがいた。……多分。
ボノレノフさんはボノレノフさんの姿をしていない。
金髪巻き髪の超ゴージャスなナイスバディ美人に
前もって『愚者』で一緒に居ることを確認していなかったら信じられなかっただろう。
「なるほど。これはお前の能力か?」
団長さんは私たちが通ってきたトンネルを指さす。私は首を横に振った。
「それも合わせて、これから説明します。団長さんたちはここで何を?」
「政治特区の内情の把握と十二支んの動向調査中だ。十二支んは面倒だな、多少大きな揉め事を起こすと飛んでくる。昨晩……もう今朝になるか、フィンクスたちがエイ=イ一家とトラブって、無論拘束などされはしてないが少々身動きがとりづらくなってしまっている」
……今朝の大きな揺れはそれだったのか。
「エイ=イ一家。詳細は不明ですが組長の能力は他者への念能力の付与です。組員上層部二十余名は念能力者だと考えていた方がいいと思います」
「お前たちは何をしている? そのトンネルのことも含めて報告しろ」
「……あたしは正直なところよくわかってない。説明はあんたにまかせるよ」
「私たちは第一層に移動して、現在第十一王子の護衛として動いています。私の能力ではヒソカに敵わないと思ったので、先にお宝の情報を調べるべく上層へ行きました」
護衛という言葉のところで、団長さんが少し眉を顰める。けれど言葉は挟まれなかったので私は続きを話した。
第一層における王位継承戦のこと、壺中卵の儀のこと、念獣のこと、第十一王子の念獣の能力で第一層へと移動したこと。
「念獣の能力を使えば他の旅団員が上層へ移動することも容易くなるかと思われます。ヒソカの件が終わり次第、この能力を使って全員第一層へ移動することも可能です。現在のところ、第十一王子の信頼は勝ち得ていますので」
団長さんは一つ頷いた。
「第二層と第三層の間を見てきたが、あれも少々面倒だ。下から上がってくるのと同じようにはいかないし、何より念能力者を含め警護が厳重だ。面倒を厭わなければ通り抜けることは可能だろうが、あとのことを考えると揉めないに越したことはない。エイラ、お前は引き続きヒソカとカルトの動向を把握して移動しているなどの変更があれば連絡しろ、メールで構わない。マチはエイラとともに、第十一王子のそばでお宝の情報を集めておけ。オレたちが移動するまではそのトンネルの能力を失わないように対応しろ」
「あたしはヒソカを狩りに行きたいんだけど」
「単独行動禁止だ。シズクかボノレノフと交代するとまた一から第十一王子の信頼を得なければならなくなる。現状ではお前が適任だ」
渋々ながらも、マチさんは団長さんの言葉に了解との言葉を返す。
「では行け。可能であれば国王や上位王子との接触も試みてみろ、無理をする必要はないが」
そしてトンネルを通って、フウゲツ王子のお部屋へと戻る。
「やりたいこと、出来ましたか?」
フウゲツ王子は詳しいことを何も聞かないでいてくれる、有り難い。
「はい、ありがとうございました」
王子の横でロップがドヤ顔をしている。はいはい、ありがとうねロップ。
私がロップと会話しているのを見た王子が不思議そうにその空間を眺めていた。
「ネンノーリョクを覚えても、私には私についているネンジューは見えないんですよね?」
「……はい。いずれの王子もご自身の念獣は見えないと思います」
「……会って、お話してみたかったな、ロップちゃん」
パタパタと耳を羽ばたかせてロップがくるくると回る。
王子にその存在を認識してもらえたのがとても嬉しいようだ。
「とても可愛らしい念獣ですよ。王子にぴったりの」
王子がぽぽぽと顔を赤くする。かわいいな、おい。
「ロップちゃん、いつもありがとうございます」
もうそこにはいないんだけど、ロップのいた場所に向かって王子が頭を下げる。
王子の横に、小さな虹が現れた。