二十二の使徒   作:海砂

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第六十九話

「……エイラ殿」

 

 王子にはお休みいただき、私たちは三人で引き続き修業をしている。

 水見式をしていたリョウジから突然声をかけられた。

 

「何ですか?」

 

 彼の方を向く。リョウジは右手に一輪の赤いバラの花を持っていた。

 

「……?」

 

「……そこの、花瓶の花を見ていました。そうしたら、右手に、コレが」

 

 リョウジ、真顔だがパニクっているようだ。

 えっ具現化系そんなところで使っちゃったの?

 バラの花の具現化? なんか意味あるの?

 

「……多分、バラの花を具現化したものだと思われます。何か心当たりは?」

 

 リョウジの亡くなられた母上がバラの花をこよなく愛していたとかなんとか。

 それで気になって、水見式をしながら部屋に活けられていた花瓶のバラをチラチラ見ていたんだとか。

 で、気付いたら手にバラ持っていた、と。無駄に才能使っちゃいやがって!

 

「具現化系は何らかの効果を付与するのがおすすめです、私のタロットのように。リョウジさんの発想と勘で、ピンとくる何かしらの能力をそのバラに込めてあげてください……」

 

 もう、なんも言えねぇ。まさか花で来るとは思わなかった。

 

「バラを使った能力……花びらを刃に変えて舞わせ敵を攻撃するとか」

 

 風華円舞陣だねぇ。

 

「あるいはこのトゲを利用して茎を伸ばしてムチにするとか……」

 

 薔薇棘鞭刃(ローズウィップ)だねぇ。

 何だこの展開は。同じトガ神漫画だからかそうなのか。

 リョウジがこんな必殺技獲得したら日本全国の蔵馬ファンだったり、初恋が蔵馬だったという(元)少女たちが大激怒するぞ、きっと。

 ……知ーらない。技としてはアリだとは思うから。

 できれば花びらやムチに毒属性付与出来たらいいんだけどねえ。

 水見式をやりながら色々考えてみてください。本人がしっくりくる能力が一番いいからね。

 

 

 そして、月曜日の朝。

 私たちは警備を交代し、応接室に戻る。

 今日の朝ごはんは何にしようかな。昨日は和食だったからパンにしようかな。

 厨房の食品庫を覗き込む。パスタもありだな……ナポリタン作ったろ。

 

 ソーセージとピーマンとタマネギをきざみ、フライパンで炒める。

 ケチャップにウスターソースを混ぜて塩コショウで味を調えたソースを加えてくつくつと水分を飛ばす。

 パスタ茹でなきゃ! 細いパスタなのですぐに茹で上げて水分をきる。

 そして! 和える! まぜまぜする!

 粉チーズと乾燥パセリはお好みで。

 

 二人に出すと、怪訝な顔でこれは何のパスタなのかと尋ねられた。

 この世界にはどうやらナポリタンが存在しないらしい。

 存在しないのか、二人が知らないだけなのか。

 いいから食べろと強制し、私も食べる。うん、おいしい。

 二人もきれいに平らげてくれた。

 私たちの分だけではなくて、他の警護や従事者の分も作ったので持っていく。

 従事者が減ってしまった分、お手伝いしたいからね。

 ハンゾー以外は喜んで食べてくれた。そうだろうそうだろう、ナポリタンは良いものだ。

 

 修行で疲れ切った二人をはよ眠れと控室に追いやって、私は1010号室からの朝の定時連絡を待つ。

 特に話すことはなかったので、ご挨拶だけで終了。

 さて、私も眠る前にもう一仕事済ませておくかな……スマホを取り出して、テーブルの上にタロットを広げる。

 

「もしもし、パリストンさんですか。今は大丈夫ですか?」

 

「お待ちしてました、もちろん大丈夫ですよ!」

 

 相変わらずの軽薄な口調。やっぱり好きにはなれないなあ。

 

「今占ってしまって大丈夫ですか? おそばにジンさんもいるのでは?」

 

「占い師さんはお見通しですねえ。大丈夫、()()()()()()今占っていただいて構いません」

 

 ええんかい。……というか、それも含めてって、ジンさんもこの電話聴いてるのかな、もしかして。

 

「では早速占いましょう。占ってほしい事柄などはありますか?」

 

「そうですね。……占い師さんの占いは一か月が目安でしたよね? でしたら『ボクは今、恋をしているのでその人との相性を占ってください』」

 

 パリストンが恋とかハイハイ草草。多分ジンのことだろうなあ。

 私は無言でタロットの一枚を選び、そして開く。運命の輪の逆位置。

 

「……出たカードは運命の輪の逆位置。状況の悪化が見受けられます。あるいはスレ違い。これらの不都合はおそらく外的な要因で現れるため、運気が上昇するタイミングまで耐えることをおすすめします。今大きく動くのは得策ではありません」

 

「なるほど……確かに、今は少し身動きの取りづらい状況であることは確かです。繰り返し確認しますが、この占いは今後一か月の予想なんですよね?」

 

「はい、おおよそですが」

 

 お前が占いなんてするとはな、って声が遠くから聞こえた。多分ジン。

 確かに占い師の私が言うのもなんだけどパリストンと占いって似合わない。

 この人、何で占ってもらいたがるんだろう?

 

「相変わらず人の現状をズバズバ当ててきますね……さすがです、占い師さん」

 

 パリストンは私の名前を呼ばない。

 ジンは私のことを知ってるのかな? 知ってるんだろうな。

 そろそろ知らない人に知られてることにも慣れてきたぞ。

 

「ところでパリストンさん、一つ伺いたいことがあるんですが」

 

「何でしょう?」

 

 答えてくれるかどうかはわかんないけど、一応聞いておくか。

 

「『繭』はどうなりました?」

 

 少しの沈黙。背後の人も何も言わない。私も待つ。

 

「……羽化したおよそ六割は置いてきました。まだ羽化していない四割は密輸物資に紛れ込ませてこの船に載せています」

 

 パリストンがクスクスと笑う。これは私に対してともう一つ、ジンに対しても聞かせる為。

 この船にいずれ、二千体のキメラアントが現れるという現実。想像したくはないけれど。

 

「占い師さんは本当に何でもご存じですねぇ。どこでその情報を仕入れるのか、それともそういう能力なのか……」

 

「ご存じの通り、占い師なので。人の未来はある程度予測できますよ」

 

「ん-、そういうことにしておきましょうかね。占い、ありがとうございました」

 

 電話を切る。

 二千体のキメラアント。想像するだけで怖っ。

 航行中に羽化したらマジで暴動起きそう。

 王族と警護と軍隊と、各一家とキメラアントと旅団。

 ますます混沌としてきたな。

 念能力者のハイパーインフレだ。

 

 ……とりあえずは、考えない。私が考えても仕方ない。

 キメラアントはジンが何とかしてくれると信じよう。

 

 

 さて。私の今朝のお仕事はこれで終了。

 二十万の案件四百件はどうするのかって? とりあえず放置、考えたくない。

 次の晩餐会まで一週間。

 王子を守ることと、お宝の情報をもう少し集めたい。

 けれどとりあえずは、私も眠ることにしよう。

 寝る前の考え事良くない。安眠妨害。

 全部後回しにして、おやすみなさい……。

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