何事も無く、夕方少し早い時間に目が覚めた。
……ぐっすり眠れたのは数日ぶりだな。
あ、いやハンターたるものどこでもぐっすり眠れるのだけれども。
邪魔が入らなかったという意味で。
夜勤生活にもずいぶん慣れてきた。
バチャエムはまだ寝ている。
リョウジは応接室でトゲだらけの鞭をふるっていた。見なかったことにした。
厨房に入ると従事者さんたちが夕食の準備をしていたのでまかないのお手伝いをする。
今日のまかないはパンとグリーンサラダにチキンステーキ、スープはヴィシソワーズだ、おいしそう。
王子の「みんなと同じもの食べてみたい」というご要望によりメニューが同じになったらしい。
もちろん食材の出どころは違うけど。
こういうところも、フウゲツ王子が愛される所以よね。
王子本人にそんな気はないんだろうけれど。
「エイラ」
食事を終えて後片付けをしているとマチさんに呼び止められた。
ちょっと待ってあとお皿二枚流すだけだから。
「……あのさ、あたしらはいつまでここにいればいいわけ?」
え。団長さんに言われましたよね、フウゲツ王子の能力を自由に使用できるように維持しておけって。
「それはわかってる。ただ、もっと他にやれることがあるんじゃないのか? 他の王子に接触するとか、国王の居住フロアを探ってみるとか」
確かにそれも、出来れば理想的。
でも現実問題、カチョウ王子以外の王子との接触は難しいし、国王のフロアなんてそれこそこれまでで最大級の警備が敷かれてるに違いない。
原作でもハルケンブルグ王子ですら国王との謁見が認められてなかったもんな。
カチョウ王子に探りを入れたところで知っていることはフウゲツ王子とさして変わらないだろう。
「難儀だね。単独行動が許されるならあたしかあんた、どちらかが調べに行くこともできるだろうけどそうはいかない。二人で行くと隠密行動には向かないし王子を放っておくわけにもいかない」
「ひとまずバチャエムさんとリョウジさんが念をしっかり覚えて、ある程度戦力になるまでは現状維持がいいかと思います」
「いつまでもこのままというわけにはいかないからね。あたしらは蜘蛛だ。目的は別にある、それを忘れるなよ」
「はい……」
一度、ハンゾーが警護をしている時にフロアの探検をしてみようかな、二人で。
1013号室を含めて様子をうかがいに行くのは悪くないと思う。
今日はもうすぐ私の警護の時間なので明日以降に。
地図を取り出して日課の居場所チェック。
団長さんたちとビヨンドがニアミス。警備が厳重だろうから中には入らなかったのかな。
ミザイストムがヒソカたちと一緒に居る。何を話しているのか。
フランクリンさんたちも第五層から動いていない。
それ以外の十二支んやジン、パリストンもほぼ前に調べた時と変わらない位置に居る。
王子のトンネルは第五層まで繋げられるんだろうか。
出来るのなら一度他のメンバーたちとも顔を合わせておきたい。
でもそう何度もこちらの事情に王子を付き合わせるのも気が引けるな。
……私は蜘蛛。すでに蜘蛛の一員。何よりも最優先すべきは蜘蛛。
何度も心の中で自分に言い聞かせる。
私はどうして王子にここまで強い思い入れを抱いているんだろう。
どうしてこんなにも王子を守りたいと思っているんだろう。
きっと王子に共感してしまっているからだと思う、多分。
自分の望まない、自分では変えられない状況に振り回されて苦しんでいる。
私がそうであった時、誰かに助けてほしかった。でも誰も助けてくれなかった。
助けてもらえなかった自分の代わりに王子を救いたい。
心の中で、子供の頃の私が叫ぶ。わたしをたすけて。
私の心を救ってくれたのは蜘蛛。それは肝に銘じよう。
マチさんの言うとおり、忘れてはいけない。最優先すべきは蜘蛛。
それは私がメンバーだからだけではない。
応接室に戻るとリョウジがいかつい笑顔で駆け寄ってきた。
ドーベルマンみたいな大型犬に見えた。
「エイラ殿! この通り、具現化したバラをムチに変化させることに成功しました!」
トゲトゲ、痛そう。でもこのままだと念能力者には通用しないだろうな。
「ただのムチであるだけでは念能力者に対抗するのにちょっと弱いです。以前見せた私の
ようやく完成した(と思われた)発に対して私がダメ出しをしたせいで、リョウジはちょっぴりしょんぼりしていた。
けれどすぐに気分を切り替える。さすが王室警護兵。
控室に向かいながら、ウンウンと唸っていた。頑張れ。
私もその後を追って控室に入る。するとカラムに声をかけられた。
「エイラさんは、プロハンターなのか?」
……別に嘘をつく必要もないかな。頷きながらそうですと答える。
ついでにハンターライセンスも見せた。
「なるほど、しかしハンター協会員として雇われたわけではないのだな」
「はい。あくまで個人的に王子をお守りしているだけです」
カラムは念能力を使える。そして確か下位王子の監視報告をまとめるのは第一か第二王妃の所属兵。
第一王妃の所属兵はすべて私設兵と入れ替わっている。
つまりこの部屋の監視報告をまとめるのはカラム。
私たちのことを探っていると考えるのが妥当だろう。
「あなたと一緒にいた……マチさんもプロなんだろうか?」
「いえ、彼女はプロではありません。とはいえライセンスがないだけで能力はプロと遜色ありませんが」
ゲレゲレのことも尋ねられた。大切なペットだと答えておいた。
念能力者であることはばれている。
「私もお尋ねしたいことがあります。王族の中で、占いに強い興味を示される方をご存じありませんか? 例えばカミーラ王子とか」
私の占いを使って、王族の誰かの懐に潜り込めないだろうか。
一般的に占いに興味を示すのは女性が多い。権力者にも意外と多い。
王妃の誰か、あるいは王子に取り入ることができればさらに情報は集めやすくなる。
「……何故そんなことを?」
「私は自分で言うのもなんですが結構有名な占い師です。そして王子に雇われているわけではないので金銭的なメリットは発生していません。単純に、お金を稼ぐためのコネを必要としているだけですよ」
無償で占うことは、この場合逆効果。フウゲツ王子を守るために他の王子や王妃を暗殺しようとしてると疑われること間違いなし。
逆に大金をせしめるような守銭奴を装っていた方が、金でカタが付く人種と思われてやりやすい。
あとシンプルにお金欲しい。
「私の知っているのはカミーラ様だけだな。カミーラ様は著名な占い師を自宅に呼びつけるほどの占い好きで有名だ。ただし使えない者に関しては容赦なくその命すら奪うお方だが」
「かまいません。もしよろしければ、私の名前と『戦う占い師さん』という名称とともに、カミーラ王子に占いの打診をしていただけないでしょうか? 費用は本来ならば直接占う場合は一億ジェニーいただきますが、コネを作ることの方が優先事項なので五千万ジェニーにいたします」
「……私は打診をするだけで、どういった返事が返ってくるかはわからないぞ?」
「はい、それでかまいません。よろしくお願いします」
占い一回で一億ジェニーとは、信じられない世界だな……カラムはそうつぶやいて、応接室に設置されている電話へと向かった。
報告と、打診をしてくれるのだろう。
これで、カミーラ王子に取り入ることができればいいんだけど。
そしたらそこからお宝情報ゲットだぜ!
……怖いことは考えない。疑われるのは百も承知。
それでも私は動く、全ては蜘蛛の為に。