二十二の使徒   作:海砂

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第七十一話

「エイラさん!」

 

 応接室から彼が出て行ってすぐ、私を呼ぶ声が聞こえた。カラムだ。

 

「どうしました?」

 

 私も控室から応接室に向かう。彼は受話器を私に差し出した。

 

「カミーラ様だ。今すぐお話をされたいと」

 

 いきなりか。まぁしゃーない。

 かかった魚はでかいかな?

 

「……お電話変わりました。エイラです」

 

『あなたが戦う占い師さん?』

 

「はい。天空闘技場ではそう呼ばれていました」

 

『条件は聞いたわ。今すぐ私のところに来なさい』

 

 今すぐて。もうすぐ警護の番なのに。

 

「二つお願いがございます。一つは間もなく私が警護につかねばならないため、交代要員を確保するまでの間三十分のお時間をいただくこと。もう一つは弟子の帯同を一人お許しいただくことです」

 

『十分。それ以上は待てないわ』

 

「……承知しました、それでは十分後にお伺いさせていただきます」

 

 私が受話器を置く前に電話が切れる。

 急いでマチさんとハンゾーと情報共有しなくちゃ。

 まず控室のマチさんに事情を話す。

 お宝情報の探りを入れるためだと説明すると喜んでついてきてくれることになった。

 次は警備中のハンゾー。どう説明しようか。

 

「あー、別に理由は話さなくていいぜ。そう長い時間じゃないんだろ? ついでにあの二人の念能力の方も面倒見といてやるよ」

 

 ハンゾー、想像以上にいい人だった!

 これで何の問題もない、あとは遅れないように1002号室に向かうだけ!

 

 各王子の上のフロアと下のフロアの間には警備などはない。

 ちらりと見た感じだが、部屋の前に警備を置いているのは上のフロアが1006号室を除くすべての部屋。

 下のフロアは1007号室と1009号室。

 それ以外の部屋は皆室内で警備しているようだ(人数が足りないところもあるだろう)

 1006号室は……イケメンを自分の目の届かないところに置いておきたくないのかな、タイソン王子。

 上位王妃の警護兵を下手に外に出して大量の敵を招き入れられても困るしね。

 時間がないので、得られた情報はその程度。

 急いで階段を駆け上がり、廊下を小走りに1002号室へと向かう。

 ひとまず顔だけ合わせて、あとは時間を稼ぐ。

 あと30分ほど経てば私の舞い踊る二十二の使徒(ダンシング メジャー アルカナ)の時間変更線になる。

 そこまで時間を稼いで、『女教皇』を使用してカミーラ王子の内心を探ろう。

 占いのためでもあり、情報のためでもある。

 危険は承知、能力であると知られるのは構わない。他のカードの情報が洩れるわけじゃない。

 能力を使用していることはばれるだろうけど、それがどのような能力かまでは知られないはず。

 

「待て! ここに何用だ!」

 

 1002号室の警備兵(おそらくカミーラ王子の私設兵)二人が私たちを呼び止める。

 

「カミーラ王子に呼ばれて参りました、『戦う占い師さん』ことエイラと申します。こちらは弟子のマチ。カミーラ王子にお取次ぎをお願いします」

 

「そこでしばらく待っていろ」

 

 一人が扉の中へと入る。間もなくして私たちは中へと招かれた。

 

「ちゃんと十分以内に来たわね、賢明ね。どちらが戦う占い師さん?」

 

「私です。こちらは勉強させている弟子です。特に口をはさむことはないですが占いを一部始終見学させていただきます」

 

「構わないわ……そこに座りなさい」

 

 応接室の、カミーラ王子と向かい合わせの椅子、私はそこに、言われるがままに座る。

 マチさんはその横に立った。

 この室内には王子と私たち以外に人はいない。人払いされているらしい。

 王子の念獣は彼女の横にいる。特に動く気配は見られない。

 

「戦う占い師さんの噂は知っているわ。まずはその力を見せなさい」

 

 私は黙って立ち上がった。

 

「王子の……右手を見せていただけますか」

 

「手相? いいわよ、こちらに来ることを許すわ」

 

 私はまだ『女教皇』を使用していない。

 王子は絶をして私を待つ。万が一の場合に備えた迎撃(カウンター)の準備。

 彼女に近付いて、右手を取る。特に意味はない。危害を加えるつもりもない。

 念獣も特に反応は示さなかった。

 条件を満たしたものを意のままに操る念獣、一体どんな条件だろう? 警戒はしておかないと。

 私はゆっくりと元の椅子に戻り、そして口を開いた。

 

「王子はどこかお怪我をされています。それ以上に、お心が傷付いていらっしゃる。怪我の原因は王位継承戦。恐らくは王子の納得のいかない状況となったのでしょう、心中お察し申し上げます」

 

 カミーラ王子の綺麗に整えられた眉がピクリと動く。

 私はタロットをテーブルの上に広げた、ただし絵柄を上にを向けて。

 それらしい、意味のない動作を随所に織り込む。時間稼ぎと(ブラフ)を兼ねて。

 わざと時間をかけて、タロットの中から魔術師のカードを手元に引き寄せた。

 

「怪我の原因は……ベンジャミン王子。それ以上の詳しいことはわかりかねますが、ベンジャミン王子が関わっている」

 

「もういいわ」

 

 王子の表情から、感情は読み取れない。

 もういいという言葉はいい意味なのか、それとも悪い意味なのか。

 

「それなりに当たるようね。じゃあ改めて依頼するわ。私の現状とこれからを占いなさい」

 

「……喜んで」

 

 タロットを一旦全て順番通りに並べ、今度は伏せてシャッフルする、丁寧に。

 

「私がこのまま引いてもよいのですが、王子ご自身でカードを選ばれた方がより的中率は上がります。どちらになさいますか」

 

「私を立たせるのね、いい度胸だわ。引いてあげるから貴方はそこに座ってなさい」

 

 三メートルほど離れた位置に座っている王子からは、座ったままカードを引くことはできない。

 立ち上がって近付いてきた王子にカードを選んでいただく。それは無言で私の目の前に置かれた。

 彼女が自分の椅子に戻るのを待って、カードを開く。

 

「まず現状……カードは『吊された男』の正位置です。テーマは認識。王子は誤った己の認識を改めるお心をお持ちです。修正し、未来を理想に近づけることができます。ただし現在は自由のきかない状態にある。忍耐のしどころです」

 

「忍耐、私の一番嫌いな言葉ね」

 

「けれどカミーラ様は聡明なお方。過ちは二度と起こらない」

 

 私は言葉を紡ぎながら、テーブルの下で舞い踊る二十二の使徒(ダンシング メジャー アルカナ)を発動し、女教皇のカードを引く。

 これで準備は整った。

 

「もう一度、カミーラ様の右手を拝見させていただけますか」

 

 王子は無言で右手をテーブルの上に投げ出す。

 今度は絶にすることもなかった、それなりに信頼してもらえたらしい。

 再び王子に近付いて、右手を取る。手入れのされた、美しい手だ。

 

「カミーラ様は国王になることをお望みですね」

 

「それ以外ありえないでしょう」

 

 カミーラ王子は心の底からそれが当然だと思っている。疑う余地もない。

 その欲求を掬い取り、なおかつこちらの要望に沿った結論を引き出させるのが目標。

 具体的には、フウゲツ王子の安全とお宝の在り処。

 

「現在の国王……御父上を敬愛していらっしゃいますか?」

 

「私に唯一命令できる存在よ、敬愛していないわけがない」

 

 嘘は付いていない。父親を敬い尊いものだと考えている。それは事実。

 

「ではその他に……カミーラ様が尊敬できる方はいらっしゃいますか?」

 

「いるわけがないでしょう。御父様が唯一絶対。私と御父様以外はゴミのようなもの」

 

 ここでカミーラ王子は嘘を吐いた。

 王子の脳裏にはもう一人の人物の映像が浮かんでいる。

 私はこの人物を知っている。……少々意外だったが。いや、納得というべきか。

 この二人に接触があったこと自体が予想外。

 今は下手につつかない方がいい。藪から蛇が出るかもしれない。

 

「……王子、私のタロットは今後一か月を占うものです。よって、王位継承戦の結末を占うことは()()できない。結論が出るのは、さらにその先です」

 

「一か月以内には終わらないということね、うんざりするわ」

 

「もう少し、忍耐の時間が続きます。王子御自身で動かれる(タイミング)はまだ先にある。王子は穏やかに、ゆったりと、他の王子たちが争う様をご見物いただくのがよろしいかと」

 

「あなたたちは休戦協定を結んだんでしょ。そうそう動きがあるとは思えないんだけど」

 

「それでも王子全員の半数にも満ちません。それに、休戦協定が本当に守られるかどうかも怪しいものです」

 

 カミーラ王子の脳裏に、チョウライ・ツベッパ・ハルケンブルグ各王子のことが思い浮かぶ。

 それ以下の王子は歯牙にもかけていないということだろう。

 そのうちあからさまに敵視しているのは同じ母から産まれたはずのツベッパ王子とハルケンブルグ王子。

 だからこそ、思う所があるのだろうか。

 王子たちのこれまでの生育状況を、私は知る由もない。

 今ここで二人の名前を出せば女教皇の能力で知ることもできるだろうけれど、それに何か意味があるとも思えない。

 

「いつまで手を握っているつもり? そっちの趣味でもあるのかしら」

 

「これは失礼いたしました」

 

 あわてて手を離し、自分の椅子へと戻る。

 眼前に広げられたタロットを集め順に並べ、箱へとしまい込んだ。

 

「他に何か、お尋ねになられたいことなどはありますか? 私の能力の限度はありますが出来得る限りお答えします」

 

「報酬は、本当に五千万だけでいいの?」

 

 おや。てっきり王位継承戦に関わることを尋ねられるとばかり思っていたのだが。

 

「はい。あとは全てが終わったあかつきに、国王になられた王子のご紹介で占い師としての成功が約束されれば、それで」

 

「ふぅん……欲がないのね」

 

 いや、我ながらめっちゃ欲まみれやん。突っ込まないけど。

 

「それと、カミーラ様が国王になられた際には、フウゲツ王子とカチョウ王子の恩赦をいただければ幸いでございます」

 

「考えておくわ。今後私が呼びつけたら何を差し置いてもここに来なさい。それが条件よ」

 

「それは構いませんが、私の占いは一か月以内に再度占うと的中率が格段に下がりますが……」

 

「問題ないわ。貴方、それとそこの弟子もそれなりの使い手でしょう? 本当は私が直接雇いたいのだけど、すでに他の王子に雇われているから周囲がうるさいのよね。実質は私の配下として動きなさい、ママとカラムには話を通しておくわ」

 

「……かしこまりました、全てはカミーラ様の為に」

 

 そして、私たちは部屋を辞する。

 帰りは来た時と違ってのんびりと歩いて。

 

「お宝の情報は得られなかったね」

 

「それは今後に期待、ですね。面白い情報は得られたので、これを使ってカミーラ王子を揺さぶってみようかと思います。うまくいくかはわかりませんが」

 

 帰ったらカラムとも話をして、それから警備につこう。

 ゲレゲレをモフっとしてからリョウジとバチャエムをビシバシしごこうかね。

 緊張しすぎですごいストレスたまった。発散。

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