二十二の使徒   作:海砂

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第七十三話

 リョウジもバチャエムも、結局明け方近くまで使い物にならなかった。

 ハンゾー、どれだけ過酷な修行を課したのだろう。

 

「聞かないでください、思い出したくありません」

 

「冗談ではなくあの世が垣間見えました。ニンジャの修行とはあのように熾烈なものなのでしょうか」

 

 ニンジャの修行とか知らんがな。こちとらJK占い師ですがな。

 

 

 警備を終えて応接室に戻ってから、私は日課の朝ごはん作りに精を出す。

 従事者が減ってしまったので出来ることからね、やらないとね。

 ゲレゲレ用の豚ローストを焼きつつ、王子の朝ごはんを作る。

 従事者さんに手伝ってもらって、リクエストがあったインスタントラーメン王子専用である。

 叉焼も入れる。野菜炒めもたっぷりのせる。

 でもインスタントラーメン。王子の食事なのに。

 朝からラーメン食べて胸焼けしないかしら、大丈夫かしら。

 

 杞憂でした。王子はニンニクアブラマシマシをペロリと綺麗にスープまで平らげた。

 

「とても美味しかったです! また作ってください!」

 

 王子、細いのに意外と大食漢。

 毎晩念能力使ってるから消耗が激しいのかしら。

 もう少しカロリー重視した食事に変更した方がいいかもしれない。

 ゲレゲレにもお肉食べさせて、私らの分はトーストだけ。

 食事を終えたらリョウジとバチャエムの二人はとっとと寝かせる。

 ハンゾー何やったのか後で聞いてみよう。

 

 今は、火曜日の朝。

 

 カミーラ王子を占う前に、『愚者』で重要人物の居場所を調べていた。

 晩餐会の時点では()()生きていたサレサレ王子は、月曜の時点で消えていた。

 国王に動きはなかった。『女教皇』を使用していなければ今調べることも出来たのだが、それは仕方ない。

 『愚者』がない。とても怖い。私はいつの間にか『愚者』の能力に依存していた。

 誰がどう動くか予測がつかない。怖い。

 怖がらない。閉じこもっていればひとまずは安全。大きな揺れには気を付けて。

 ベンジャミン王子とカミーラ王子が直接動くことはまずないと言っていいだろう。

 チョウライ王子はクラピカの方に気が向いている。

 ツェリードニヒ王子……そろそろ念能力獲得してるだろうな、どんな能力なんだろう。

 出来る限り敵対せずに逃げ回りたい、王位継承戦の終盤まで。

 ツベッパ王子もクラピカを気にかけていた気がする。

 タイソン王子は……引き込めるか? まだわからない。連絡はない。

 タイミングよく電話が鳴った。相手は、1006号室。

 

「1011号室警護エイラです」

 

「1006号室ハンター協会員イズナビだ。例の件、王子から許可が出た。ただし条件がある」

 

「伺います」

 

「カチョウ王子とフウゲツ王子、二人でタイソン王子のもとを訪れること。無論警護はつけて構わない。以上だ」

 

 それは、タイソン王子ご自身のご希望なのかな? かな?

 

「その通りだ。それを条件に、お二人との休戦協定を結ぶとおっしゃっている」

 

 タイソン王子が直接王子たちに話したい何かがある。そういうことよね。

 

「カチョウ王子側と連絡を取り、お互いが納得次第そちらの部屋に向かわせていただきます。時刻はいつでも構いませんか?」

 

「構わない。来ないまま午後三時を過ぎた場合は一度こちらから電話をかける。その時に状況を説明してくれ」

 

「わかりました」

 

 電話を切る。タイソン王子は釣れたかな?

 直接話したいこと、何だろう。

 電話の元を離れようとすると再び電話が鳴った。

 1010号室からの朝の定時連絡だ、ちょうどよかった。

 タイソン王子の件を伝える。問題ないとの返事を得た。

 今から準備をして十分後に王子居住区上層と下層を結ぶ階段の前で待ち合わせ。

 あちらの警護はセンリツとキーニ、こちらの警護はマチさんと私。

 現在警護中のロデノイルとカラムにはその旨説明して、部屋に残ってもらう。

 

 私たちは部屋を出た。

 以前と同じく、前を私、後ろをマチさんが守る。二人とも円をした状態で。

 見えるより先に円に触れる。

 階段のところにカチョウ王子と、センリツとキーニが待っていた。

 

「待たせてごめんね、カーちん」

 

「別に待ってないわ」

 

 そして私の円に触れる、さらに大きな円の気配。私たちのいずれのものでもない。

 私は王子の前に立ち、その円の発信源の方を向く。センリツとキーニも同様にカチョウ王子の前に立ちはだかった。

 現れたのは、銃を手にした一人の男。見覚えはない。

 左耳のイヤホン、第一王子私設兵か?

 銃を向けられる。ターゲットは王子ではない。まず、私!

 避けるわけにはいかない、王子に当たるかもしれない。

 左手にカードを具現化。一枚を引く。カードを見る余裕はない。

 恐らくは大多数の何の意味もないカード。

 銃口を見る。狙いは額。銃自体はさほど大きなものではない。

 カードと己を強化する。カードで脳を守る。

 銃が放たれてカードに当たる。カードで防ぐことは出来なかったが勢いを殺した。

 カードを突き破った銃弾が額に刺さる。堅が守る。弾いた。

 私が守っている隙にマチさんが行動を開始していた。

 敵の背後を取る。放たれた糸が敵の首を狙う。躱す。

 糸が弧を描いて敵の頭を仕留めようとする。

 同時にキーニから念弾が放たれて敵の腹部に当たる。ダメージは少ない。

 王子は二人とも動かない、それでいい。センリツが二人同時に気にかけてくれている。

 私は改めてカードを引く。『月』のカード。右手のオーラがナイフに変化する。

 ナイフを振りかぶって敵に襲い掛かる。その敵の足元には隠で隠されたマチさんの糸の束。

 つまづく。転ぶ。マウントを取って首にナイフを当てる。

 

「チェックメイト。銃から手を離しなさい」

 

 男は答えない。男は銃から手を離す。男の腕が上がる。

 男の首を掻き切る。しかしそれより先に男の腕からキーニの物とは比べ物にならない大きさの念弾が放たれてフウゲツ王子を襲う!

 

 

 フウゲツ王子を、風船のようなものが包み込んでいた。

 その風船の先には、星型のステッキを持った、黒いロップイヤーラビットのような生き物。

 

 

絶対守護(マモリタイモノ)

 

 

 衝撃を全て吸収し、風船は破裂する。みんなは無事……

 

 

 

 

 カチョウ王子が、倒れた。

 

「王子!」

 

 センリツが王子を抱き支える。息はあるようだ。

 私も急いで王子に駆け寄る。フウゲツ王子に異常は見られない。

 カチョウ王子の容体を見る。怪我はない。けれどオーラが微弱だ、まずい。

 右手のナイフを()()()()()。私の『月』は生と死の能力を併せ持つ。

 ナイフのオーラをカチョウ王子の心臓に突き立てる。

 センリツとキーニがびっくりしてるけど構うもんか。

『月』を通じて私のオーラを王子に注ぎ込む!

 

 やがてカチョウ王子のオーラが安定し、目を覚ました。

 私は一安心して『月』と他のカードを消す。

 パタパタと宙に浮いている黒いロップイヤーラビットを見上げた。君がカチョウ王子の念獣なんだね。

 そしてその能力は、守りたいものを、守る。すなわち、フウゲツ王子。

 その代償はオーラ。己の生命力と引き換えに、フウゲツ王子を守る力。

 

「エイラさん、感謝します……!」

 

 私の能力がちょっぴり二人にばれてしまったけれど問題はない。二人は味方だと思う。

 

「どう思う?」

 

 マチさんが私に話しかけてきた。

 

「電話でしょうね。私たちがここに来ることは盗聴でばれていた。第一王子私設兵を疑ってはいますが確信は持てません」

 

「だね。まあ、守れたんだから問題はない。早いとこ用事を済ませて部屋に戻った方がいい」

 

「そうですね……カチョウ王子、立てますか?」

 

 立つこと、歩くことには問題がないようなので、私たちは改めてタイソン王子の部屋へと向かった。

 男の遺体は、そのままにして。

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