二十二の使徒   作:海砂

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第七十四話

「ようこそ! 私の兄弟たち!」

 

 宗教か? 宗教か。

 タイソン王子の部屋に入った途端にこのセリフと芝居がかった仕草でお出迎えされた。

 王子二人及びイズナビとジュリアーノは慣れた感じだし、キーニとセンリツは引いている。

 あっマチさんも引いてる。レアなもん見た。

 

 自分では気づいてなかったんだけど、どうやら私の額に血がにじんでいたらしい。

 ジュリアーノが自分のハンカチを貸してくれた。

 有名なブランドの黒を基調としたメンズ向けハンカチをさりげなく出して手渡してくれる。

 惚れてまうやーん。

 何で私がそのブランドを知っているかというと、ウリやってた頃にお客さんにプレゼントとしてばらまいてたからです。てへ。

 額の血を拭う。かすり傷。

 ほんの少しだけ血が付いたのでクリーニングして返すと言ったら「いいっすよ、それくらい」と笑っていた。惚れてまうやーん!

 

 

「あなたたち、不安なのね? 大丈夫! 愛は世界を救います!」

 

 タイソン王子は引き続き演劇かと言うくらいの仰々しい動作で愛を語っている。

 ……私、さっきカチョウ王子にオーラめっちゃ使って相当キツいんですけど、もう帰ったらダメカシラ。

 

「タイソン王子、あの、私たちとの休戦協定についてですが……」

 

「もちろんわかっています。兄弟だけでなく人類は皆愛し合わなければならない! それなのに王位継承戦などといって争っているヒマは私たちにはありません!」

 

「じゃあ」

 

「あなたたちには、これを」

 

 そう言って懐から取り出された経典キター!

 カチョウ王子とフウゲツ王子にそれぞれ一冊ずつ。私たちにはないのか、残念。

 

「時間のある時にでも読んで。そして、あなたたちもタイソン教徒となり一段上のステージに行くのです! 愛が全てを満たす!」

 

 くるくると一人で踊っているタイソン王子の背後の念獣から目玉ジャクシが二匹、王子たちの肩にそれぞれ取り憑いた。

 禁忌が何なのか、気になるな。聞いてみよう。

 

「タイソン王子、ひとつよろしいですか?」

 

「なぁに?」

 

「私もタイソン教に興味がありまして……タイソン教に禁忌事項などはあるのでしょうか?」

 

 それがイコール念獣の禁忌とは言えないかもしれないけど、同一である可能性はそれなりに高い。と、思う。

 

「禁忌事項はただ一つだけ、意図的に他者を傷付けることです。愛を育むタイソン教徒たるもの、その真逆とも言える傷付けるなんてことがあってはならないもの」

 

 ……イズナビとジュリアーノは大変だな。王子を守るために厳しい罰が下される可能性がある。

 カチョウ王子とフウゲツ王子に関しては大丈夫だろう。

 お二人の性格上もだし、念獣の能力的にも他者を傷付けるようなものじゃない。

 

「……よくわかりました、ありがとうございます」

 

「興味があるならあなたにも経典を差し上げましょうか?」

 

「いえ、少し考えさせていただきます、お気遣いありがとうございます」

 

 はよ帰りたい。

 

 

 無事に休戦協定を結び、私たちは各々の部屋に戻る。

 その途中。階段の下にあったはずの遺体は跡形もなく消えていた。絨毯のシミでさえも。

 まるで最初から何も無かったかのようだ。

 国王軍が来た形跡はない。証拠隠滅。

 やはりそれなりの強大な力が働いている。

 ベンジャミン王子か? 確証はない。決めつけは良くない。

 

 カチョウ王子たちに別れを告げ、自室へと戻った。

 ……そういや、ロップはフウゲツ王子についてこなかったな。

 カチョウ王子の念獣はついてきていたのに。

 条件がよくわからない。ビビリだから部屋から出ない? まさかね。

 

 王子とマチさんは居間へ入り、私は控室へ行く。

 少し睡眠をとろう。色々ありすぎて、疲れた。

 

 

 睡眠を邪魔されることもなく、夕方に目を覚ました。

 完全に疲労は取れてないけれど仕方がない。

 夕食の準備のお手伝いをしてから警備へと入る。

 リョウジとバチャエムも睡眠充分。さーて、鍛えようかねー。

 とはいえ私自身もそれほど強いわけでもない。

 結局水見式。水見式万能。基礎大事。

 オーラ尽き果てるまで練を続けてもらいましょうかね。

 

 

 二人には水見式を、王子には瞑想を続けていただいて、私は地図を取り出す。

 『女教皇』を使ってから二十四時間以上が経過している。

 『愚者』で一人ずつ、居場所確認のお時間だ。

 旅団は変わらずばらけている。フランクリンさんたちが第五層、フェイタンさんたちが第四層、団長さんたちが第三層。

 ビヨンド拘束室にはビヨンドの他、ボトバイとサッチョウ、サイユウ。

 監視が少し入れ替わってるな。

 そのそば、政治特区にミザイストムとクックル、ピヨン。

 医科学特区にはチードル、ゲル、レオリオ。

 第三層の少し離れた場所にギンタとカンザイ。

 王と各王子たちはそれぞれの自室に居る。

 クラピカとサカタも1014号室。

 ヒソカとカルトは……ヒソカが政治特区から離れて単独行動している!

 慌てて団長さんたちにメールを送った。

 ヒソカの単独行動はチャンスとも言える。今のうちに退治してくださいお願いします。

 

 ちなみにマラヤーム王子のお部屋(空間転移している方)の場所はわからない。

 選挙の時にビスケを見ているので『愚者』を使うことは出来るはずなのだが、少なくともこの地図の中にはどこにもいない。

 すなわち、船のある空間のどこかに存在するわけではない。

 全くの異空間なのか、それとも実存するどこか別の場所なのか。

 そういやベレレインテはこっち側に居るんだよな?

 講習が行われていない時はどこにいるんだろう。

 探しに行って接触するのもアリかもな。外出する機会が訪れればだけど。

 

「さてと」

 

 私は一通り考えを巡らせると、改めて地図に目を落とす。

 他に何か調べておくことはないだろうか。

 国王の居場所を確認する。いつもと同じ場所に居る。

 モモゼ王子と同じ場所にサレサレ王子も眠っているんだろうか。

 カミーラ王子の記憶を読むためとはいえ、丸一日調べることが出来なかったのは残念。

 とはいえカミーラ王子からも重要な記憶を読むことは出来た。

 彼女が尊敬する二人の人物。国王と、彼。

 彼とカミーラ王子の関係はまだ不明。再び接触できる機会があれば探ってみよう。

 

 もう一度地図を確認する。団長さんたちが動き出した。ヒソカの居場所へと向かって。

 あとの二組(実行部隊(トッコー)とフランクリンさんたち)はまだ動いていない。

 下層の情報を仕入れるためにも各一家上層部のメンツの顔を見たいな、無理かな。

 

 

 ……揺れていることに気付いた。

 航海している船自体の揺れじゃない。それよりも大きく、ただし以前あったような揺れほどの大きさじゃない。

 小刻みに、何度も。大きく、小さく。

 どこかで何かが起こっている。それを知るすべは私にない。

 もう一度地図を見る。団長さんたちはまだヒソカと接触していない。

 フランクリンさんたち三人がわずかに動いた。震源は第五層?

 抗争だろうか。それとも繭が孵化したか。

 私には知るすべは、ない。無視。

 大きな揺れにだけは気を付けて、引き続き修業をしよう。

 私にはどうしようもない。

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