二十二の使徒   作:海砂

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第七十八話

 応接室でイラルディアさんと話をしていると、シャルナークさんが厨房から出てきた。

 バナナをもぐもぐしながら。

 

「さすが第一層だよね。フルーツなんて贅沢品、第五層ではほとんど見かけなかったよ」

 

 シャルナークさんはバナナを全部食べ終えると皮を器用にゴミ箱へと放り投げた。

 

「ここの食べ物、何でも美味しいんですよね。料理のし甲斐があります」

 

 イラルディアさんは厨房での自分の仕事へと戻っていって、今応接室にいるのは私とシャルナークさんの二人だけだ。

 

「へえ、エイラも料理とかするんだ」

 

「簡単なものしか作れませんけどね」

 

 母親の代わりに作っていた料理と、ここで習った料理。

 簡単なものばかりだけどそれなりにおいしく作れてるとは思う。多分。

 ルウを使ったカレーやシチュー。肉じゃがも似た手順で作れる。

 パスタ。ソースから作れるのはナポリタンとミートソースだけ。

 麻婆豆腐とかはモトがあれば作れる。この世界にもレトルトのやつがある。

 ステーキに野菜炒め、これはもうお手軽すぎて料理とも呼べないな。

 アレンジしてポークチョップにピカタ。ピカタだいすき。鶏でも豚でも美味しい。

 

 

 シャルナークさんと料理について他愛もない話をしていると、私のスマホにメールが届いた。

 差出人は、団長さん。

 

『第三層でヒソカと接触した。「まだその時じゃない」と言い残して、俺たちの前から姿を消した。再度ヒソカの居場所特定を頼む』

 

 ……接触した、けれど戦闘にはならなかった?

 姿を消したというのも気になる。団長さんたちから逃げおおせたのか、どうやって。

 今すぐ『愚者』を発動したいところだが、今日はもうすでに『隠者』を使用してしまっている。

 その旨彼に返信をして、明日の昼まで待ってもらうことになった。

 

「ヒソカが行方不明?」

 

「ええ。団長さんたちが見失ったそうです」

 

「……協力者がいるな」

 

 シャルナークさんが、ぼそりとつぶやいた。

 

「協力者?」

 

「うん、それが誰かまではわからないけど、念能力者。瞬間移動系能力の持ち主がヒソカに協力しているんじゃないかな。それ以外で団長たちが三人がかりでヒソカを見失うなんてありえない」

 

 確かに。戦闘行為もなくヒソカ一人で全員を撒くのは至難の業だろう。

 

「いるとしたら、やっぱりマフィア関連でしょうか」

 

「可能性としてはそこが一番高いんじゃないかな……あとは、意思疎通のできる蟻、それに上層階の王族とその部下」

 

 あとは、イルミとカルト。

 ……まあ、あの二人に瞬間移動能力まであるとは思えないけれども。ここは除外かな。

 

「旅団の中に裏切り者がいるという可能性は?」

 

「ゼロじゃないとは思うけど。あ、イルミとカルトを除いてもね」

 

 初期メンバーがここで裏切る意味はないと思うので、あり得るとすればシズクさんかボノレノフさん……。

 

「そして少なくとも今回に限って言えばシズクとボノレノフは裏切り行為をしていない。団長がそれを見逃すはずがないから。あとのメンバーに関しては、僕の知ってる限りでは瞬間移動能力者はいないかな。瞬間移動はたぶん放出系か特質系。団長はそんな能力を持っているかもしれないけどヒソカを見逃す理由がない。ウチで放出系はフランクリンだけど、僕の知っている彼の能力に加えて瞬間移動の能力まで持っているとは思えない。ヒソカに関して旅団内に裏切り者がいるとすれば、エイラ、君だ」

 

 自分の顔が引きつったのを感じた。それを見てシャルナークさんが笑う。

 

「いやいや、エイラが裏切ってると思ってたらこんなにペラペラしゃべらないって。つまり、僕の考えうる限り旅団員の裏切りの可能性はゼロだね」

 

 あーびびった、ここで無駄な仲間割れは勘弁してほしいもんね。

 私は旅団を裏切らない、裏切れない。旅団は私の友達で仲間で家族。

 イルミとカルトに関してはまた別個に考えよう。

 カルトが今どうしているのかも気になる。

 ヒソカと離れて単独行動なのか、それともヒソカと共にいるのか。

 すべては明日の『愚者』の結果次第だ。

 

 居間と応接室をつなぐ扉が開いて、中からロデノイルが姿を現した。トイレかな?

 さすがに警護兵が王子の使用する居間の横のトイレは使えないものね。

 私たちは警護兵控室に設置されているトイレを使用している、ゲレゲレも。

 

「私は第一王子の命により、別の部屋で警護をしていたリハンという者と交代します。フウゲツ王子の許可はすでに取ってありますので」

 

 リハン? 第一王子の軍隊にそんな人いたっけ……? 顔見たらわかるかな。

 ロデノイルは少なくとも上からの命令がない限り私たちに関しては静観の構えだったけれど、そのリハンとかいう人も同様だとは限らない。

 一応警戒しておかないとな。多分そいつも能力者だろうし。

 

「わかりました、短い間でしたがお世話になりました」

 

「いえ、こちらこそ」

 

 ロデノイルがシャルナークさんの方をちらりと見てそっちにも頭を下げる。

 私たちは特に隠していないので旅団メンバー組(ゲレゲレとハンゾー含む)が念能力者であるということは筒抜け。

 リョウジとバチャエムに関しても以下同文。

 厨房の方にも挨拶に行っているのでイラルディアさんの変化にも気づくだろう。

 1014号室側の情報は先に上にいってるだろうから、ここは気にしなくてもいい。

 

 やがてインターホンが鳴って、二人が入れ替わった。

 リハン……私設兵の中にいた気がする。それ以外は覚えてない。

 

「新たに1011号室の警護に加わるリハンだ。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします。私はエイラでこちらはシャルナークさん。非正規でのフウゲツ王子の警護兵です。ほかにも非正規のメンバーがいますので後で紹介しますね」

 

「結構だ、自分で全員と顔合わせをしておくとしよう。王子にもご挨拶をせねばな」

 

 そう言って王子のいる居間の方へと向かっていった。

 扉が完全に閉まったのを見計らって、シャルナークさんが声をかけてくる……小さな声で。

 

「第一王子の私設軍隊の面子はみんな手ごわそうだね」

 

「そうですね……いろんな意味で」

 

 そう、色々な意味で。

 一番厄介なのは、切り崩せる隙のない忠誠心だ。

 

 この王位継承戦、実際の戦闘能力よりもむしろ知能と頭の回転が重要。

 残念ながら私はそれを持ち合わせていないので、シャルナークさんには今後活躍してもらうことになるだろう。

 あ、そうだ。

 

「シャルナークさん、頼まれていたもの、さっき届いてましたよ」

 

「えっ、それを早く言ってよ」

 

 日用品に加えて発注しておいたものが、先ほど届いてそのまま入口の横に箱のまま置いてある。

 食品は温度管理が必要なので、いつも別便で届くようになっている。

 シャルナークさんは箱のガムテープをはがし、中から一つの箱を取り出した。

 『外部とも通信のできるノートパソコン』

 それが、彼が必要としていたものだった。

 お金払えばある程度何でもお取り寄せできるの、便利。




主人公の原作知識はコミックスの36巻までです。
なのでリハンの名前は知らない、顔は知ってる。
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