二十二の使徒   作:海砂

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第七十九話

 シャルナークさんはお取り寄せしたパソコンのキーボードを一心不乱に叩いている。

 

「どうですか?」

 

「セキュリティはガチガチだね。まあスタンドアローンで動かす分には何の問題もないんだけど。なんとか内部のサーバーのどこかに潜り込もうとしてるんだけど。そもそもカキン自体がワールドワイドウェブと切り離された国独自のウェブを構築してるからね。多分この船においても同様に独自のローカルエリアネットワークを構築してるんだと思う」

 

 うん、何言ってんだこいつ。

 そもそも私の知識なんてスマホくらいしかないからな。

 パソコンなんてヨークシンでネカフェに泊まってた時にカードゲームをやったくらいしか触ったことがない。

 

「衛星電話を使って外のネットワークとは接続できるから。必要なデータがあれば取り込むこともできるよ」

 

 私が眉間にしわを寄せているのに気付いたシャルナークさんはアハハと笑う。

 

「まず重要なのは情報だからね。この船で今現在何が起きているのか、それを知るために監視カメラやいろんな通信のデータを見れないか挑戦してるところ。僕にはエイラみたいな占いの力はないから」

 

 なるほど、それなら理解できる。気がする。

 情報は大事。

 やってることは微塵も理解できないけど。

 シャルナークさん、すごい。

 

「外から簡単に手に入るものだったら乗客名簿とか、公式発表された王族や軍の履歴とかかな。それも正しいとは限らないけど、知っておくのとまったく知らないのでは計算がかなりずれてくる」

 

「情報収集に関して、何か協力が必要なら言ってください。私も手伝えることがあればお手伝いします」

 

 正直、何もできる気はしないのだけれど。

 

「うん、とりあえず、お昼ごはん食べたい」

 

 

 リクエストにお応えして、今日のお昼ご飯はホットケーキですよ。

 パンケーキみたいにふわふわのじゃなくて、どっしりしっかりがっつり系。のを三段重ね。

 そしてバターとメープルシロップと生のブルーベリーたっぷりのせ。きっとおいしい。

 

 シャルナークさんにそれを持っていった時、思い出したように彼はこう言った。

 

「そういえば……前に、カキンの王族から依頼を受けたことがあるんだよなぁ、旅団で」

 

 なんですと? 旅団とカキンにすでに繋がりがあった?

 それは知らなかった。原作にもそんな描写はなかったはず。

 

「王族の中の誰かまでは知らない、団長が請け負ってきたやつだったからね。旅団員全員集合でやる仕事って意外と少ないんだよ。だから覚えてたんだけど。結構前だよ、まだシズクやボノレノフも加入する前」

 

 とすると、多分年単位、五年とか十年とか前になるか。

 可能性としては国王……あるいは王子だとすると年齢的に考えて上からせいぜいハルケンブルグ王子あたりまで。

 もちろん、それ以外の王族や王妃の可能性もないわけじゃないけど……。

 今回このカキンの船の情報を持ってきたのは団長さんだった。

 国王か王子と今も繋がっている可能性は高い。

 

「僕は後方支援だったのもあって、ほんとに詳しいことは何も知らないんだ、ごめんね」

 

「いえ、別にシャルナークさんが謝ることじゃないですよ、気にしてないです」

 

 シャルナークさんは「ほんとかなぁ」なんて言いながらまたキーボードをかたかたと叩きだした。

 

 王族から旅団への依頼ともなれば、当然一ハンターでしかない私が簡単に調べられるような情報じゃないだろう。

 そもそも情報処理系とか、絶対ムリ。

 団長さん本人に聞いた方が早いか。

 教えてくれる気が全然しないけど。

 占ってみたら相手がどの人物か程度は分かるかなあ。

 自分のことを占うわけじゃないし、このくらいは当ててほしいところではある。

 

 

「うにゃあう」

 

 旅団への依頼相手を占いつつ引き続き修行中の二人を見ていると、王子の部屋からのそのそとゲレゲレがやってきて私にすり寄った。

 どしたの、おしっこならあっちだよ?

 

「ぐる……」

 

 私の周りをすりすりしながら三~四周してからキッチンへと向かう。

 そこにはいまだ修行を続けているリョウジとバチャエムの分のホットケーキがそのままになっていた。

 

「うわあおうおう」

 

 それらのホットケーキをじっと見つめ、そして私を見る。

 軽く手を伸ばすが、お皿に触れはしない。そして私を見る。

 テーブルにガリガリと爪を立てるちょっと待てやめろおい。そして私を見る。

 えっ何、ホットケーキ食べたいの?

 君、肉食獣じゃないの?

 

 促されるままにホットケーキを焼いてあげると大喜びでペロリと二十枚ほど平らげ、満足げに王子の部屋へと戻っていった。

 正直フライパンを握っていた右手がちょっとダルい。

 あの子、雑食だったのか。

 王子のところに持って行ったホットケーキ見て食べたくなったんだろうなあ。

 今度またいっぱい焼いてあげよう。ミートソースのせたりしたら喜ぶかな。

 

 

 さて、途中だった占いに戻ろうか。

 一回で全部占うのは無理なので、王子一人につき一回ずつ。

 依頼者かどうかをカードに尋ねてみた。

 

 絶対に無いだろうと出たのがベンジャミンとカミーラ、チョウライ。

 もしかして程度の可能性がありそうなのがツベッパとルズールス、サレサレ。

 可能性高めなのがツェリードニヒとハルケンブルグ、タイソンと出た。

 はてさて、この占いはどこまで信用できるのか……。

 てかタイソン王子、可能性高いんかい。なんか外れてる気がしてきたぞ。

 

 とはいえ、個人的にはツェリードニヒ王子一択だと感じている、勘だけど。

 旅団へ依頼したのはおそらく緋の眼の奪取。

 0巻もちゃんと読みましたよ、私は。

 クルタ族を潰すのであれば旅団全員集合も充分あり得る。

 でも、あまり決めつけるのも良くないかな。

 シーラさんがどの程度関わってくるのかも未確定だし。

 

 

 占いも終わり。私は余計なことを考えるのをやめた。

 筋肉だ、筋肉がすべてを解決する。

 

 私はプロテインジュースを片手に自重トレーニングに励むことにした。

 今日の交代は夕方。それまでひたすらに筋肉を苛め抜くのだ。

 心の師匠と仰ぐなかやまきんに君さんのような肉体を、私は手に入れる!

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