一時間弱の猶予。
私は改めてノブナガさんたちの居場所を『愚者』で特定する。
四層の、クジラで言うと歯の部分。
彼らはそこにいる。
私たちが0時に訪れることを伝えているので動かないでいてくれているのだろう。移動している気配はない。
マチさんは王子とマンガについて語り合っている。意外。
リョウジとバチャエムは引き続き修行を行っている。
ゲレゲレはロップと一緒にごろごろぐだぐだしている。かわいい。
私もそっとそばに寄って床でごろごろしてみた。
ロップがぴゃっと王子のベッドの陰へと逃げた。何でよ。一緒にごろごろしてよ。
この部屋にいる全員が私を白い目で見ている。何でよ。床でごろごろしたっていいじゃない。
この部屋の床は私の家の煎餅布団よりフカフカなんだから。
そんな感じで時間は過ぎて。
あっという間に日付が変わる時刻。
ゲレゲレがすっくと立って私におでこをごっつんこしてきた。
何、きみ、時計がわかるの? 時間の概念があるの? 相変わらず賢いね。
ほかのキャンプタイガーもこんなに賢いのかしら。
人の言葉がしゃべれないから魔獣の枠に入らないだけで、同等に知能があるのかもしれないね。
ま、私にはどうでもいい。獣だろうが魔獣だろうが、ゲレゲレは、ゲレゲレだ。
「王子、ロップ、お願いします」
地図を広げてロップに移動する場所を指し示す。すぐに
「今回は私だけがむこうに向かいます。ゲレゲレは一緒についてきてトンネルで途中待機。いいね?」
「がわぁう!」
「行ってらっしゃい、お気をつけて」
「あとでむこうの状況をあたしにも教えてよね」
わかってますよ。では、行ってきます。
扉を開いて、トンネルをくぐる。
せめて立つくらいの広さがあればいいのにね。
ハイハイで移動するのは結構キツい。膝と腰にくる。
ゲレゲレはいいよね。ほぼ普段の移動と変わらないんだから、チクショウ。
「がぅ……」
ゲレゲレが歩みを止めた。
途中待機という私の命令を忠実に守っているのだろう。
そう、決して私の八つ当たりのせいなどでは断じてないのだ、多分。
「いい子で待っててね」
そして私はさらに先へと進む。ゲレゲレの止まった位置はちょうど中間地点あたりだったようだ。
それまでとおおよそ同じ距離をハイハイして、やがて出口が見える。そして、扉を開けた。
向こう側に扉が出現するのは私が扉を開けた瞬間なんだろうか。
それともロップが
向こうから扉を開けることは可能なんだろうか。
一回試してみた方がいいかもしれないな。通路の中でだれかと遭遇する想定はしていない。
多分、無理だとは思うんだけど。
出口の扉を開いた。扉がガン、と何かにぶつかった。
「ってぇ!」
フィンクスさんが突如出現した扉をのぞき込んでいたらしい。
激突した顔面を手で抑えてうずくまっていた。
「ご、ごめんなさい……わざとじゃないんです」
「たりめーだ、わざとならブッ殺す」
出口から完全に外に出ても扉は消えない。ゲレゲレがいるからね。
周囲を見渡す。ここは……美術館?
天井が高くて広いホールのような部屋にいくつものガラスケースが並べられ、その中に絵画や彫刻、古代文明の発掘品などが展示してある。
ブラックホエール号、そんなのまであるんだね。
彼らとトンネルの出口はそのホールのちょうど中央あたり、休憩椅子の並べてある特に何もない空間に陣取っていた。
「ここもシュウ=ウ一家のシノギの一つらしい。展示してあるのは全部チョウライ王子の所蔵品なんだそうだ」
私の顔にクエスチョンマークが出ていたのか、ノブナガさんが丁寧に教えてくれた。
これもお宝の一種になるのかしら? 奪うのアリかしら?
「やめとけ。今はマフィアを敵に回す必要はないだろ。……先ではともかくな」
また顔に出てたのかな。ポーカーフェイスの練習しないと。
そのときだった。私のケータイが鳴ったのは。
発信者は……シャルナークさん? 上でパソコンをカタカタさせていた彼が何の用だろう。
「シャルナークさん、どうしました?」
『あ、ごめん、急ぎで連絡しときたくて。今さっき船の監視システムの一部に侵入できたんだけど、どうやら国王軍は今のところ蟻を五層に封じ込めることに成功してるみたい。そのかわり、四層と五層の間の警備がすさまじく厳重になってる。五層では一般人もかなり巻き添えになってるみたいだけど、四層より上は特に戒厳令を敷かれているようなこともないみたいだ』
「五層だけが緊急事態で、四層より上はいつも通り、ってことですかね?」
『大体そんな感じ。なんで、もし五層へ移動するようなことがあったら気を付けてね』
「了解です、ありがとうございます」
たった今入ったこの情報をこの場にいる全員で共有する。
「ワタシたちには関係ないね。もう五層に降りることないよ」
「とりあえずはヒンリギのところに行ってエイ=イのアジトの情報を伝えて、あとは向こうに任せる感じになるだろうな。場合によっちゃオレらもそこに行くことになるかもしれんがアジトは二層だからどっちにしろ関係がない」
シャルナークさんの情報、今のところ意味なし。
空気を読まない彼の電話がぶった切ってしまった、私たちと彼らの情報の交換といこう。
上の層の状況を半分くらい話したあたりでほぼ全員の顔に疑問符が張り付いていた。
「ちょと何言てるかわからないね」
「オレの脳が理解すんのを拒否してやがる……」
「王子の王位争奪戦、そこまでは理解した。んで念獣? それもわかった。王子が十四人いて念獣も十四匹いる。それ以外に王子は自前の念能力を持ってる可能性があって、他にハンター協会の会員が護衛にいて、そんでもって軍隊のやつらも念能力者の可能性が高い? どんだけ念能力者を集めたんだこの船は」
「別にそこまで深く考えなくとも、喧嘩売られたらぶちのめす、でいいんじゃないか? エイラ達が王子の護衛をしているのはオレたちとはまた別の話だ」
唯一疑問を持っていなさそうだったフランクリンさんが、一番物騒な解答を示した。
おとなしそうな人ほど怒らせると怖いって本当よね。
いや待てよ、冷静に考えよう。フランクリンさんがおとなしそうに見えるか? 答えは否だ。
なんだ、見た通りじゃないか。
ていうか旅団全員わりと見たまんまじゃないか。私もそうなのだろうか。
「……まあ、一層に来るのでなければ王子同士が殺し合いしてるってことだけ頭に入れておけばいいと思います。で、こちらはシュウ=ウ一家と行動しているんですか?」
「正確にはシュウ=ウとシャア=ア合同でエイ=イを追いかけてる感じだな。んでノブナガとヒンリギがエイ=イのアジトに発信機を仕掛けて、オレらはその具体的な位置……二層の下部中央らへんだが、そいつを確認してシュウ=ウのアジトに報告に行く最中だ」
「オレたちだけで殴り込んでもいいんだがな、なんかアイツらにはきっちりスジ通しときたくてよ。妙な縁だがオレはヒンリギのこと、嫌いじゃねえしな」
ノブナガさんの手が無意識にか刀へと触れる。……あれ、刀がない。
「ノブナガさん、刀、どうしたんですか?」
「…………」
あっ触れちゃいけないところに触れてしまったみたいだ。
「エイ=イのアジトから追ん出されたときついでに没収されたんだとよ」
「武士の魂そんな簡単に奪われてどうするね」
「うっせえ! ぜってー取り返す。」
私の記憶では(フランクリンさんを除く)この三人はシャ=ア一家と組んでモレナを探しに行ったはずなんだけど、いつの間にヒンリギの方と近付いたんだろう?
私が読めていない原作で何かあったんだろうか。ていうか原作の続きは描かれたんだろうか。
続き読みたい。この世界に来てしまった以上それは不可能、だったら自分の目で確かめる。
「つまり、シャア=ア一家のアジトで襲撃者を退治した後、ヒソカを探してたらヒンリギに声をかけられて三層のエイ=イ一家の仮アジトを見つけてから、ノブナガさんとヒンリギが相手の転移型の念能力にわざと乗っかって特攻して、発信機を仕掛けて追い出されて今に至る……って感じですか」
「大まかにはそうだな。戻ってきた二人が合流した後ヒンリギは自分のアジトに戻り、オレらは探知機でエイ=イ一家のアジトを探しに行こうとしてたんだが」
「そこでオレが蟻に襲撃された、というわけだ」
なるほど、アジトの場所を発見する前に私が彼らを誘導してフランクリンさんを迎えに行ってもらったのね、時系列把握。
「おし、じゃあ話も出そろったところで、行くとするか」
シュウ=ウ一家のアジトにですね、了解です。
あ、このトンネルの出口、どうしよう。
「美術館の係員に頼んで見張り番たてときゃ充分だろ。シュウ=ウのアジトはそう遠くねえ。何もなきゃ片道五分もありゃ辿り着く」
……ヒンリギの顔を目視する。ついでにシュウ=ウ一家のアジトの場所も地図にマーキングしておこう。
私自身はそれ以外に特に何かをするわけでもないのだけれど、ひとまずは彼らについていくことにした。