二十二の使徒   作:海砂

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第八十三話

 ヒンリギとシュウ=ウ一家の構成員の中でも武闘派数名も共に皆で美術館へと戻り、私はそこで彼らと別れた。

 時間にしたら一時間弱。長いような、短いような。

 どうやらこの美術館のメイン展示の一つ、ンガパッパ族のご神体の展示ケースの下が二層への隠し通路になっているらしい。知らんがな。

 彼らはその展示ケースを動かしてそこに現れた階段へと進んでゆき、私は一人で休憩用ロングチェアの横に残されたトンネルのふたを大きく開けて中へと入る。

 そしてトンネルをくぐって戻ると、途中でゲレゲレが大きなあくびをしているところに出くわした。

 

「ごめんね、お待たせゲレゲレ。さ、帰るよ」

 

 引き続きトンネルを四つん這いで進む。そろそろ慣れた。

 

「ねーゲレゲレ、今回結構長い間待たせたけど不審者が来たりはしなかった?」

 

「ぐわおう」

 

 律儀に返事はしてくれるけど、残念私に猫語、じゃなかった、キャンプタイガー語は分からない。

 特に強くアピールしてくることもないので、きっと何事もなかったのだろう。

 

 そうこうしているうちに出口へとたどり着いた。

 まずゲレゲレが出て、それから私も続いて出口から出て、そして出口が消える。

 中に入った人(人じゃなくても)が全員出た時点でドアを閉めなくても消えるのね。

 

「おかえりなさい」

 

「ずいぶん時間がかかったね。あいつらの情報は手に入れてきた?」

 

「はい。マフィアとの絡み、蟻の話……今からお話しします」

 

 王子はとっとと寝かせて、寝室のテーブル……はリョウジとバチャエムが修行中なので、私とマチさんは部屋の隅に移動した。

 

「説明する前に、ちょっと確認したいことがあるんですけど、いいですか?」

 

 返事を待たずに私は懐に入れていたブラックホエール号の見取り図を取り出した。

 それだけで理解してくれたのか、マチさんは何も言わなかった。

 確認したかったのは、ヒソカの居場所。

 昨日確認した時、彼は三層に居た。

 そしていま改めて確認する。……彼は、一層の下部にいた。

 カキンの貴族や各国VIPたちの居住区域、及びディナーショーが行える規模のレストランだのカジノだのが並んでいる地区。病院もここにある。

 その中の、カジノ。彼はそこにいた。似合うなオイ。トランプでイカサマしてそうだ。

 

 このことは……マチさんには、伝えない方がいい。自分たちで狩りに行くと言い出しかねない。

 

「終わった?」

 

「あ、はい、ひとまずは。えっと、下で仕入れてきた情報ですけど……」

 

 フランクリンさんがノブナガさんたちと合流できたこと、シュウ=ウ一家と彼らが一緒になってエイ=イ一家を潰しに行っていること、蟻は現状ではそれほど脅威でないこと、などなど。

 

「どうせどのマフィアも現場は若頭以下に任せて組長は一層にいるんだろ、煙とナントカは高いところが好きってね。王族も似たようなもんだけどさ。お偉いさん方はみんな高い所が好きみたいだ」

 

「そうですね、多分そうだと思います。……探しに行きます?」

 

「興味ないよ。お宝持ってるなら話は別だけど」

 

「それなりにあるとは思いますよ? 何をお宝と思うかは人それぞれですが」 

 

 私のその言葉で、マチさんは黙ってしまった。

 

 彼女にとってのお宝とは何だろう。

 私にとってのお宝は……幻影旅団。

 旅団にとってのお宝って何だろう。

 一つは金銭的価値。これは誰にでもわかりやすい基準。

 マフィアのボスや王族が持っているお宝は相応に金銭的価値の高いものが多いだろう。

 けれど団長さんがそれだけを求めているとは思えない。

 美術的価値、歴史的価値、それ以外にも、団長さんは本が好きだ。

 下手なお宝より博士論文とかの方が喜びそうな気がする。

 団員は基本的に団長さんの意向に沿ってお宝を奪う。

 その過程で戦うことに価値を見出す者もいるし、お宝を手に入れたという達成感を必要とする者もいる。

 私はどうだろう……金銭的な価値にはあまり頓着しないかな。

 お金なんて必要な分だけあればいい。飢えるほど無いのは困りものだけれど。

 私とゲレゲレが生きていければ十分。最悪でも野山で狩ればいい。

 美術もよくわからない。綺麗だなーとかくらいはあるけど、それが高価値なものとは限らない。

 青空や魚の鱗のキラキラや三日月や焼き立てのクロワッサン、あまり価値はなくても全部綺麗だ。

 歴史にも特に興味はない。特にこの世界の歴史は私にはよくわからない。

 前の世界の歴史にもそう詳しいわけじゃないけれど。本で読んだ程度。

 そう考えると団長さんが本を重要視する理由がわかるな。

 直接経験しなくても近いものを手に入れられる。

 知識。だけじゃ駄目なのかもしれないけど知識はとても素敵。

 

 そういえばシャルナークさんが、旅団総出でカキンの王族の依頼を受けたと言っていたな。

 あれはやっぱり緋の眼のことだったんだろうか。

 それ以外の可能性もないことはないけれど、やっぱり緋の眼の可能性が高い気はする。

 時期的にも、旅団が全員集合したという点でも。

 クルタ族は普通の人間より強い。その集団。

 それを殲滅するだけの武力。 

 原作でウボォーギンさんが「あいつら強かった」みたいなことを言っていた。

 おそらくそれが、クルタ族と戦った時の記憶。

 

……まてよ、お宝(=緋の眼)が目的ではない。

 なぜならばカキンの王族の依頼を受けているから。

 依頼の内容が緋の眼だということはあり得るけども。

 団長さんはなぜその依頼を受けた。金で旅団は動かない。

 団長さんは何に興味をひかれた(・・・・・・・)

 ツェリードニヒに興味をひかれることはないだろう。

 彼はその時点ではただの趣味の悪い一人の王族。

 緋の眼に興味を持ちこそすれ、わざわざ依頼を受けようとは思わないだろう。

 緋の眼に興味をひかれたならば、依頼を無視してクルタ族を狩りに行ったであろう。

……依頼主はツェリードニヒ王子ではない?

 

「……あたしは」

 

 ん?

 

「あたしは、仲間が宝だ。それ以外は二の次だ。ついカッとなったりイライラすることはあっても、一番大事なのは仲間だ」

 

 考え込んでいたマチさんが、一つの答えにたどり着いたらしい。

 

「私も、そうです。私にできる限りのことでしかないにせよ、私は旅団を守りたい」

 

 マチさんは私に向けてニッと笑い、今の言葉をほかのメンバーの耳には絶対に入れないよう厳重に口止めされた。

 別に知られてもいいと思うんだけどな。照れくさいのかな。

 そう思ったけれど確かにフィンクスさんあたりに知られるとからかわれそうだ、前言撤回。

 あなたが大事だなんて、その張本人に面と向かって言うセリフじゃないよね。

 ま、マチさんは別。マチさんにとっても私が別であったならいいな。

 

「がうう」

 

 ゲレゲレが足元にすり寄ってくる。

 そうだね、ゲレゲレも仲間だよ。守りたいし、たまには守られたい。

 一緒に生きていこうね。

 旅団とも、一緒に生きていこう。命尽きるその日まで。

 

 その時、無粋なガシャンという音が響いた。

 振り向くとテーブルの上にバチャエムが突っ伏している。オーラを使い果たしたらしい。

 倒れた鉢植えから土がこぼれていた。

 

「王子が就寝中なんだからもうちょっと静かに修行してよね」

 

 そばに寄って、倒れた鉢植えを元に戻す。

 こぼれた土は一旦ビニール袋にまとめて入れて、鉢のすみに戻してやった。

 鉢植えの植物は、私がトンネルの向こうに行く前は小さなものだったのだが今は鉢ミチミチ限界まで成長しきっている。

 オーラを植物に与えすぎて、自分のオーラが枯渇してしまったんだろうな。間抜け。

 間抜けだけど、これでまたきっとバチャエムのオーラ量が増える。

 使えば使うほど、オーラの総量は増える。もちろん個々の才によってその限界値はあるけれど。

 彼らはまだ修業を始めて数日。限界までにはまだまだ伸びしろがあるだろう。

 

「リョウジさんは、何か思いつきましたか?」

 

 声をかけられるまで、集中していたリョウジは私たちのことを意識していなかったらしい。

 バラの花弁の下、緑色のがくの部分をなめまわしていた。

 私たちに気づいて、慌てて変態仕草をやめたけれどもう手遅れ。

 具現化系って、大変。マチさんが白い目で見ている。お気の毒。

 

「今のところは、まだ……」

 

 それだけ言ってうつむいてしまった。哀れ。

 

「……引き続き色々考えてみてください。何か思いついたら私にもそっと教えてくださいね」

 

 リョウジ、ドンマイ。それは具現化系の皆が通る道なんだ、きっと。

……つまり、ゴレイヌさんはゴリラをなめまわしていたって……コト!?

……具現化系って、本当に、大変。 




今回のBGM:黒夢『feminism』
Penicillin『Penicillin Shock』
MALICE MIZER『merveilles』
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