二十二の使徒   作:海砂

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第八十五話

 ぷるるるる、と室内に電話が大きく鳴り響く。

 

 今唯一この応接室にいて一番近くにいるのは、私だ。

 

 電話は正直苦手なのだが私が出るしかないだろう。

 

 対面での会話に比べて電話って聞き取りづらくない? 私だけ?

 

 

「はい、1014号室警護、エイラです」

 

 

 返答をしてきたのは、このタイミングではちょっと予想していない人物だった。

 

 

「ハンター協会員バショウだ。現在はルズールス王子の警護を任されている」

 

 

 あまりにも関わることがないので、いっそこちらから連絡を取ろうかとも思っていたのだが、大幅に手間が省けた。

 

 けれど何故、今このタイミングで彼から電話が?

 

 

「ルズールス王子から……あるいはそれ以外からの要望で、アンタ、エイラさんとの面会を希望する。時刻・日付等はそちらに合わせられるが、招待という形でこちらに来てもらうことは可能だろうか?」

 

 

 ルズールス王子が私に面会を希望している? どうして私を名指しなのだろう。

 

 というか『それ以外』って何だ『それ以外』って。

 

 私が呼ばれる理由……占いくらいしか思い当たるふしはないけれど、ルズールス王子が占いを求めるとは思えない。

 

 彼は私の知る限り、見た目とは裏腹の現実主義者(リアリスト)だ。

 

 

「……明日の午前中、私ともう二人、別の警護を連れての訪問でもよろしければ可能です」

 

 

 今現在、1011号室にいる旅団メンバーは三人。全員で行かないと誰か一人が単独行動になってしまう。

 

 ヒソカも一層にいることだし、警戒はしておくに越したことはない。

 

 

「了解した。15分後にもう一度電話をするのでその時に具体的な訪問時間を教えてくれ」

 

 

 そうして電話は切れた。マチさんとシャルナークさんに相談しに行こう。

 

 勝手に決めてしまったけれど、私が行きたいと言えば二人は付き合ってくれるだろう。

 

 

 

 マチさんたち二人を応接室へと呼び出し、先ほどの電話のことを説明する。

 

 

「ルズールス王子……まだあまり正体がわかってない王子だね。うまくいけば色々と情報を手に入れることができるかもしれないな」

 

 

「あくまで私の勘ですが、危険はないと思います」

 

 

「シャア=ア一家のケツモチだったっけ?」

 

 

 そうだ、ルズールス王子はシャア=ア一家のケツモチをしていた。

 

 シャア=アのシマである五層は現在蟻のせいで混乱状態に陥っている。

 

 それが何か関係あるのか……あるいは、ないのか。ないだろうな、うん。

 

 

「お二人には明日の朝、一緒に1007号室に行っていただきたいんですけど、よろしいですか?」

 

 

「僕は構わないけど、時間によっては警備の時間と被っちゃうね。そこはどうするの?」

 

 

「ハンゾーさんにシフトの交代をお願いします。多分問題ないかと」

 

 

「あたしもそれで構わない。行くのはいいけど何をできるわけでもないしする気もない。単純に単独行動を防ぐためだ。それでいいのならね」

 

 

 オッケー。これで、あとはハンゾーにシフトの交渉をするだけだ。

 

 

 

「おう、別に構わねーぜ。ただ一つ、条件がある」

 

 

 おっと、ここで条件を付けられるとは思っていなかった。

 

 簡単にこなせる内容であればいいのだけれど。

 

 

「さっきのフレンチトーストがうまそうだったからレシピ教えてくれ」

 

 

 想像以上にちょろい条件だった!

 

 

「わかりました、あとで紙にまとめてお渡しします」

 

 

 これで明日の午前中のシフトは確定。シフト表書き直しておかなきゃ。

 

 

「ところでさ、その王子はアンタに何の用なんだ?」

 

 

 それは私が知りたい。

 

 

「さあ? 行ってみないことにはわかりませんし、正直想像もつきません。王子を伴うわけではないですし複数人での訪問も許可してもらえたので、危険はないとは思いますが……」

 

 

「まーな、一人だったら分かんねーけど、三人も行きゃ全員が操作される可能性は低いだろうしな」

 

 

 行って、操作されて戻ってきて、王子暗殺。

 

 無きにしも非ずだけど私たち三人で行けばその可能性は低い。単独行動禁止、重要。

 

 

「おそらく、王子は私に『予言』を求めているのだとは思うんですが」

 

 

「『予言』? ……ああ、そういやアンタ占い師だったな」 

 

 

 ああ、そうだった、というような顔をされた。

 

……ハンゾーは私について、恐らくは事前に知っていたわけではなくクラピカに聞かされていたんだろう。

 

 今のところ好意的ではあるが、100%信頼するのも危険だ。

 

 クラピカはおそらく私を要注意人物に認定している。

 

 それは旅団と、団長との関わりがあるから。

 

 さすがに私自身が旅団であると認識まではされていないだろうがその可能性もなくはない。

 

……とはいえ、ここにいる限りはある程度信じてもいいだろうと思う。

 

 彼の修行を経てリョウジとバチャエムは驚くほど伸びた。

 

 若干彼らのメンタルがやられていたような気もするがそれは許容範囲。

 

 

 問題が起こるのはクラピカと私が接触する場合。あるいは旅団とクラピカが。

 

 今のところ私とクラピカが直接対峙することはないだろう。旅団? 知らね。

 

 旅団メンバーでクラピカ(=鎖野郎)がこの船に乗っていることを知っているのは私だけ。

 

 一層にいて、しかも1014号室から動くことがないであろうクラピカと下層にいる他の旅団メンバーはよほどの偶然がない限り接触することはない。

 

 私はここにいるマチさんとシャルナークさんにだけ気を配っていればいい。

 

 唯一気にかかるのはカルトちゃんだけど、クラピカは果たして彼を旅団と認識しているのか。

 

 そういや原作でウボォーギンさんにクルタ族についてたずねる描写があったな。

 

 あれは裏を返せば、クルタ族を壊滅させた時のメンバーじゃなければ復讐の対象にはならない可能性があるということ。

 

 カルトちゃんとクラピカが組む(あるいはすでに組んでいる)可能性はあるかもしれない。

 

 場合によってはヒソカを通じて。

 

 

……まあ、今考えても仕方がない。ひとまずは明朝のルズールス王子訪問が無事に終わるかどうかだ。

 

 再びのバショウからの電話に出て、明朝9時に訪問する旨を伝える。

 

 あとはハンゾーに提供するレシピだ。

 

 レシピにするほど難しい内容でもないんだけれども。

 

 卵とお砂糖と牛乳を適当に混ぜてパンと一緒に袋に入れてブン回して焼くだけ。

 

 全部目分量だから、むしろレシピにしろと言われる方が困る。

 

 その後私は空き時間の間、睡眠時間を削って自分のフレンチトーストのレシピを作成していた。

 

 卵一個につきお砂糖は……大さじ1、牛乳は50ccってとこか。

 

 少々量が増減したところで味はあまり変わらないと思うんだけれどもね。

 

 漬け込み時間は長いほど正義! 腐らない程度にね!

 

 

 そうして何とかレシピを完成させて、少しだけ眠ることにした。

 

 私の警護の時間まで、二時間程度。ないよりましのお昼寝タイム。




BGM:
CANDY『LOVE EMOTION』
Pulowzillia『Pulowzillia』
ELF.I.REVUE『誕生花』


今回ちょっと行間あけて書いてみましたが、今までのとどちらが読みいやすいか、よろしければアンケートにご協力ください

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