黒く染った純白の彼女 作:灯利
地下で友達を見つけてから。
僕達はその場で随分長い時間を過ごした。
マザーと御影さんが古い記録を調べ、どの装置が何に繋がっているのかを一つずつ確認する。
シズクとアリスも手伝った。
僕は。
「触らない。」
「分かってる。」
「まだ触らないでください。」
「分かってるって。」
三回くらい注意された。
信用が無い。
仕方ない。
僕自身。
何度手を出しそうになったか分からないから。
目の前にいる。
生きている。
だったら一秒でも早く。
そう思う。
でも。
失敗したら。
取り返せない。
「ミスターマキ。」
マザーが記録から顔を上げた。
「お待たせしました。」
「出来る?」
「試す価値はあります。」
立ち上がる。
マザーが機械の一部を指した。
「壊れているのは、この制御部分です。生命維持そのものは別系統で動いています。」
「じゃあ、ここだけ戻せば。」
「恐らく。」
「恐らくなんだ。」
「何事も絶対ではありません。」
怖い。
でも。
マザーが見てる。
シズクも。
御影さんも。
一人じゃない。
「やる。」
機械へ手を置く。
目を閉じる。
さっきの小皿。
湯呑み。
消された文字。
壊れる前。
正常に動いていた時。
思い浮かべる。
胸元が熱くなる。
「っ……。」
「お兄ちゃん。」
背中にシズクの手。
「大丈夫?」
「うん。」
機械の中から。
カタ。
小さな音。
止まっていた針が動く。
灯りが一つ。
二つ。
増えていく。
「戻ってる。」
アリスの声。
でも。
まだ。
無理しない。
必要なところだけ。
「ミスターマキ、そこで止めて。」
マザー。
すぐに手を離す。
「……どう?」
御影さんが機械を確認する。
「制御系統、復旧しております。」
「じゃあ。」
「まだ。」
マザー。
「ここからは機械に任せます。」
「どのくらい?」
「身体をゆっくり通常の状態へ戻す必要があります。」
「一時間?」
「もっと。」
「……。」
「待てますね?」
「……はい。」
また。
待つ。
本当に。
今日は待ってばっかりだ。
…。
結局。
外へ出られたのは夜だった。
友達はすぐに目を覚まさなかった。
維持槽から出した後も、マザーが状態を確認しながら屋敷の客間へ運んだ。
僕はその横をずっとついて歩いた。
シズクも。
途中で。
「お兄ちゃん、少し寝たら?」
「平気。」
「顔死んでるよ。」
「死んでない。」
「じゃあ半分。」
「何それ。」
「寝て。」
「……。」
結局。
客間の隣で少しだけ横になった。
少し。
のつもりだった。
…。
「……マキ。」
声。
遠い。
「おい。」
「……。」
「マキ。」
「ん……。」
目を開ける。
知らない天井。
いや。
屋敷。
横。
シズク。
「起きた?」
「何時。」
「知らない。」
「シズク。」
「夜。」
雑。
「それより。」
シズクが隣の部屋を指す。
「起きたよ。」
一瞬。
意味が分からない。
次。
身体が勝手に起きた。
「本当に!?」
「うん。」
襖を開ける。
布団。
マザー。
御影さん。
アリス。
その真ん中。
身体を起こしている。
友達。
「……。」
顔。
少し痩せた。
でも。
目。
ちゃんと。
開いてる。
僕を見る。
しばらく。
ぼーっと。
「……マキ?」
「うん。」
声。
詰まる。
「僕。」
「……。」
友達が。
ゆっくり。
笑った。
「お前。」
「何。」
「全然でかくなってねえな。」
「最初にそれ!?」
泣きそうだったのに。
全部台無しになった。
アリスが吹き出す。
シズクも笑う。
マザーまで少し笑っている。
「何だよ。」
友達。
「本当のことだろ。」
「そっちはちょっと大きくなってるじゃん!」
「勝ったな。」
「何の勝負!?」
久しぶり。
なのに。
昔と同じ。
それだけで。
胸の奥が一気に熱くなった。
「……良かった。」
小さく。
言う。
友達は。
聞こえたのか。
聞こえなかったのか。
少しだけ。
目を細めた。
「遅えよ。」
「……ごめん。」
「でも。」
布団の上。
弱い手。
僕の頭へ。
ぽん。
「来たからいい。」
それだけで。
今度こそ。
涙が止まらなかった。