黒く染った純白の彼女 作:灯利
友達が目を覚ました翌日。
体調はまだ完全じゃないらしく、マザーからは絶対安静を言い渡されていた。
本人はものすごく不満そうだった。
「腹減った。」
「さっき食べたでしょ。」
「足りねえ。」
「マザーに怒られるよ。」
「お前、昔よりマザー怖がってね?」
「昔より説教長くなってる気がする。」
「それはお前が怒られることしてるからだろ。」
言い返せない。
隣でアリスが笑っている。
シズクは僕の横へ座りながら、友達をじっと見ていた。
「何。」
友達が聞く。
「別に。」
「気になるなら聞けよ。」
「じゃあ聞く。」
早い。
「地下で何があったか、どこまで覚えてる?」
部屋の空気が少し変わった。
友達は天井を見ながら考える。
「屋敷に入った。」
「うん。」
「黒服に見つかった。」
御影さんは今日はこの部屋にいない。
多分。
気を遣ったんだと思う。
「地下に連れてかれて、何回か検査された。」
「何の?」
「知らねえ。血取られたり、変な石触らされたり。」
シズクの顔が少し曇る。
「その後は?」
「途中から曖昧。」
「何か覚えてることない?」
僕が聞く。
「言葉とか。人とか。」
友達はしばらく黙った。
「あ。」
「何?」
「零番。」
身体が固まる。
「聞いた。」
「どこで。」
「大人達が話してた。」
ゆっくり思い出す。
「零番はまだ見つからないとか。」
「戻ればどうとか。」
「あと。」
友達がシズクを見る。
「姉妹の一人が探してるって。」
「……。」
シズクの手が止まる。
僕は横を見る。
「シズク?」
「……うん。」
友達が不思議そうに僕達を見る。
「何だ。知ってる話?」
「僕は今から知る。」
シズク。
黙る。
「お兄ちゃん。」
「うん。」
「外で話す?」
「ここじゃ駄目?」
「……。」
友達が手を振った。
「俺寝る。」
「寝ないでしょ。」
「寝る。空気重い。」
「ごめん。」
「いいって。」
アリスも。
「私お菓子取ってくる。」
「逃げた。」
「違うもん。」
逃げた。
二人が出ていく。
部屋には。
僕とシズク。
それから。
寝たふりしてる友達。
「絶対起きてるよね。」
「気にすんな。」
返事。
するなよ。
…。
結局。
庭へ出た。
池。
初めてシズクと会った場所。
隣。
少し。
間。
空いてる。
「話して。」
「うん。」
シズクは池を見る。
「私、お兄ちゃんに会う前から。」
「僕がいるってことは知ってた?」
「うん。」
そこは。
既存の言葉。
『ようやく見つけた。』
繋がる。
「名前も?」
「知らなかった。」
「顔は?」
「知らなかった。」
少し安心。
初めて会った時。
シズクは僕に名前を聞いた。
それが嘘だったら。
もっと嫌だった。
「じゃあ何を知ってたの。」
「シスターズの記録に。」
シズクがゆっくり話す。
「最初の個体。」
「男の子。」
「失敗例。」
「零番。」
僕。
「兄って書いてあった?」
「正確には。」
少し考える。
「私達の基礎になった個体。」
「それで兄?」
「私はそう思った。」
「シズクが?」
「うん。」
つまり。
研究上の言葉を。
シズクが。
自分の中で。
家族にした。
「ずっと探してたの?」
「うん。」
「何で。」
「家族が欲しかったから。」
すぐに返ってきた。
「私。」
シズクは自分の膝を抱える。
「昔は家族って、血が繋がってる人だと思ってた。」
両親。
一族。
力。
鎖。
「でも嫌だった。」
「……。」
「私を道具じゃなくて。」
「お館様でも。」
「神様でも。」
少し。
「普通にシズクって呼ぶ人が欲しかった。」
胸が痛い。
怒ってた筈なのに。
少しずつ。
違うものに変わる。
「それで。」
僕が言う。
「零番を見つけたら、お兄ちゃんにしようって?」
「……うん。」
「勝手だなぁ。」
「はい。」
珍しく素直。
「最初に僕を見た時、分かったの?」
「すぐには。」
「え。」
「赤い目は気になった。」
シズクが僕を見る。
「でも確信したのは、シルシをつけた時。」
「シルシ?」
「魔素の感じ。」
「じゃあ。」
最初。
名前を聞いた。
あの時は。
まだ。
探してた相手かもしれない。
そのくらい。
「それで僕を眠らせた後に。」
「うん。」
「ようやく見つけたって。」
シズクの目が少し泳ぐ。
「……聞いてた?」
「知らない。」
読者しか。
知らない。
僕は。
知らない。
「何でもない。」
シズク。
誤魔化した。
怪しい。
でも。
今は追わない。
「シズク。」
「何?」
「家族が欲しかったのは分かった。」
「うん。」
「でも。」
ちゃんと。
「だからって、僕のことを勝手に決めていいわけじゃない。」
「……うん。」
「孤児院に戻るなって言ったことも。」
「うん。」
「シルシも。」
「うん。」
「今度からは先に言って。」
「はい。」
「それと。」
少し。
恥ずかしい。
「妹なら。」
シズクが顔を上げる。
「……妹?」
しまった。
そこ。
拾う。
「いや、言葉の。」
「今。」
「シズク。」
「妹って言った。」
顔。
一気に明るくなる。
「あは。」
「そこだけ聞くな!」
「お兄ちゃん!」
飛びつく。
「うわっ!」
「妹!」
「分かったから!」
「もう一回言って!」
「嫌!」
「お兄ちゃん!」
「苦しい!」
さっきまで。
真面目な話。
してたのに。
でも。
僕も。
笑ってる。
多分。
暫くして。
シズクが離れる。
小指。
出す。
「約束。」
「何の。」
「もう隠さない。」
「全部?」
「私が知ってることは。」
「うん。」
「お兄ちゃんも。」
「僕?」
「勝手にいなくならない。」
「……。」
「行く時は言う。」
「分かった。」
小指を絡める。
「約束。」
「約束。」
その瞬間。
地面の下から。
ゴン。
低い音が響いた。
二人同時に顔を上げる。
もう一度。
ゴン。
池の水面が僅かに揺れる。
胸元。
シルシ。
熱い。
シズクの表情が変わった。
「……地下。」
「何?」
「何か。」
屋敷の方を見る。
「動いた。」
友達を取り戻した。
それで終わり。
では。
無かったらしい。