黒く染った純白の彼女 作:灯利
「今です。」
マザーは全く譲らなかった。
「地下で何か動いてるんだけど。」
僕が言う。
「知っています。」
「シズクとアリス、また命令されるかもしれない。」
「知っています。」
「じゃあ何でご飯。」
「空腹のまま地下へ戻るおつもりですか?」
「……。」
正論。
「腹が減っては何とやら、です。」
「マザーそういうこと言うんだ。」
「私を何だと思っているのですか。」
「三時間説教する人。」
「ミスターマキ。」
「ごめんなさい。」
条件反射。
横でアリスが笑う。
「やっぱマキにいだ。」
「何が。」
「帰ってきた感じ。」
少し。
分かる。
屋敷なのに。
食卓を囲む人が増えただけで。
妙に落ち着く。
…。
長い机。
僕。
シズク。
アリス。
マザー。
御影さん。
それから。
「何で俺まで。」
友達。
「絶対安静は?」
「寝すぎて背中痛え。」
「マザー。」
僕が助けを求める。
「座って食べる程度なら。」
「ほら。」
「裏切り者。」
「誰が。」
友達が笑う。
地下から出してまだ日が浅い。
顔色も完全じゃない。
でも。
こうやって文句を言っているだけで安心する。
「御影。」
シズクが言う。
「何故立ってるの。」
「私は従者ですので。」
「今日は座って。」
「しかし。」
「座って。」
「……御意。」
御影さんが机の一番端へ座る。
友達と目が合った。
一瞬。
空気が固くなる。
「……。」
御影さんが頭を下げようとする。
その前に。
「今は飯。」
友達が言った。
「話は元気になってからする。」
「……承知しました。」
許したわけじゃない。
後回しにしただけ。
多分。
それでいい。
「お兄ちゃん。」
シズクが僕の皿へ卵焼きを置く。
「食べて。」
「何これ。」
「見れば分かるでしょ。」
「卵焼き。」
「正解。」
「そうじゃなくて。」
一口。
甘い。
「……美味しい。」
「あは。」
シズクが嬉しそうに笑う。
「私が作った。」
「え。」
思わず箸が止まる。
「何その反応。」
「いや。」
「何。」
「何個失敗したの。」
「……。」
「シズク。」
「四個。」
「結構ある。」
「御影が食べた。」
全員。
御影さんを見る。
「……大変美味しゅうございました。」
友達がすぐ。
「嘘だな。」
御影さん。
目を逸らす。
「焦げてた?」
僕。
「少々。」
「御影!」
「申し訳ございません。」
何故御影さんが謝るんだ。
アリスが笑う。
マザーまで少し笑う。
地下のことが無ければ。
普通の。
変な晩ごはん。
…。
食事が半分くらい進んだ頃。
シズクとアリスの胸元へ、また薄い模様が浮かんだ。
僕は順番に触れて戻す。
四回目。
さっきより。
胸が重い。
「お兄ちゃん。」
「平気。」
「その顔、平気じゃない。」
「少し疲れただけ。」
マザーが僕を見る。
「だから準備が必要なのです。」
「分かってる。」
机の上。
御影さんが地下から持ち出した簡単な図面を広げる。
「管理区画の更に奥に、中心設備と思われる部屋があります。」
「そこを止めれば?」
アリス。
「命令術式の発生源であれば。」
マザー。
「止まる可能性は高いでしょう。」
「どうやって。」
「分かりません。」
アリス。
「またそれ。」
「分からないものを分かったと言う方が危険です。」
「それはそう。」
マザー。
強い。
「僕の力で。」
全員が僕を見る。
「戻せるかもしれない。」
「何を、どこまで戻すのか。」
マザーが聞く。
「それはまだ。」
「そうですね。」
否定しない。
「ですから、最初から『壊す』と決めないでください。」
「……うん。」
黒い着物の男も。
方法は知らないと言った。
止めて欲しい。
それだけ。
「お兄ちゃん。」
シズク。
「もし。」
「何。」
「力を使えなくなっても。」
「え。」
「中枢に何があるか分からないから。」
自分の手を見る。
「私の力も。」
「……。」
「お兄ちゃんの力も。」
少し。
「何か変わるかもしれない。」
怖い。
今。
やっと分かり始めた。
自分の異能。
それが無くなる。
「嫌?」
シズク。
「……ちょっと。」
正直に言う。
「そっか。」
「シズクは?」
「私も。」
意外。
「嫌なんだ。」
「うん。」
手。
見る。
「この力のせいで嫌なこといっぱいあった。」
「でも。」
「これで助けられたものもある。」
少し。
笑う。
「だから、好きでも嫌いでもある。」
シズクにも。
そういう。
迷い。
ある。
「でも。」
僕を見る。
「無くなったからって、私じゃなくなるわけじゃないよね。」
「うん。」
「お兄ちゃんも。」
「……うん。」
力。
零番。
失敗例。
兄。
そういうもの。
全部。
僕の一部かもしれない。
でも。
全部じゃない。
「ミスターマキ。」
マザー。
「怖ければやめて構いません。」
「……。」
「貴方に義務はありません。」
シズクも何も言わない。
待ってる。
自分で。
決めるのを。
「怖い。」
僕は言った。
「でも。」
みんなを見る。
「やる。」
一人。
じゃない。
「だから。」
少し。
言いにくい。
「助けて。」
御影さん。
「御意。」
マザー。
「もちろんです。」
アリス。
「任せて。」
友達。
「俺も。」
「寝てて。」
「何でだよ!」
その声で。
また少し笑った。
シズクが机の下で僕の手を握る。
「絶対帰ってこようね。」
「どこに。」
「ここ。」
少し考えて。
「孤児院にも。」
「欲張り。」
「お兄ちゃんが両方って言ったんでしょ。」
「そうだった。」
握り返す。
「帰ろう。」
これは。
最後の晩ごはんじゃない。
そう。
決めた。