黒く染った純白の彼女   作:灯利

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北棟の保管庫

 

「駄目。」

 

「さっきと言ってること違わない?」

 

「今考え直した。」

 

北棟へ続く廊下の手前。

 

シズクが両腕を広げて、完全に道を塞いでいる。

 

「だって危ないかもしれないし。」

 

「だから調べるんでしょ。」

 

「私が調べる。」

 

「僕も行く。」

 

「お兄ちゃんはここで待ってて。」

 

「嫌だ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

暫く見つめ合った後、先に目を逸らしたのはシズクだった。

 

「頑固。」

 

「シズクに言われたくないよ。」

 

「私の方が強いよ?」

 

「そういう問題じゃない。」

 

少し前なら、このまま押し切られていたかもしれない。

 

でも、これは僕がずっと探していたものに繋がっているかもしれない。

 

僕自身のことも。

 

いなくなった友達のことも。

 

知らないからといって、また誰かに任せて待っているだけなのは嫌だった。

 

「最初にここへ来た時、言ったでしょ。」

 

「……うん。」

 

「僕の友達が何人も屋敷へ来て、そのまま帰ってこなかったって。」

 

シズクの表情が少し曇る。

 

「だから僕も行く。自分で見たい。」

 

「……。」

 

少しして。

 

シズクはゆっくり腕を下ろした。

 

「分かった。」

 

「いいの?」

 

「一緒なら。」

 

「うん。」

 

「絶対離れないでね。」

 

「子供じゃないんだから。」

 

「私より弱いでしょ。」

 

「それはそうだけど……。」

 

何か納得いかない。

 

 

…。

 

 

北棟は、普段僕達が使っている屋敷とは明らかに雰囲気が違った。

 

廊下も柱も色がくすんでいて、襖の縁には細かな傷が残っている。

 

手入れをされていないわけではない。

 

ただ、ずっと誰も使っていない場所特有の静けさがあった。

 

「シズクもここには来たことないの?」

 

「ほとんどないよ。」

 

「御影さんは?」

 

「多分ある。」

 

「じゃあ先に聞けば良かったんじゃ。」

 

「聞いたら絶対止められるもん。」

 

「シズク。」

 

「……。」

 

僕が言うのも何だけど。

 

僕達、思ったより似ているところがあるのかもしれない。

 

ちょっと嫌だな。

 

廊下の一番奥に、大きな木の扉があった。

 

鍵穴はある。

 

けれど扉は僅かに開いていた。

 

「……開いてる。」

 

「昔から使ってないからかな。」

 

「不用心だなぁ。」

 

シズクが扉へ手をかける。

 

ギィ、と嫌な音を立てながら開いた。

 

中から埃っぽい空気が流れてきて、思わず咳が出る。

 

「うわ……。」

 

中は倉庫だった。

 

古い棚。

 

木箱。

 

使われていない家具。

 

布に包まれた何か。

 

ここまでなら、ただの古い保管庫にしか見えない。

 

でも。

 

「……シズク。」

 

棚の一角。

 

そこだけ置かれている物が違った。

 

小さな靴。

 

子供用の服。

 

木で出来た玩具。

 

誰かが使い込んだ帽子。

 

一つや二つじゃない。

 

「これ……子供の?」

 

「みたいだね。」

 

箱の上に、一冊の帳面が置いてあった。

 

埃を払い、開く。

 

『回収物一覧』

 

その下には日付と品物が細かく記録されていた。

 

衣類。

 

食料。

 

小刀。

 

玩具。

 

そして、回収場所。

 

何枚か捲ったところで、僕の指が止まる。

 

『回収元 孤児院』

 

「……。」

 

一度だけじゃない。

 

次の頁にも。

 

もっと前にも。

 

何度も同じ言葉が出てくる。

 

「やっぱり。」

 

シズクが小さく呟く。

 

「ここへ来た子達の物……。」

 

さらに読み進める。

 

その中に。

 

『木製笛 一』

 

その文字を見つけた瞬間、昔の記憶が一気に戻ってきた。

 

「お兄ちゃん?」

 

「あいつ、笛を持ってた。」

 

「友達?」

 

「うん。」

 

僕に、シスター達の巡回経路や孤児院から抜け出すための道を教えてくれた友達。

 

屋敷へ行く前も、小さな木の笛をいつも持っていた。

 

本人は上手いと言い張っていたけど、吹くと変な音しか出なかった。

 

「どこかに……。」

 

二人で棚を探す。

 

少しして。

 

「お兄ちゃん。これ。」

 

シズクが古い布袋の中から、小さな木製の笛を取り出した。

 

受け取る。

 

吹き口の横。

 

小さな傷。

 

昔、僕が落としてつけた傷だった。

 

「……間違いない。」

 

手に力が入る。

 

「友達のだ。」

 

ずっと探していた。

 

本当に。

 

ここまで来ていた。

 

「お兄ちゃん。」

 

「何。」

 

「ごめん。」

 

「何でシズクが謝るの。」

 

「ここ、私の屋敷だから。」

 

「でもシズクが捕まえたわけじゃないでしょ。」

 

「それでも。」

 

シズクは保管庫の中を見回した。

 

「知らなかった。」

 

いつもの軽い声じゃない。

 

悔しそうだった。

 

「私、自分の屋敷なのに。」

 

「だったら。」

 

笛を握る。

 

「知ろう。」

 

シズクを見る。

 

「僕も何も知らない。だから一緒に調べよう。」

 

一瞬だけ驚いた顔をして。

 

それから、シズクは小さく頷いた。

 

「……うん。」

 

その時だった。

 

「お嬢。」

 

背後から低い声。

 

二人同時に振り返る。

 

開いた扉の向こう。

 

御影さんが立っていた。

 

いつも通りの無表情。

 

でも。

 

僕が持っている笛と、机の上の帳面を見た時だけ。

 

ほんの僅かに。

 

表情が変わった。

 

「……そこを開けられましたか。」

 

シズクが僕の前へ出る。

 

「御影。」

 

帳面を持ち上げる。

 

「これ、何?」

 

御影さんはすぐには答えなかった。

 

その沈黙だけで。

 

この人が何かを知っていることは

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