はばたけ!みんなと永遠のオーロ島   作:ホンバラ

1 / 16
プロローグ

 ある休日の午後。

 十二月の青空の下、砂浜に少女たちの笑い声がこだました。

 年末をまるで思わせない、じりじりとした日差しが照りついていた。

「はっけよぉい……、のこった!」

 勢いよくさんごの声が響いた。

 砂に刻まれた土俵の内側で、まなつがあすかへと向かっていった。

「うりゃあああっ!!」

 がつんっ!

 土俵の外からは、賑やかな声が響いている。

「ほら、びくともしてないわよ! 頑張れ、夏海関ぃー!」

「滝沢関も、ファイト……」

 遊び半分に声を張るのは、楽しそうに笑うローラとみのり。

「くるる~ん!」

 くるるんは、その楽しげな雰囲気に、ころころと寝転がっている。

「のこった、のこったぁ……!」

「うりゃりゃりゃりゃあ……っ!」

 まなつのふんばりは、いくら頑張っても、時間をかけても、足場の砂を蹴っていくばかり。

「どうした、まなつ? その程度かあっ!」

 あすかが、にやりと、まなつのベルトをつかんだ。

「どりゃああっ!!」

 まなつが勢いよく宙を舞った。

「あっ」

 か細い声が漏れた。

「ぁ」

 一同の時間が、止まっていった。

 どさっ!

 まなつは、背中から、黄土色の大地へと帰還した。

「す、すまん……っ! つい力が……! 大丈夫かっ!?」

 駆けつけるあすか、さんご、みのりに、ローラたち。

 まなつは、堰を切ったように吹きだした。

「あははははは……っ!!」

 空を仰ぎ見て、笑い続けていた。お腹を抱えて、何がそんなにおかしいのか、いつまでも笑っていた。

「……」

 少女たちは苦笑した。困ったように見つめながら、静かな笑みを浮かべた。

「あ~、面白かったぁ! 一瞬、世界が飛んだかと思ったあ!」

「いや、飛んでたよ?」

「衝撃映像よ……」

「たしかに……」

 みのりの隣には、シャボンピクチャーが浮かんでいた。まなつの宙に舞っている姿が、大スクープ(?)のように揺らめいている。

「なに撮れてんのよっ!?」

 ローラはツッコんだ。

「くるるんが……」

 みのりが言う。

「くるる~ん!」

 シャッターチャンスを捉えたくるるんは、誇り高そうだった。アクアポットのボタンを、自慢げになでだした。

「へえ! これ、私? トロピカってる~っ!!」

「さんご……、これ、決まり手は?」

「ええと、『イナズマ地獄落とし』、とか……?」

「やめてくれ……」

「ヘルファイター、滝沢関」

「やめろぉっ!! 大体、これはまなつが軽いから……っ!」

「へえ、重いと強いんだあ」

 あすかの動きが止まった。

「きさまあっ!!」

「ひいぃ!? ごめんなさいぃ!?」

「待て、こらあっ!!」

 ぎゃーぎゃー、わーわー、走りだしていく。二人の楽しげな鬼ごっこが始まった。

 やれやれ……。

 さんごたちは苦笑を浮かべながら、その微笑ましい光景を眺めていた。

「ひえぇ、許してくださあい……!」

「いいや、今日は待ったなしだっ!」

「ひいぃ、きびしい~っ!」

 裸足で駆けていく少女たち。きらきらと打ち寄せる波が、ぱしゃぱしゃとはねていく。

 その揺れる波間に、何かが光った。

 たゆたう淀みに、ちらちらと瞬いている。

 まなつはいつの間にか、立ち止まっていた。その瞬きが、目から離れなかった。

「よおし、いい心がけだ」

 あすかが近づいてくる。不敵な笑みが、海面の光に揺らめく。

「……まなつ?」

 行方を追ってきたローラたちも、

「どうしたのよ?」

 まなつは揺れる波間を見つめていた。

 波にさらわれそうになる何かを追って、海に入っていく。

 ちゃぷ、ちゃぷ。

 光を反射させている『それ』を、しっかりとつかみ取る。

 ぱしゃっ……。

 眩しい陽光を受けて、それは水を滴らせていた。

「……瓶?」

 あすかが呟いた。

 まなつの手には、蓋のついた瓶が握られていた。寂れた銀色の蓋が、鈍い光を彼女の眉間に集めている。

 まなつは透明なガラスをのぞきこむように顔を近づけた。

「中に、何か入ってる?」

 さんごの呟きが、さらに蓋へと手を伸ばさせた。

「おい、気をつけろ……」

「うん、平気。何だか、紙みたい?」

 瓶の中には、巻物のように丸まった紙が入っていた。長いこと海を彷徨っていたのか、紙質は茶色く変色してしまっている。

「……ボトルメール」

 みのりがこぼした。その彼方からのメッセージに、期待を寄せる。

 まなつは瓶を預けると、その紙を開いていった。海水にさらされていたのか、指にぴたっと吸い付くような湿気が感じられた。

「何よこれ……、何か気持ち悪くない?」

 げえ、とローラが呟いた。

 まなつは、おかまいなしに、紙を、ゆっくり、ゆっくりと開いていった。

 

 

「……これって」

 みのりが目を丸くした。

「入部、届?」

 さんごが目を細めて言った。

 所々、文字がかすれてはいるが、それは、あおぞら中学校公式の入部届であることに間違いなかった。

「ねえ……、ここ、トロピカる部、って書いてない?」

 ローラが示す先には、大きな入部希望欄に、トロピカるぶ、と、子供が書いたような字でにじんでいた。

「……どういうことだ」

 あすかが言った。信じられないものでも見たような目つきで。

「くるる~ん」

 くるるんが鳴いた。そう鳴くだけで精いっぱいのようだった。

 

 

「……いるんだ」

 まなつが言った。

「え?」

 まなつは、瞳をきらきらと輝かせていた。

「この海の向こうに……、私たちの友だちが! それって、めちゃめちゃトロピカってるうっ!!」

「……はああ??」

――そういう状況なの……??

 

 

 彼女たちは、微笑んだ。

 この一年を、繰り返し、巡っていた。

 そうだ。

 まなつは変わらない。

 いつも、今という瞬間を、全力で楽しんでいる。

 そんな太陽のような彼女に、私たちは――。

 

 

「そうだね」

 さんごが笑った。

「だな」

 あすかも、ふっと微笑んだ。

 みのりとローラも、笑うことしかできなかった。

「えへへっ」

 まなつは、本当に小さな太陽のようだった。

「……で? どうするんだ?」

 あすかが促すように聞いた。

「そんなの、決まってるよっ!」

 まなつは振り向いた。

「海の向こうに、お返事っ!」

 太陽の笑顔が瞬いた。

「でも、どうやって?」

 ローラの疑問に、

「こうやって!」

 海を見つめる。

 大きく息を吸う。彼方の水平線めがけて、大きく、大きく、身を反らせて、

「おいでよーーーーーっ!!!!!!!!!!」

 

 

 大きな波音が、その叫びに答えた。

 広大な海は、何の変りもなく、そこにあるだけだった。

 まなつは、満足そうに振り返った。

 この声が、いつか送り主の元へ届くと、そう信じて。

 彼女の手の中では、海の向こうからのメッセージが、波風に揺られて、音もなくはためいていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。