はばたけ!みんなと永遠のオーロ島   作:ホンバラ

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13. でんせつのせんし

「みんな――!!」

 決意の鼓動。その目が、何かを見据えるように瞬いた。

 ローラたちが頷いた。オーライ、と言って、トロピカルパクトを取りだしていく。

 きらきらと輝いた。彼女たちの魂。その気高さの、誇らしい瞳。

 自由のリングが、高らかに、彼女たちの宇宙を彩っていった。

 

 

「プリキュア! トロピカルチェンジ――!!!!!」

 

 

 力強く照り返す瞳。

「ときめく常夏! キュアサマー!!!」

「きらめく宝石! キュアコーラル!!!」

「ひらめくフルーツ! キュアパパイア!!!」

「はためく翼! キュアフラミンゴ!!!」

「ゆらめくオーシャン! キュアラメール!!!」

 五人の少女は、海の底から、温かなせかいへと飛びだした。

「はあああーーーっ!!!」

 ざんっ!

「みんな一緒に! トロピカル~ジュ! プリキュア!!!!!」

 

 

 プリキュアたちが降り立った。

 ヤラネーダたちが、ぎろりとにらんだ。

 憎しみの目が、凍るように光る。

 音もなく押し寄せてくる。

「みんな、離れるなっ!」

 フラミンゴが叫んだ。

 プリキュアたちは身構えた。集落の盾となるように、扇状に広がっていく。

「ヤラネーダァァ!!」

 あっという間に囲まれた。深い憎しみの連鎖が、音を立てて注がれていった。

「プリキュアーっ!!!」

 どーん!!!

 アニが叫んだ。粉塵が舞った。

 プリキュアたちは飛び上がった。続々と飛びこんでくるヤラネーダたちに、五色の光が、ボールのように揺れた。

「みんなっ!」

「オーライ!!」

 サマーたちは降り立った。ヤラネーダたちを囲うように、がやがやとざわめく包囲網の外を駆け回っていく。

「でりゃあああっ!!」

 めりこむような音を立てて、ラメールとフラミンゴが、殴りつけていった。

「てええええっ!!」

 舞うような光――。コーラルとパパイアが、周囲の群勢を払っていった。

『プリキュア! もこもこコーラルディフュージョン!!』

『プリキュア! ぱんぱかパパイアショットっ!!』

 どどどどど……っ!!!

 ヤラネーダの数は減り、やがて何事もなかったように、元通りになった。

『プリキュア! おてんとサマあ、ストライクっ!!』

『プリキュア! ぶっとびフラミンゴお、スマッシュっ!!』

 ずばばばば……っ!!!

 堂々巡り。その言葉が似合っていた。

『プリキュア! オーシャンバブルシャワー!!』

 ぷかぷかぷか、と、泡がかき消された。多勢に無勢、大量のヤラネーダたちが、怒りの目をうならせながら、サマーたちを見下ろしていく。

「らちがあかない……!」

 パパイアが口走る。

「もう、一体どうなってんのよお!」

 ラメールがわめいた。

 ヘロンは、離れの丘から見つめていた。

「……」

 心配そうにその目をゆがめて、村人たちと一緒に、戦いの行方を見守っていた。

 うめきだした。

 何かが、彼女の呼吸を奪っていった。

 擦り切れる。何かが、ぱちぱちと火を立てるように。

 ぽっ、と炎が灯った。

 黒く染まった柱が、ヘロンの身体を蝕んでいった。

「ヘロン……!?」

 アニがのけぞった。

 どうすることもできなかった。

「ヤラネエダァァーーーッ!!!!!」

 憎悪が迸った。その紅い目が、黒い炎に応じるように、深く、激しく、猛った。

 ぶわあ、とオーラが広がった。

 自分自身を見失ってしまったような、傀儡のような目。

 硬くなっていく肢体。

 見えない何かに、抗う意志を食いつくされてしまったような、空ろな声がとどろいた。

 誰も救えない。

 誰も守れない。

 自分たちは、何のために存在しているのか――。

 ヤラネーダは、一斉に地団駄を踏み始めた。

 子どものような、怒りのやり場を失ってしまったような悲鳴。

 何を責めていいのかわからなくなってしまった、哀しいせめぎ合いの果ての、絶望。

 もう響かない。

 届かない。

 心が開くことはない。

 

 俺たちは、どうして、俺たちなんだ。

 俺たちは、こうはなりたくなかった。

 どうして、お前たちはここに来たんだ。

 何故、そうと知りながら、戦い続けるんだ。

 このせかいを、壊したいのか?

 ゆがめたいのか?

 跡形もなく、変えてしまいたいのか?

 お前たちに、その自覚はあるのか。

 何かを、変えてしまう恐ろしさに、どうして、お前たちは、魅かれるんだ。憧れるんだ。

 消えてしまいたいのか?

 自らの、言葉を、捨ててしまいたいのか?

 どうして、求めるんだ?

 どうして、戦うんだ?

 俺たちは、

 俺たちは――、

 どうして、戦っているんだ――?

 

「ヤラネエダアアアーーーーーッ!!!!!!!!!!」

 乱れていく鼓動。

「きゃああああーーーーーっ!!!?」

 どどどどどどどどどど……っ!!!!!!!!!!

 畳みかける、攻撃、攻撃、攻撃。

 俺たちは、何のために。

 ここに――。

 その答えは、絶望に飲まれ、形をゆがめられ、いつの間にか、自分たちが飲まれまいとしていた『物語』となってしまっていた。

「ヤラネエダァァァァァ!!!!!!!!!!」

 どーん……!

 

 攻撃が止んだ。

 静寂が落ちていった。

 砂煙が晴れた。

 ぼろぼろになったサマーたちが、絶望の光に埋もれていた。

「ヤラネーダァァ……」

 返ってくることはなかった。

「ヤラネーダアアァァァ!!!!!!!!!!」

 どうして戦うのか――。その問いに答えてくれるものは、もう動かなかった。

「プリキュア……」

 ヘロンは目を覆っていった。

「いやああああああーーーーーっ!!!!!!!!!!」

 黒い炎が、ぶわっ、と広がった。

「やらねぇーだぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!!!!!!」

 頓狂な声。

 サマーの目。

 ヤラネーダたちをにらみつける。ふらふら、よろよろと、立ち上がる。

 息が詰まるような、何かを窒息させるような、沸々とした感情がうずまいていた。

「さっきから、怒ってばっか、いるけどぉ」

 わっ、といきり立つ。

「わたしの名前は、夏海まなつぅっ!!!!!」

 そんなものは関係なかった。

「わたしの名前は、涼村さんごぉっ!!!!!」

 そう叫びたかった。

「わたしの名前は、一之瀬みのりぃっ!!!!」

 何からも自由に。

「わたしの名前は、滝沢あすかぁっ!!!!!」

 囚われることなく。

「わたしの名前は、ローラ・アポロドーロス・ヒュギーヌス・ラメ――」

 それは長かった。

「五人そろって! トロピカル~ジュ! プリキュアぁぁぁぁっ!!!!!」

「一人足りないんだけどぉっ!!?」

 ヤラネーダたちは見つめていた。

「……」

 それでも、ここにいていい。

 そう言われたみたいに。

「ちょっと、信じらんない! もう一回やんなさいよぉ!?」

「ああ、ごめんごめん……。何か、無性に腹立っちゃってぇ」

 涙がつたうのがわかった。

 ヘロンを包む炎が、どこまでも青白く燃え盛った。

「ヤラネエダアァァァ!!!!!」

 空ろな叫び。

 ヤラネーダの紅い目は、涙に濡れていた。

「行くぞおおおお!!!!!」

 サマーは駆けだした。

「ちょっと、まなつ……!?」

 ラメールたちが追っていく。

 最後の戦いが始まった。

「うおりゃああああっ!!!!!」

 どんっ、どんっ……!

 サマーが殴りつけていく。我を忘れて、集落へと向かうヤラネーダたちに、精いっぱいの雄叫びを上げていく。

「やめろおおーーーーーっ!!!!!」

 ぼんっ、と弾かれた。全力で受け身を取る。ぎっ、と歯を食いしばり、太陽の輝きが、くるくると宙を舞う。

『プリキュア! おてんとサマぁぁ、ストライクっ!!!!!』

 どどどどどっ……!!!

「はあああーーーっ!!!!!」

 コーラルが両手を固く組むと、大量のバリアが、ヤラネーダたちを囲うように展開された。『コーラルディフュージョン』が膨らんでいく。パパイアとフラミンゴが、それに乗り、大群の外へと降り立っていく。

『プリキュア! ぶっとびフラミンゴお、スマッシュっ!!!』

『プリキュア! ぱんぱかパパイアショットっ!!!』

 ずばばばばっ……!!!

 数は増え、何事もなかったかのように、元通りになる。いくらでも替えの利く、木偶人形か何かのように。

「ずおりゃあああーーーーーっ!!!!!」

 ラメールが、『ラメールストリーム』に乗って、縦横無尽に駆け巡っていく。くるくると回りながら、『オーシャンバブルシャワー』が、辺りの空間を満たしていく。

 彼女たちの時間が、闘いが、まるで嘘になったように、いくつもの連なる絵に宿ったように、淡い色彩と、不規則な明度をまとっていった。

「行くわよ!!」

 ラメールが叫んだ。プリキュアたちは、〈エクセレン・トロピカルスタイル〉へと変化した。

『プリキュア! ランドビートダイナミック!!!!!』

 ぱおーんっ!!!

 桃色の象が、大地を鳴らす。ヤラネーダたちが宙に舞い、バランスを失っていく。

「五つの力、海にとどろけ!!!」

 〈マリンハートクルリング〉がはまっていった。

『プリキュア! マリンビートダイナミック――!!!!!!!!!!』

 ジャアアーーーク!!!!!

 ドレッサーに反射した光から、青々としたジンベエザメが飛びだした。プリキュアたちを飲みこむと、宙に舞うヤラネーダたちへと、一直線に突進していく。

「いっけえぇぇぇーーーーーっ!!!!!」

 彼女たちの、想い出のバタ足が、ぱしゃぱしゃと響き合った。

「ヤラネェダァァァァァ!!?」

 ざばばばば……っ!!!!!

 泳ぐようにうねりながら、飲まれていく。弾かれては飲まれ、また弾かれては、飲まれていく。

 力強い躍動。青々とした身体が、しなる尾びれが、ごぼごぼと、うなるような音を立てる。

 

 

 飲みこまれる――。

 成す術もなく、飲みこまれていく。

 これでいいのか。

 お前たちは、それでいいのか――?

 

 

「ヤラネエダァァァァァ!!!!!!!!!!」

 どす黒いオーラが広がった。残りのヤラネーダたちが、一つの身体をなして、巨大な怪物となり果てた。

 淀むような暗黒。雄々しいくじら。

 見えない時に抗う少女たちを、あってはならないかのように、飲みこもうとする。

 ばちっ!!!

 相容れない、二つの力。

 彼女たちが守りたいと願うものは、同じであったはずだ。ただ今は、彼女たちを枠に当てはめようとする何かが、目に見えない何かが、あまりにも大きくて、理不尽すぎるだけだった。

「ぐううう……っ!!」

 ジンベエザメが押されていく。じりじりと追いつめられる。

「プリキュアぁぁーーーーーっ!!!」

 ヘロンは振り向いた。

「がんばれぇぇぇーーーーーっ!!!!!」

 アニが叫んでいた。

「プリキュアぁぁーーーっ!!!」

 声は継がれていった。

「がんばれえぇーーーっ!!!」

「プリキュアぁぁぁーーーっ!!!!!」

 もう一つの、目に見えない力が、確かにそこにはあった。

「……」

 ヘロンは戸惑っていた。

 変わっていいはずが、憧れていいはずがなかった。

 脈々と継がれてきた『何か』は、みんなを滅ぼすようにはできていない。

 いや、私自身が、そうなってほしくない。

 この戦いが、何を紡ぐのか、どこへ向かうのか、今は、誰にもわからない。

 それでも、何かを大きく変えてまで、大切な何かを曲げてまで、それを得ようとは思わない。

 脈々と継がれてきた『何か』は、みんなの魂をかたどる『何か』は、無理やりその形を変えて、やがて失われてしまうべきではなかった。

「……やめて」

 そう言おうとした。

「……や、めて」

 言葉が出なかった。

 胸がつかえていった。

 魂が、自ら望んで、塞いでいるようだった。

 

 大好きだったから――。

 それと同じくらい、プリキュアのことが大好きだったから。

 ずっと、見てきたから。

 憧れてきたから。

 彼女たちを追い求める度に、この不確かな孤独を、愛することができたから――。

 

「はああああーーーーーっ!!!!!!!!!!」

「ヤラネエダアアアアア!!!!!!!!!!」

 ばちっ!

 黒いくじらが競り勝った。

 ジンベエザメが、光とともに弾けていった。

 人びとの鼓動。

 温かな光。

 ひらめくような、夢の灯り。

 まなつのねがい石が、人びとの灯火と重なった。

『プリキュア!!! ぎんがビートダイナミック――!!!!!!!!!!』

 ぱおーーーん!!!!! ジャアアーーーク!!!!!

 鳴き声とともに、星雲が降り立った。

 銀河の煌めきを、宇宙服をまとった象とジンベエザメが、踏み鳴らし、泳ぎ、駆けていく。

 星々が過ぎ去る。彼らの身体に乗り移る。

 流星のような煌めきが、まなつたちの身体を、限りなく開いた余白へと運んでいった。

「今日も元気だっ!!」

 プリキュアたちが降り立った。

「ビクトリーーーっ!!!!!」

 どっかーーーんっ!!!!!!!!!!

 黒いくじらが弾けていった。

 七色の光を放ち、きらきらと光を撒いて。

 青空へと舞い上がった。

 自由だった。

 彼ら、彼女らの魂は、この世界の、ありとあらゆることから自由であるべきだった。

 ヤラネーダの結界が消えた。

 彼らを縛りつけるものは、もう何もなかった。

 

 

「……プリキュア」

 アニが口を開いた。

「プリキュアあぁぁぁーーーーーっ!!!!!」

 子どもたちは駆けだした。

 心を輝かせながら、沢山の笑顔が、少女たちを囲んでいった。

 ひとつひとつの生命が、まなつたちの眼に、きらきらと輝いて見えた。

 

 私たちが、望んだもの。

 私たちが、守ったもの。

 その先に待つ未来は、一体、どんな色をしているだろう――。

 

「まなつ!」

 アニが見上げた。

「大きくなったら」

 未来を夢見る子どものように。

「まなつたちみたいになりたいっ!」

 サマーから笑みがこぼれた。

「なれるよ!」

 白い歯をのぞかせて。

「ぜったいっ!!」

 ヘロンは見つめていた。

「……」

 遠くに浮かんでいる、子どもたちの笑顔が、ひどく勝手にゆがんでいた。

 何かが、抜け落ちてしまった気がした。

 大切な何かを、奪われたような気がした。

 私が生きる場所は――?

 いやだ。

 これでおしまい――?

 いやだ。

 めでたしめでたし――?

 いやだ。

 いやだいやだいやだ。

「ヘロン……!」

 サマーが振り返った。

 ヘロンは駆けだしていった。

「待って……!?」

 サマーが追いかけた。

 ヘロンは駆けていった。

 何かから、隠れるように。

 外れていくように。

 厚い雲が湧き立った。

 青空に、暗い影が落ちていった。

「ヘロン……!」

 手が繋がれた。

 温かな手だった。

 小さな手。

 小さな、小さな――。

 ぽっ。

 雨だった。

 初めて聞くような雨だった。

 いつの間に、こんな。

 ざー……。

 こんな――。

「関係ないから!!」

 サマーは叫んだ。

「ヘロンが、誰であろうと、関係ないから……」

 迷いを、恐れを、振り払うように。

「私たちが、守るからっ!!」

 振り仰ぐ。

「何度だって、話すからっ!!!」

 ぽっ。

 頬が濡れた。

「だから……」

 聞かせて、と呟いた。

「ヘロンの、いま、一番大事なこと……」

 ざー……。

 何も聞こえなかった。

 虚しい歌が、ただ響くようだった。

「……勝手だよ」

 ざー……。

「どうして、来たんだよ」

 それは憧れだった。

「もう、私を見ないでよっ!!」

 絶望だった。

「私は、ひとりでいなきゃ、だめなんだあっ!!!!!」

 

 わっ。

 黒い霧が広がった。

 瞬く間に、村全体、島全土を閉ざしていった。

 中央の火山が、胎動するようにその身を震わせた。

 まるで、海が、大地が、おびえているようだった。

 雷鳴がとどろいた。

 ごごご、と、地鳴りが広がった。

 地割れが起き始めた。

 その中から、『破壊』が姿を現した。

「コワスンダー……」

 怪物たちはそう鳴いた。火星人の破壊兵器のような、嘘から飛びだしてきたような肢体。凍るような目。冷たい息。鋭い触手。無機を表すような、青々とした光が、そのいびつな輪郭を浮かび上がらせる。

「ヘロン……っ!!」

 ヘロンは飲まれていった。

 深い深い絶望に。

 抗いきれない憎悪や、諦めに。

 今まで知られることのなかった、数々の寂しさや、悔しさたちに。

 もう響かない。

 届かない。

 その心が開くことはない。

「コワスンダー……ッ!!!!!」

 怪物たちが吠えた。

 この物語の終わりを告げるように。

 小さな宇宙を、明るいはずの未来を、跡形もなく飲みこんでしまうように。

 もう響かない。

 届かない。

 彼女の孤独は、叶わない願いとともに、けして終わらない絶望と繋がれているようなものだった。

「ヘロぉン……っ!」

 涙がこぼれた。

 もう届くことはなかった。

 その夢から覚めることは、永遠になかった。

 自らの手で、彼女の灯火は、その閉じかけた幕を、静かに下ろそうとしていた。

 

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