はばたけ!みんなと永遠のオーロ島   作:ホンバラ

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7. うごきだすいのち

 波がごぽごぽと音を立てながら沈んでいく。忙しなく揺れる海面は、深く青く、その広大な世界を物語っていた。

 あすかと別れたローラは、人魚の姿のまま波間にたゆたっていた。グランオーシャンの次期女王候補の証・オーシャンプリズムミラーを頼りなげに握りながら。

「……」

 鏡面にローラの顔が映しだされた。その整った顔だち、くっきりとした碧い眼、鼻、口。その白い指が、呆然としているローラの唇をなぞっていった。

 遠い昔にも、こんなこと、していたっけな……。

 ただ漠然とそんなことを考えながら、他人のような自分の表情をのぞいていた。

 ざざーん……。

 高波が身体を飲みこんでいった。

「ぶへえーっ!」

 勢いよく飛びだしていく。

「げほっ、げほっ! もおっ!」

 振り返り、悪態をつく。誰も答えてはくれないが……。

「くるるーん……」

 顔をしかめたくるるんがのぞきこんでいった。

「何よ! 何か、文句でもあるわけ!?」

 まさかの逆ギレ。くるるんの表情が、さらにゆがんでいく。

「くるる~ん……」

「わかってるわよ! 島の様子を探ればいいんでしょっ!?」

 髪からアクアポットを取りだしていく。遠くへと照準を向けると、シャッターボタンにおもむろに手を置いた。

「そんなの、これを使えば、楽勝なんだからっ!」

 カシャッ。

 シャボンピクチャーが浮かんでいった。

 泡の中には、大きな山を背負う孤島の姿が揺らめいていた。

「……」

 ローラは見つめていた。

「……何よ」

 静かに呟いていく。

「本当に、ただの島じゃない」

 辺りをおもむろに見回していく。海以外には何もない、どこまでも上下する海面だけが広がっていた。

 ローラはこの果てしない海の中で、生きているのが自分一人だけだとしたら。そんなことを考えていた。それがどんなに恐ろしいことか、わかりたくもないし、知りたくもなかった。

 ローラは、わざとその先を考えないようにして、小刻みにかぶりを振った。

 くるるんが、不思議そうにこちらを見つめている。

「ここは、本当にどこなんだろう」

 ローラの呟きが、永遠に繰り返す波音に飲まれていった。

 

 

――――――……

 

 

 くるるんは辺りを見回した。

 何も変わったところはなかった。彼女たち以外に生き物の気配はない。

 ローラは依然として島を見つめていた。彼女には、何も聞こえてはいないようだった。

 くるるんは、その可愛げな耳を、確かめるかのように、もう一度そばだてた。

 

 

――――――……♪

 

 

「くるるーん……!」

 くるるんは嬉しそうに鳴くと、海へと潜りこんでいった。

「くるるん……?」

 ローラが振り返る。

 そこには、くるるんの姿はなかった。

「くるるん……!?」

 ローラの心臓が嫌な音を立てた。

 どこまでも広がる海が、彼女の前には横たわっていた。

 ローラはアクアポットをしまうと、すぐさま海へと潜りこんでいった。

 ただ不安だっただけじゃなかった。何か大きな、巨大なものに、自分の存在が芯まで飲まれてしまいそうな、漠然とした恐怖だった。

 大きな波がうねっていった。

 ローラのいた場所を覆いつくして、波は、深く、重たく沈んでいった。

 

 

     ※

 

 

「お腹空いたね~」

 まなつとアニたちは、集落に向けて歩いていた。

 浅瀬の岩礁で夢中になって遊んでいた彼女たちは、お昼の時間を過ぎていることに気が付いた。彼女たちは、もちろん時計などといった類は持ち合わせていない。だが大体の時間は、自分たちのお腹の空き具合でわかるという高等技術は身に付けていた。

「今日のお昼はなんだろな~」

 まなつが歌いだした。すると遠くに見える広場に、何やらざわざわと人だかりが見えた。

「何だろう……?」

 まなつが呟いた。だがそれもつかの間、彼女たちは示し合わせたように駆けだしていった。

 だんだんと人だかりが近づいてきた。ざわざわと、人の群れが、大人も子どもも関係なく、中心の出来事に目を奪われているのがわかった。

「ごめんなさぁい……!」

 まなつたちは人波をかき分けた。そこには、子どもたちに囲まれながら、メイク道具を操っている、涼村さんごその人がいた。

「さんごぉ!?」

 まなつが仰天した。

「まなつ……!?」

 さんごが驚いて、振り返る。

「すごおい……! これ、全部さんごがやったの……!?」

 まなつは辺りを見回した。そこには、メイクをしてもらった子どもたちが、見違えるような表情を見つめ合ったり、さんごの手鏡を見ながら笑い合っていた。

「えへへ。村の人から、大事な織物をいろいろ分けてもらったりして……。大したことはできないんだけど、みんなが喜んでくれているところを見てたら、何だか嬉しくなっちゃって」

 見てみると、子どもたちの髪や腕には、麻でできたリボンやバングル、シュシュなどが、その生まれ持った無邪気さを、さらに映えさせていた。

「くぅぅ、めっちゃトロピカってるぅっ!! やっぱり、さんごはすごいよおっ!」

「そんな。照れるよぉ……」

 さんごは、とても嬉しそうにかぶりを振った。

「やあやあ」

 ひょうひょうとした声。振り返ると、棒に刺さった芋をほおばりながら、みのりが立っていた。

「みのりん先輩……!?」

「何やら盛況のようだね」

 芋をはむはむとしながら、周りの子どもたちを見渡す。いったい誰から貸してもらったのか、涼しげにかぶった麦わら帽子を、風に飛ばされないように、ふふ、と抑えている。

「みのりん先輩、それは……?」

 なにからツッコめばいいやら、とりあえず食べているものを指さした。

「ああ、これ。戦利品……」

「せんりひん……?」

 まなつが首を傾げた。

「あと、これも」

 みのりは麦わら帽子をなでた。

「誰と戦ったんですか……」

 さんごが苦笑した。

「ねえさんご、せんりひん、ってなに……?」

 まなつの呟きとともに、広場の喧騒が、彼女たちの沈黙を飲みこんだ。

 コーン、コーン……。

 どこかから、何かをぶつけ合うような音が響いた。

 木々をぶつけ合うような、身体の芯になじむような自然の音色。

 どこかで聞いたことがあったようなその音を、まなつたちは聞いていた。

 村人たちが、やがて、待ってました、という風に歩きだした。

 平原へと続く道から、音が強くなってくる。

 コーン、コーン……。

 やがて地平に、大きなかごたちが浮かんでいった。女性たちの行列が、野菜の入ったかごを頭に載せて近づいてきた。平原の畑へと収穫に向かっていた女性たちだ。仕事の成果を、かごの中いっぱいに詰めこんで、帰ってきたのだ。

 村人たちのねぎらいに包まれながら、女性たちは広場へとなだれこんできた。くたびれたように息をついて、頭に載せていたかごをとすとすと下ろしていく。

 その最後尾には、今朝、食堂であすかたちの食器を回収してくれた女性がいた。その隣には、小さな女の子をおぶって額の汗を拭う、まなつたちのよく見知っている姿もあった。

「あすか先輩……!?」

 まなつたちは目を見開いた。

「えーっ!? 何してるのぉ……!?」

 まなつが、二人の姿を交互に見やる。

「子守りのバイト……?」

 みのりがわなわなと震えた。

「あすか先輩……」

 さんごが不安げにあすかを見やる。

「ちがぁう! 誤解をするな! 成り行きだよ、成り行きっ……!!」

 あすかは、恥ずかしさをこらえながら、思いきりツッコんだ。その振動が女の子に伝わったのか、うう、と頬をゆがめて、ぐずり始める。

「うわぁ……っ!? よ、よし、泣くな。いい子だな、ラウラは……」

 まなつたちは、女の子をあやすあすかを、呆然と見つめていた。

「ラウラ、って……」

 さんごがこぼした。

「ああ、この子の名前……」

 あすかが、困ったように見上げていった。

「へえ、ラウラちゃん、っていうんだ……」

 まなつが顔を近づけた。

「私の名前は、夏海まなつ! よろしくね!」

 まなつが微笑むと、ラウラは、わーん、と泣きだしていった。

「うわあ……っ!? な、何やってるんだ、お前ぇっ!!」

「うぇぇ!? だってだってえ……!」

 まなつとあすかはおどけていった。ラウラは身をよじり、その大きな声をますます張り上げる。

 あすかたちは成す術がなかった。

 ラウラの母親が、あすかの肩を優しく叩いた。ラウラを優しく抱き寄せると、安らかに子守唄を口ずさんでいく。ラウラは泣き続けていたが、母親の表情を見上げると、すー、すー、と寝息を立てていった。

 まなつたちはすっかり感心してしまった。

「お母さんって、すごいんだ……」

 まなつがこぼした。

 あすかは、目の前の親子を見ながら、ああ、と微笑んだ。

 女性たちが、かごを持って、奥の小屋へと歩いていった。何かの準備に取りかかるかのように、村人たちもその後を追っていく。

「……何だろう」

 みのりが呟いた。その活発な様子に、村中に、やる気と活気が満ちていくのがわかる。

「ああ、これはねえ……!」

 まなつが言った。だがあすかがそれを制していった。

「これは、私にもわかるぞ」

 そう言うと、にやりと微笑む。

「お昼ごはんだろ?」

 素敵な夢でも見るように、ラウラが、にこっと微笑んだ。

 

 

     ※

 

 

 音を立てて、小さな身体が泳いでいった。

 低い水の音が響く。一人の人魚が、海の底を、大切なものを失った子どものように泳いでいく。

「くるるーん……!?」

 泳いでも、泳いでも、くるるんの姿は見えなかった。

「くるるーん……!」

 泳ぐほどに、海底の暗さは増していき、とめどない不安がローラの前へと広がっていく。

「くるるーん……」

 ローラは泳ぐのを止めた。ひんやりした水温が、動きを止めた身体に沁みこんでくる。

 いつの間にか、両手が身体を覆っていた。まるで自分のものではないかのように。自分の意思に反して、勝手に動きだしているかのように。

「……寒い」

 水の音が、ごぽり、と響いた。

 身体が冷たくなっていく。

「……私」

 声が飲まれていった。

「……ひとりだ」

 

 

 凍えるような寒さの中で、声が聞こえた。

 安らかなハミングが、底から湧き上がってくる。

 暗い海の底を、白い炎が揺れるように泳ぎ回っている。

 歌声の主が現れた。

 くじらだ。

 巨大な身体が、夜の闇を、うねるように震わせている。

 低い汽笛のような振動。全ての海に伝わっていくような、温かな音色。

 その歌声とも、鳴き声ともつかないような音を、ローラは、目の前に浮かび上がってきた巨体に見守られながら、聞いていた。

 

 

     ※

 

 

 平たい鍋の上で野菜が煮えている。

 あすかたちはじっと見つめていた。女性たちが野菜や肉の調理をしていた。ここはきっと、村人たちの調理場に違いなさそうだった。

 さんごが、ぱちぱちと音を立てる熾火から視線を外した。しゃがんだまま振り返ると、海を見つめているまなつへと口を開く。

「まなつ?」

 まなつは振り返った。あすかとみのりも振り向いた。まっすぐな日差しが、彼女たちの表情を輝かせていた。

「どうしたの?」

 まなつは向き直ると、かぶりを振った。静かに、海へと口を開いていく。

「ローラ、遅いなぁ、って」

 さんごたちは口を閉ざした。彼女のことを一人ぼっちにしてしまったのは、自分の責任だ。全員がそう感じ、彼女のことを想っていた。

「……」

 広場で遊んでいたアニが、まなつのもとへとやって来た。いたずらな笑顔を満たして、何かに期待するような目が、まなつを見上げる。

 まなつはしゃがみこむと、アニの話を聞いていった。うきうきと、弾むような声音が、あすかたちにも伝わってくる。

「……何て?」

 みのりが尋ねた。

「何か、秘密の場所を教えてくれる、って……」

 あすかが表情をゆがめた。

「秘密の場所?」

 まなつが頷く。アニが、おかまいなしという風に手を引いていく。

「ま、待ってよ、アニ。まだ、ローラが……」

「ニンギョ!」

 アニは、再びその言葉を口にした。

「ニンギョ!!」

 まなつたちは固まった。それは、ここではけして耳にしないであろう言葉だった。

 

 

     ※

 

 

――――――――♪

 

 

 海の底から、浮かび上がってくる。

 時折、ぐるり、ぐるりと、翻しては、ローラの前へとその身をうねらせる。

 歌声が響いた。

 その度に、頭の奥が震えるような気がした。

 

 

――――――――♪

 

 

 汽笛のような音。

 まるで歌っているような旋律。躍動。

 くじらは、ゆっくり、ゆっくりと近づいてきた。こぢんまりとした眼が近づいてくる。全てを引きずりこんでいくような眼。その視線に、ローラは眉一つ動かすことができなかった。

 

 

――――――――ここにいるよ

 

 

 現実へと引き戻された。

 くじらは、他の誰でもない、ローラのことを見つめていた。

 

 

――――――――大丈夫。もうすぐ、その時は来る

 

 

 くじらは、心に届くような声で訴えていた。海底に沈みこむような、父親のものにも、母親のものにも聞こえるような、温かな声。

 ローラたち人魚にとって、親と呼べるような存在はいなかった。それなのに、そう思えてしまうのは、やはり奇妙と呼ぶほか表しようのない感覚だった。

 くじらは、ローラから視線を外した。仄かに明かりが差しこんでくる海上へと、ゆっくり、ゆっくりと浮かび上がっていった。

 

 

     ※

 

 

 草木が生い茂っている。その中に開けている道を、まなつとアニたちは進んでいた。森中の生き物たちが、まるで空間を満たすように、その鼓動を響かせている。

 しばらく行くと、アニが何かを見つけたように駆けだしていった。

 まなつたちは、驚いたように追いかけていった。彼女たちの視界には、やがて、天まで届いているのではと思うほどの、巨大な石碑が映りこんでいった。開かれた草地に、まばらな木漏れ日を受けて、ぽつんとそそり建っている。

 アニは、石碑に描かれている絵を示していった。まなつたちの視線が、引き寄せられるように、その絵へと吸いこまれていった。

 白いくじらが、伸びるように、その身体を浮き上がらせていた。隣には、海上を見上げる人魚が、その青い身体を、悠然とたゆたわせている。石碑の縁には、大きな輪を描いて、手を繋いでいる、人のような、模様のような、額縁のように広がる何かが、石碑全体の調和を表していた。

「……」

 まなつたちは呆然としていた。その圧倒的な存在感に、飲みこまれていくようだった。

 アニが、絵の中心を指し示して声を上げた。

「ヘロン!」

 海上に輝いている太陽を背に、長い髪をなびかせている幼い少女。その周りだけが、木漏れ日を受けて、青白く浮かんでいるように見えた。

 

 

     ※

 

 

「待って……!」

 ローラは叫んでいた。

「わからない……!」

 くじらは視線を下ろしていった。

「あの島は、一体、何なの……!?」

 ローラの声音が、すがりつくように響いた。

「あなたは、何なの……!?」

 くじらは、泳ぐことをけして止めはしなかった。

 

 

――――――――もといた所へ、帰れるよ

 

 

 言葉が出なかった。

 

 

――――――――迷わないで

 

 

 海底の闇が晴れた。海上の明かりが差しこんできた。柔らかな光が、濁ったように広がり、辺りの闇を照らしていった。

「くるるーん!」

 どこからか、くるるんが現れた。ローラの周りをくるくると泳ぎ回ると、嬉しそうに近寄っていく。

「……くるるん」

 夢でも見るようなローラに、くるるんは頬ずりしていった。その温もりと、仄かなこそばゆさに、思わず現実感が頭をもたげる。

「……ふふ」

 二人は海上を見上げた。白いくじらが、何者にも囚われず、太陽が差す、外の世界へと浮かび上がっていく。

 海上から差しこむ光が、その真っ白な身体を、ぼんやりと青白く浮かび上がらせていく。

 

 

――――――――♪

 

 

 温かな音色。

 優しい声が、重なるように響いた。

 

 

――――――――また、会えるよ

 

 

 暗い影が落ちていく。

 

 

――――――――この世界に生きている限り

 

 

 

 

 

 ざんっ。

 誰かが、海中に飛びこんだ。

 歌声が止み、悶えるようなリズムが、その旋律を乱していく。

 

 

――――…………♪

 

 

 ローラたちは、何が起きたのかわからなかった。だがくじらの様子を見てみると、今の状況が、少しずつ入りこんできた。

 血だ。

 くじらの周りに、赤黒い霧のようなものが漂っている。

 それでも、くじらの歌声は、止まることを知らなかった。

 

 

――――…………♪

 

 

 苦しむように、むせび泣くように、泳ぎ回っている。

 その背中に、太い綱と繋がれた、大きなモリが突き刺さっているのが見えた。

 赤黒い霧が、陽光に煌めき、虹色のように瞬く。

 小さな人影が見えた。海上で、ローラたちを見下ろし、まるで伝説の生き物でも見つけたように身を硬くしている。その顔の辺りで、小さな目玉がぎょっと血走る。これから起こる未来に、何か不穏なものを感じずにはいられないように。

 

 

     ※

 

 

「ヘロン……」

 まなつが、呆然とアニの言葉をなぞった。

「カミサマ……!」

 アニは嬉しそうに笑っていった。

 どーん……!

 遠くから、爆発音のような振動。森の生き物たちが、一斉に、自分の住みかをかなぐり捨てていく。

「何だ……!?」

 あすかが振り向いた。遠くの空に、もくもくと立ち上がっている砂煙が見えた。

「あっちは……」

 みのりがこぼした。

 まなつはその言葉を待たずに、駆けだしていった。小さな背中が、みるみるうちに遠くなっていく。

「私たちも、行きましょう!」

 さんごが言った。

 あすかとみのりは同時に頷くと、呆然としていたアニとともに、村へと続く道を駆けだしていった。

 

 

     ※

 

 

 渦のような悲鳴。

 村人たちが逃げ惑い、声を上げていく。

 虹のような光が舞っていった。

 大口を開ける、巻き貝の怪物へと吸いこまれていく。

「ヤラネーダァッ!!」

 ヤラネーダは、その触手をうねらせて、村外れの丘に落ちついていた。そうして、村の広範囲から、人びとのやる気パワーを奪い取っていた。

 

 

     ※

 

 

 まなつたちは、はっと顔を上げた。

 だんだんと近づく空に、ヤラネーダの結界が見え始めた。

「……!」

 緊張の糸が張り詰めた。

 もっと早く。

 もっともっと、早く。

 足がもつれて、今にも転んでしまいそうだった。

「みんな!」

 我に返った。

 まなつが前を見据えていた。

 その手には、はっきりとトロピカルパクトが握られていた。

 さんごたちは頷いた。

「オーライ!」

 掛け声とともに、五人の姿が遠くなった。森中へと、彼女たちの足音が響いていった。

 

 

     ※

 

 

……………………♪

 

 

 生命が崩れていくような音色。

 くじらの眼が、霧の中で、点滅するように浮かんでは消えていく。

 生まれたての巨体が、鮮やかな血を浴びて、この世界に生まれ落ちていく瞬間――。

 脈々と満ちる生命感が、その眼には表れていた。

 黒々とした夜の瞳が、ローラのことを優しく見守っていた。

 

 

……………………大丈夫

 

 

 鼓動が落ちていく。

 

 

……………………また、会える

 

 

 ローラは涙を浮かべていた。

 沈みゆく生命が、私を優しく見守っていた。

 

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