荒い息遣いが聞こえる。まなつたちの足音が、真っ青な空へと吸いこまれていく。
ざっ、ざっ、ざっ。
彼女たちの鼓動が、村へと近づくにつれて、早鐘のように高鳴っていった。
音を立てて、まなつたちは村の入口へと差しかかった。
さっきまで、あんなにも賑わっていた活気が、嘘のように静まり返っていた。
まなつは家々を見回した。玄関やその軒下、路地の道端には、逃げ遅れた村人たちが、うめき声を上げながら座りこんでいた。子どもたちや、その母親たち、中には仰向けのまま眠っている老人たちもいる。
全員がやる気パワーを吸い取られ、自らの大切な部分を失いかけていた。
「……!」
絶句するまなつたちの前を、アニが走り抜けていった。さっきまで一緒に遊んでいた友人たちが、心を壊してしまったようにしゃがみこんでいる。
「みんな……!」
まなつがやって来た。いくら声をかけても、ゆすっても、子どもたちはゆらゆらと頭を揺らしながら、寝転がっていった。
途方に暮れた表情が浮かび上がった。
後からやって来たさんごたちにも、抑えきれないほどの痛みが浮かび上がっていく。
どーん……!
大気を震わせるような振動。村の沿岸部にある広場で、大きな巻き貝の姿をしたヤラネーダが、村中のやる気パワーを吸い取っている様子が見えた。
「ヤラネーダ……ァッ!」
まなつたちの表情が、確かなものへと変わっていった。トロピカルパクトはしっかりと握られ、その胸元へと、祈りを捧げるように持ち上げられていく。
彼女たちがやるべきことは、彼女たち自身が一番よくわかっていた。
「……行こう」
まなつが呟いた。
彼女たちの指の〈ハートクルリング〉が、青空の陽光へと瞬いていった。
「プリキュア! トロピカルチェンジ――!!」
掛け声とともに、パクトの鍵穴にリングがはめられた。カチッ、と音を立てて鏡面が開き、彼女たちの表情が元気に映しだされていく。
「レッツメイク!」
どこからか取り上げたブラシを掲げて、彼女たちは解放された笑顔を浮かべていく。
「キャッチ!」
パクトのボタンをブラシで押していく。鮮やかな光がぱっと弾けて、その魂を自由に彩っていった。
「チーク!」
さんごが、紫色のブラシを両頬へとなでつける。きらん、と小さな光が跳ねて、彼女の両頬に仄かな赤みと、紫色のハートマークが浮かび上がる。
「アイズ!」
眼鏡を外したみのりが、黄色いブラシでまぶたをなでる。青緑色の艶やかなまつ毛が、それを際立たせるアイシャドウとともに広がっていった。
「ヘアー!」
あすかが、赤いブラシで長い髪を巻き上げる。ぶわっ、と音を立てながら、鮮やかな紅色の髪が、まるで雪が降り積もるように、音もなく降り立った。
「リップ!」
まなつが、虹色のブラシを唇へと塗りつける。まるで見違えるような表情が、桃色の唇とともに、このどこまでも自由な世界を照らしだすように瞬いた。
「ドレス――!!」
煌めくブラシとともに、全員が思い思いの輪郭を描きだす。広がる光線と、自由な世界との狭間には、彼女たちの限りない可能性が、まばゆい光となってプリキュアのコスチュームへと姿を変えた。
彼女たちはこの世界に向けて、たった一人で、かけがえのない自分のことを伝えていった。
「ときめく常夏! キュアサマー!!」
「きらめく宝石! キュアコーラル!!」
「ひらめくフルーツ! キュアパパイア!!」
「はためく翼! キュアフラミンゴ!!」
その誰もが、純粋な光をまとっていた。
「はぁぁーーーっ!!!」
四人は祝福された空間を、ぴょん、と飛び越えた。
「ひるめし前だよ! トロピカル~ジュ! プリキュア!!!」
眩しい光とともに、伝説の戦士プリキュアが降り立った。
「……プリ、キュア」
アニが呟いた。
プリキュアたちは、ヤラネーダへと向き直った。脚に力を込め、目にも留まらぬ速さで躍動する。
「やめろぉぉーーっ!!!」
ヤラネーダが振り返る。こちらに向かってくるキュアサマーの姿があった。
「サマー!?」
コーラルたちは叫んだ。サマーだけが、猛烈なスピードで追い越していったのだ。
「ヤラネーダァァッ!!」
ヤラネーダは触手を操ると、サマーを叩きつけていった。
「うわぁっ!?」
どーん……。
サマーは砂地にめりこんだ。
コーラルたちは、ヤラネーダの前へと降り立った。
ヤラネーダは、怒りを露わにするように、雄叫びを上げていった。
「ヤラネエダァァーーッ!!!」
プリキュアたちが顔面を覆いだす。ヤラネーダは、ドリルのように先端部分を回転させ、飛びだしてきた。
『――ペケ!!』
不可思議な音。コーラルのバリアが、目の前の巨体を遮った。
コーラルの守りは鉄壁だった。だが、ヤラネーダの身体がきしむと、バリアには、ぴしぴしとヒビが入り始めた。
「みんな、避けて……っ!!」
ばんっ!!
音を立てて、バリアが砕け散った。
「コーラルっ!!」
フラミンゴとパパイアは、声を上げていた。もくもくと、煙の中からは、ヤラネーダの鋭い眼光が見上げていた。
パパイアは、イアリングを構えると、まばゆく光るビームを繰りだした。いつもなら、その光線は、敵の視界を捉え、動きを封じてしまうものだった。しかし、ヤラネーダは、くるりと回転すると、貝殻の先端部分でビームを分散させていった。
「ええっ!?」
パパイアの抜けた声が響く。ヤラネーダの触手が巻きついた。気が付けば、はるか眼下の砂浜へと投げだされていた。
「パパイアっ!?」
どーん……。
フラミンゴの目つきが鋭くなった。その目つきがヤラネーダと重なったのは、衝撃音が響いたのと、ほとんど同時だった。
「ハートルージュロッド!」
ポーチからロッドを取りだしていく。
ちゅぱ……っ!
ルージュへと口づけし、飛びだしたハートのエネルギーを、さらに風船のように膨らませていく。
ばーん……!
燃えたぎるエネルギーが、舞い上がっていった。
『プリキュア!』
ラケット型のエネルギーがまとわれた。
『ぶっとびフラミンゴぉ……!』
流れるような髪が、さらに天高くへとはためいていく。
『スマッシュッ!!!』
どんっ!!!
燃えたぎるエネルギーが、思いきり打ち下ろされた。
どーん……!!!
ヤラネーダは、反応する暇もなく、飲みこまれた。
砂煙が晴れると、ヤラネーダはめりこんでいた。柔らかい砂の中に、何本もの触手が、ぴくりともせず垂れ下がっている。
フラミンゴは、鳥のように降り立ってきた。ロッドをいなすように振ると、高らかに両手を掲げていく。
「ビクトリーっ!!!」
叫ぼうとした時だった。
「ヤラネーダアァァーーーッ!!!」
ヤラネーダが跳ね起きてきた。砂煙に揺れる眼光。鋭さが増し、プリキュアたちに向けられた敵意が、ぎらぎらと浮き上がっている。
「倒せない……!?」
フラミンゴが叫んだ。地面から突き出ている、サマーの両脚が揺れた。
「あいつ……、ゼンゼンヤラネーダだよ!」
どうしてわかるのか……。だが確かに、目の前のヤラネーダの特徴は、かつて戦った〈ゼンゼンヤラネーダ〉のそれと、全てが合致していた。ゼンゼンヤラネーダは、ヤラネーダの強化形態であり、ちょっとやそっとの攻撃じゃ倒すことができなかったのだ。
「ヤラネーダァァッ!!」
ヤラネーダが身体を回転させた。砂煙が辺りを満たす。殻に生えたとげが、驚くべき速さでサマーたちへと向かっていった。
「おわぁぁぁっ……!?」
どどどどど……っ!
フラミンゴとサマーは飛び上がっていた。荒れ狂うようにしなる触手が飛ぶと、二人の身体の自由は奪われた。
ぐにゃり。周りの景色がゆがんだ。次の瞬間、目の前には、黄土色の砂地が迫っていた。
どん、どん……っ!!
二つの砂煙が舞う。静寂が辺りを包んでいった。
ヤラネーダが、巻きつけた触手を戻していった。その目は怒りに燃えていた。
煙の中に、二つのシルエットが浮かび上がった。ぐぐぐ、と苦しそうに立ち上がっていく。離れたところに、コーラルとパパイアが倒れていた。いま意識を取り戻したように、歯を食いしばりながら、起き上がろうとしている。
ヤラネーダは見つめていた。たぎる怒りを、ぐつぐつとその目にくゆらせて。
「……みんな」
サマーは呟いた。
「やろう」
三人は頷いた。
「ハートカルテットリング――!!」
新たな技を繰りだすリングが、サマーのロッドへとはまった。
颯爽とロッドを振ると、サマーの腰のフリルが、鮮やかな光と、スカートを覆うほどの長さをまとっていく。
「とびだせ! 元気なハート!」
〈ミックス・トロピカルスタイル〉へと変化したサマーが、くるくると、ロッドの先へと、桃色のエネルギーを浮かべていく。
「優しいハート!」
コーラルは紫色のエネルギーを浮かべていった。
「賢いハート!」
パパイアは黄色のエネルギーを、
「燃え立つハート!」
フラミンゴは赤色のエネルギーを、
「ハートドキドキ!」
サマーの声に、三人が合わせる。
「ドッキング!!!」
すると、サマーのロッドへと、三人のエネルギーが重なり合い、混ざり合って、ひとつのエネルギーへと変化していった。
サマーが、そのエネルギーに口づけをすると、ぴょん、と光が跳ねて、さらに風船のように膨らませると、あろうことか、そこからは、七色に輝く巨鳥が生まれていった。
その胴体は、果物のパパイアの形をし、その翼は、太陽の紅炎のように揺らめいている。そのたてがみは、紫色のサンゴをかたどり、渾然一体の神々しさを表していた。
『プリキュア!』
四人の特徴を合わせ持った巨鳥が、はためいた。
『ミックストロピカル!!!』
ギイヤァァーーーッ!!!
甲高い鳴き声。
巨鳥は、待ち構えるヤラネーダに向けて、羽ばたいていった。
ヤラネーダは見つめていた。甘んじるようににらみつけながら、佇んでいる。
再び巨鳥が吠えた。
その煌めきが、サマーたちの目を、どこまでもくらませていった。
「あ、ちょい待って……!!」
ぐわー、と音が立った。巨鳥は、煌めく星へと姿を消した。
「どうした、サマー!?」
フラミンゴがびっくりした。
「やる気パワー! まだカムバックしてないよ……!? どうしよう……!?」
あ……。
三人は、まるで忘れ物を思いだしたような顔をしていた。
「ヤラネエダァァーーッ!!!」
ヤラネーダの雄叫び。周囲の空気が、震えるようにひりついていく。その怒りが、プリキュアたちを、ひとり、またひとりと吹き飛ばしていく。
鈍い音を立てて、倒れていく。その度に、ミックストロピカルスタイルが、音を立てて解かれていった。
プリキュアたちは目を覚ました。
そこに、暗い影が、ぬっと差した。
どすっ!!
「わぁっ!?」
サマーが、突き刺さってきた触手を避けた。
どす、どす、どす、どす……!!!
矢のような触手が、雨のように降ってきた。
四人は、踊るようにかわしていった。サマーたちめがけて、無造作に、無数に、降り注いでくる。
どどどどど……っ!!!
「何だか、このヤラネーダ……、いつもより、強くない……っ!?」
サマーの声が、砂煙の合間に、乱れ飛ぶ。
「というより、何だか……、すごいやる気……っ」
パパイアが冷静に答えた。
「ひえぇ~~っ……!!」
コーラルはバリアを張りつつ、避けつつ、ペケペケ言っていた。
「言ってる場合か……、お前たちっ!」
フラミンゴが気持ちよくツッコんだ。
「ヤラネーダァァッ!!」
ヤラネーダが、全ての触手を振り下ろした。
どーん……!!!
プリキュアたちの叫び。
大きな砂塵が、ぶわり、と舞った。
もくもくと煙が踊る。そこには、生気のない静寂だけがあった。
しばらくすると、ぼうっと光る何かが見えてきた。紫色に光り、プリキュアたちを覆うように瞬いている。
「みんなっ!!」
コーラルの声が聞こえた。
プリキュアたちは、すでに地面を蹴っていた。
「はぁぁぁーーーっ!!!」
サマーたちの拳が、(サマーだけは頭突き)、コーラルのバリアの下で、ヤラネーダの身体を正確に捉えていった。
どんっ!!!
「ヤッ、ラッ、ネッ……!?」
どんっ、どんっ、どんっ……。
大きく吹っ飛んで……、だがヤラネーダは、ぐっと触手を突き刺すと、体勢を立て直すかのように、ぐるん、と向き直ってきた。
その目には、底すら知れない怒りと、敵意とが、火に油を注いだように燃えたぎっていた。
はぁ、はぁ。
プリキュアたちの息づかいが聞こえた。
戦いはまだ始まったばかりだというのに、もう小一時間はやり合っているような錯覚を覚えてしまう。
これだけやってもダメなのか……?
こんな戦いは、今まで経験がなかったように思えた。
大きな悲鳴が響いた。
サマーたちは振り向いた。
広場の隅で、脚をがくがく震わせたアニが、何かを見上げていた。
大きくとぐろを巻いた、もう一体のヤラネーダ。その空ろな目を光らせて、アニのことを見下ろしている。
「アニッ!?」
サマーが叫んだ。
「もう一体……!?」
フラミンゴが息も絶え絶えに叫ぶ。
「ヤラネーダァッ!!」
プリキュアたちは、すぐにその場へ駆けつけようと身構えた。だが、対峙するヤラネーダが、ぐわっ、と触手を広げると、サマーたちを取り囲むように、じりじりと近づいてきた。
サマーたちは合わせるように、後退することしかできなかった。そんな行動をとる自分たちが、ただただ情けなく、無力だと感じざるを得ない。
ヤラネーダが、ぎらり、と目を光らせた。底のない大口で、目の前の生命を、あっけなく覆い隠そうとしていく。
「やめてえっ!!」
もう間に合わなかった。
プリキュアたちの表情がゆがんでいく。
村の人びとが倒れていく。
これでもう、守るものはなくなってしまう。
「ヤラネーダアァァ!!」
ヤラネーダが叫んだ。
プリキュアたちの声が、ねじ切れるように、吸いこまれていった。
「プリキュアーーーーーッ!!!!!!!!!!」
水を打ったような静けさ。
アニの叫びが、空間に満ちていた。
生き物たちは、動きを止めていた。
ヤラネーダも動きを止めていた。
プリキュアたちは目を奪われていた。
鼓動へと制限をかけるように、動きだすことを恐れるように、身も凍るような黒い霧が、ヤラネーダたちを覆っていた。
「ヤ、ラ、ネ……」
「何だ」
フラミンゴがこぼした。畏怖とともに声が震えた。
サマーが飛び立った。アニを襲おうとする、ヤラネーダへと突っこんでいく。
「アニィーーッ!!」
どかっ!
顔面パンチが揺れる。くるりと回って、渾身のキックを見舞う。
「ヤラネ……ッ!」
どん……っ、どん……っ!
ヤラネーダは、フラミンゴたちのもとへと飛ばされてきた。しびれるように、身体を震わせて、苦しんでいる。
もう一体のヤラネーダも同じだった。触手をばりばりと強張らせ、苦しむような声が、途切れ途切れに落ちる。
「何かが」
パパイアが言った。背筋に恐怖が走る。本来あるべきものを、無理やり捻じ曲げているような、暗く、いびつなパワー。
サマーは、アニへ避難するよう諭すと、すぐにフラミンゴたちのもとへと戻ってきた。
フラミンゴたちは動揺し、何をしていいのかわからないまま、立ちつくしていた。
ヤラネーダたちが、目つきをゆがめ、激しい怒りを露わにするように立ち上がった。真っ黒な霧は、ヤラネーダたちを、なおも最初からなかったかのように、覆い隠そうとしていく。
「……」
暗く、哀しいせめぎ合いが続いていた。
プリキュアたちは、戦慄を覚えていた。
必死に抗うヤラネーダの目が、赤く、激しく燃え上がった。
何か大きい、見えないものへの憎悪をたぎらせて。
「……みんな」
フラミンゴが言った。
「やろう」
「え?」
「このままじゃ、私たちはやられる……。そうなったら、どうなってしまうのか、わからない」
その表情は、見たことのない迷いに揺れていた。
「でも、ローラが……」
サマーが言いかけた。ヤラネーダたちが立ち上がる。プリキュアたちに向けて、やり場のない憎しみをたぎらせる。
「今は、待っていられない」
パパイアが言った。冷静に見えるが、その眼には、焦りのまばたきが走っている。
「でも、きっと五人でやれば勝てるってぇ!」
「本当か?」
フラミンゴが遮った。
「一体でもあれだったのに……、本当に、あいつらに勝てると思うのか?」
その迷いを、振り払うかのように。
「でも、やる気パワーが……」
足音が近づいてくる。
「それじゃ、みんなのやる気パワーが戻らないよ!」
怒りの足音が、近づいてくる。
「ねえ!」
コーラルが叫んだ。
「ここで、私たちがやられたら……、一人で戦わなきゃいけないのは、ローラだよ」
足音がやって来る。
何か、見えないものへの憎悪をたぎらせて。
「……サマー」
フラミンゴが、サマーを見つめた。
フラミンゴだけではなく、コーラルも、パパイアも、見つめていた。
サマーは応えられなかった。
大事なことを選ぶ。
そんなこと、できるわけがなかった。
サマーは目を閉じた。
まぶたの裏に、大切な人びとが浮かび上がってくる。
アニ。
サラ。
ラウラに、カブロスさん。
知らない、でも知っている人たち。
その違いに、何の意味があるだろう。
まなつは祈った。
苦しかった。
どうすればいいのか、教えてほしかった。
――――――――会えるよ
声だった。
いつか聞いた、友だちの声だった。
――――――――この世界に生きている限り
まなつは目を開けた。
鼓動が脈を打つ。
でも頭はさえていた。
キュアサマーは目を開けた。
「……みんな」
プリキュアたちは振り向いた。
「守ろう」
その目は、ヤラネーダを見据えていた。
「ハートカルテットリング!!」
リングが、サマーのロッドへとはまった。
「プリキュア! ミックストロピカル――!!!」
掛け声とともに、鳴き声が響き渡った。
天高い星から、巨鳥が舞い戻ってきた。
そこは、ヤラネーダたちの頭上だった。
ばーん……!
巨鳥が、ヤラネーダを包んでいった。
「ビクトリーっ!!!!!」
どっかーーーん!!!
四人の躍動。
ヤラネーダの身体が、七色の光とともに弾けていった。
青空が澄み渡った。
ヤラネーダの結界が消えていった。
取りこまれていた貝がらが、ふわふわと宙を舞って、元の姿へと戻っていった。
戻ってくるものは、何もなかった。
冷たい風が吹いていた。
「プリキュアーーっ!!」
微かな叫び。
アニが立ち止まる。
ぱんっ。
軽やかな音。
まなつたちの変身が弾けていった。
魂を抜かれたようだった。
冷たい風が、頬をなでていく。
寒いとも辛いとも、感じなかった。
あらゆるものが失われていた。
私たちは、何をしたんだろう。
誰かが、胸の中で呟いていた。
歌声が聞こえた。
海の彼方から、願いを託すように響いている。
舟に揺れながら、祈るように歌っている。
悲しみが、風に乗って。
孤独が、その旋律に乗って。
漁に出た男たちが、帰ってきていた。
大きな獲物を、舷側に連れながら。
白い身体が、青い線に途切れる。
その黒い眼が、白波に砕ける。
まなつたちは、見つめていた。
その抜け殻のくじらを、呆然と見つめていた。