ソードアート・オンライン Youth in Aincrad   作:ユーカリの木

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これが、比企谷八幡なりの冴えたやりかた 2

、アスナが要点をまとめる。

 

「やることが決まったつうか、増えてンなあ」

 

 クラインがぼやくが、その瞳に負の感情は無い。ただし、あるのは怒りだ。彼もまた、怒ってくれているのだ。

 

 まあまあ、とキリトがクラインの肩を叩く。以前は何かがあった様子だったが、いまは相変わらず仲がいい。

 

「アルゴ、なにか続報は?」

 

「ごめン。これ以上は情報が出てこないヨ」

 

 アルゴが力ない声で答える。《軍》のトップにいながらここまで情報が出てこないというのは、そうとう情報操作に特化しているということか。いちいちやりづらい相手だ。面倒だからナイフエッジ・デスマッチしようぜ。こっちはクライン出すからさあ。あいつ喧嘩強そうだし。

 

「それよりも、処刑の時間はいつなの? それを知っていないとタイムリミットも分からないよ?」

 

 首をかしげたアスナの言葉に反応したのは、アイシアだ。

 

「明日の十時です」 決定的に情報が足りない。

 

 俺は苛立ちを込めて机を叩き、額に手を当てる。

 

「落ち着きな」

 

 しんと静まりきった室内に、サキが言う。

 

「ハチマン、あんたひとりで考えすぎ。折角頼ることにしたんだからさ、もうちょっと色々話そうよ」

 

 確かに、俺はなぜひとりで考えていたのだろう。まるですべて背負った気になっていたように。サキには本当に頭が上がらない。今度デートに誘ってやろう。断られたらどうしよう……。

 

 よし、無駄口が思考に混じってきた。

 

「うっし、俺の結論を言おう」

 

 みなが一様に俺を見る。キーボードを連打するアルゴも、視線は俺の方を向いている。

 

 いい? 言うよ? 呆れないでね?

 

「分からん!」

 

 全員が同時に項垂れた。サキだけが腹を抱えて笑っている。足をバタバタとさせながら笑っていやがる。いっそ清々しいんですけど、そこまで笑うのやめてくれる? ハチマン頑張って考えたんだよ……。

 

「いや、まて、俺は悪くない! 社会が悪い!」

 

「ハチ、そこでその発言はどうなんだよ……」

 

 キリトが呆れ顔で突っ込む。

 

「まあまあキリトくん、確かに現時点で対応策を検討するのはなかなかに難しいと思うよ?」

 

 キリトの肩に手を軽く手を乗せたディアベルが俺を擁護する。

 

 実はそうではない。

 

「いや、案なら六通りほど考えた。ただ、どれも具体性に欠けてな……」

 

「六通りも!?」

 

 突如全員の声が揃う。なんなの君達、なんかの戦隊ヒーローなの? まだ日曜朝じゃないぞ?

 

 折角だ、案を話して精査していこう。

 

「案一、処刑場へ乗り込んでの救出。当然殺し合いになるから却下」

 

 キリトは採用したそうにうずうずしていたが、そんなものは却下だ却下。お前さん、実はそういう逆境好きだろ。対してディアベルは渋い顔だ。さすがに大人だ。

 

「案二、先にも話題に上がったように、圏内にいる間に救出。これも陽動作戦込みでも本拠地へ乗り込むのは現時点で地図もないし却下」

 

「確かにね。さすがに数千対五ってのは無理でしょ」

 

 当然なサキの結論。

 

「案三、ユキノの冤罪を晴らす。時間がないし無理」

 

「そもそもよお、事件の内容が分からなきゃ冤罪もなにも分かんねえよなあ」

 

 クラインの言うことは最もだ。だから一番無い案だろう。

 

「案四、ユキノの身柄を金で買う。人身売買みたいだが、できないことは無いとは思う。これは結構いい案だとは個人的に思う」

 

 倫理観はどうあれ、金でユキノの命が買えるのなら安いものだ。でもみなの反応はいまいちだ。

 

 あれ? 結構いい案だと思ったんだけどなあ……。やっぱり、女を買うっていうニュアンスに聞こえるのかな? 下衆いなこの案。無しだ無し。

 

 気を取り直して続ける。

 

「案五、他ギルドを巻き込んでアインクラッドに政府を作る。そして奴らの違法性を糾弾する。が、これも時間がない。実際問題、作ってもいいとは思うがな」

 

「作るなら長はハチマンだナ」

 

 アルゴがまぜっかえす。やりたくねえよ。俺は働きたくねえんだよ。将来の夢は専業主夫だしな。でも、サキと……ごにょごにょ、な関係になれたら、家事スキルあいつの方が断然上だし、やっぱり働こう。

 

 こほん、とおかしくなった思考を戻して俺は続ける。

 

「案六、各ギルド連中の長に情報を連携し、本案件に関してSAO代表者を募り、処刑に関する投票採決へ流れを持っていく。現実的にやれるのはこれくらいだが、最後にふと思いついただけだから、正直微妙かもしれん。以上をもとに、なんか意見くれ」

 

 目を丸くしたアスナが胸の前で手を組んでいた。

 

「ハチ君、たったあれだけの時間でそこまで考えたの……? すごい……」

 

 なんか拝むようなことされてるけど、何も出ないよ? 名前は大菩薩っぽいけど、ハチマン人間だよ。

 

 そのときだった。絶えずキーボードを叩いていたアルゴの手が止まった。

 

「ハチマン! 有力な手がかりが出そうダヨ! この街に財務部の秘書官が逃げてきたそうダ。ハチマンとサキちゃんを捜してるみたいダ。場所をここに指定したケド、サキちゃん大丈夫?」

 

「構わないよ。迎えに行った方がいい?」

 

「本人は大丈夫だと言ってるそうだヨ。すぐ来るみたいダ」

 

 よし、っと俺は手の平を拳で叩いた。これで少しは状況が変わるかもしれない。

 

 十分後、息も絶え絶えにひとりの少女がサキの部屋に現れた。淡い銀色の髪をした少女が、息を切らして部屋を見渡し、その場で膝をつき頭を下げた。

 

「ここに、ハチマンさんと、サキさんという方がいらっしゃると伺いました。お願いです。ユキノさんを助けてください!」

 

 サキが前に出て膝を落とす。土下座体勢の少女の肩にやさしい手を置いた。

 

「顔をあげな。ユキノはあたしとハチマンが必ず助ける」

 

 少女が顔を上げる。瞳には堪えていたのだろう、大粒の涙が溢れんばかりに溜まっていた。

 

「ただ情報が足りないんだよ。だから、あんたの情報をあたしたちに教えてほしい。安心しな、ここにいるみんな、あんたの味方だから」

 

 少女が見渡した先には、アインクラッドの最前線で戦う一級の戦士達だ。少女の瞳が驚愕に揺れる。

 

「ま、まさか……。ディアベルさんに、キリトさん、アスナさんまで……」

 

 さらっとクラインが抜かれてる……。あいつ、地味だけど強いんよなあ。可哀相に。

 

 クラインも空気を読んだか、泣きそうになる顔だけでリアクションは取らなかった。

 

 まあ、一応俺も挨拶くらいしておくか。

 

「俺がハチマンだ。ユキノの、リアルの同級生で同じ部活仲間だ。あいつは絶対に救う。だから、こいつが言ったように情報を教えてくれ。まずはそれからだ」

 

 あと、と俺が続ける。

 

「名前、教えてくれねえか?」

 

 あっと驚いたように少女は立ち上がる。

 

「申し送れました。私、アイシアと申します。元は《軍》の財務部でユキノさん専属の秘書官をやっておりました。ここに来たのは他でもありません。《軍》の資金横領で処刑されることになったユキノさんを助けてほしいんです」

 

 俺は自然と眉が上がるのを感じた。

 

 横領とは、ゲームらしからぬ言葉が出てきたではないか。ニュースや小説の中でのみ聞く言葉で、まさか身近でそんな話題を耳にするとは思わなかった。

 

 なにより、あの高潔なユキノがそんなことをするはずはない。

 

 そういえば、由比ヶ浜も金にはうるさかったなあ……。

 

「経緯は分かる? あたしもユキノがそんなことするようには思えないんだけど」

 

 頬に手を当てたサキがアイシアへ問いを投げる。しかし、アイシアは首を振った。

 

「私も分からないんです。ただ部門長会議でそのような議題があがると同僚から情報を横流ししてもらいまして、だからユキノさんへ逃げるように進言したんですが……」

 

「あいつはどうした」

 

 今度は俺が問う。大体答えは分かっている。どうせ、

 

「戦うと。証拠をすべて揃えて私の無実を勝ち取ってみせると。だから、私の心配はしないで良いと言っていました」

 

 やはり、ユキノらしい言葉だ。根本のところは、やはり変わっていなかったらしい。

 

 思わず笑みが零れる。

 

「だけど、この様子じゃ失敗したワケだね? しかもさっきの今なんて、大所帯の組織にしちゃあ判断が早すぎるじゃないか」

 

 サキの疑問は最もだ。逮捕して翌日処刑とか、いつの時代だよ。野蛮人かよ。裁判やれよ裁判。ここ法治国家だろ。あ、ゲームの中でしたね……。

 

 その疑問にアイシアが震える声で答える。怒りを抑えるような声だ。

 

「まるですべてが仕組まれていたみたいに、その後、内部監査室がやってきました。罪状を言い渡されたユキノさんは、女性監査官にそのまま連れ去られました。すぐ後にひとり残った私に、監査官がこう告げたんです。彼女は明日処刑されると」

 

 なに? 内部監査室まであるの? どこの企業だよ。

 

 それより、アイシアの登場を受けてからもやもやしていた疑問が、ようやく形になった気がした。

 

 手際が良いのにアイシアを野放しにしている。

 

 その後、アイシアが会議室へ殴りこみに行き、現団長のアポストルの言葉に勝てずギルドを辞め、ユキノの最後の言葉を思い出してここに来たところまでが語られる。

 

 なかなかどうして、

 

「最悪な相手だな。アルゴ、調べろ。たぶんそいつがビンゴだ」

 

 アルゴが再びキーボードを叩き始める。

 

「だろうネ。単純な罠に引っかかっていたわけダ。情報屋としては面目躍如させてもらうヨ」

 

「ハチ、どういうことだ?」

 

「ハチよお、俺にも分かるように教えてくンねえか?」

 

 キリトとクラインが同時に聞いてくる。分かってるから、説明するから同時にしゃべるんじゃねえ。俺は聖徳太子じゃねえんだから。

 

 一応アスナを見る。アスナは既にピンと来たのか納得顔をしていた。俺と目が合い、ひとつ頷く。どうやら彼女が説明してくれるらしい。

 

「つまりね、第一層のあの事件の黒幕ホーリィの本当の名前がアポストルだったってわけ。私たちはキバオウさんの一言やディアベルさんの言葉でそれを本当の名だと思いこんでいたけれど、実際は違った。で、合ってるかなハチくん?」

 

「満点だ」

 

 アハ、とアスナが笑う。初めてあった頃よりも随分と明るくなったようだ。サキのお陰だな。

 

「ハチマン、すまない。俺としたことがそんなことにも気づけなかったなんて……」

 

 ディアベルが頭を下げてくる。こいつは、いちいち細かいところを気にする奴だ。一体何ガヤ何マンなんだ。この前までの俺だよ……。

 

「気にすんな。俺もアルゴも見事にやられた口だ。ディアベルが悪いんじゃねえ」

 

 そのとき、アルゴが「参ったネ」と口を開いた。みなの視線がアルゴへ集中する。

 

「情報によると、《軍》に入ってから約二ヶ月足らずで副官まで上り詰めたようだヨ。しかも、かなりの人身掌握術の使い手らしいネ。毎日会話をしているだけで、徐々に彼に信仰心を持ち始める者が多いみたいダ。恐らくそれで上まで行ったんだネ」

 

「確かにその通りです」

 

 アイシアが話題を引き取る。

 

「彫像みたいな美青年で神々しくて、声は耳障りがよくて、聞いているだけですーっと心に入ってくるようなんです」

 

 一見すると褒めちぎっているようにも見えるが、アイシアの声には例えようの無い怒りが孕んでいる。

 

「最初は分かりやすく話し、気づけば変な理論に持ってかれるんです。だけど、どう言えばいいんでしょう。逆らえないんですよあの言葉に。ふと気を抜くと丸め込まれてしまうというか、そんな感じなんです」

 

「身に覚えがあるだけあって、ますます本人な気がしてきたよ」

 

 ディアベルが苦い表情をする。彼もまた、第一層で利用された口だ。

 

「大体人物像が見えてきたな。あと目的もこれである程度推察できる」

 

 全員の視線が集まる。みな真剣だ。

 

「アポストルってやつは、外見がよくて内面はぐちゃぐちゃだ。アイシアを逃がした一手が如実にそれを示している。ようは誘ってんだよ。こいつを助けたければ来いとな。俺を誘い出しているのか、それとも人を操って神様気取りの遊戯でもやっているつもりになっているのかは知らんがな。アイシア、《軍》内部に俺とサキをユキノと繋いで考えられる奴がいるか?」

 

 アイシアは首を振る。

 

「たぶん無いと思います。ユキノさんは、他の方もそうですけれど、リアルの話は一切しなかったので。ハチマンさんたちのことだって、たぶんあのときだから教えてくれたんだと思います」

 

 当然だ。一昨日の今日でそこまで準備されたら人間業じゃない。予め犠牲者としてユキノは選ばれていたのだ。

 

「なら俺の線は消えたな。くそったれの後者の確率が上がっただけか」

 

 なあ、とクラインが口を開く。

 

「そのユキノさんって美人なのか?」

 

 は? とこの場にいる全員から非難の眼差しを受けるクライン。泣きそうになってんじゃねえか。少しは生暖かい温度にしてやれよ。三十六度設定くらいに。

 

「ち、ちがうって。思ったンだけどよお。もしそのユキノさんが美人ってことになれば、傍から見たらそりゃあもう、話題性抜群だよなあ?」

 

「ま、絵面的にはジャンヌダルクかもな」

 

 適当に俺が返す。

 

「それって理由になンねえの?」

 

 全員が疑問顔。だが、俺は思案する。こういうとき、クラインのバカ発言はたまに的を射ている。だから呼んだのだ。

 

「待て、考える」

 

 アイシアから聞いた、まるで聖職者のような語り口。ホーリィという名前。訳せば聖なる、もしくは聖なるかな。アポストルは……なんだ、思い出せない。

 

「アポストルの日本語、誰か知ってるか?」

 

「使徒だよ、ハチくん」

 

 ノータイムでアスナが答える。こいつ、頭いいのな。

 

 思考を戻す。まるですべてが宗教に関している用語が集まっている。まるで意図でもしたように。それにジャンヌダルク。あれも確か、宗教関係だったか。

 

 再現しようとしているのか? だが、話した限りユキノはそこまで表に出てきていない。出てきたらもっと前に俺たちが気づく。伊達に最前線を張り、情報屋のアルゴと仲良くしているわけではない。

 

 ならば、意図的に隠していた? 初めから狙いを定めて、表に出ないように情報を操作していた?

 

 確かに、ユキノは強い女性だ。ゲームはともかく、事務処理系ならば相当な辣腕を振るっていただろう。そして角も取れたとなれば、人望も厚くなったに違いない。

 

 邪魔だった?

 

 いや、それはない。そんな考えで動くような奴じゃないと俺の勘が言っている。

 

 ここでクラインの言葉から発想した言葉を思い出す。

 

 ジャンヌダルク。たしか罪状は不服従と異端の嫌疑。不服従とは、俺と接触したことか? 見られていたのか? 待て、その可能性は排除したはずだ。

 

 いや、まさか……待っていたのか? 俺か、それに類するアインクラッドの罪人と接触するその瞬間を。

 

 奴が描いたシナリオを沿わせるためだけに、ただ面白がりたいがために。

 

 辻褄は……合うのか?

 

 そこまで考えて、サキにそっと背を叩かれる。

 

「ハチマン、話して」

 

 俺は頷く。ある程度思考は整理された。あとは、こいつらに判断してもらおう。

 

 

 

 俺の意見を話すと、ある者は呆れたように、ある者は驚愕したように、またある者は感心したように、三者三様の態度を示していた。

 

 つまり、どうなの?

 

 俺は全員を見渡す。

 

 最初に発言したのはキリトだ。

 

「ジャンヌダルクの末路を模そうと考えているかもしれない、ということは分かったけどさ。結局どうすればいいんだ? 俺たちは相手の目的を知っていてもいいけれど、とにかくはユキノさん救出が主題だろ?」

 

 分かっている。だが、目的が分かれば何かしら活路が見出せるかもしれない。回り道かもしれないが、考えておいて損はない。なぜなら手詰まりに近い状況なのだから。

 

「キリトくんの言うことはもっともだ。だが、相手の目的が分かればそこを突くことはできる。ハチマンが考える限り、今回は相手が罠を張っている可能性が高いということは分かっているんだ。これは大きな情報だよ」

 

 腕を組んだディアベルが言った。

 

「そうだね、だから救出計画は前提に何かを想定しておいたほうがいい。時間の許す限り、できるだけ多く、ね」

 

 サキの言葉に、キリトも頷いた。

 

「乱暴な手段を取るなら、要所はふたつだな」

 

 ふと、俺は思いついたことを口にする。

 

「ひとつはユキノの救出。もうひとつは、奴らの首魁アポストルの拘束。奴は洗脳に近い形で《軍》を従えている。ここで抑えなければ早晩また何かが起こる。というか俺が殺してえ」

 

 サキに刃を向けたことを忘れたとは言わせない。俺はきっちりと覚えている。落とし前をつけさせなければ、未だ上がったままの溜飲は下げられない。

 

「殺すはともかくね、ユキノさん救出。アポストルの拘束。このふたつを達成できればいい、ということ?」

 

 無駄な言葉の入った俺とは異なり

 

 現在時刻は回りに回って午後十五時過ぎ。残り時間は十九時間。さすがに時間がなさ過ぎる。選択肢を削って正面対決をするのが腹か……。

 

「参ったな。俺の案の三つはこれで潰れたな……」

 

「案四五六だね。確かに、時間的余裕は無いね」とサキ。

 

「因みに、横領額はいくらなんだい?」

 

 ディアベルが純粋な疑問という形でアイシアへ訊く。

 

「額は……すみません、分かりません。ただ、会議での発言を聞く限り、億は超えるかと」

 

「案三も潰れたね」

 

 サキが疲れたように言う。

 

「実質残ったのは案一、二か」

 

 キリトも先ほどのようなうずうずとしたものではない、焦燥感が溢れる顔で言う。

 

 ディアベルが思案顔でウインドウを開き、キーボードを叩き始めた。俺は咄嗟にその手を取って無理やり止める。

 

「てめえ、何するつもりだ」

 

「ギルドメンバーへ協力を要請する」

 

「それはありがたい。だが、それは《軍》と《ブレイブ・ウォーリア》が全面衝突することになるぞ。SAOでギルド対ギルドの抗争状態に入る。そうすれば他のギルドでも同様のことが起きかねない。言ってみりゃ、第一次SAO大戦なんてことにもなるぞ」

 

 ディアベルの頬が引きつる。だが、瞳の中に宿る意思は強い。ディアベルだってそれくらいの危険性は考えている。それでも、ユキノを助ける一心でこうして動こうとしてくれている。それは、俺だって分かっているのだ。

 

「だけど、手段が限られている以上、こちらも数を増やすしかないだろう?」

 

 ディアベルはギルドメンバーを参加させ、率いるつもりだろう。傍から見れば難癖をつけ、ギルドで総攻撃をしかける――ギルドで総攻撃を仕掛ける?

 

「いや、待て、ちょっと考えさせろ」

 

 いけるか? 一、二の案より確実か? 考えろ。理詰めしていけ。

 

 約五分間考え続け、考えが纏まった。

 

「ディアベル、助かった。お前の行動がなけりゃ思い浮かばなかった」

 

「え、まさか起死回生の一手を思い浮かんだのかい?」

 

 ディアベルの反応に、俺はこう返す。一度は言ってみたかった言葉だ。

 

「それを言うならこうだ」

 

 ――たったひとつの冴えたやりかた

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