ソードアート・オンライン Youth in Aincrad   作:ユーカリの木

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そして、囚人は邪竜と戯れる 4

 緑龍討伐から五日経った。四体すべての龍が討伐され、遂に迷宮区を守る結界が破壊された。

 

 俺たちは再び《アルゲート》の会議場へ集まっていた。

 

 すり鉢上の中央には、今回もやはりディアベルが立っている。俺たちとは反対側には、《聖龍連合》の面々が座しており、俺たちの姿を見つけてバツの悪そうな顔をしている。シヴァタの方は、男らしい笑みを浮かべて目礼してくれた。俺も軽く手を上げて返す。

 

 あれからリンドの側近であるシヴァタが直接お礼と謝罪に来た。しかし、リンドはついぞ来ることはなかった。別にいいんだけどね。

 

 俺の隣には当然サキ、左にはキリトとアスナ。この前の討伐後の祝勝会で完全に心を許したエギルも俺の後ろに座っている。クラインはギルド長としての立場もあるため、少し離れたところにギルドメンバーと座していた。

 

 ディアベルが声を張り上げる。

 

「みんな、今日も集まってくれてありがとう! 早速最後のフィールドボス攻略会議に移りたいと思う! その前に、まずは四体のフィールドボスの討伐お疲れ様! みな誰一人欠けることなく討伐することができて俺は嬉しい! これも協力の結果かな?」

 

 さらりと嫌味を付け加えるディアベル。この辺は俺の癖が移ったか?

 

 リンドの表情が軽く歪む。いい気味だ。

 

 さて、とディアベルが本題に入る。もちろん手にはアルゴお手製のガイドブックだ。

 

「今回のフィールドボスは茶色の龍という情報が記載されている。言いにくいから地龍としようか。この地龍だが、やはり情報が少ない。約五十メートルの幅で高い崖に囲まれた場所で待ち構えているということだけが分かっている。恐らく、いや、間違いなく四体のフィールドボスとは一線を画する力を持っているだろう!」

 

 茶色の竜はフィールドでは見かけていない。色からして地面系の攻撃をしてくるタイプだとは思うが、実際に目にしないと分からないだろう。やはり偵察が必須か。俺がそこまで考えていると、ディアベルも同じことを口にする。

 

「地龍の特性がフィールドの竜から推測できない以上、今回も偵察隊を組もう! 場合によっては大部隊で当たる必要があるかもしれない。では、偵察隊のメンバー選別会議に入る!」

 

 各ギルドの長達がディアベルの下に集まり、メンバー選定を行っていく。俺とサキ、キリトやエギルはソロ組なため、本来は一応出向くべきだがいつもディアベルが代行してくれている。マジでディアベルいい人。

 

「ハチマン、今回はどんな奴だと思う?」

 

 後ろからエギルが訊いてくる。俺は思案気味に答える。

 

「そうだな。地震とか発生させるんじゃねえか? あとは溶岩とかブレスで吐いてきそうだな。もしくは土砂か? まあ、面倒な相手には違いないだろうな」

 

「でも地龍ならさすがに空は飛んでないよな」

 

 青龍を倒したキリトが会話に加わる。今回はどうやらLAボーナスは逃したそうで、討伐後に話したときは悔しそうにしていた。

 

「さあな。あまり先入観を持たないで行った方がいいかもな。でないと死ぬぞ?」

 

 特に緑龍の球体攻撃とか未だに謎だし。あれなんだよ。未知のブラックホールかよ。黒くなかったけど。

 

 同じく青龍討伐に参加していたアスナも入ってくる。

 

「でもハチくんもサキさんもすごいよね。結局二体も倒しちゃうんだから」

 

「死にそうだったけどね……」

 

 サキが心底うんざりした顔で言う。同感だ。二度と戦いたくない。できれば今回も討伐隊から辞退したい。ディアベルに怒られるから言わないけど……。

 

「ふたりともLAボーナスの武器持ってるんだろ。羨ましい」

 

 さすが武器大好きフリスキーのキリト。目的はそっちか。

 

「なら地龍のときはLA頑張ってくれ。後ろから応援してるからよ」

 

「おいおい、今度はオレに取らせてくれよ」

 

 エギルが笑いながら混ぜっ返す。

 

「私も欲しいな~。キリト君、レイピアなら頂戴ね」

 

 アスナはキリトにおねだり。キリトは後ろと左から攻撃され、うぅと小さく唸る。おうおう、可哀相に。

 

「で、サキ。あの槍の感触はつかめたか?」

 

 サキに聞いてみる。

 

 あれから毎日サキと対人戦闘訓練を行っていたが、使い慣れていないのか、ここ最近は俺が勝ち越している。サキは随分と悔しがっていたのだ。

 

「次は勝つよ」

 

 当然だと言わんばかりにサキが豊満な胸を張る。目が行っちゃうからそういうのやめてね。

 

「あ、訓練するの? 私も行きたい!」

 

 アスナが会話に加わってくる。

 

「オレも頼めないか? さすがにあそこまで技量に差があると大人として情けなくてな」

 

 エギルも依頼してくる。となれば、

 

「俺もいいか? 久しぶりにハチとサキさんと全力でやりあいたいし」

 

 やはりキリトもか。まあ、向上心があることはいいことだ。隣ではサキが声には出していないがにやついている。やはり戦闘狂になっちまった……。元は対PK戦を考慮した訓練なのに、いつのまにかサキの楽しみと化しているようだ。やだなあ、怖いなあ。でもサキのこと好きだからいいや。

 

「とりあえず地龍を倒してからだ。最近戦ってばっかで疲れてるんだよ。休みたい」

 

 俺の発言に、「確かに」と全員が頷く。五十層に来てから戦闘続きなのだ。そろそろ家でゴロゴロしたい。あとデートとかしたい。まだ付き合ってないのに毎日刃を混じり合わせてるとか、どんだけ怖い彼氏彼女の関係なんだよ俺たち。

 

 そうこうしている内に偵察隊選抜が終わったのか、ディアベルがこちらへ来る。

 

「や、みんな。みんなは疲れてるだろうから偵察隊からは外しておいたよ。しばらくはゆっくりしてくれよ」

 

 爽やかな笑みとサムズアップと共に、ディアベルが告げる。やべえ、ディアベル超いい人。

 

「マジか、サンキューなディアベル。今度絶対に飯驕ってやるぞ」

 

「え? ホントかいハチマン? それは嬉しいな! ありがとう、今度声かけるよ!」

 

 心底喜んでディアベルが去っていく。中央でまたディアベルが会議を開始し、偵察隊メンバーの名を告げていく。偵察は万全を期すとのことで、二日後に行われるようだ。その後、偵察が終わってから攻略会議を行うこととし、会議は解散となった。

 

 そこで皆と別れ、俺たちは家へ向かう。三十三層の《ラーヴィン》の転移門から家までの帰り道、俺の腕を抱きしめていたサキがぼそりと呟いた。

 

「デートしたい……」

 

「お、おう」

 

 いきなりの言葉に動揺し、アシカのような返事をしてしまう。サキが俺を見る。何かを求めるような甘い瞳。さすがに街中だから我慢しているようだ。

 

「ハチマン、明日デートしない? ふたりで、ランチバスケットを持って」

 

 直球の言葉に、俺の顔が熱くなる。きっと赤面しているだろう。それより、船着場で額ぶち抜かれそうな台詞だな、サキ……。あの双子編は泣いたなあ。作者には是非続刊を出してほしい。

 

「ああ、そいつは素敵だな」

 

「あのとき、ちゃんと見きれなかったあの場所にまた行こうよ」

 

 二十二層のことを言っているのだろう。確かに、あれ以来足を伸ばしてなかったな。たまにはいいだろう。

 

「おう、しようぜデート」

 

 うん、と素敵な笑顔でサキが笑う。俺はその笑顔を見て、明日を迎えるのが楽しくなった。

 

 そして向かったのは――

 

「なぜここなんだ……」

 

 当然修練場だ。今日は何するかと問えば、サキが甘えた声で「戦いたい」と言うのだ。ちょっと顔と台詞の中身が合ってませんよねえ? やだ、この子やっぱり戦闘狂?

 

 翡翠の槍《ヴァルキュリヤ》をぶん回し、瞳で「早く早く」と俺をせかす。おかしいな、俺の彼女、こんなんだっけ?

 

 仕方なしに俺は《デスブリンガー》を抜いて構える。まあ、俺も結構楽しいし。今日も勝つぞーと勝負を始める。

 

 そして――

 

 負け越した……。もうやだ……。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 翌日、朝から俺たちは二十二層《コラルの村》を抜けて、ゆっくりと南へ向かって歩いていた。以前と同じように、サキは俺の腕を抱きしめている。異なるところは、今回は恋人同士としてこの道を歩いているということだ。

 

 冬だというのに様々色彩を見せる風景を楽しみながら、俺たちは歩いていく。目的地は特にない。ふたりでいられればただそれだけで良い。

 

 ふいに、サキに名前を呼ばれる。

 

 顔だけ振り向くと、微笑するサキの顔が俺の瞳に映る。

 

「あたし、幸せだよ。あんたと一緒になれて、こうしてふたりで歩けて」

 

 言葉が出なかった。

 

 サキにはいつも優しい言葉をかけてもらっている。隣にいたいと、恋人になる前から言われたこともあった。だが、こうして幸せだと言われて、俺は言葉を失った。

 

 自分のことが好きで、最近は仲間に溢れているのだとしても、俺の本質はそうそう変わるものではない。根っこの部分はやはり人の言葉の裏を読み取ろうとしてしまう。キリトも、アスナも、ディアベルも、クライン、エギルも、皆いい奴らだ。だから心底信じている。

 

 でも怖い。過去を振り返るたびに俺を見つめてくるあの瞳たちが、仲間たちからいつか向けられるのではないかという恐怖がある。サキもそうだ。近い将来、俺に失望して去ってしまうのではないかと思うときがある。

 

 いまが幸せだから。一瞬一瞬すべてを切り取って保存しておきたいと思うほどに、幸せだから。俺は、怖いのだろう。

 

 よく、持たざる者は強いと言う台詞がある。俺が好きなはずの台詞だ。きっと、いまの俺は過去の俺よりも弱くなった。孤高から外れ、人の輪に入ったことで弱くなった。人間強度はだだ下がりだ。

 

 そう、だから。

 

「ありがとな。そう言われて、俺は……すごく嬉しい」

 

 嬉しかった。きっとサキは俺を裏切らないと心底思えた。性根の部分からそう感じられた。

 

 再び、サキが俺の名を呼び、頬に手を添えた。

 

「泣いてるよ」

 

 言われて気づいた。視界が七色に煌いている。喉の奥が幸せで熱い。

 

 これは嬉し泣きだ。

 

「うれしいんだよ。だから泣くんだ」

 

「あたしの前じゃ、素直になったね」

 

 サキが指でやさしく涙を拭ってくれる。俺は精一杯笑う。相変わらず不恰好な笑いだが、この場面ではそれがきっとよく似合う。

 

「どうせ全部見られてるしな。素直になることにしたんだ」

 

「ん、そんなあんたも好きだよ」

 

 サキが俺の胸に頭を置いた。首筋に艶のある髪が触れる。自然とサキの頭を撫でる。透き通るような柔らかな髪は、触れているだけで気持ちよかった。

 

 んっ、とサキが気持ち良さそうに声を出す。

 

「あんた、撫でるのうまいよね。妹にしてたの?」

 

「まあな。小さい頃、よくぐずったときにこうしてた」

 

「お兄ちゃんは大変だね」

 

「お姉ちゃんも大変だろ」

 

 サキがくすくすと笑う。

 

「あんたもさ、わがままいいなよ。いつもあたしばかりだからさ。なんでもいいんだよ。言ってごらん」

 

「なら、抱きしめてくれ」

 

「うん、いいよ」

 

 ぎゅっとサキが俺の身体を抱きしめる。女性特有の柔らかさが全身に広がって、心地よかった。

 

俺も抱き返すと、サキが吐息を漏らす。

 

 幸せだった。なによりも、今までで一番を更新し続けるほどに。

 

「あんた、やっぱり頑張り過ぎだよ。あたしにもっと甘えて」

 

そんなつもりは無い。ユキノと仲直りしてから、俺は週休二日の超ホワイトな仕事の仕方をしているのだから。だが、サキが言うのだから甘えてみたかった。

 

「そうするわ」

 

 じゃあ、とサキが小さく呟く。恥ずかしそうなかすれ声。

 

「する?」

 

「なにをだ?」

 

「その……えっちぃこと」

 

 はい?

 

 突然真顔になる俺。身体を離したサキが頬を赤くして俺を見上げている。え、なに言ってるの? これゲームだよ? 無理アルよ? 口調がエセ中国人ぽくなってるじゃねえか。思いっきり動揺しちゃったよ。

 

「や、ゲームだろこれ。んな十八禁なことできねえだろ」

 

 ふるふるとサキが首を振る。え、できんの? 知らなかった。ハチマンびっくり!

 

 茅場め、こんな事件起こしておいてそんな機能まで入れるとか、まじで最低のエロ魔人じゃねえか! いまなら神様と崇めてやってもいいぞ!

 

「アルゴが、あたしたちと出会った最初の日に教えてくれたんだよ」

 

 記憶を辿る。たしかにそんなことがあった。俺には教えてくれなかったが、そういうことだったのか。アルゴのやつ、マジ天使!

 

 だから、とサキが目を潤ませて俺を見つめる。瞳には期待と不安が入り混じっている。

 

「する?」

 

 究極の逡巡。俺も男だ。そりゃあしたい。もう行けるところまで行ってしまいたい。

 

 だけど、

 

「いや、やめとく」

 

 俺は首を振って断った。

 

「どうして? あたしに魅力が無い?」

 

 サキの不安顔。ああ、そういう顔をさせたくはないんだ。

 

「そういうことじゃない。ただ、あれだ。やるなら現実がいい。それに、まだ高校生だからな。責任とか色々あるだろ。軽々しくするもんじゃねえよ。あと、歯止め利かなくなるからな」

 

「あたしを大事にしてくれてるんだ」

 

「当たり前だろ。好きだからな」

 

「じゃあ、抱き合ったり、キスしたり、いっぱいしようね」

 

 そう言って唇を重ねてくる。まったく、これだからサキは可愛いのだ。さすがにもう慣れてきて赤面することはなくなったが、それでも心臓の音は痛いほどだ。

 

 しばらくそうしていて、どちらともなく離す。

 

 サキが嬉しそうにはにかむ。

 

「あんた学校に戻ってみんなに会ったら、驚かれるんじゃない?」

 

「言うほど知り合いいないけどな。ぼっちだし。でもまあ、美人な彼女できたし、多少ぼっち体質改善できたし、友達もまあ、いるしな」

 

 頬を掻く。言って見てまだ違和感はある。だが実感としては心の奥底に根付いている。

 

「デレたね。デレハチマンだ」

 

「いつも捻くれてねえよ。デレるときもある」

 

 あはは、とサキが笑い、手をつなぎあう。

 

 さあ行こうとふたりで再び歩く。長閑な風景を全身に浴びながら、俺は今日も幸せだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「偵察部隊が、半壊した……だと?」

 

 その一報を受けたのは、デートの翌日、午後過ぎのことであった。アルゴからメッセージが届き、緊急と名打たれたそれを開いてみれば、そんなことが書いてあったのだ。

 

 おいおい、フィールドボスだぞ。フロアボスと違うんだぜ? なんで半壊すんだよ。

 

 隣でサキも渋い顔をしている。ディアベルからメッセージ。本日の午後一時に緊急作戦会議を行うと記載されている。

 

 動揺していたらしい。知らず、サキの手を握った。握り返され、少し落ち着きを取り戻す。

 

 午後六時まで、特になにをすることもなく、サキと一緒に時間を過ごした。少しでも長くいたかった。

 

 午後六時。

 

 三度《アルゲート》のすり鉢状の会議場に有力ギルドが集まる。その面々は、みな厳しい表情をしており、困難な状況であることが手に取るようにわかる。

 

 中央のディアベルが昨日よりも小さい声を出す。

 

「みんな、今日集まってもらった理由はメッセージを送ったとおりだ。フィールドボス偵察任務で被害が出た」

 

 沈鬱な会議場。まさに通夜のそれだ。間違っていない。実際に人が死んだのだ。

 

「オレは悲しいし悔しい。でも、ここで立ち止まっていたら、折角情報を持ち帰ってくれた彼らに示しがつかない。だからこそ、オレたちは前へ進む! それがここに集うオレたちの責務だ! そうだろうみんな!」

 

 ディアベルの熱くなった言葉に、全員が同意する。あのリンドたちですらだ。会議場がある意味初めてひとつになる。

 

「情報はガイドブックに既に記載されている。全員入手したはずだが、整理しよう! 敵は想定通り地龍だった。だが、地面じゃない、空を飛んでいたそうだ!」

 

 会場にざわめき。だが、それもすぐに静まる。

 

「高さは目測になるが、二十メートルほどの高さだったらしい。ハチマンたちが緑龍でやった方法は高すぎて使えない」

 

 舌打ちする。今回はさすがに無理か。考えられてやがる。背後のエギルもため息していた。

 

「攻撃種類を説明する。基本的に最初は近づいての突進攻撃が主のようだ。ある程度HPを削ると跳びあがるそうだ」

 

 そこで言葉を切る。

 

 つまり、今度の龍には翼があるのだ。竜と龍が合わさった奴みてえだな。めんどくさい、どっちかに絞れよ。

 

「両翼を大きく羽ばたかせての地震攻撃。これに攻撃力は無いが、揺れて移動しにくくなる。機動力を殺がれると考えてくれ。次にブレス系だが、やはり二種類ある。多用するのは、細い円錐状の岩を飛ばしてくる攻撃だ。石英――つまりクリスタルを吐いてきて若干見づらいそうだ。注意してくれ。そして次に溶岩のブレスを吐いたそうだ。範囲はかなり広い。フィールドの広さを考えると、精々が十二人、つまり二パーティといったところだろう。そして厄介なのが次だ」

 

 誰もがディアベルの言葉を待つ。ガイドブックで知っている。だが、いまは彼の言葉から聞きたいのだ。

 

「落石攻撃が厄介らしい。空から大量の岩が降ってくるそうだ。今回はそれで全滅しかけた。飛んでからは、こちらからの攻撃は一切届かなかったらしい。以上が情報だ」

 

 会議場が静まりかえる。空を飛ぶというのは、このゲームでは一種の反則だ。なぜなら攻撃が届かないから。唯一それを塗り替えるのが飛び道具だが、俺の短剣もそこまでの高さではダメージは望めないだろう。つまり、ここまでの情報だけを統合すると万策尽きた。

 

「ディアベル、ひとつ聞きたい」

 

 俺が会議で発言するとは思わなかったのか、ディアベルは驚いたように俺をみる。が、すぐに表情を戻して発言を許可してくれる。

 

「その落石ってのは、どれくらいの大きさの岩が落ちてくる? 速度はどれくらいだ? 速いか? 遅いか?」

 

 辺りからざわめきが聞こえる。意味があるのか的なやつだ。何言ってんだ、ガイドブックにも載ってねえんだし、重要なことじゃねえか。

 

「すぐに確認する!」

 

 ディアベルがウインドウを開き、キーボードを叩き始めた。ここにいない偵察隊のやつらに聞いているのだろう。おそらく昨日のことがショックで出てこられなかったのだ。そういうことは、結構ある。

 

「よし、ハチマンの質問に答えよう! 大きさは約一メートルから二メートル。速度は、よくよく思い出すとそこまで速くなかったそうだ」

 

「了解。サンキュー」

 

「なにか案が浮かんだのか?」

 

「まあ、できるかどうかは分からんがな」

 

 よし! とディベルが両手を打ちつける。

 

「こっちに来て話してくれ!」

 

 あ、やっぱりそうなりますよねー。隣にいるサキがにやにやしている。自分がいかないからってそれはズルくない?

 

 仕方ねえなあ、と俺は前に出て考えを述べる。全員が驚愕の後に思案顔。誰もが俺の突飛な考えに可能かどうか検討しているのだろう。

 

 ディアベルも顎に手を当てて考えている。俺的にはできると思う。だって漫画とかでよくあるじゃん!

 

 一度頷いたディアベルが声を張り上げる。

 

「よし! ハチマンの案を採用しよう!」

 

 ディアベルが言うなら、と全員が納得したように首肯する。あの《聖龍連合》リンドですら異論は挟まなかった。

 

 よーし、オラもう戻るぞ、とサキの下へ帰ろうとする俺をディアベルが呼び止める。俺にしか聞こえないくらいの小さい声だ。つまり、密談をしたいのだろう。

 

「ハチマン、これはかなり難度の高い作戦だ。参考までにハチマンが考える人選を教えてくれないか?」

 

 俺は少しだけ考え、答える。

 

「俺、サキ、キリト、アスナ、ディアベル、クライン、エギル。こいつらは入れろ。他は対空用に軽装系、対地上用に重装系だな。こんなもんでどうだ?」

 

「なるほど、それで考慮してみるよ。やっぱりハチマンも参加してくれるんだね、ありがとう」

 

「仕方ねえだろ。被害が出た以上、嫌だとか言ってられんねえよ。できればサキは連れていきたくねえが、本人は拒否するだろうしな。俺もサキがいたほうがやりやすい」

 

「分かった。ありがとう」

 

 俺は手を上げるだけで返して席へ戻る。サキの隣に座り手を握ると、握り返される。口許が緩むのを感じた。

 

 ディアベルが再度司会を進行する。

 

「じゃあ、さっそくパーティ選定会議を行おう!」

 

 ギルド長たちがぞろぞろと集まっていく。そういえば、と俺は仲間に聞こえるように少し大きめの声で言う。

 

「お前ら強制参加な。ディアベルに推しておいた」

 

「マジか! ありがとうハチ!」

 

 一番に喜んだのはキリトだ。そんなに武器欲しいの……? 怖いとかないのかなこの子。

 

 アスナも嬉しそうに跳ね上がり、エギルはLAボーナスを獲得すると意気込んでいる。サキは表情を変えなかったが、どうも口許がにやついている。あれ、やっぱりこの人……いや、やめよう。彼女のこと悪く言うのいくない!

 

 そんなサキもやっぱり好きだからだ。

 

 さて、と俺は会議の様子を見つつ未来を思う。

 

 次は地龍戦。一体どうなることやら。

 

 やっぱり戦いたくないなあ……。

 

 

 

 地龍討伐は翌日の午前十時から行われることとなり、会議は解散となった。パーティはやはり俺の意見が採用されたようで、先にあげた七名が参加することが決まった。

 

 しかしパーティは六名までということで、クラインが泣く泣く別のパーティへ所属することとなった。哀れクライン……。

 

 そんなこんなで、やけになったクラインに連れられ、俺ら全員は真昼間から俺とサキの家に集まっていた。全員が持ち寄った食料や飲料をテーブルに並べ、前夜祭ならぬ前昼祭を行うこととなった。

 

 アルゴも駆けつけ、心配していたユキノもサキが呼び寄せる。ユキノと初対面であるエギルがだらしない顔をして挨拶をしていた。こいつ、カミさん持ちなのに女にだらしないのか……。嫌だなあ。でもいい男だからいいか。

 

 さて、とディアベルが杯を持ち上げる。

 

「ハチマン、よろしく!」

 

「また俺かよ。もうお前でいいじゃん」

 

 同じ杯を持った俺はぶーたれる。だってこの前のこと思い出しちゃうし。あの日のこと、結構トラウマなんだからな。

 

「いいからハチくん! 早く早く!」

 

 アスナに急かされる。

 

「男なんだからしっかりしな」

 

 笑いながらサキに背中を押される。彼女にこうまで言われちゃ仕方ない。

 

 全員が俺を見ている。まあ、気の利いた台詞は出ないが、多少はしゃべるか。

 

「明日は地龍討伐戦だ。どうせまたぞろ厄介になるだろうが、全員死なずにまたこうして集まろうぜ。んじゃ、乾杯」

 

 乾杯、と全員が杯を合わせる。

 

 よーし、俺はいつも通りすみっこぐらしするぞーと、そろそろと部屋の隅へ陣取る。当然サキも着いて来て、俺の隣に座った。

 

「やっぱりなかなか慣れないね」

 

 サキの呟きに俺も頷く。ふたりとも元はぼっちなのだ。こういうお祭り騒ぎは性に合っていない。

 

 でも、とサキが続ける。

 

「楽しいね」

 

「ああ、そうだな。案外こういうのもいいもんだ」

 

 ふたりで笑いあう。そんな折、俺の視界に影が落ちる。

 

 クラインだ。ま、そうだよねー。

 

「おい、ふたりともいい雰囲気作ってンな! こっち来い! 今度は男女混合でなんでも談義だ!」

 

 そして一気に杯をあおるクライン。その顔は微妙に赤い。おい、それ酒じゃないぞ。こいつ雰囲気で酔えるやつなの?

 

 俺とサキがクラインに引っ張られ、会場の真ん中まで連れて行かれる。ここ俺たちのうちだぞ、好きにしていいじゃんかーとか思いながらも、まんざらでもない。

 

 ユキノと会話していたディアベルが俺たちの姿に反応する。

 

「ハチマン、やっと来たか。やっぱり君の屁理屈会話がないとしまらないよ」

 

 ディアベルが面白いことを言ってやがる。おうおう、言ってくれるじゃねえか。いいのか? 本気出すぞ?

 

「おう、この爽やかイケメン野郎。いい人ぶってるといつか痛い目見るぞ」

 

「い、いきなり辛口すぎるなあ」

 

 ディアベルが苦笑。横でユキノがくすくすと笑っている。毒舌には一家言あるユキノだ。これくらいじゃ満足しないだろう。

 

「ほれ、ユキノ、お前の本気を見せてやれ!」

 

 笑いながらユキノが首を振る。

 

「嫌よ。言ったでしょう。私はこの私で行くと。そんなこと言っていると、サキさんにあることないこと吹き込むわよ」

 

 俺の顔がひきつる。

 

「やり方は相変わらずえげつないなお前……」

 

 あら心外ね、とユキノが口端を上げる。

 

「あなたが自分が好きなように、私も自分が好きだもの。そうそう全部が全部は変えられないわ」

 

 ふたりして噴出す。こんな風にユキノとちょっと攻撃し合うのも懐かしい。

 

 楽しい、本当に。

 

「で、ディアベルはうちの部長様に何粉かけてんだよ。どこの誰に許可とってんだ、ああん?」

 

 俺がそのままの勢いでディアベルに絡む。ディアベルは苦笑顔だ。

 

「ゆ、ユキノさんは一体君の何なんだい……?」

 

「あん? 友人だよ友人。姉弟にでも見えんのか? 眼科行けよ」と俺がねめつけるように言ってやる。

 

「そうよ、友人よ。そんなことも分からないのかしら」とユキノが皮肉交じりの微笑みを浮かべる。

 

「ふ、ふたり合わさると怖いな君たち」

 

 顔を引きつらせるディアベルに、サキが笑う。

 

「現実でのこいつらのやりとりはすごかったからね。これでもまだ優しいほうだよ」

 

「これでかい!?」

 

 驚愕するディアベル。そこにアルゴが乗り込んでくる。

 

「オレっちも混ぜろー! ディアベルはどけヨ!」

 

「君たちはオレに対してなんの恨みがあるんだ!」

 

 全員が首を傾げる。答えはひとつだ。

 

「爽やかイケメンすぎてなんかムカつく」

 

「ひどすぎる!」

 

 ディアベルが嘆く。やべえ、こいつからかうと超面白い。

 

「おい、さすがにディアベルが可哀相だからその辺でやめてやれよ」

 

 おっと、王子様がいらっしゃったぞ。キリト様のご到着だ。次の犠牲者はてめえだ。

 

「おい真っ黒くろすけ。お前はディアベルみたいにもっと白くなれよ。漂白剤いるか?」と俺。

 

「今度は俺を攻撃するのかよ!?」キリトが早速泣きそうだ。

 

「そうね、アスナさんに服装を見てもらったらどうかしら? センスが無いわよあなた」段々とノリノリになってきたユキノさん。やばい、俺たち最強!

 

「キー坊はやればできる子だヨ! ただ出来ないだけなんだヨ!」止めを刺すはアルゴ。

 

 さすがにサキもこれには苦笑いだ。

 

「ひ、ひどい……お、俺だって頑張ってるのに……」

 

 遂にキリトも落ち込んだ。アスナは苦笑しつつも俺たちを止めようとしない。どうやらアスナもそう思っているようだ。哀れなキリト……。

 

 さあ、次はどいつだと辺りを見回す。エギルが笑いながら近づいてくる。さすがにエギルには言えねえなと矛を引っ込める。

 

「お前たち、やっぱり仲がいいな。オレも混ぜてもらってもいいか?」

 

「おう、来いよ。ついでにクラインも来い、なにそんなすみっこにいるんだよ」

 

 すみっこぐらしとなったディアベルとキリトの傍にいたクラインに俺が声をかける。クラインも笑いながら返してくる。

 

「お前らのせいでこいつらがこうなってンだろが。オレが相手するわ」

 

 さすがクライン。ヒゲ面の癖して超優しい!

 

「じゃあ、キリト君はお任せするね、クラインさん!」

 

 アスナがにっこり笑顔でキリトを捨てる。哀れすぎるぞキリト……。今度飯驕るから許してね。

 

「久しぶりね、アスナさん。元気してたかしら?」

 

 ユキノが表情を戻して笑顔で言った。

 

「うん、久しぶりだね、ユキノさん。元気だったよ! 最近はちょっと大変だったけどね」

 

「次は地龍だしねえ」サキがどこか楽しそうに言う。

 

「サキさん、アンタは戦うの好きなのか……?」

 

 エギル! その質問はしちゃだめなやつだよ!

 

 サキがニヤり、と笑う。

 

「さてね。でもエギル、あんたともまた戦いたいよ。暇なときは相手してもらうよ」

 

 エギルの顔が引きつる。この前の惨劇を思い出しているのだろう。やだ、うちの女性陣みんな怖いよ!

 

「おー、サキちゃんはやっぱ強いナー。オレっちもハー坊とサキちゃんが戦うとこ見てみたいナ。すごいんだロ?」

 

 アルゴがエギルに訊く。渋い顔をしたエギルが搾り出すようにして、言った。

 

「地獄だった……」

 

 ちょっと、それ違うよ! それ君たちの訓練の方だからね! 俺とサキの戦いは地獄じゃないよ!

 

 サキが「ほう」と微笑む。優しい笑みではない。怖い方の笑みだ。

 

「エギル、地龍終わったら一週間相手してやるよ。もちろん、地獄以上にしごいてやるよ」

 

「申し訳ありませんでしたあ! 許して下さい!」

 

 速攻エギルが頭を下げた。

 

 へえ、とサキの笑みが深まる。やばい、これはリンドを滅したときと同じ雰囲気をしていらっしゃる。怖い、サキ超怖い。だって大の男のエギルが震えてるんだもん。俺だって震えてるよ!

 

「それは何に対しての謝罪だい? ん? 言ってごらんよ? ほら、優しくしてあげるから。さあ、男ならしゃっきりしな! ほら、早く、早く、早く!」

 

「ひぃっ! ハチマン! 助けてくれ!」

 

 遂にエギルが俺に泣きつく。おい、こっちくんな。俺も怖いんだよ!

 

 仲裁に入ったのはユキノだ。笑いながらサキの両肩を叩く。

 

「さすがにエギルさんが可哀相よ。もうやめてあげなさい」

 

「仕方ないねえ。これくらいで勘弁してあげるよエギル」

 

 サキが仕方なし、というように言った。俺の後ろでエギルがほっとしている。

 

「うちの女性陣怖すぎるだろ。なんでことごとく男を葬ってんだよ」

 

 油断していたからか、つい、言ってしまった。思ったことを口にしてしまった。ヤバイ、超ヤバイ。何がヤバイって、女性陣全員が俺を見ているのだ。しかも、殺意にまみれた暗黒の視線で! やだ、ハチマンちびりそう!

 

 俺とエギルが抱き合う。男同士でもこの際構わない。お願いだからこの状況をなんとかして!

 

 最初に動いたのはユキノだ。

 

「あらハチマンくん。それは私に対する挑戦と受け取って良いのかしら。久しぶりに、本気を出して良いという許可と受け取るわよ」

 

 やめて! こう見えていまの俺豆腐メンタルだから!

 

 必死に俺は首を振る。エギルも振っている。超必死だ。

 

 次はアスナだ。

 

「ハチく~ん。あたし、ハチくんにと~っても言いたいことがあったんだ~」

 

 やばい、今日のアスナ超怖い。さっきから超ばっかり言ってるけど、それくらい怖い。だって目も口も笑っているのに雰囲気が殺意満々なんだもん。なんなのこの雰囲気。サキに匹敵するんだけど!

 

 キリト! キリトはいないか! いねえ! さっき俺たちがフルボッコにしたんじゃん!

 

 とてとてとアルゴが俺の前にやってくる。ああ、アルゴ、お前だけは俺の味方なんだな。じんわりと涙が浮かんだ瞬間、アルゴが言い放つ。

 

「オレっち、ハー坊にこっぴどく振られた恨みがあるなー」

 

 そんなことねえよ! ちゃんと普通に振ったよ!

 

 サキの目がギラリと光る。龍より怖いよ。さっきから怖い怖い言ってるけど、他に言いようが無いんだよ。ていうかエギル反応しろよ! って気絶してるじゃねえか!

 

 俺は両手を前に突き出して必死に距離を取る。だからエギル、オレを掴んだまま気絶してんな! 助けろ!

 

「ま、まて、落ち着けみんな! 俺は悪くねえ! 社会が悪い!」

 

「そこでその発言をするとは、あなた、社会的に抹殺されたいのかしら」

 

 ユキノが遂にその本領を発揮し始める。

 

「それって無責任じゃないかな~?」

 

 アスナ、やめろ。やめてくれ。なんか俺が悪者に聞こえちゃうから!

 

「ハー坊とはキスもしたのになあ」

 

 さらっと傷口えぐるのやめてねアルゴ!

 

「あ、それ私が結構傷ついた奴だ……」

 

 今度はサキが落ち込みだした。なんだここ。まるで戦場じゃねえか。言葉の弾雨が飛び交って誰に被弾してもおかしくねえ状態だぞ!

 

 もうやめて! 争わないで!

 

「あら、小町さんのお兄さん。それ私がかなりあなたに色々してあげた件よね。ねえ、小町さんのお兄さん。私をもっと労わってくれてもいいんじゃないかしら。ね、小町さんのお兄さん」

 

 お願い! その呼び方はやめて! 俺が傷ついたあだ名ベストスリーに入ってるやつだから!

 

 そして、俺たち男は全滅した。ついでにサキも死んだ。

 

 女性陣は仲良く中央で会話している。

 

 言葉の戦場って怖いね。ごめんな、ディアベル、キリト。もう俺、あんなこと絶対にしないよ。あとクライン、慰めてくれてありがとう。もう絶対ヒゲ面バカにしないからね。

 

 心に刺さった言葉の弾丸をひとつひとつ抜きながら、俺はこんなことは絶対にしないと胸に誓う。

 

 

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