ソードアート・オンライン Youth in Aincrad   作:ユーカリの木

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そして、囚人は邪竜と戯れる 7

 邪龍《フイヤン・ロン》攻略当日朝。

 

 俺とサキは同じベッドの中で抱き合って寝ていた。胸の中ですやすやと眠る愛しいサキの髪を撫でながら、今日のことに想いを馳せる。やましいことはしていない。ただいつもよりちょっとイチャイチャして寝てただけだ。

 

 五十層に来てから長かった。四体の龍に迷宮区を守る地龍。そして、遂にフロアボスたる《フイヤン・ロン》との対決だ。

 

 怖れはある。正直言って逃げ出したい。サキを連れ、誰もいないところでふたりのんびりと過ごしたい。

 

 だが、それだけはできない。現実に帰らなければならない。帰る理由は見つけた。仲間もいる。彼らだけでやらせる訳にはいかない。俺も攻略組のひとりとして、仲間と共にここアインクラッドに住まう人々を助ける責務がある。自覚のあり無しに、きっとそういうものだ。

 

 サキが身じろぐ。

 

 ぼんやりとした瞳が俺を見つめてくる。寝ぼけているのかと思えば、そうではなく、ただ言い知れない不安感に襲われているような瞳だった。

 

「ぎゅってして」

 

 言われるがまま、俺はサキを抱きしめる。柔らかな肢体を壊さないよう、大事に、大切に。

 

「もっと、強く」

 

 少しだけ力を込める。

 

 本当に、サキがいてよかった。サキがいなければ俺はここまでやってこれなかった。理由を見つけられず、ただひとり何かを探すように彷徨っていただけかもしれない。そう思うと、感謝が溢れて止まらない。

 

 せめて、せめてこいつだけでも……。

 

 口に出してしまいそうになって、でも、サキの指がそれを止めた。

 

「言わないで」

 

 サキが薄紅色の睡蓮の笑みを浮かべる。俺の心を捉えて離さない、美しい微笑だ。

 

「あたしはあなたの隣にいる。どんなときも、どこであっても、それが、死ぬときであっても。だからその先は、決して、決して言わないで」

 

 声に出そうとした言葉を飲み込む。サキの決意の重さを知っているから、俺だってそうだから。だから言葉の変わりに唇を重ねた。

 

 サキの甘い吐息。脳が蕩けそうで、長く、長く続ける。

 

「甘えて」

 

 サキの声。耳に馴染む、幸せな音色。

 

「もっと甘えて。あたしに溺れて。あたしもあんたに溺れてるから。だから、ずっと一緒にいよう?」

 

 愛しくてたまらない。ずっとこうしていたい。だけど、時間は誰にでも平等に降り注ぐから、時計の針は無情にも進んでいく。

 

 集合時間一時間前になって、ようやく俺たちはベッドを出た。それぞれに装備を整え、家を出るまでソファーでくっつきあう。

 

 怖れよ去れとばかりに。福音よ来たれりというように。

 

「時間だ」

 

 俺が告げ、手を取る。二人並んで家を出る。

 

 転移門から《アルゲート》へ行き、集合地点である場所へ向かう。

 

 仲間は既に集まっていた。

 

 キリトとアスナが俺たちを見て手を振った。

 

 ディアベルが俺にガッツポーズを向ける。

 

 クラインとエギルがふたりしてサムズアップ。

 

 アルゴも待っていて、ジャンプして笑顔を振り撒く。

 

 ユキノも駆けつけてくれていて、優しく微笑んでくれた。

 

 さあ、覚悟はできた。まだ正直怖くてたまらねえけど、それでもできることはやった。自信だって持っている。なら、あとはすべてをぶつけるだけだ。

 

 俺たちも仲間の下へ向かう。この世界で出来た、大事な宝物のところへ。

 

「ハチ、サキさん、今日はやるぞ!」キリトの力強い言葉。

 

「ハチくん、サキさん、今日もがんばろう!」アスナの元気な声。

 

「ハチマン、昨日はありがとう。サキさんも、今日は必ず勝とう!」ディアベルの本気の言葉。

 

「ハチ、サキさん、今日はお前らだけに頼ンねえからな! 絶対に俺も役に立つからな!」クラインの聞いていて楽しい声。

 

「生きよう! 生きて帰ろう!」エギルの大人らしい笑み。

 

「ハー坊、サキちゃん。みんななら大丈夫だヨ」アルゴの眩しい笑顔。

 

「ふたりとも、どうか無事で。あなたたちの帰還を祈っているわ」ユキノが俺たち二人を抱きしめる。

 

 それぞれの言葉をすべて受け止め、俺は、サキは、仲間たちに向かう。

 

「おう、全員死ぬなよ。勝つぞ」俺が珍しく強い声で言う。

 

「あんたらは死なせないよ。あたしが全力で守ってみせるさ」サキが愛しくも凛々しく言った。

 

 続々と他のギルドメンバーが集まってくる。《聖龍連合》のリンド、《血盟騎士団》ヒースクリフと部隊長の面々、確かマンダトリーと言ったか、そいつも現れる。《風林火山》も来てクラインの下へ集う。《ブレイブ・ウォーリア》が鎧の音を鳴らしながら歩いてくる。

 

 ふいに、俺とサキはユキノに視線を移した。ディアベルの前まで歩いていったユキノが、軽く背伸びした。

 

 そして、淡いキス。

 

「え?」

 

 俺とサキがふたりして真顔で驚く。え、なに? いまそういう雰囲気だっけ? ちょっと結構真面目だったんだけど。なにぶち壊しにしてくれてるのっていうか……

 

 超おめでたいんだけど!

 

「おいサキ、俺いまなら超恥ずかしいこと言えそう」

 

「ハチマンもかい? あたしもいまなら普通の女みたいにキャーキャー言えそうだよ」

 

 当然、他の面子も気づく。キリトとアスナは笑っているし、クラインだって嬉しそうだ。エギルも大人の微笑みを浮かべていて、アルゴもはしゃいでいた。

 

 仲間全員が祝福している中、ディアベルだけが慌てていた。

 

「え? え? あれ? なにがどうなって……?」

 

 ユキノが微笑む。

 

「あなたの帰りを待っているわ。だから、そのときは言葉にしてちょうだい。そのとき、私も声に出して必ず言うから」

 

 だから……。

 

「生きて。生きて帰ってきてディアベル」

 

 一瞬の静寂。

 

 そして、空気が破裂せんばかりの祝福の声が上がる。

 

 おいおい、一応これ決戦前だぜ。なんでわざわざ死亡フラグ立てるのかねえ。なんて思いながらも俺も嬉しくてはしゃぎたくて仕方がない。

 

 だってあのユキノだぜ? あの雪女もかくやと思われたあのユキノが、まさか人前でキスとか考えられねえだろ。しかも昨日相談に乗ったあのディアベルとだ。

 

 まじで昨日なにがあったんだよ。くっそー気になる。気になるなあ。絶対に聞き出してやる。そのためには今日を生き残って、みんなで祝勝会をやる!

 

 よし、腹は括った。楽しいことが待っていると思えば人間頑張れるものだ。

 

 今回のレイドリーダーであるヒースクリフも空気を読んでか何も言わず、ユキノとディアベルたちを微笑ましく眺めていた。あのリンドですら、口許が緩んでいる。そうだ、全員緊張していたのだ。だから、こんな祝福すべき出来事が目の前で起きて、本当はほっとしているのだ。

 

 やっぱすごいなユキノ。おまえ、いま俺たちの世界を変えたんだぜ。

 

 祝福も止む。

 

 ヒースクリフが一歩前に出る。

 

「さあ、諸君。これから我々は邪龍フイヤン・ロンと呼ばれる今までで最大の難敵と相対することになる。戦いは苛烈なものとなるだろう。だが、我々には待っている人々がいる。そのためにもこの勝負、負けるわけにはいかない……!」

 

 ヒースクリフにしては深く、感情の篭った強い口調で皆を鼓舞する。

 

 俺も黙ってヒースクリフの言葉に耳を傾ける。

 

「さあ勇者達よ。参ろうではないか。共にアインクラッドに暮らす皆を解放するために!」

 

 全員が腕を突き上げ怒号する。

 

 俺も口端を吊り上げる。なんだ、なかなか面白いことも言えるじゃねえか。見直したぞヒースクリフ。

 

 ヒースクリフと目があう。やつも意味深な笑みを湛えた。背後には、なんたら部隊のマンダトリーがヒースクリフを見ていた。

 

 ヒースクリフが歩き出す。俺たちもだ。

 

 今回はレイド上限最大まで集めた大人数だ。もはや集団と言ってもいいその威容は、街に住まう住人達や、NPCたちの注目を集める。

 

 プレイヤー達は思い思いに声をかけ、俺たちを応援してくれている。わざわざ下層から来たのであろう奴らまでいた。

 

 サキが手を握ってくる。

 

 俺も握り返す。

 

 そうだ。俺たちは負けるわけにはいかない。

 

 とまあ、そろそろ真面目ぶるのもいいだろう。いい加減無駄口叩いてないと疲れちまうよ。

 

「よしキリト、今日もLAボーナス狙ってブレスへGOだ! 骨はセルフ火葬だ、やったな!」

 

「ハチ、お前は龍の口の中入って体内から攻撃してこいよ。胃酸で溶かされる前にな」

 

 俺とキリトの軽口。もはやこれも恒例か。なんのかんの言って、こういう会話は気分が楽になる。

 

「ふたりとも相変わらずだね。やっぱりふたりはこうでないとね」

 

「これがあたしらの男だよ。まったく参ったもんだよ」

 

 アスナが笑い、サキが呆れている。

 

「まあ、男なんてこんなもンだ。少しは大目にみてやってくンねえか?」

 

「前線を張っているとはいえ、ふたりともまだ年齢的に子どもだからな」

 

 クラインにエギルも会話に加わってくる。

 

 ディアベルはというと、先ほどのことを思い出しているのか、口許がにやついて上の空だ。うわ、こいつ大丈夫か? マジで死ぬぞこのままじゃ。

 

 俺とキリトの目が合う。もはやこいつとも以心伝心だ。俺が顎をディアベルへやり、キリトが頷く。さあ、やっちまおうぜ!

 

「ディアベル、俺の親友たぶらかしたんだ。一発殴らせろ!」

 

 俺が言いがかりをつけながらディアベルへ向かう。キリトは、あろうことか剣抜きやがった! 何考えてんだこいつ! しかも笑ってやがるよ!

 

 しかし、ディアベルは即座に反応。俺のこぶしを首を傾けるだけでかわし、キリトの剣を盾で受け止めた。おおう、どうやら浮かれて動けなくなっているわけではなさそうだ。

 

「おいおい、いきなりすぎだよ二人とも。大丈夫だって。やる気に満ち溢れてるからさ!」

 

 ディアベルが爽やかに笑う。いや、ここ普通は怒るところなんだけどね。やっぱりいい奴だなあ。というか、俺たちが非常識なだけですね……。

 

 俺は拳を下ろし、キリトも剣を鞘に戻す。

 

「あんたたちは……まったく、街中で何やってんのさ」

 

 サキが額に手を当てて疲れたように言う。アスナは苦笑していた。だが、エギルもクラインも分かっているというように強く頷いている。

 

 まあ、所詮男なんざこんなもんだ。

 

 街を越え、フィールドを歩き、迷宮区を登っていく。安全地帯で何度か休憩を挟み、遂に五十層フロアボス――邪龍フイヤン・ロンの部屋の前までたどり着く。

 

 ヒースクリフが前に出て、攻略集団を睥睨する。

 

 全員表情は引き締まり、ヒースクリフの掛け声を待っている。

 

 俺とサキも、手を繋ぎ合って声を待つ。

 

 ヒースクリフが大きく息を吸う。

 

「諸君、時が来た!

 

 戦友諸君!

 

 我々にとっての決戦の時が遂にやって来た!

 

 さあ、我々の力を見せてやろう!

 

 邪龍に我々人間の意地を見せてやろう!

 

 我々の矛は、奴らの鱗を貫くのだと教えてやろう!」

 

 剣を音高く抜いたヒースクリフが、高く掲げて叫んだ。

 

「さあ、諸君、勝利を掴みに行くぞ!」

 

 ヒースクリフが身を翻しボス部屋へ突っ込む。俺たちも声を上げながらそれに続いていく。

 

 内部に入った瞬間、壮絶な熱気が俺たちを襲った。フィールドは岩石地帯。ごつごつとした足場の悪い岩場のうえに、巨大な岩石がゴロゴロと転がっている。遠くではぐつぐつと煮えたぎった何かの音。視界に見え隠れするのは、ゆらゆらと揺れ動く大気と、時折噴水のように噴出するマグマ。

 

 全体としてはおよそ半径五百メートルの円形状のフィールドか。広い。あまりに広い。一体どれだけ敵は巨大だというのだ。

 

 誰もが場に恐れをなしたように動きが止まる。だが、俺たちは行かなければならない。

 

 それぞれの目的のため。

 

 アインクラッドを解放するために……!

 

 全員が足を止めたのは一瞬、されどその刹那に一体どれだけの感情を巡らせたのか。全員が皆硬く引き締まった表情をして突っ込んでいく。

 

「来たぞ!」

 

 誰かが鋭く叫んだ。

 

 視界の遠くに、巨大な影が現れた。

 

 巨体。あまりにも巨大な禍々しい紅の龍。大きさはいかばかりか。身の丈は不明。胴回りはおよそ五メートルはありそうか。

 

 顔面は凶悪の一言。この世すべての邪悪さを詰め込んだような、八つの瞳が四対に並び、鼻からは絶えず炎が漏れている。その巨大な口腔から生える牙はもはや短剣のそれに等しい。角は瞳と同様に八本並び、うねるように曲がっている。全身を硬質な紅い鱗で覆われ背には炎が燃え盛っていた。

 

 くそが、これじゃあ背に乗ってやりたい放題できねえじゃねえか。

 

 視線を集中。

 

 ――《邪龍フイヤン・ロン》

 

その名と共に、HPバーが三本一気に並んだ。

 

 全員が息を呑む。そのあまりの異様さに。そのあまりの威容さに。

 

 その刹那、視界に紅が走った。

 

 なんだ、なにが起こった!?

 

 瞬間後、絶叫がフィールドに響き渡る。

 

「う、わああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 身を引き絞って出されるような慟哭。現代日本社会ではとても聞かないような、壮絶な叫び声。全員の視線が声に集中する。

 

 《聖龍連合》のひとりが、眼前に踊ったフイヤン・ロンの顎に捕らわれていた。HPバーがあり得ない速さで減っていく。

 

 そして、フイヤン・ロンがとても、とても嬉しそうに噛み砕いた。

 

 硝子の結晶が霧散する。

 

 時が止まる。全員の時が凍てつく。

 

 開幕瞬間に――ひとり食われただと――……!

 

 捕食される。ただそれだけの事実に全員が固まった。食われるという原始的な恐怖に、遺伝子に刻み込まれた怖れにただただ固まったのだ。

 

 しかし、その間俺とサキは動いていた。止まれば食われる。仲間たちも動いている。ヒースクリフも続いている。

 

 そうだ、俺たちはあれだけやった。自信がある。絶対に食われてなどやらない!

 

「お前ら動けええええええ!」

 

 エギルの咆哮。

 

「死にてえのかテメエら! いいから動けええええええ!」

 

 クラインの絶叫。

 

「全員――戦闘開始!」

 

 ヒースクリフが通る鋭い声で叫んだ。

 

 全員の時が動く。フイヤン・ロンへ向け殺到を開始。

 

 そうだ、俺たち人間を舐めるんじゃねえ。いまからその鱗に嫌というほど分からせてやるから覚悟しろよこの野郎!

 

 俺とサキが先頭に踊り出る。剣士の癖してそれに併走するヒースクリフ。キリトもアスナも、クラインもディアベルもエギルも、皆続いていく。

 

 初撃。ヒースクリフがフイヤン・ロンの顔面に盾を思い切りぶち込む!

 

 まったく動じないフイヤン・ロン。構いやしねえ。舐めてるならいまの内にぶち込めるだけぶち込んでやる!

 

 俺とサキが一緒に胴体側へ回り連続攻撃。皆が皆胴体へ攻撃をぶち込んでいく。じりじりと削られていくHPバー。

 

 そこで、ようやくフイヤン・ロンの巨体が動いた。

 

 一度身をよじらせると、とぐろを巻くように上半身を上昇。遥か高みから俺たちを見下し、大気を震わす咆哮!

 

 まるでここからが本番だとばかりに、その口腔に炎が灯る。

 

「全員――退避――!」

 

 ヒースクリフの声と共に全員が逃走。岩が邪魔で思うように全員が逃げられない。俺とサキは咄嗟に岩を飛び越えることを選択。

 

 圧倒的な炎が噴出した。炎の帯がフイヤン・ロンの一帯に放射状に広がっていく。その輻射熱だけで身体が焼け焦げそうだ。

 

 あちこちから絶叫が聞こえる。硝子が砕ける音がひとつ。

 

 ――またひとり死んだ……!

 

 もはや心に動じる隙間などなく、俺とサキが岩の上を跳んで炎を迂回していく。止まったらやられる。ここでの静止はもはや死と同義だ。

 

 俺とサキがフイヤン・ロンの下半身側に斬りかかる。もはやスキルなど使っていられない。隙を見せたら殺られる!

 

 フイヤン・ロンの首が曲がり、八つ目が俺たちを視界に捕らえる。

 

 マズイ!

 

 前足が動く。

 

 俺とサキは瞬時に逃亡を選択。瞬間後、俺たちの居た場所に凶悪な前足が墜ちて来た。

 

 強烈な破砕音と共に地面が大きく抉られ、結晶となって砕け散る。フィールドまで壊すのかよ。めちゃくちゃじゃねえかこいつ。

 

 全員が動き回りながら攻撃を再開。もはや他人の動きなど考えていられない。自分達のことだけで精一杯だ。

 

 たかが奴の三撃だけでこの状態だ。ここから奴が本気を出したら一体どうなるというのか。

 

 巨体が動く。もはや龍の常識を覆すように、その巨大な前足を何度も何度も振り下ろされる。俺たちはただただ逃げ惑う。止まれない。止まったら死ぬことが運命付けられているように。

 

 そして斬りかかる。逃げているだけでは勝てない!

 

 口腔に炎が灯る。

 

 火炎ブレスが吐かれる。

 

 視界の半分が炎に覆われる。

 

 悲鳴が轟く。

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。

 

 またひとり死んだ。

 

 巨体の首がありえない速度で襲い掛かる。

 

 またひとり食われた。

 

 これで四人目だ……!

 

「くそったれがあああああああああああああああああ」

 

 俺は叫びながら斬りかかる。《デスブリンガー》とナイフによる連続攻撃で少しでも奴のHPを削る。サキも甲高い声を上げて《ヴァルキュリヤ》を振り回す。もはや形振りなど構っていられない。

 

 キリトとアスナが視界に現れる。まだあいつらは生きてる!

 

 ふたりが同時に後ろ足を連続して攻撃。

 

 ディアベルもクラインもエギルも見えた!

 

 全員が集い、奴に攻撃を加えていく。

 

 その間、俺たちなど雑魚同然だというように、フイヤン・ロンは前方にいる集団へ向けて攻撃を加え続ける。

 

 いまだ。いましかない。

 

「全員、ソードスキルだ!」

 

 俺の掛け声で、全員が最大威力のソードスキルを発動。エフェクトが七人分発光し、奴の巨体に傷をつけていく。HPバーを削っていく。

 

 奴の頭が俺たちへ向く。

 

「散開!」

 

 即座にディアベルが撤退を指示。

 

 俺たちは思い思いに即時に逃亡。フイヤン・ロンの火炎ブレスが背後から迫る。

 

 くそ、くそ、くそ!

 

 HPバーが恐ろしい速度で削られる。逃げる、逃げる、逃げる。

 

 レッドゾーンまで割り込んだところでようやく攻撃範囲から逃れる。サキも荒い息を吐きながらもまだ隣にいる!

 

 即座に回復結晶で全開。

 

 フイヤン・ロンへと振り返る。奴はもはや俺たちに興味などないように、他の者たちへと攻撃を加えている。

 

 舐めやがって……!

 

 怒りで身体が震える。かつて無いほど俺は怒っている。こんなクソッたれな奴がいままでいたか?

 

 あの野郎、俺たち人間を馬鹿にしやがった!

 

 ふざけんな!

 

 こっちは必死で生きてんだよ!

 

「行くぞサキいいいい!」

 

 疾走。

 

 サキも俺に併走してくれる。

 

 すぐさま奴の巨体まで肉薄。注意が薄れているところへソードスキルを叩き込む。通常攻撃じゃ奴のHPを殆ど削れない。時間をかければ俺たちの集中力が切れ、殺される。

 

 もはや生と死の狭間で、ソードスキルに身を任せ踊るしかない!

 

 攻撃と逃亡。もはや何をやっているのか分からないほど繰り返していく。フイヤン・ロンのただ一発でひとり、またひとりと死んでいく。

 

 仲間たちの姿が見えない。不安でしょうがない。でも少しでも意識を奴から逸らしたら殺される!

 

 ただその恐怖が俺を突き動かす。

 

 そのとき、俺は足の置き場を誤り、コの字型に岩が重った場所に降り立ってしまった。まるで仕組まれたように岩がでかすぎて飛び越えられない。罠に誘い込まれたようにフイヤン・ロンの八つ目が俺を捕らえ、瞬時に俺の前まで首を伸ばす。

 

 俺の眼前でその悪魔の間口を開く。

 

 口腔には見たこともない熱の輝き。白く発光する、二つ目のブレス。

 

 瞬時に視界を走らせる。サキはいない。どこかではぐれた。左右に避けられない。前には邪龍フイヤン・ロン。

 

 逃げ場は……無い。

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