ソードアート・オンライン Youth in Aincrad 作:ユーカリの木
キリトとアスナは、最前線に向かう前に一度五十五層にある主街区《グランザム》へ立ち寄ることにした。
無数の鋼鉄の尖塔で立ち並ぶこの都市は、《鉄の都市》とも呼ばれており、緑が少なく少し寒々しい印象を人々に与えている。そんな寂しい街中をふたりは歩く。アスナが所属するギルド《血盟騎士団》の本拠地がここにあるからだ。殆どの時間をキリトに当てているアスナだったが、ボス戦も近く、さすがに顔を出さないとということでこの街に来たのだ。
しばらく歩いていると、ふたりの眼前に一際高い塔が現れた。巨大な塔の上部からは、まるで見る者を威嚇するかのような銀の槍が突き出していた。その先に、白地に赤い十字が描かれた旗が風に乗ってはためいている。これがギルド血盟騎士団の本部だ。
ふたりはそのままの足で階段を登り、本部入口である大扉へと歩みを進める。門扉の両脇には重装甲の衛兵が控えていたが、アスナに敬礼をするだけでふたりの侵入を邪魔することはなかった。こう見えても、アスナはこのギルドの副団長を拝命されているのだ。
一階の吹き抜けのロビーを歩いているところで、ふたりは副団長補佐のマンダトリーとゴドフリーがなにやら眉間に皺を寄せ合って話しているところに遭遇した。
アスナがいぶかしんで声をかける。
「ふたりとも、どうしたの?」
「ああ、アスナさん。今日は来て下さったんですね」
最初に反応したのはマンダトリーだった。一見すると優男といった風貌の彼であるが、ギルド内部でも指折りの槍使いだ。ただ悲しいかな、ギルドマスターたるヒースクリフもそうなのだが、彼もたまにふらりと数日間いなくなることがあるのだ。帰ってくると、やら旅行に行ってただの、山篭りしていただの話をはぐらかすので、アスナもあまり追求はできていない。もっとも、アスナも人のことは言えない。なんとも上位陣がふらふらしているギルドである。
「おお、副団長殿! 本部にいらっしゃるなんて珍しいですなあ!」
もじゃもじゃとした巻き毛の大男、ゴドフリーが快活に笑って言った。そこに若干の皮肉が篭っていることにアスナは気づいたが、にっこり微笑んで受け流す。上司がアレなのだから別にいいではないか。
「それより、ふたりともどうしたの? 難しい顔をして」
ああ、とマンダトリーが答える。
「クラディールを探していましてね。今日の迷宮区攻略パーティに参加する予定だったのですが、朝から姿が見当たらなくて困っていたのですよ」
まったく参ったものだ、と嘆くようにマンダトリーが言う。人のことを言えるのか、とアスナは言いたかったが、自分も同じなので口にチャックをしておく。
「え、誰?」
キリトがアスナにだけ聞こえるように呟く。それにアスナはぶすっとした表情で答えた。
「元私の護衛。あまりにもしつこいから副団長権限で切ったけど」
「いまはキリトくんがアスナさんの護衛みたいなものですからね」
マンダトリーが苦笑する。
「それに最近もよく遠出してるようでなあ。まあ、ちゃんと訓練と攻略に参加してくれれば構わないんだが」
ゴドフリーが後頭部を掻きながら苦々しく言う。ついこの前までは規律にうるさかった彼だ。クラインの発破により攻略組内に充満していたある種の逼迫感がなくなり、彼も元の豪放磊落で気さくな中年男に戻った。が、それでも思うところがあるのだろう。
「検索は当然したのよね? どこいったんだろ」
「さあ、やはり山篭りですかね」
「あなたの言い訳と一緒にしないで……」
これは一本取られました、とマンダトリーが悪気なく笑う。相も変わらず適当な男だ。
「で、ものはご相談なのですが……」
マンダトリーがぐっとアスナとキリトへ顔を近づける。
「迷宮区攻略におふたりも参加してくれませんか?」
アスナとキリトは顔を見合わせる。
「別に元々攻略しに行くつもりだったからいいけど。俺たちについて来れるか?」
キリトが挑発気味に言う。ちょっと待って、とアスナが止めようとするも、マンダトリーがにやりと口端を吊り上げ、ゴドフリーは快活に笑う。
「小僧め、抜かしおる! 面白い! 久々に本気を出すぞ!」
「あなたはいつも本気でしょうが。まあいいでしょう。私もたまには働きます」
なあ、キリトがアスナへ耳打ちする。
「このマンダトリーってやつ、もしかしてハチじゃないか? ほら、働きたくないって部分が特に似てる」
ぶっ、とアスナが噴出す。
「ちょ、やめて、そんなこと言ったからそう見えちゃうから……!」
「なんだか失礼なことを言われている気がしますが、構わないでしょう。さあ、皆さん行きますよ!」
マンダトリーが外へ向かう。ゴドフリーがそれに続くが、キリトは笑い転げそうになるアスナを介抱するのに必死だった。
◇◆◇
朝の十時を過ぎ、もうすぐ十一時になろうという時間。あたしはハチマンを車椅子に乗せて、のんびりと二十二層の中を歩いていた。肩にはランチバスケットを持ってのピクニックのようなものだ。低層だからMobも弱く、アスナたちから安全地帯も教えてもらったため、たまにはこうして外でふたりで食事をしたかった。
一陣の風があたしのポニーテールを揺らす。それをそっと左手で抑えながら空を見上げた。太陽は以前見たときよりも少しだけ高く上っている。日差しは徐々に鋭さを増してきていて、きっと暑くなるだろう。昼前に木陰に行かないとなあ、と思いながらあたしは歩を進める。
時折ハチマンがあたしに触れたそうに指を動かすから、そんなときは歩みを止めて、そっと彼の手を握る。すると、ハチマンは安心したように手を離して景色を眺めていた。
あたしとハチマンの間に会話はない。それでも、元々ぼっちだったから、会話なんて必要なくて、一緒にいられればそれで良い。
圏内を越えて、念のためすぐに愛槍《ヴァルキュリヤ》を取れるように装備しておく。まあ、元々平和な場所だ。何もない。
しばらく歩いていると、草原の先に森が見えてきた。安全地帯まであと少し。歩いていても殆どMobなんて現れないから、本当にここは平和で素敵な場所だ。ここに住まいを置いてくれた友人たちには感謝しかない。
ふと、足音が聞こえた。
きっと誰かも散歩しているのだろう。ここにはキリトやアスナだけでなく、釣りを趣味とした中年男性たちも住んでいるらしい。まだ顔を合わせたことはないが、気さくでとても良い人のようだ。人見知りだから急に顔合わせしないといいなあ、と思いつつ歩いていると――
背中に衝撃が走った。
咄嗟の判断で地面に手を付いて身体を反転。即座に《ヴァルキュリヤ》を構えて背後へ向く。そこには、ひとりの男が立っていた。長髪を後ろで束ねた男が、分厚い重装備姿で剣を振り抜いた体勢で私たちをねめつけるような視線で見つめている。見知った顔ではない。行きがかりのプレイヤーキラーか。
ちらりとHPバーを見る。HPがかなり削られている。やはり二ヶ月以上のブランクは大きい。ハチマンの壁になるよう、すぐさま槍を敵へと突く。男はそれを見てすぐさまバックステップし、あたしとの距離を置く。私はハチマンを守るべく、車椅子の前に立って男へ槍を向け直す。
「一体なんのつもりだい?」
くひっ、と男が狂ったような笑みを浮かべた。
「お前ら、ラフコフを壊滅させたんだってなあ」
あたしの顔に生まれた険が更に強まる。ハチマンの前で奴らの名前を出すな!
「だからなんだってんだい」
「なら、お前らを殺せば、俺がまた殺人ギルドを作れるだろうなあ!」
そう叫んで、男があたしへ剣を振りかぶる。遅い。遅すぎる。あたしを舐めんじゃないよ!
槍を回し男の剣を受け流す。そのまま身体を反転させ、石鎚を男の脇腹へ打ち付ける。男が驚いたように後退する。
たった一合打ち合っただけで技術の差が決定的であることが分かる。こいつは強くない。
「やめときな。あんた程度じゃあたしに適わないよ」
「おお、怖えぇな。やっぱさすが、腐っても《戦乙女》って呼ばれてただけはあるか」
男が気色悪く笑って、腰に下げた巾着袋から一回り大きい結晶を取り出す。あたしはその輝きに思わず目を疑った。
「お前ら相手にひとりでやるわけねえだろぉが! コリドォ・オォプン」
男が手に持っていたのは回廊結晶。このSAO内でも特級に高価な結晶アイテム。
いやらしく響く呪文と共に生まれた青い渦の中から、我先にとプレイヤーがまろび出てくる。あたしが呆然としている間に周囲を取り囲まれる。殆どが男たちで、ただひとり赤毛の妖艶な女が混じっている。
あたしたちを殺すためだけに、回廊結晶と、これだけの人数を集めたのかい……?
「お前らが潰したラフコフの下位組織のひとつ、《タイタンズハンド》だぜえ。お前らを殺して、俺たちは第二の殺人ギルドとして名乗りを上げてやるよ」
へへへ、と嫌悪感を催す下卑た笑いをして、長髪の男が言う。
あたしはそんな言葉に耳など貸さず状況把握に努める。ざっと見て十五人以上。全員が高レベルには見えないけど、数の暴力で押されると厳しい。ひとりなら問題なくても、ハチマンだけは守らなきゃならない。あたしだけ逃げることなどあたしが許さない!
女が毒々しい笑みで頬を歪ませ、長髪の男へ言う。
「クラディール。リーダーの件、分かってるわよねぇ?」
クラディールと呼ばれた最初に襲ってきた長髪の男が、鬱陶しそうに答える。
「わぁってるつってんだろロザリア。リーダーはおめえでいい」
ならいいの、とロザリアと呼ばれた女が笑みを私へ向ける。
「じゃあ、殺っちゃいなさい」
ロザリアの言葉で、全員が一斉にあたしたちに襲い掛かってくる。
瞬時に《エインヘリャル》を発動しようとするも、ストレージに予備の槍一本しか入れていないことを思い出す。戦闘など行うつもりがなかったからエギルに預けていたのだ。いまやストレージを圧迫しているのは日々の食材と衣服だけ。
舌打ちしながら、威嚇のために大きく槍を回す。ハチマンには指一本触れさせぬよう、全方位に神経を集中する。
敵が怯んだ隙を縫うように、あたしは手近にいた長剣使いの横腹に薙ぎを一閃。それを皮切りに、再度全員が刃を向けてくる。
即座に全部は捌ききれないと判断。ソードスキルも技後硬直中の隙にハチマンに手を出される可能性を考え、即座に選択肢から捨てる。いままでハチマンや仲間たちと培ってきた己の技術のみで凌ぎきる!
ひとり目の短剣を柄で払う。直後、二人目の刀の横薙ぎを空いた胴に受けながらも、戻した穂先で刀野郎の肩を深々と斬り裂く。三人目、四人目があたしに殺到するが、即座に反転。ハチマンへと向かう奴に向かって槍を突き出し牽制。背中に二回斬撃をもらうが構うもんか!
再び二撃食らうが完全無視し、ハチマンへ襲い掛かる奴らを根こそぎ刈り取るように、大きく振りかぶっての足払い! ひとりの足首を両断するが、動きが大きすぎて殆どの奴らに避けられてしまう。
そこで、ロザリアが男たちに指令を告げる。
「男が弱点だ。そいつを狙いな!」
あたしの眉が引きつる。
こいつ、絶対に殺してやる……!
男達が次々にハチマンへ向かう。あたしは槍を振り回しながら必死で庇うが、それでも三百六十度すべてを守れない……!
幾重にも重なる悪魔の斬撃を受けながらも、あたしは死力を尽くしてハチマンを守る。
僅かな隙をつかれ、クラディールがあたしの脇を通り過ぎる。瞬時に石鎚を後ろへ伸ばすが、眼前に肉薄していた男に槍を払い上げられて制御を失う。
クラディールがハチマンの座る車椅子を叩きつけるよう乱暴に蹴る。ハチマンの身体が地面に転がる。
待って! 待って! お願いだからそれだけはやめて!
力なく横たわるハチマンの首の根を掴んだクラディールが、これ見よがしに掲げてあたしに見せる。あたしはすぐに槍を叩きつけてやろうと振りかぶるが、クラディールの剣がハチマンの首に添えられる。あたしの動きが止まる。
時が凍ったように、全員が静止する。
気づけば、あたしのHPバーはレッドゾーンにまで割り込んでいた。
クラディールがいやらしく笑う。
「さぁて、戦乙女のサキさんよぉ。こいつを殺されたくなかったら言うこと訊けや」
奥歯を強く噛む。血が滲みそうになるほど拳を握る。
我慢しろ、川崎沙希。ここは言うことを訊け。でないとあんたの愛するハチマンが殺される!
槍を下ろしたあたしに、クラディールが命令する。
「まず槍を捨てろ」
あたしは奴に言われるがまま、翡翠の槍《ヴァルキュリヤ》を地面に落す。脇に立っていた男が嬉しそうにそれを拾うのを横目で見る。あたしたちの思い出が詰まった槍が、こんなやつらに奪われた。それだけで喪失感が胸に生まれる。
クラディールが重ねて告げる。これこそが本当の狙いだとでも言うように。
「んじゃ、脱げ」
「……は?」
頬が引きつる。こいつは一体何を言っている?
クラディールが苛立ったように重ねる。
「だから脱げっつってんだよ。てめえ女だろ? 倫理コードも解除しろや」
ああ……。
あたしは力なく項垂れる。
そうか、そういうことか。
あたしはこれから犯されるわけだ。ハチマンを盾に取られて。なぶられ、陵辱されるわけだ。ああ、そういう運命なのか。本当に、あたしたちに何の恨みがあるのだ。ユキノに怒られたけれど、いまこの瞬間あたしは再び思う。
この世界は、本当に狂っている。
こんな狂った世界、無くなってしまえばいい。
「脱いだら、ハチマンは助けてくれるのかい……?」
力無いあたしの返答に、クラディールが愉悦で顔を歪め言った。
「てめえの態度次第だなあ」
ああ……本当にもう嫌だ。
こんなことなら、ハチマンとふたりで身を投げればよかった。心中でもすればよかった。そして、あの世でずっとふたりで平和に暮らしたかった。こんな、あたしたちをもてあそぶ酷い世界じゃなくて、どこか遠い天国で一緒に過ごしたかった。
それでも、あたしの心はハチマンを殺すことなど許せなくて。こんな奴らの言うことを信じるしか道がない。
そっとハチマンを見る。彼は気を失っているのか、身じろぎひとつせずクラディールに掴み上げられている。
ああ、ハチマン。
そういえば、結局あんたにあたしの脱いだ姿、見せたことなかったね。
ごめんね。
本当はあんたが初めてがよかったけれど、あんたが目の前で死ぬくらいなら、あたしはあたしを捧げるよ。
たとえそれが、万に一つであったとしても。億か、兆か、或いは京にひとつであったとしても。那由他の果てにハチマンを助けられるのなら、あたしは――
あたしは、装備全解除のボタンへ指を伸ばす……。
……。
…………。
………………………………。
地獄の門が開いた。
血色渦巻く地獄の門から、訊くものすべてを死へと誘う声が聞こえた。
――テメエら、俺のサキに何してやがる。
あたしの視界に、紅い斬閃がふたつ踊った。それがなんであるか、あたしはすぐには分からなかった。
ふらり、とクラディールの両腕が飛ぶ。これから起こる虐殺劇を告げる鐘の音のように、腕が落ちて霧散する。
ああ……ああ、ああ……。
あたしの目から涙が溢れる。
彼がいた。
彼が、立っていた。
もう春も過ぎているというのに、掴んで離さなかった白のマフラーを風になびかせて。深い臙脂のコートに黒のボトム。その瞳に憤怒の炎を従え、紅の《デスブリンガー》を握ったハチマンが、己の足で立っている。
全員が唖然としていた。腕を斬られたクラディールですら、身体を固めている。地獄の底から死を呼ぶ声に、全員の身体が絡め取られたのだ。
そして、悪魔の領域が展開される。
フローズン・ファウスト。
パーティメンバーを除く半径十メートル圏内を、足を引く死者の縛鎖で捕える、《暗殺者》ハチマンによる絶対領域。
緑溢れるフィールドに、再び紅の斬閃が咲き誇る。まるで桜の花びらでも散るように、全員の両腕が次々と宙を舞う。宙を舞う。宙を舞う。
翡翠の槍が地面に転がる。
全員の両腕が地面に落ち、音を立てて硝子片となって砕け散る。
そして、ハチマンが、唯一手を腕を斬らなかったロザリオの首筋に、死をもたらす紅の短剣を突きつけた。
「いま死ぬか、今後一切俺たちから身を引くか、どちらか選べ」
静かで、しかし訊くものを震え上がらせるハチマンの死の旋律。
ロザリオがうろたえる。
「お、お前にアタシを殺せるの? グリーンアタシを殺したら、アンタはオレンジになる。殺人者になるよ!」
へぇ、とハチマンがとても面白そうに笑う。ロザリオの浅慮を馬鹿にした、皮肉染みた笑み。ハチマンがロザリオの耳元に口を寄せる。
「俺が何人殺したか知ってるだろ? ラフィンコフィンを殺し尽した男に何言ってんだ?」
ロザリオが悲鳴を上げる。
全員が動けない。動けば即座に殺されると本能で理解しているから。人は、圧倒的な恐怖を前に動くことなどできない。
「あと五秒だけやる。去るか、死ぬか。どちらか選べ」
ロザリオの瞳に懊悩。そして、
「撤退! 撤退するよ!」
即座に全員の止まった時が動き出し、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。全員が逃げるさまを眺めていたハチマンが、ようやくあたしの姿をその瞳に捉える。
瞳はいつもの腐った色に戻り、表情は少し照れくさそうにしていた。もじもじと短剣を握る肘を掻いて、気づいたように短剣を鞘に収める。
ゆっくりとハチマンが歩を進める。
あたしも足を踏み出す。
たった数メートルが永遠にも感じるように、時間がゆっくりと流れる。
涙が止まらない。
嬉しくて。
嬉しすぎて。
ずっとこのときを待っていたから。
あたしの手がハチマンの身体に触れる。暖かく、確固たる意識を持った彼の身体に触れる。
「ハチマン、ああ……ハチマン……!」
「すまん、心配かけたな……サキ」
どちらともなく抱き合う。力強く、いままでの不幸をすべて吹き飛ばせとばかりに彼を抱きしめる。彼の手があたしの背を這う。
「ずっと、ずっと待ってた……! あなたが戻って来るのを、あたしはずっと待ってた!」
「面倒かけたな」
「ううん。ハチマンのためなら、なんだってするから」
「ありがとうな」
「いいよ。愛してるから」
「おう、まあ、俺もだ」
あたしは顔を上げる。ハチマンと瞳が合う。
彼が困ったようにぎこちなく笑う。
あたしはただ欲しくて、ねだる様にまぶたを閉じる。
星々が引力で引き合うように、あたしはハチマンと口付けを交わした。