ソードアート・オンライン Youth in Aincrad   作:ユーカリの木

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終章
やはり俺と沙希の青春はアインクラッドから始まった。


 あの日、すべてが終わった日、現実世界で目を覚ました俺を待っていたのは、髪を長く伸ばした美少女だった。大きな目に涙をいっぱいに蓄えた彼女は、あろうことか俺に抱きつき大声で泣き出したのだ。おいおい、現実に戻った瞬間に浮気しちゃってるよ、沙希に殺されちまう! と焦った俺だったが、すぐに気づく。

 

 妹の小町だった。

 

 雰囲気は大分大人びていたが、声や仕草は三年前と変わらず妹のそれだった。叫ぶように無く小町の頭を撫でてやりたかったが、長年寝たきり生活をしていたせいか身じろぎひとつできず、声をかけてやることもできそうになかった。

 

 やがて、駆けつけてきた看護師や医者らに身体中をまさぐられるという公開羞恥プレイをさせられることとなる。あのときの恨みは一生忘れねえぞ!

 

 俺たちの現実復帰を知った由比ヶ浜、戸塚、材木座、平塚先生、葉山たちが次々と見舞いに来たときは驚いたものだ。特に俺を驚かせたのは、リハビリの中で多少は動けるようになった沙希が、いつでも隣にいることだった。目が覚めた途端に沙希が同じベッドに寝ていたときの衝撃といったらもう、いっそこのまま襲ってしまいたいと叫ぶ欲望くんを叩きのめすのにどれだけ苦労したか。仮想空間では去ってしまった理性ちゃんも、現実世界ではパワーアップしてフル稼働中だ。やっぱり居てよかった理性ちゃん! 君の帰りを待っていたよ!

 

 沙希や雪乃とは同じ病院であったため、中庭のベンチでよく会話をしたものだ。由比ヶ浜も今では立派な大学生となっているようで、あのアホさ加減も現在ではなりを潜めている、ような気がする。たぶん。きっとそうだと思うよ……。八幡、嘘つかない!

 

 戸塚は相変わらず天使だった。大学生になって更に可愛さに磨きがかかったようで、まさしく天使トツカエルになっていた。いつか拝みたい。

 

 材木座はまあ、あまり変わり無い。

 

 それから半年近い苦行とも呼べるリハビリの果て、虜囚となって三年後の十一月には日常生活に復帰することができるようになっていた。

 

 年齢的にはいつの間にか成人式を迎え、あと九ヶ月後には二十一になろうという時期だ。唐突に眼前に現れたのは、進路という巨大な壁だ。正直戻ってきてからのことを総武高校に通えばいいや程度にしか考えていなかった俺は、途端に本当にそれで良いのか悩むようになった。だって、三歳年上の同級生とか嫌だろ普通。確実にぼっちになっちまうじゃねえか。もうぼっちは嫌だ!

 

 そんな折、尋ねてきたのは、総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二分室職員というやたら長ったらしい肩書きを持った男、菊岡誠二郎だった。とりあえず、略称は仮想課というらしい。

 

 菊岡が告げて来たことは、絶賛悩み中の進路のことだった。

 

 曰く、中学、高校時代に巻き込まれたプレイヤー達のカウンセリング及び経過観察を行う目的で、専用の学校が設立された。

 

 端的に述べれば、SAOにより人生の一部を切り取られた俺に、この学校へ入学してはどうかという話を持ってきたのだ。

 

 俺はそれに即座に返答は返さず、保留とした。義務でもなければ東京なんぞに行く気はなかった。その代わり、SAO内部で見聞きしたことを話すことを迫られ、俺はそれに応えることとなった。さすがに官僚様には逆らえませんとも。情けない……。

 

 長い時間を掛け、明け透けなくすべてを話した。二十九人を殺したこともすべて。菊岡は、俺は犯罪者にはならないと言った。すべての責は茅場晶彦が引き起こしたものであり、ひとりの人間としてという前置きはあったものの、俺の行動は間違っていなかったと言われた。正直、納得はできなかった。二十九の贄の果てにいま俺はこうして立っている。だからこそ、お詫び行脚のひとつでもしなければと考えていたのだが、むしろやってくれるなと言われてしまった。いま生きろと、それこそが贖罪だと言われ、俺はそれを呑み込むことが精一杯だった。

 

 菊岡から追加情報として、アーガスからSAOの維持管理を引き継いだレクト、その主任研究員である須郷という奴が、なんちゃら罪で逮捕されたと教えられた。どうやらマンダトリーが何かしら工作していたらしい。このお陰で、仮想現実に未だ囚われているはずであった何千名かも無事現実に帰還を果たしたとのことだ。どうにもよく分からない。

 

 俺が何に悩もうとも、時は流れ季節は巡る。

 

 二年半も勉学から遠ざかっていた俺は、沙希と雪乃と三人で勉学に励んだ。平塚先生もたびたびやってきては勉強を教えてくれた。相変わらず俺は国語だけは得意だったから、あまり意味はなかったのだが、それを言うと衝撃のファーストブリッドを食らわせられるため黙っておいた。

 

 そしてこの頃になると、俺たち三人の進路も決まっていた。やはり総武高校に通うことになったのだ。それも、二年ではなく三年生としてだ。平塚先生が兼ねてより色々動いていてくれたそうだ。やはりあの素敵な先生が結婚できないのは間違っている。

 

ソードアート・オンラインに囚われてから三年と四ヶ月。季節は寒さの残る三月に入った。

 

 鈍い日差しと冷たい空気が交じり合う、なんとも言えない室内の雰囲気の中で、俺は目を覚ました。ベッド脇に置いた時計を見ると、午前八時をさしていた。どんな遅くまで起きていようが早く寝ようが、SAO時代の慣習というものはなかなか抜けてくれないもので、どんなに頑張ってもこの時間にならないと目が覚めない。俺、ちゃんと学校生活できるのかと若干憂鬱になっていると、突然部屋の扉が開いた。

 

「おっはよーお兄ちゃん」

 

 廊下から飛び出してきたのはなんと! プリティからビューティフルに変化した、比企谷家自慢の長女、小町だった。まあ、ただの妹だ。

 

 どうやら俺が虜囚となってから心の変化があったようで、大分大人びた喋り方をしていたが、昨今では俺の前だけは昔のように接するようになっている。やはり甘えたいのだろう。

 

 格好は総武高校の制服だ。無事に合格できたと知ったときには涙を滝のように流して喜んだものだ。直後キモい、超キモいゴミいちゃんと言われたときは更に泣いた。超泣いた。ひどすぎるだろ俺の妹。

 

「おう、おはよーさん。どした?」

 

 いや~と両手をもみもみとしながら、小町がニヤニヤと近づいてくる。気持ち悪い。

 

「マジでどうした。お前はどこぞの商売人か?」

 

「実はこま……じゃない、わた……いやいや、小町、月に一度はお兄ちゃんに抱きつかなければ死んでしまう病にかかってしまいまして~」

 

 二度言い変えやがったぞこいつ。もう一人称統一してくれよ。それになんだ、その奇怪すぎる病は。完全に俺得じゃねえか。

 

 とはいえ、

 

「病院行くか?」

 

 とりあえず突っ込みを入れておく。俺はいま沙希ルートを驀進中なのだ。禁断の小町ルートなんぞ選ばん!

 

 すると、突然小町がもみ手をやめ、けろっと表情を普段のものに変える。

 

「ま、それは冗談なんだけど」

 

 分かりづらいんだよお前の冗談……。

 

「今日、小町も行くから」

 

「は? なんだって?」

 

 はあ、と小町が疲労の混じったため息を吐く。これだからゴミいちゃんは。いつから難聴系主人公になったんだろう、とかぶつぶつと呟いている。訊こえてるからね小町ちゃん。俺難聴じゃないよ?

 

「いやいや、なんで小町が来るんだよ。お前、今日の会なんも関係ねえだろ」

 

「え? だって大志くんも行くって言ってたよ? あと陽乃さんも」

 

 きょとんとした様子で小町に言われる。

 

 待て、あの毒虫……じゃない、愛しい沙希の弟君は、いまだに小町の周りをうろちょろ、じゃない、寄り添ってくれているのか……。そうなんだよなあ、こいつら遂に付き合いやがったんだよなあ。駄目だ、現実に戻り事実を直視してしまうと、どうしても奴に対する拒絶反応が起こってしまう。これは遺伝子のなせる業か……。などと適当なことを考えていると、小町がるんるん、と鼻歌を歌いながら、

 

「だって、お兄ちゃんと一緒に戦った人たちとお話してみたいし。お兄ちゃんに出来たっていう初めての親友さんとも会ってみたい!」

 

 爛々と瞳を輝かせた小町が俺に顔を近づける。あのゴミいちゃんに親友ができたなんて奇跡だよ! 彼女ができたことはもはや神技だよ! とか目で語っている。こいつ、俺を一体なんだと思ってるんだ。友達や彼女のひとつやふたつ誰だっているだろ。はい、いままでいなかった俺が言えるわけないですよね。八幡知ってた。

 

 ここで断ると明日から俺の食事がすべてトマト祭りになるから、しかたなく頷いてやった。

 

「やっほーい! じゃあ今日は学校休む! 今日の小町は風邪になる!」

 

 かなり頭が残念なことを言いながら小町が部屋を出て行く。どうしよう、小町の頭が良くなったのか悪くなったのか全然分からん。お兄ちゃんどうしたらいいんだろう。

 

 そんなことを考えながら、スマホからSNSを起動。今回のSAOオフ会の主催者であるディアベルとエギルへ三名追加の旨の連絡を入れておく。

 

 こいつも、昔は暇つぶし兼目覚まし時計だったのになあ。いまじゃ結構な量の連絡先が入っているのだから困ったものだ。毎日誰かから連絡が掛かってきやがる。面倒だから放って置きたいのだが、一度それをやったら鬼のように連絡を掛けてきた奴がいたから速攻で返信をするようにしたのだ。その相手は誰であろうキリトだ。あの野郎、ストーカー気質があるんじゃねえか?

 

 曰く、どうせ暇なんだから遊ぼうぜ、だの。

 

 曰く、どうせ暇なんだから東京来いよ、だの。

 

 曰く、どうせ暇なんだから勉強教えてくれよ、だの。

 

 曰く、どうせ暇なんだからダブルデートしようぜ、だの。

 

 おい、なんでこいつは俺がいつも暇だって思ってんだよ。「どうせ暇なんだから」は枕詞じゃねえぞ。

 

 最近の俺は結構忙しいんだよ。三年間も手を着けていなかった勉強をしたり、貯まったラノベや漫画を読んだりアニメを消化したり、沙希とデートしたり沙希と散歩したり沙希と食事したり沙希といちゃいちゃしたり……まあ、大半が沙希だな。だから暇じゃない。超忙しい。

 

 そしてもうひとり、厄介な写真を毎日送ってくる奴がいる。

 

 当然のごとくアルゴだ。なぜか「今日のアルゴ」とかいう意味不明な題名で自撮写真を送ってくるのだ。あまりにもお持ち帰りしたい可愛さだったので即保存していたら、沙希と雪乃にバレた。怒られると思いきや、転送してくれと言われる始末だ。特に雪乃の剣幕はすごかった。さすがネコ大好きフリスキー。まったく、アルゴの可愛さは性別を超えるらしい。

 

 そんなことを考えていると、ディアベルとエギルから返信が帰ってきた。問題ないようだ。返信でお礼を述べてスマホを閉じる。

 

 ベッドから這い出すように立ち上がって、適当に服を着た。どうやら虜囚となっている間に幾分か背が伸びたようで、いままでの服がすべて着られなくなったのだ。最初こそ小町が買ってきた服を着ていたのだが、沙希と出歩くようになってからは、彼女が服を見繕ってくれるようになり、そこそこ見られる姿になった。

 

 やっぱ顔だけはいいんだよな、俺。あとは目さえもうちっとまともになってさえくれれば、イケメンと名乗っても問題なかろう。でも悲しいかな、相変わらず腐っている。現実に戻ってきて初めて鏡を見たときの形相といったらもう、ゾンビもかくやの有様だった。いまでも夢に見る。超怖かった。自分の顔がゾンビってなんだよ……。しまいには泣くぞ俺。

 

 とりあえず、最近はムカついたことがあれば全部マンダトリーのせいにすることにしている。そうすると少し気分が落ち着く。マンダトリーのサンドバッグって売れないかな? 販売したら絶対買う。そして毎日顔がボッコボコになるまで殴る。最高のストレス発散器具だ。

 

「お~いお兄ちゃ~ん。そろそろ行くから支度して~。沙希さんと大志くん来ちゃうよ~」

 

 階下から小町の声が響く。おっと、マンダトリーを脳内でボコっている間に三十分も時間が過ぎちゃったじゃねえか。やっぱ害悪だなあいつ。即座に抹殺しなければ、とか考えながら一階の洗面所まで下り、身支度を整える。急いで朝食を食べていると、玄関からインターホンの音が来客の到来を告げる。

 

 は~い、と小町がぱたぱたとスリッパを鳴らしながら玄関へ向かう。俺は残りのサラダを無理やりマッ缶で飲み下し、小町に続く。

 

 小町が扉を開けると、愛しい沙希と、毒虫……じゃない、小町のかれ……ぐっ、彼氏であるような気がしないでもない大志が並んで立っていた。

 

 駄目だ、まだ心の整理がつかない。どうしてだ。小町を愛しすぎたからか。

 

 三人とも朝の挨拶を繰り広げているなか、俺だけが大志を睨みながら、ぐぬぬ、と心の中で葛藤をしている。そんな俺に気づいたか、沙希が俺に視線を移した。

 

「八幡、また変なこと考えてる?」

 

 大人びた容貌となった沙希が、微笑みながら俺に近づいてくる。以前と変わらぬまま、青み掛かった髪をシュシュで纏めてポニーテールにしている。今日の装いは春らしくドット柄のワンピースに、黒のロングブーツを履いている。ベルトをしているからか、やはりおっきなお胸が強調されている。やばい、万乳引力に視線が吸い込まれる。いかん、乳トン先生、俺この引力からは逃れられないよ。

 

 あまりにも馬鹿げたことを考え胸を凝視していたら、突然沙希に頭を両手で掴まれた。そのまま顔を胸に埋めさせられる。顔が幸せだ。超柔らかい。小町がきゃー、と楽しそうな声を上げ、大志が「姉ちゃん……」と疲労の混じった声を出している。外野は知ったことか、いまはこの乳神様に俺の人生を捧げたい。

 

「あんた、どうしてこういうときだけは欲望に忠実なんだろうねえ」

 

「理性ちゃんもこれは許してくれる。だがキスをすると準備運動を始めるんだ。帰ってきた理性ちゃんは強いぞ」

 

 厄介だねえ、と沙希が笑う。

 

「うちに兄が馬鹿ですみません……」

 

 小町がなぜか謝っている。

 

「うちの姉が大胆ですみませんっす……」

 

 大志もなぜか謝っている。

 

 名残惜しくも胸から顔を離して、沙希と見詰め合う。互いに考えていることは一緒なのだろう。ふたりで頷き、妹と弟へ視線を投げる。

 

「これくらい普通じゃないの?」と沙希。

 

「まあ、当然だろ。付き合ってりゃ」と俺。

 

 小町と大志の顔に驚愕。まあ、ふたりのまえじゃ特にいちゃついた姿見せてねえしな。小町が無駄に喜んで写真とか撮り始めそうだし。

 

 ぱちん、と小町が両手を合わせる。

 

「とりあえず行きましょうか! 遅れちゃうとマズイので」

 

 それもそうだな、とまたぞろ全員が玄関を出る。そして気づく。

 

「おい、小町、大志。お前らなんで制服着てんだよ」

 

「え?」と二人の声が揃う。ぐぬぬ、こういうところで付き合ってる感出すのやめてくれないかな。思わず大志を沈めたくなるから。と思っていると、沙希に脇腹を小突かれる。

 

「いい加減慣れなよ。あんたがシスコンなのは知ってるけど、限度ってもんがあるでしょ?」

 

「実際事実を知ってこうして見ると凹むんだよ。なぜ小町が……」

 

「お兄さん、結構酷いこと言ってるっすよね!?」

 

 大志が突っ込みを入れてくる。まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「で、なぜに制服?」

 

 や~、と答えたのは小町だ。

 

「お兄ちゃんと未来の義姉ちゃんに制服姿を見せたくて着てきちゃった。てへ☆」

 

 あざとい。そしてそんな理由で外に出たら補導されちゃうだろ。やっぱり小町、頭大丈夫なのか? お兄ちゃんちょっと心配になってきたよ。そして大志、小町の暴走を止められないなら別れろ。いますぐ別れてしまえ!

 

 仕方ない、と俺が額を押さえてスマホを取り出す。

 

「金掛かるがタクシー使うか」

 

「それには及ばないわ」

 

 突然、新たに声が訊こえた。家の前に止まった一台の黒塗りのハイヤー。その後部座席に開いた窓から、ひとりの女性がこちらに声を掛けてきたのだ。

 

「雪乃か。来るなら来るって言ってくれ。危うくタクシー呼んじまうとこだっただろうが」

 

「ごめんなさい。小町さんには連絡しておいたんだけれど」

 

 小町を見る。小町はひゅーひゅーと気の抜けた口笛を吹きながら、そっぽを向いていた。

 

「お前、忘れてたろ」

 

 小町がぱちんとウインクをする。

 

「てへ☆」

 

 うぜえ……。

 

「すまん、雪乃。こいつは存外馬鹿だ。次からは普通に俺に連絡してきてくれ」

 

「と、彼は言っているのだけれど、沙希はいいの?」

 

 雪乃の視線が俺から沙希へ移る。

 

「構わないよ。別に浮気なんか疑っちゃいないって」

 

「そう、分かったわ。次からは八幡くんへ直接連絡を入れるわ。返信のときは必ずカマクラさんの写真添付をお願いね。あと今日のアルゴさんも転送してくれないかしら」

 

 相変わらずネコ好きさんめ。

 

「面倒だからやっぱ連絡してくんな」

 

「あら酷い。沙希、あなたの彼氏が冷たいわ。なんとかしてくれないかしら?」

 

「いいから乗せてくれ……」

 

 はいはい、と苦笑した雪乃がドアを開いて俺たちを招いてくれる。おいおい、四人全員が後部座席に乗れるってどういうことよ。でっかい車さんめ。俺が飛び込んだせいで無駄に傷つけてごめんね。

 

「やっはろー比企谷くん、沙希ちゃん」

 

 いきなり声をかけてきたのは、助手席に座っていた陽乃さんだった。以前と比べて表情が柔らかくなった彼女は、もうあの強化外骨格をつけていないらしい。事件を経て思うところがあったのだろう。

 

「うす」

 

「色々お世話になってます」

 

 俺と沙希が返事をすると、陽乃さんは実に楽しそうに笑う。

 

「相変わらず比企谷くんは適当だねえ。沙希ちゃんは真面目だし」

 

「俺から適当を抜かしたら辞書に残る文字がなくなりますよ」

 

「やっぱりSAOで色々あったんだろうね。大分君も変わったね」

 

「まあ、友人と彼女ができる程度には」

 

「あの比企谷くんに友達と彼女がねえ……」

 

 昔を思い出しているのか、陽乃さんが遠い目をした。俺としては、あの魔王がここまで弱体化していることに驚いているくらいだ。うそ、そんなこと考えてません。だから怖い目で見るのやめて陽乃さん! なんで俺の周りはエスパーばっかなんだよ!

 

 ともあれ、ハイヤーが出発する。

 

 相変わらず車内は騒がしい。特に小町と陽乃さんがしゃべり場のごとく話まくってる。大志は慣れているのか、上手いタイミングで会話に加わっている。かくいう俺はとりあえず沙希の胸に頭を置いている。側頭部が幸せだ。ついでに、沙希が頭を撫でてくれるからもう天国だ。これくらいは許容してくれる理性ちゃんに感謝だ。でも調子に乗ると最近は内部から俺をもボコボコにしてくるから注意が必要だ。旅を経て戻ってきた理性ちゃんは、超凶暴なのだ。

 

 対面に座る雪乃は、そんな姿に見慣れているからか特に顔色を変えずに催促してきた。

 

「今日のアルゴさんをくれないかしら?」

 

「おい、その話題まだ終わってないのかよ」

 

「あれが毎日の楽しみなのよ」

 

「お前もそういうところは変わらないよな……」

 

 苦笑しつつもスマホを操作して雪乃へ転送してやる。ついでに沙希にも送っておく。というかアルゴめ、どうして俺に毎日写真なんぞ送ってきやがるんだ。以前そんなことを訊いたら、帰ってきた答えが凄まじかった。

 

 ――当然、沙希ちゃんから全力で八幡を奪うためだよ!

 

 こいつ、諦めが悪い……。そのときは沙希も苦笑いしていたものだ。とりあえず、沙希の許可は得ているから写真は受け取っているが、徐々に過激にならないことを祈るばかりだ。あと、いい加減他の恋をしてくれ。

 

「ディアベルとは連絡取ってんのか?」

 

 思わず気になったことを口にしてみる。雪乃は微笑みながら頷いた。

 

「ええ、何度かもうこちらで会っているわ。既に姉さんにも紹介済みよ」

 

「で、なんて?」

 

「意外と気に入ったみたい。時折私をそっちのけで会話していることがあるわ」

 

 そりゃすごい……。あの野郎、いつの間に陽乃さんを懐柔したんだ。さすが天然漂白剤。

 

「へえ、良かったじゃないか」

 

 沙希が相変わらず俺の頭を撫でながら話に加わる。ああ、頭が幸せだ。

 

「ひとつ悩みが晴れた気分ね。みんなも順調にやっているようだし。災い転じて福となす、といったところかしら?」

 

「災いが大きすぎた気がするけどねえ」

 

 車内に穏やかな会話が流れる。

 

 こうして幾ばくかの時間が過ぎ、ようやく目的地である東京都台東区御徒町にたどり着く。そこからしばらくハイヤーを走らせ、裏通りにある煤けたような黒い木造の店の前で停車した。俺たちはハイヤーを出て、《Dicey Cafe》と看板に刻まれた店のドアを開く。乾いたベルを響かせて店内に入ると、カウンターの向こうで頭てっかてーかの巨漢が顔を上げ、にやりと笑った。店内にはぽつぽつと人がおり、こちらを見るとやはり同じように笑った。

 

「よう、エギル、ディアベル、あとキリトとアスナもいるのか。早いなお前ら」

 

「元気そうで何よりだハチマン、サキさん、ユキノさん。後ろの三人は家族だったか?」

 

 エギルが笑いながら俺たちの背後を見やる。俺は小町を前に押し出して紹介してやる。

 

「おう、こいつが俺の超可愛くて超美人の妹、小町だ。絶対手を出すなよ? 手を出したら殺すからな?」

 

「相変わらずシスコンだな、ハチ……」

 

 苦笑しながら返してきたのはキリトだ。俺はキリトを指差して小町に教えてやる。

 

「あれが俺の自称親友くんのキリトだ。最近俺のストーカーと化している奴だから気をつけろ」

 

「お前紹介の仕方が雑すぎるだろ!?」

 

 立ち上がったキリトがずんずんと俺に近づいてくる。おう、やんのかこら?

 

 当然殴り合いなど始まるわけもなく、間に仲裁に入ったのはアスナだ。

 

「まったく、ふたりともいつもこんななんだから。あたしはアスナ。よろしくね小町ちゃん。ハチくんからは訊いていたけど、話していた通り可愛い妹さんだね」

 

 小町から返答がない。どうした、人見知りする奴じゃないのに、と思って顔を覗くと、大きな目を盛大に潤ませ身体を震わせていた。

 

「お、お兄ちゃんにお友達がいっぱいいる……! お友達がいるって本当だったんだ……!」

 

 ああ、そこに感動してたのね。お前、俺の言葉を嘘だと思ってたのか。お兄ちゃんショックだよ。

 

 そこから、大志と陽乃さんの紹介が始まった。全員が名乗り終えた頃になって、ようやくクラインとアルゴがやってきた。

 

「よおハチ。それとサキさんにユキノさんも。こっちで会うのは初めてだよなあ」

 

「今日のアルゴは堪能したか? 明日からちょっと過激に行こうと思うんだけど、いいか?」

 

 おい、ひとりだけおかしいことを言っている奴がいるぞ。

 

 とりあえずクラインはいつものごとくスルーして、まずはアルゴだ。こいついまなんて言った?

 

「おい、そろそろ今日のアルゴはやめろ。やるなら雪乃にしとけ」

 

 えー、とアルゴが頬を膨らませる。超可愛い。とりあえず、俺は無視かよ、とかいうクラインは放っておく。エギルとかディアベルに相手してもらえ。いまはこの難題を片付ける方が先だ。

 

「沙希ちゃん、だめ?」

 

 目を潤ませながら沙希を見上げるアルゴ。沙希もうんうん唸っているようだが、

 

「できれば過激なのはちょっと……というか、あたしの彼氏だからホント勘弁して。あんた可愛いから、八幡を奪われないか気が気じゃないんだよ」

 

 さすが沙希、言い切った!

 

 アルゴがしゅんと項垂れるが、そこで反論したのはこともあろうか雪乃だった。アルゴの両肩を掴むと大きく揺さぶって叫ぶように言う。

 

「駄目よ! 絶対に続けなさい! 私が許可するわ! だからお願いアルゴさん、私だけでもいいから今日のアルゴを続けてちょうだい!」

 

 こいつ、欲望に忠実になったな……。理由は写真がほしいだけだろ……。

 

 雪乃ちゃんだけっていうのはちょっと……とアルゴも引いちゃってるじゃねえか。

 

 そこでツンツン、と俺の裾を引いたのは小町だ。つま先立ちになって俺の耳元で囁く。

 

「この人が例の人?」

 

 とりあえず頷いておく。

 

 にんまり笑った小町がアルゴの隣に立つ。

 

「やっはろーです。兄の妹の小町です! 兄がお世話になってます」

 

「んん、これがうわさの八幡の妹か。確かに可愛い……」

 

 アルゴがふんふんと頷きながら小町を舐めまわす様に見ている。小町は何を思ったか、モデル立ちみたいなポーズをとりながらアルゴの視線を受け入れている。小町、お前は一体何になろうとしているんだ……。

 

 小町が俺に向かってウインクをする。どうやらアルゴを引き付けてくれるらしい。いや、何一つ解決してないからね。あんま意味ないよその行動。

 

 まあ、そろそろクラインがうるさくなってきたから相手でもしてやるか。

 

「よう、クライン。いつ来たんだ?」

 

「さっき挨拶したよなあ!? ナチュラルに無視するなよお、ダチだろお!?」

 

「おお悪い悪い。アルゴの挨拶があまりにぶっ飛んでたんでな。影薄かったんだよ。すまんな」

 

 落ち込むクラインを適当に慰める。

 

「オレもその今日のクラインとやらをやってやろうか……」

 

「やめろ。気色悪い」

 

「ハチ、オレぁこう見えても結構傷つくから、辛辣な返しはやめてくれよぉ」

 

「まあなんだ。俺の最愛な妹である小町を三十秒見つめることを許可する。それで元気だせ」

 

「おう、そうするわ!」

 

 急に元気になりやがった。こいつまだ彼女できないのか。いい奴なのに……。

 

 スマホの写真のシャッターを切りまくるアルゴにクラインが並ぶ。おい、誰が写真撮っていいっつった!? 小町は写真じゃなくて肉眼で見ることによってその可愛さと美しさが栄えるんだぞ! あんな二次元データなんぞで愛らしさが伝わるわけがないだろ! だからそのデータ全部俺に寄越せ!

 

「あんた、頭の中暴走しすぎでしょ。ほら、落ち着きなって」

 

 苦笑い気味の沙希に抱きしめられる。ああ、やばい。急に思考回路がのんびりになる。沙希にこうして抱かれていると、身体のやわっこさとか温かさとか、心臓のゆっくりとした音とかで何も考えられなくなる。やばい、これぞ惚れた弱みか。

 

「おい、お前さんら。いいからさっさとこっちに来い。いつまで入口前に居座るつもりだ」

 

 カウンターをコンコン叩いてエギルに催促される。確かに、さっさと席に着こう。沙希の手を引いて俺は隅っこに陣取る。やっぱ隅っこって落ち着くよねー。

 

 大志は歳も近いということでキリトとアスナに連れ去られ、小町は相変わらずアルゴとクラインの視線を鷲づかみにしていた。雪乃と陽乃さんは、やはりディアベルと同じ席だ。

 

「じゃあ、ハチマン、サキさん、前に出てきてくれ」

 

「あ、お構いなく」

 

 エギルの言葉に俺と沙希が同時に答える。額を抱えたエギルが呻くように言った。

 

「だからお前さんらはどうして前に出るのを嫌がるんだ……」

 

「おいエギル。元ぼっちを舐めんなよ? 人前に出るとか恥ずかしいじゃねえか」

 

 そうそう、と沙希が続ける。

 

「人には向き不向きがあるんだよ」

 

「あのな、お前さんらが前に出てくれないと話が進まないんだよ。頼むから出てきてくれ」

 

 エギルの悲痛な訴えに、仕方なく俺と沙希が立ち上がる。カウンターの前に二人して陣取った瞬間、店内の照明が落ちて一面が暗くなる。こういうのが苦手な沙希が速攻で俺の手を握ってきた。超可愛い。

 

 唐突にスポットライトが俺たちに当たる。そして、

 

「ふたりとも、SAOクリアおめでとう!」

 

 パンパンとクラッカーの音が鳴り響く。おい、なんで小町も大志も陽乃さんも持ってんだよ。こいつら、裏でエギルたちと繋がってやがったな。

 

 隣では沙希が目を潤ませていた。まあ、俺としても満更ではないが、別に俺たちだけで攻略した訳じゃないんだけどなあ。

 

 そのままエギルが乾杯の音頭を取り、本格的にオフ会が始まった。

 

「ハチ、最後のふたりの戦いはもう伝説だよな。見てて感動したぜ」

 

 近寄ってきたのはキリトだ。相変わらず戦闘好きな奴め。

 

「あんたねえ。こちとら必死だったんだからね……」

 

 沙希があの戦いを思い出したか、憂鬱そうに言った。俺も似たような表情をしてたのだろう、アスナが慌てて間に入った。

 

「ごめんね、キリトくん、こういうのに目が無くて。でもふたりともすごかったよ!」

 

「おい、それ結局同じこと言ってんじゃねえか。こちとら蘇生アイテム持っててもバレないように必死にやってたんだぞ。マジな話、勝ちに行ってたしな。ありゃ無我の境地だった……」

 

 俺も遠い目をする。正直あれほど得物の長さの不利を痛感するとは思わなかった。やっぱ槍相手に短剣はねえな。というか、オクトアサルトぶっ放した時点で勝ったと思ったくらいだし。あれを捌ききった沙希すごい。超すごい。いますぐお持ち帰りしていちゃいちゃしたい。

 

「俺、お兄さんと姉ちゃんの活躍を是非とも訊きたいっす!」

 

 大志も会話に加わってくる。キリトとアスナがまるで自分のことのように俺たちの話をしている。恥ずかしいからやめて!

 

 よく見れば、いつの間にかこちらに来ていた小町がふんふんと二人の話を訊いている。おいおい、陽乃さんまでいやがるよ。ディアベルと雪乃がふたりでいちゃついてるぞ、いいのか陽乃さん!

 

 ひとまず羞恥の真っ只中にいるのが居た堪れなくて、俺と沙希が逃げ出す。カウンターに座ると、エギルがコーヒーを出してくれた。なんとマッ缶様だ。さすが分かってらっしゃる。

 

「さすがエギル。マッ缶まで常備してるのか。毎日通うぞ」

 

「それはありがとうよ。でもさすがに常備はしてないぞ。お前さんが来るから用意しておいただけさ」

 

「エギル、いい奴だな……」

 

 とりあえず俺はエギルを拝んでおく。禿頭だからご利益ありそうだ。

 

「マッ缶ひとつでそこまで態度を変える奴はお前さんくらいだろうよ」

 

 エギルが苦笑する。

 

「オレにはバーボンくれ」クラインが隣にどかりと座った。

 

「オレッち……じゃなくて、私にもマッ缶ちょーだい」沙希の隣にアルゴが座る。こいつ、一人称がまだ直ってないな……。

 

 あいよ、とエギルが気持ちのいい返事をして準備をする。

 

「とりあえずお疲れさんだな。結局、おめえらには世話になりっぱなしだったな」

 

 クラインの言葉に俺と沙希は首を振る。

 

「んなことねえよ。こっちも迷惑掛けまくったからな」

 

「あんたらには感謝してるよ」

 

「おめえらにそう言ってもらえると、こっちも助かるわ」

 

 出されたバーボンをクラインが煽る。

 

「それよりいいのかクライン。会社抜け出してきてるんじゃないか?」

 

 アルゴがクラインに問う。クラインが、へっ、と笑った。

 

「いいんだよ。こんな日くれぇ飲ませてくれよ。やっとこいつらに会えたんだからよお」

 

「んじゃ私も飲もっかなー。エギル、バーボンくれよ」

 

 おいおい、とエギルがアルゴの頭をぽんぽん叩く。

 

「お前さん未成年だろ。酒はまだ早い」

 

「私は今年で十九だぞ! いいじゃないか!」

 

 写真に妙な色気があるから年齢が分かりづらかったが、やっぱこいつ年下だったか……。

 

 やんややんやと騒いでいる三人はともかく、ディアベルにも一応顔を出しておくか。俺が席を立つと、やっぱり沙希も着いてきてくれる。

 

「よう、ディアベル。お前を殴りに来たぞ」

 

「まだそれ言ってるのかいハチマン」

 

 半笑いのディアベルが俺に振り返る。

 

「殴るって約束しただろ? もう忘れたのか?」

 

「約束した覚えはないんだけどなあ」

 

 まあ、俺なりの冗談だ。一応断りを入れて俺と沙希がふたりのテーブルに着く。

 

「で、どこまで行ったんだディアベル?」

 

「下衆なこと訊いてくるねハチマン……」

 

「お前が訊いてきたことをそのまま返しただけだ。どうだ、どれだけ下衆いかわかっただろう?」

 

「この人は、まったく……」

 

 雪乃が頭を抑えて呻くように言った。沙希も呆れて俺を見ている。そんな怒らないで。八幡ジョークだから!

 

「ま、それはさておき、上手くやってるみたいだな。安心したぞ」

 

「最初は緊張したけどね。なんとか上手くやれてるよ」

 

 俺が差し出した杯にディアベルが持った杯を合わせる。からん、とグラスと氷が澄んだ音を響かせる。

 

「ま、なんかあったら言ってくれ。いつでも殴りに駆けつける」

 

「やっぱそれになるんだな……」

 

 でも、と沙希が俺の後を引き継ぐ。

 

「雪乃を泣かせたらホントに殴りに行くよ。覚悟しときなディアベル」

 

「おいおい、沙希さんまで……分かったよ。絶対泣かせないから勘弁してくれないか」

 

「あら、嬉し泣きをしても殴られるのかしら。だったら永遠に結婚できないわね、私たち」

 

 雪乃が心底楽しそうに言う。こいつ、やっぱ根本は変わってねえな。人をいたぶることに嗜虐心を煽られてやがる。

 

「ちょっと、雪乃。それはあんまりだろう!?」

 

 ディアベルが慌てたように言う。俺たちが一斉に笑う。

 

「まあ、嬉し泣きなら半殺しで許してやる」と俺。

 

「そうだね、それくらいで勘弁してあげようか」と沙希。

 

「よかったわね。命までは取られないそうよ。せいぜい私が泣かない程度のプロポーズをしてちょうだい。でもその程度のプロポーズじゃ私は納得しないけれど」と雪乃が止めをさす。

 

 なあディアベル。本当にこいつでいいのか……? 早速尻に敷かれてるじゃねえか。

 

 慌てるディアベルは思考の隅っこに飛ばして、俺はふたりに背を向けて店内を見渡す。

 

 SAOに囚われて随分時間が経った。あの時間を経て、いま俺たちは現実に生きている。きっと得ることのできなかった仲間や愛しい彼女と共に、こうした時間を過ごすことに無情の喜びを感じている。そのことに、いかばかりか驚きの気持ちが浮かぶ。

 

 経験は人を変える。

 

 ならば、俺もやはり変わったのだろう。

 

 アインクラッドで始まったのは、死を賭けたゲームだけじゃない。

 

 きっとそれは、俺と沙希の青春なのだろう。

 

 沙希が俺を見る。俺も沙希を見つめる。自然と顔が近づいて、淡い口付けをした。小町とアルゴに気づかれて、店内がキャーキャーと大騒ぎになる。途端、恥ずかしくなって俺と沙希が俯くが、周りははやし立てまくっている。

 

 まったく、最後までうるさい奴らだ。

 

 それでも俺は思うのだ。

 

 隣に沙希がいる。

 

 周りには仲間がいる。

 

 そして、現実での知人たちとも友人になれた。

 

 ならば、こんな世界も、悪いものじゃない。

 

「沙希、俺結構幸せだ」

 

「うん、あたしも幸せだよ」

 

 手と手を握って、互いのぬくもりを伝え合う。

 

 ――沙希、痛いも苦しいも、楽しいも嬉しいも、みんなみんな二人で共有して生きていこう。

 

 ――ふたり一緒なら、きっときっと、大丈夫だから……。

 

 

 

 

 

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