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楽郎君と二人きりでゲームをしている。
理由を一言で表すと、視察だ。
隣の太陽を直視することができない。燃え上がるような、というより実際のところ
それを回避するために、必然的に下を向くようになる。幾度と無く訪れたマップであろうに、なお嬉し気に周囲を観察する楽郎君との対比構造が発生する。ただ横に立っているだけで大いに感じ取れる
いったい何を見てそんなに胸を高鳴らせているんだろう、いったい何を聞いてそんなに心を躍らせているんだろう。疑問が大量発生し、楽郎君と同じものを見ていきたいという気持ちがより一層強まる。強まったところから連想が続き、赤面が強化される。気づかれたかもしれない。
「……大丈夫?レイさん」
「だいじょっっっっっっっっっっっっっっっっ」
「フリーズゥ!?ちょっ、ほんとに大丈夫!?」
あっ、両手が肩に―――
「っっぶっっっぶっっっぶっっっぶぶぶぶぶぶ」
「しまった悪化したァッ!!」
彼の吸い込まれるような瞳孔は、数多の瞳に遮られてしまっている。だがなんだかそれでいいような気がして、それがゲームを遊ぶにあたって必要なことならば、彼はそうしていた方がずっといいような気がして―――想いが巡り、頭が揺さぶられる。揺さぶられているという事実を認識しているが、同時に認識していない。
「レイさーーん!!レイさーーん!!」
「ハッ」
正気に戻ると同時に目を背けた。悟られたくなかったからだ、何かを。改めて世界―――そう、エリア『神代の鐵遺跡』―――を見渡してみれば、そこは無機質な迷宮で……そこまで考えて
「ちょ」
「えっ」
そして、楽郎君の腕に受け止められた。
「…………」
「れ、レイさーん?」
「……………………」
「休憩入れる!?」
「………………………………」
「レイさーん!!レイさーん!!」
謝らないといけないな、という漠然とした思考は、誰に謝るのかも、何を謝るのかも、いつ謝るのかも情報として持たないまま、意識と共にどこかへと消えていった。
◆
玲さんと二人でゲームをしている。
理由を一言で表すと、視察だ。
最近はどうも大手クランにおけるトレンドに『新規育成』なるものがあるらしく、今回の神代の鐵遺跡……というか
「…………」
何となく目を向けた隣を歩くレイさんは俯いていた。あの双……なんだっけ?双なんだっけの鎧は以前のものと比べれば多少顔面の露出が少ない形状をしているが、それにしても彼女の表情は4分の1に留まっており、真意を知ることは難しい。
俺は微妙に気まずい雰囲気から逃れるようにあたりを見渡すことにした。……やっぱあの動く足場絶対おもしろ挙動の下地あるよね?ペンギン・オブ・ザ・デッドリブートツー5面の「スノーモービル」バグとか……あっダメだ、思い出しただけで笑っちゃう。
……あれ?
俺は気づいた、レイさんの様子がおかしい。
普段から体温が高めな人だとは思っていたが、今日は一段と顔が赤いし……どうも挙動も若干壁抜けグリッチのセットアップを終えた直後みたいに安定しない様子だ。バグった?俺は心配になったので、とりあえず一声かけることにした。
「……大丈夫?レイさん」
「だいじょっっっっっっっっっっっっっっっっ」
絶対大丈夫じゃねェ~~~ッ!!!!
「フリーズゥ!?ちょっ、大丈夫!?」
距離を詰める、応答がない。深く考えずに肩に手を置いて揺さぶる。戻ってきてくれ~~ッ!!戻ってきてくれレイさ~~んッ!!
「っっぶっっっぶっっっぶっっっぶぶぶぶぶぶ」
「しまった悪化したァッ!!」
俺は咽び泣いた。しかし発火仮面に隠れて涙は見えないし、そもそもよく考えてみるとVRなので能動的に意識しないと涙は出ない。仕方がないので揺さぶりを継続する。レイさんの表情は4分の1の状態を当然だが崩さず、真意は結局読めないままだ……ピザで例えるならクオーターカットってトコか?縛りプレイが過ぎるだろうがよォーーーッ!!
「レイさーーん!!レイさーーん!!」
「ハッ」
あっ直った、俺は頭の中で反響させたセリフを口に出さないことに若干の努力を要した。レイさんはまたしても目を背けてくる。なんだ、いったい何があったというんだ……??トラウマを刺激されたとかそういう奴なのか?心が
そこまで考えたところで、
「ちょっ」
俺は反射的に、
「えっ」
ふらつくレイさんを、受け止めた。
……やっぱりゲームは良い、咄嗟に倒れこんできた人間を受け止めても肉体が不調をきたしたりはしない。いや厳密にはすることもある、プレジデント・イービルREIIIがいい例だ―――しかしそれは一部の例外というものであって、結局ゲームだからこそ……
「…………」
無言。
「れ、レイさーん?」
「……………………」
やはり、無言。とても整った笑顔を浮かべながら、そしてその4分の1を世界に晒しながら、レイさんは無言だった。
「休憩入れる!?」
「………………………………」
それでも、無言。何かを考えているような、あるいはすでに考え終わったような表情を俺に見せながら、レイさんは無言だった。
「レイさーん!!レイさーん!!」
結論としては、めちゃくちゃ謝られた。