かなり掛け合い色が強い
今の本編からもう4か月くらい進んでも楽玲が結ばれない世界線 4か月あればなんか起こるだろということでシャンフロのワールドストーリーがヤバい感じになってる設定です
「アドバンテージを取るのよ」
岩巻真奈は鋭い眼光と共に呟いた。
斎賀玲は思わず一歩退いた。
「わかるわね?玲ちゃん」
その一歩を、岩巻がぐいと押し出した身で詰める。
ゲームショップ「ロックロール」、空調の利いた程よい気温の店内にあって―――岩巻の視線はあまりに冷たく、玲の頬はあまりに熱かった。閑古鳥の鳴く店内で、真っ赤になった玲が声を絞り出す。
「……で、でも」
「でも、じゃないわよ」
岩巻の姿勢は強気だ。
彼女は目を逸らそうとする玲を睨み、容赦ない追撃を加えていく。この強気さは普段と比べても結構なものだ。原因としては、先日発売されたクレセント・メモワール4の完全攻略所要時間が想定より長かったことなどが挙げられる。岩巻自身、四徹以降は数えていない。
夜という檻に閉じ込められた岩巻の精神が、その口を動かす。
「いい?玲ちゃん。あなたはこれまでいつも
それは事実だ。
陽務楽郎との距離を縮めるにあたり、斎賀玲は「同じゲームを遊ぶことで接近する」というアプローチを取った。取らせられたともいえるだろう。楽郎はいわゆるクソゲーハンターなので、接近の舞台となる「同じゲーム」も当然クソゲーになる。ロックロールの倉庫に積み上がった不良在庫を、玲は端からプレイしていった。
そして、挫折した。
「なぜ挫折したか自分で分かってる?」
「……ゲームが、難しすぎたからです」
岩巻の問いに、玲はやむなく返答を行う。実際、彼女にとってはそれが正解だ。サンラクがプレイするゲームにはいわゆるバカゲーもあるが、理不尽なほどの難易度の高さがゆえにクソゲーと呼ばれるようなタイトルも多い。玲はそれらに挑んでは、(少なくとも主観的には)挫折してきた。
「そうね。でも
しかし、岩巻は他にも理由があるのだという。
きょとんとした様子の玲に、店主は充血した眼をむき出しに言う。
「結局―――問題は、いつも
「……いえ、私のプレイは実際……」
その域に届いていないのだ、と主張しようとした玲の言葉を。
「シャンフロ」
岩巻がまたしても遮った。
「シャンフロではトッププレイヤー扱いなんでしょう?」
「それは、たまたま、と言いますか……」
「プレイヤーが何千万人もいるゲームにたまたまも何もないわよ」
「……あの……」
いよいよしどろもどろになり始めた玲を見て、岩巻が大詰めにかかる。
「シャンフロが
岩巻はキッと視線を動かして、カウンターの上に置かれたデジタル時計を見た。そこに表示された日付は4月4日、今日で斎賀玲は18歳になる。
「
岩巻は勢いよく、ちょうど典型的なバースデー・ケーキの入れ物くらいの大きさの箱を掲げた。
それはコーティングされた一つのゲーム・パッケージで、具体的な描写は慎まれるような画像を前面に備えていた。具体的な描写は憚られるが、卑猥だった。それがすべてだ。
斎賀玲の顔面が、これ以上ないほどの紅潮を見せる。
「そ、そのぉ……!」
「そのぉじゃないわよ!玲ちゃんの誕生日は今日、4月!楽郎君の誕生日は11月!単純に考えて7か月あるわ!今
「一人向けのアドベンチャーゲームでは、交流は……あの!」
「もちろんこれはあくまで入り口よ!楽郎君が『18歳になったらやる』リストに放り込んでるゲームなんていくらでもあるわ!もちろんオンラインの奴も!」
玲は気付かなかった。自分の顔が赤すぎて、岩巻の顔が赤くなっていることに気付かなかった。そう、彼女は酔っていたのだ。クレセント・メモワール4はあまりに素晴らしく―――素晴らしすぎて、クレセント・メモワール3のクソさは際立った。喜びと悲しみの間に挟まれた人間は、アルコールの力に頼ることしかできない。
徹夜により発生した寿命を対価とした活力。飲酒により発生した寿命を対価とした活力。エナジードリンクの服用により発生した何も対価としていない(公式見解より)活力。それらは足し算というより掛け算の挙動を見せて、岩巻の心中でぐつぐつと煮えていた。
「さあ遊ぶのよ玲ちゃん!まずはこのクソテキストゲー!次にこのクソ水増しゲー!それでもって█████ゲー!」
「あ、あわわっ」
「██!███!」
いよいよ店内を卑猥が占拠しはじめた、その瞬間のことだ。
自動ドアの開閉音が響いた。
「よさげなクソゲーありません?」
「「あ」」
そして、つづけて楽郎の声が。
この度高校3年生に進級した少年は、何も知らずにロックロールの店内をてくてくと歩く。
「あ、玲さん」
こっちを見た。
斎賀玲は気付いて、ここまでで最高の赤面を見せた。
「岩巻さんから聞いたんだけど今日誕生日なんだっけ?……ですよね岩巻さん」
岩巻は手に抱え込んだ大量の箱に注意しつつ、そっぽを向いた。
楽郎は追求したくなったが、よく岩巻の姿を見てみるとカフェインレベルが4.5を超えていたので、触れないでおくことにした。
「えーっと……仕方ない。玲さん?」
「は、はいっ」
彼女の顔がいつにも増して赤いことにも気付かず、鈍感なクソゲーハンターが口を開く。玲の脳味噌がオーバーヒートを始める。
「誕生日おめで―――」
玲の意識はそこで飛ぶ。
アドバンテージはあってもイニシアチブはない、そんな関係がまだ続く。