だから、ごめんなさいしか、言えないのだろう。
はいはい、どーもどーも、絶賛拉致られ中の榛東君です。
「って誰に話してんだろ、俺」
何も無い、真っ暗な空間でため息混じりの愚痴を吐く。暑くも寒くもない空間でただ1人なんて、なかなかの苦痛だ。荒手の拷問かな?
「てか、そもそも扉どこだよ」
出ることを前提条件にしたとして、扉が分からなければ出ることさえできない。周りを見わせば漆黒のみ、よくここまで暗くできたな。
考えてもどうすることも出来ずに約10分、そんな俺がとった行動が、
「開け、ゴマ」
奇行だった。
開く筈がない、というかそれで開いたら驚きだ。
しかし、前述したとおり現実は小説よりも奇なりという。
ドゴン!!!
「開いちゃったよ..、、」
爆音で正面に長方形の穴が綺麗に開いた。そういう仕様の扉なのかな?なわけねーか。
扉(穴)から光が入ってきて、久しぶりの明かりに眩しくて目が上手く開かない。
「あぁあぁぁ...やってちゃってよぉ。元気いいなあ少年」
逆光であまり見えないが中年で少し痩せていて髪の毛が長くボサボサ頭のスーツ姿の男が立っていた。
男は目の前まで歩いて来て、いつの間にか置いてあった机の前にこれまたいつの間にかあったパイプ椅子にどっかり座る。
「こんにちは少年。俺の名前は...まぁ、ジョン・ドゥとでも呼んでくれ」
「身元不明の死体なんて、縁起悪いっすね」
「言わんでいいそんなこと。そもそも君があんなことしでかすから俺が呼ばれるんだよ。榛東相馬君」
身元が割れている。
瞬間顔がひきつりそうになるも、無表情を保つ。悟らせるな、相手に読ませるなら、常にペースは保っていけ。そんなことを心で唱えながら会話を続ける。
「自分の名前を抑えられてるってことは、公的な機関なんですか?ここ。まるでここに来るまでの記憶がないんですが」
「そりゃそうか。1日ずっとここで寝てて、起きたら真っ暗な所で隔離だもんなぁ。本当に上が考えてる事はわからねぇな」
うんうん、と勝手に納得され把握された。しかし、上が居るってことはこいつは幹部職じゃないってことか。なら、上を引きずり落とせば、なんとか。
「質問の答えはな、確かにここは国の機関のひとつだが、公にできるような組織じゃねえな。
組織の名前はソロモン。またの名を『裏側』って呼ばれてるらしい」
「おぉ、かっけぇ」
実に感服した。そんな冴えたネーミングセンスものには世界の半分を捧げたいぐらいに。
しかし、だ。俺はこの状況をちゃんと読むと、『得体の知れない組織に拉致られ、俺の情報も身柄も相手に渡っている』となんとも危ない場面であるのは間違いない。とにかくどうにかしなければならないのは変わらない。
「それで、こんな俺をどうしたいんですか?」
「ん?あぁ、そうだな。お前の処遇だがな、殺されることになった」
「ウェ?」
「そんでもってお前の死体を良いように扱われた挙句、金に変えて世界にばらまくらしい」
「...」
ちょいちょいちょいちょい、話が吹っ飛んでいるんだが。そも俺が死ぬ時点からおかしいのだ。何故こんな平凡な少年が殺されなければならない。こんな純粋無垢でピュアな瞳をしているこんな素敵少年がだ。(虚偽)
そういえば似た展開の漫画があったような希ガス。うーんと、なんだっけ。なんか、両目を隠してるナOトに居た棒教師みたいな。
「困惑しているところ申し訳ないが、これは決定事項だ。お前は死ぬ。これは変わりないらしい」
「困惑っていうか...この展開どっかで見たことあるような気がしてて。なんだったけなぁって」
そんな返答にポカンとするジョン。そりゃそうだ。俺も半ば反射で答えてしまったが、逆の立場だったら俺もポカンとしてしまうだろう。
「...君は、状況を理解しているのかな」
「んまぁ、ある程度。多分、自分が上のお偉い人達が恐怖するようなヤベェことをしてしまったんだろうなぁというの位は」
「物分りがいいようだね。そうだ、君は君と同じ学校の生徒達数人を魔法で全員病院送りにして、それから大量の魔力を周辺に撒き散らしたんだ」
その会話の中で、俺は1つだけ聞き間違いなのかと思った言葉があった。
「...魔法...ですか?」
「あぁ、魔法だ...ってまさか魔法を知らないのか?」
「えぇ、そんなのファンタジーでフィクションの産物だと思うんですが」
するとジョンは焦ったようにガラケーを取り出し、すぐさま席を外して外に出て行った。
数分後戻ってくると、幾つかの資料らしき紙媒体を持って椅子に座って話を切り出した。
「まさかと思ったが、魔法に対して素人だとはね」
「そりゃそうですよ。そんなの存在するなんて知りやしませんよ。俺は普通の高校生ですよ?」
「いや、盲点だった。だって、生徒をあんな残状に出来るやつだっから、てっきり凄腕なのかと思ってた。こちらの捜査不足だった」
うーんダメだ。こっちの記憶と齟齬が激しすぎてあっちが言っていることがよく分からない。そもそも、高崎君らのリンチで俺は死んでいる筈だし、俺はアイツらがどうなったかなんて知りはしないのだ。要はこちらの記憶に信用性が取れてない。
それにあっちの言っていることを鵜呑みにしてしまうと、こちらを上手く使われてしまう。そんなの俺の趣味じゃない。
「それで、俺が死ぬのはくつがえらないんですか?」
「あぁ、確実だ。上は君の事怖くて仕方ないんだろうね。屋上一帯を魔力放出だけで危険域にしたてあげたんだからそりゃあ無理ないのかもしれないけど」
「そうですか」
「...死ぬのは、怖くないのかい?」
真顔でそして真剣に聞かれた。
俺はその問いにある意味驚いていた。
初めてだったからだ。自分の死生観というか、自分の主観を問われるのは。
「まぁ、十分生き恥晒しましたから。いつ死んでもおかしくない家庭状況で、いつ死んでもおかしくない学校生活でしたから、十分延命しました。だから、今更死ぬのは何気怖くないですね」
逆に、やっと死ねる。なんて思いかけているのが現状だった。
するとジョンは少し悲しそうな顔をした後、立ち上がって俺に告げた。
「なぁ、もしチャンスがあるとしたらどうする。死ななくてはいけないこの状況で、また延命する策があるとしたら、君はどうする」
チャンス。
この言葉は何回も聞いた気がする。
生き続けるチャンス。代償は自分を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して、自分の自我を削ること。
正直正気の沙汰じゃないことをしていたし今もしている。そりゃそうだ、こんな異常事態でただの高校生が対応するのだ。できるだけ発狂しないように、取り乱さないように、殺し続けなければならない。
『お前のその中にあるものはなんだろうな?』
劣等感。
心の中の自分自身に騙られ、即座にその答えを思い描いてしまう。
劣等感。
あぁ、分かっていたさ。ここで俺が死んでいいわけが無い。この胸の痛みも、心に巣食う不幸感も、全部、お前のせいならば。
劣等感。
俺は至極普通に言う。
「...多分俺は、生き汚く、生き恥晒して生き続けるでしょうね」
劣等感。
どうしてこんなに俺はマイナスなのか。