聖杯証明/人理の礎   作:IANT

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プロローグ 人理の証明者、星詠の馬

 世界(地獄)を見た。悲鳴を上げる世界(地獄)を見た。

 世界(楽園)を見た。優しく苦しい世界(楽園)を見た。

 世界()を見た。美しくも醜い世界()を見た。

 世界()を見た。愛を望み貫く世界()を見た。

 世界()を見た。歩みを続ける世界()を見た。

 世界(英雄)を見た。願いを持った世界(英雄)を見た。

 世界()を見た。嵐の中で輝く世界()を見た。

 世界を見た。数えられない世界を見た。

 

 それは、彼らが終わらせないよう足掻いた結果だった。

 

 美しくも儚い、悍ましい生存競争の結果だった。

 

 私は彼らと共に歩んだだけだった。()()()()()だけだった。

 

 だから、もう十分なのだ。

 

 長く連れ添ってきた、右目を隠した女性。18歳までしか生きられなかったはずの彼女は、旅路の果てに人並みの寿命を手に入れた。その彼女が、涙を流しながら私を見ている。

 

 ──ああ、お迎えの時か。ようやく理解した。彼女の声が聞こえないのも、彼女の姿がぼやけて見えるのも、そういうことかと理解する。

 

 はて、私は一体、何処に招かれるのだろうか。キガル、ヴァルハラ、エデン、アヴァロン、影の国、閻魔亭、サーヴァントユニバース、はたまた──英霊の座。

 

 自分で考えときながら、英霊の座はあり得ないと思う。彼女のおまけならまだしも、私単体ではありえないだろう。

 

 旅を思い出す。これが走馬灯と呼ばれるものか。懐かしい風景が流れていく。

 

 ふと、笑う。彼女に笑ってほしいから。彼女と笑って別れたいから。

 

 思いが伝わったのか、彼女は笑ってくれた。涙を浮かべながら笑ってくれた。

 

 惜しむらくは「さようなら」を言えないことだ、と思い。私の意識は深く深く沈んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 何かに、呼ばれる。レイシフトのような、引き込まれる感覚。誰かに呼ばれている──否、呼び声ではない。私宛でもない。それでも、()()()()()

 

「──って」

 

 Who did it?(誰が?) Why did it?(なぜ?)

 

「──ばって」

 

 同時に気付く。息ができない。が、苦しくはない。まるで、息をしていないのが普通であるように。

 

「──が出ました。あともう少しですよ!」

 

 何が出たのだ、と思った瞬間、違和感に気付く。耳が、耳の周りに圧迫感がない。思えば、それ以外は圧迫感がある。と同時に、耳が出ているほうへ押し出されている。なるほど、出ているのは私か。

 

 身体が、圧迫感から解放される。熱い、熱い感覚が肺に入る。それは呼吸となり、叫び声となり、鳴き声になる。

 

 必死に叫び、泣き、ようやく理解する。()()()()()()()()

 

 今、この瞬間。何の因果か、この肉体()に生を得たのだ。

 

 さて、そうなると疑問点は一つ。へその緒を切られ、母の胸に抱かれた私は思う。

 

 前世の私は、一体何者だっただろうか、と。

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