実は、トレーナーとして名乗っている苗字は自身の苗字ではない
「こんにちは、沖野先輩。先輩もあれですか?」
目的地へと向かう一本道、俺にそう話しかけてきたのは後輩である『カノープス』の南坂だった。
二年前にサブトレーナーとして入った彼は、その手腕から早くもトレーナーに昇格していた。サブとして入っていたチームのトレーナーが退職するのも要因であろうが、その程度でチームを任されるほどこの学園は甘くない。今年度入ってくる名門『桐生院家』の次期当主がサブトレーナーからスタートするように、チームを任されるというのは非常に高いスキルが必要だ。特に、一等星やそれ以上の名を関するチームには。
「多いな。流石はカノープスだ」
「質ではスピカに負けますよ、先輩」
南坂は俺のそれより一回り大きい台車を用いていた。積まれているのは、今までトレーナー室に飾られていた杯や盾だ。ある程度は取った本人が卒業と共に持ち帰るが、それでも残る物は多く、同時に残す者も多い。そういったこれらはトレーナー室に飾られ、チームの質を証明し続けていた。その役割が今回、新たな建物に引き継がれることになったのだ。
「初めて見ましたよ、天文台なんて」
「百葉箱ってサイズではないしなぁ……」
白い外装、円形の巨大建築。木々に囲まれ一本しか道が無いこの建物の役割は保全と天気予報、名を仔馬たちの天文台。蹄鉄と月桂樹が絡んだロゴが壁に刻まれているここは、ある種の資料室としても用いられる。
当初は皆、また新理事長の『事業』かと考えていた。しかし、あの少女が出てきた頃にはそうも揶揄えない状態になっていた。
「南坂トレーナーに沖野トレーナーですね」
正面扉の前、件の彼女がそう話しかけてきた。白い長袖の上着と黒い長裾のズボン、制服のような服装は、三本の黒いベルトにより引き締まって見える。首元に付いた菱形を2つ重ねた紋章は、この天文台のもう一つの紋章だと語る様に揺れる。と同時に、違和感も感じる。制服のようではあるが見覚えがない。
視線が上に向かう。新理事長が呼んだ少女──金窓 フノスの耳は天を指すように立っていた。
ウマ娘──それも、15だという彼女は、すでにフランスの競馬学校AFASEC*1を
いや、それだけではないだろう。思わず目を細め、ズボンに隠された足を視る。自惚れではないが、目には自信がある。その上で、『鍛えられている』以上の情報を見出すことができなかった。
「エクーリアス・カルデア担当者の金窓 フノスといいます。こちらへどうぞ」
少女はそう言うと、扉を開ける。自動ドアであるそれを通ると、内装は白を基調とした空間であった。中心であるプラネタリウムを囲むようにある円形の廊下を左回りに進むと、目的の場所に付く。
「こちらが、チームカノープスの展示用スペースとなります」
広い廊下の中、示されたのは大小や距離がバラバラな九つの台座。その意図は、見ればすぐに分かった。
「なかなかにおしゃれだな」
りゅうこつ座。それが大小の台座がつなぐ星座であった。なるほど、トロフィーや賞状を星として見立てているのだろう。
少女は台車からすぐに展示用に選ばれたトロフィーを出す。飾るべきものはすでに頭に入れていたのか、その動きに迷いはなかった。
「カノープスの展示は、今のところこうなります。残りはこちらに保管いたします」
少女はそう言い、専用のものであろう黒い箱に残りのトロフィーと賞状を入れ、九つの台座の側にあったもう一つの台座の下を開け入れる。この台座にはモニターが付いており、チームの軌跡を見れるという。
鍵を閉めた彼女は南坂の手の上に鍵を落とす。疲れていたのか、南坂の反応が遅れたように見えた。
object name
ロンギヌスF
explanation
霊脈閉鎖型魔力炉。人理保証機関カルデア 日本トレセン支部のメイン動力炉。
妖精魔術『龍脈消却型兵装』及び『霊脈閉鎖型兵装』を解析し、成立させたもの。これの副次効果として、限定的結界/対粛清防御の展開に成功している。
現在の稼働率3割。
memo
“神棚”の設置が目下の目標である。巫女を探せ。