5/1 松原花音
ゴールデンウィークに突入しても私のやることなんて外の空気を遮断するだけ。
しかしこの時私は凄く困っていた。何で困っていたかと言うと……テーブルの上にある二枚のチケット。そのチケットにはハロー、ハッピーワールド!と書いてある。
このチケット、休日に入る前の学校で偶然こころちゃんに会ってしまい、その時に強引に渡されたものだった。「必ずあなた達を笑顔にするわ!」という宣言も同封されていたような気がした。ライブは5/1、つまり今日の日付だった。このチケットを渡されてから行くべきなのかどうかをひたすらに考え続けて、気付けばライブ当日。私の優柔不断さは本当に呪うべきものだと頭の中で悔しがった。
「今日だよな…弦巻さん達のライブ。」
「う、うん……そうだね。」
「いまだに行くか行かないか迷っているのか?」
「そう…なんだよね…。陽頼君は行くの?」
「ああ。花音も行っておいた方がいい。」
予想外の返答だった。陽頼君も私同様ハロハピ加入否定派なのに「行く」という選択肢を取った。でも何か策があってこそなのだろう。単純にライブを楽しみにしているというわけでは毛頭ないらしい。
「ふえぇぇっ!?なっ、なんで…?」
「行って加入しないって意思表示をしておく。今日のライブ、弦巻さんは俺達を引き入れるために全力になるはずだ。だがあっちが全力で来るならこっちも全力で拒否すればいい。「俺達は加入しない」ってな。」
どうやら全力で拒絶するらしい。確かに、もし今日のライブに行かなかったとして次会ったときが怖い。行く以外の道はないということだ。
「……そうだね。じゃ、行こうか。」
「ああ、行くか。」
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ライブ会場に到着してチケットをスタッフさんに渡すとスタッフさんから「このチケットで楽屋に行けますよ」との案内があった。これはつまり楽屋に来てねとこころちゃんからのメッセージなのだろう。逃がさないつもりでいるらしいけどまずはライブを見ることから始めようと思う。
「ライブ、始まるね。」
「さて…どんな感じなのか、気になるところだな。」
「あ、来た来た。」
「ハッピー!ラッキー!スマイル~?イェーイ!」
独特な掛け声でハロハピの4人がステージに上がったんだけど…
「ねぇ…熊さんがいるよ?」
「あれは奥沢さんか。早速振り回されてるな。」
「さあ!一曲目行くわよ~!!」
奇想天外で、でも笑顔が溢れるバンド。私は何に魅せられていたんだろう。全くもって解明できない。でも解明できなくてもいいやって思えた。あの純粋無垢な笑顔に包まれたら?私もああいう風になれたら?そんな疑問が私の脳裏をよぎった。笑顔溢れるあのステージにいつの間にか洗脳されていた。でも不思議と嫌な気はしなかった。
「えへへ。……楽しそうだなぁ。」
「花音?」
「ふえぇっ!?なっ、何でも…ないよ。あはは。」
思っていたことが不思議と口に出ていたみたい。もともと仮面を被るのがかなり得意であった私でもこのときはそうは行かなかったみたい。それにしても私の本心が「楽しい」だなんてね。この感覚は久しぶりだったよ。私の顔はどういう表情だったんだろう。少なくとも不条理の世を忍ぶ時の笑顔とは違った笑顔だったと思う。
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「今日は皆ありがと~!」
「また来てねー!!」
演奏終了後、観客も満足そうに帰っていき会場には沈黙が残った。でもまだこの会場に残ってあの盛り上がりを感じていたい、なんて思う自分がいる。私は何に心踊らされているのか。そんなことはこの時ばかりはどうでもよかった。
「おーい、花音。」
「えっ?あっ、ごめん!」
「意識が完全に上の空じゃねえか。どうしたんだよ。」
「えーっと…なんでだろう。自分でも分かんないよ。」
「……そうか。楽屋、行くぞ。ここで完全に諦めさせる。」
「……うん。行こうか。」
会ったときから悩んでいたけど、ここで決心がついた。
覚悟は、もうできている。
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楽屋のドアをノックすると早速返事があった。心臓をばたつかせながらも楽屋の中に入る。
「よく来てくれたわね!嬉しいわ!」
「よく言うじゃねえか。」
「私だって、来てもらいたかったのさ…子猫ちゃん達。」
「……そうかよ。」
「私達の演奏はどうでした?凄く緊張したんですけど…。」
「とってもよかったよ!こっちまで楽しくなっちゃったかな。あはは。」
「そうなんだ!嬉しいよー!かのちゃんせんぱーい!」
「うわ!あはは…急に抱きついてきた…。」
「陽頼!私達の演奏はどうだったかしら?」
「観客皆楽しそうだったし、これからもあのスタイルを続ければいい。」
「そうだったのね!楽しかったかしら?」
「ああ。不思議な感覚ではあったな。」
「そうだったのね!私も頑張った甲斐があったわ!……それで陽頼、私達ハロハピに仲間入りしてくれるかしら?」
「それとこれとは話が別だ。俺は絶対に加入しない。」
「!どうしてよ。仲間になればあなたも笑顔になれるはずよ!」
「許してくれ。絶対に仲間入りできない。」
「そうなのね…。」
「花音も同じだろ。」
陽頼君は最初から決心がついていた。今まで陽頼君を引っ掻き回していたのは私。でもまた、引っ掻き回すことになる。
ごめんね陽頼君。
そんな陽頼君の前で言うのは気が引けるけど…ここで何かが変わるはずだと信じて言うしかない。
「……」
「花音?」
「私……私、ハロハピに加入する!一緒に笑顔になりたい!」
一瞬時が止まるような感覚に襲われる。でもその後4人の顔がお日様のように明るくなった。
「やったぁー!かのちゃんせんぱい、入ってくれるんだね!」
「ふふっ。ようやく入る気になったようだね…儚い。」
「花音先輩…やっと入ってくれるんですね。一緒に3バカに振り回されましょう。」
「あはは……でも嬉しいな。これから私がんばるよ!」
「いい笑顔ね!歓迎するわ花音!一緒に世界を笑顔にしましょ!」
一気に世界が開けた感じがした。今までずっと夜だった世界に日が射した。これからも私に不条理が襲いかかると思う。それでもいい。笑顔ではね除ければ良いんだから。
凄く嬉しかった。こんなに暖かくて明るい気分なんて今まで味わったことがないから。
一方陽頼君は…なんというか、孤独に押し潰されそうな顔をしていた。まだまだ夜が長いんだろう。それもそのはず。今まで暗い夜を共に歩き続けていた片割れが急にいなくなっちゃったんだから。それとも、眩しすぎて怖いのかもしれなかった。
「いいのかよ…花音。」
「……ごめんね、陽頼君。また引っ掻き回しちゃって。」
「花音は……また同じ過ちを繰り返したいって言うのかよ!もう俺はごめんだ。また絶望したいって言うなら…好きにしろ。」
「あっ!ひよくんせんぱい!」
「待って陽頼君!」
「なんだよ!」
「陽頼君のこともいつか笑顔にしてあげる!もう二度と陽頼君に絶望なんかさせないから!」
「……先、帰っているぞ。」
「うん、待っててね。」
陽頼君の手を取って誓う。今まで陽頼君を傷つけてしまったのは私のせいでもある。でも私は今日知った。笑顔は絶望を塗り替えられる。陽頼君の黒色に塗りたくられたキャンバスを虹色に塗り替える。そう決めたのだから。
「皆…」
「?」
「これからよろしくね!」
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尾関結翔様
暗解様
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