狂い、不条理   作:zennoo

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本編どうぞ


15ページ目:決意は結局

5/16 松原花音

 

ついにこの日がやって来た。前から待っていた陽頼君がハロハピの練習に来るのが今日。どんな風に陽頼君を楽しませようか。その前にどうやって陽頼君の笑顔を取り戻せばいいか。考えても答えは出ない。そこではぐみちゃんが言っていたのが「いつも通りの練習を見せればいいんだよ!」という意見。私も普通に練習してて楽しく感じているから陽頼君もそれを感じ取れたらいいなって思う。

 

 

「陽頼君…準備できた?」

 

「ああ…行くか。」

 

 

ああ、私の顔に緊張してるって書いてあるんだろうなあと思いつつも家を出た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

弦巻邸の練習場に着くともうメンバー全員が揃っていた。もう準備万端らしい。

美咲ちゃんの顔から疲れたという感情が分かった。

 

 

「花音!陽頼!待ってたわー!!」

 

「あっ、こころちゃん。今すぐ準備するね。陽頼君はあそこの椅子に座ってね。」

 

「あ、ああ……。」

 

「ひよくんせんぱい、楽しみにしててね!」

 

「……ああ。楽しみにしてる。」

 

「ミッシェルー!一気に3曲いくわよ!」

 

「はーい。分かったよー。」

 

 

美咲ちゃんのカウントと共にパフォーマンスが始まった。音を通じて皆の笑顔を感じとる。なんて心地いいんだろう。前にもこころちゃんが言っていたいわゆる「音楽の力」というものなのかな。何もかも忘れて没頭できる唯一の時間かもしれない。

さて陽頼君の様子はというと……いつもの敵対視する目とは異なっていた。何かに迷っているような、それでも昔なくしたものを取り戻そうと頑張っているような表情。陽頼君の心を笑顔で埋める日は案外近い…なんて期待しすぎたかな。

 

 

「陽頼!私達のパフォーマンス、どうだったかしら?」

 

「え?え~と……楽しい…でいいのか?」

 

「え!?ひよくんせんぱい楽しいって思ったの!?」

 

「ちっ、違う。なんて言葉に表したらいいのか……俺、口下手だからよ…」

 

「でもそれはきっと楽しいって感情よ!後はその感情を顔に出すだけよ!」

 

「ほら陽頼君。口角をぐぃ~って。上げてみようよ!」

 

「おい止めろ花音まで!」

 

「あはは。ごめんね。でも私楽しくなっちゃって。」

 

「……そうか。」

 

陽頼君は私達のことを認め始めているのかな?だとしたらすごく嬉しい。

やっぱり陽頼君は「楽しい」って感情を忘れてしまったみたい。忘れたものを自力で思い出すのはやっぱり難しい。だったら…陽頼君が笑顔になるまで何度でも思い出させるだけ。このバンドに入ったときから決めているんだから。

 

 

「陽頼!」

 

「…なんだ?」

 

「どうかしら?私達の仲間入り、してくれるかしら?楽しいことがいーっぱい待ってるわよ!」

 

「そうか。…だがそれとこれとは話が別だ。加入はできねぇよ。」

 

「どうしてそんなに拒絶するの?話が別ってどう言うことかしら?」

 

「それは……」

 

「ひよくんせんぱい、話しにくいことなの?」

 

「ま、まあ…そんなところだ」

 

「でも私納得できないわ!話してみて!」

 

「…」

 

「こっ、こころちゃん!一旦休憩にしよ?皆疲れていると思うから…」

 

「あっ、確かにそうね。なら一旦休憩ね!10分後また再開よ!」

 

 

この時は本当にヒヤヒヤした。こころちゃんのお転婆が開けちゃいけない箱を開けかねなかった。確かに居て楽しいけど、もし私達が正当防衛とは言え人を殺したことがあるってバレたら…また笑顔を忘れてしまうかもしれない。せっかく掴んだ希望を手放す勇気なんかなかった。

 

 

「ありがとう花音。助かった。」

 

「うん…私も良かったよ。バレないように気を付けなきゃ。」

 

「ああ…少し外の空気吸ってくる。花音は?」

 

「私はドラムのチューニングをしなおすね。」

 

「そうか。行ってくる。」

 

「うん、行ってらっしゃい。」

 

 

乱れかけた情緒を整えながらドラムを調整した。それにしてもこころちゃんに質問責めにあっていた陽頼君の表情、かなり焦っていた。

ドラムを調整してると誰かが声をかけてきた。

 

 

「あの~花音さん?」

 

「ふえぇっ!?美咲ちゃん!?」

 

「そんなに驚かないでくださいよ……何か考え事ですか?」

 

「えっ、えっとぉ…うん、そんな感じかな…。」

 

「陽頼先輩といい、何か隠しているんですか?」

 

「隠し事………美咲ちゃん。」

 

「はい?」

 

「今、美咲ちゃんは私に不信感を抱いているよね。」

 

「……ええ。」

 

「実は…私、「花音。」ひっ陽頼君!?」

 

「奥沢さんと何を話してたんだよ。」

 

「それは…その…」

 

「陽頼先輩。」

 

「なんだ?」

 

「なんで頑なに私達に加入しないんですか?もしかして…私達に言えない秘密でもあるんですか?」

 

「……」

 

「黙ってないでなんとか言ってくださいよ!」

 

「……奥沢さん。」

 

「何ですか。私、今の先輩に不信感しかないですよ。」

 

「もし俺が人を殺したことがあるって言ったら信じるか?」

 

「!…なんの冗談ですか。そんなの…冗談に決まって…!」

 

「美咲ちゃん。その事がバレるのが嫌だから陽頼君はハロハピに入れないんだ。」

 

「……嘘でしょ?本当のことなんですか!?」

 

「奥沢さんだってそんな野郎と一緒に音楽なんてやりたくないでしょ?」

 

「それは……」

 

「だから俺はハロハピに入らない。俺はあなた達に関わってはならない。」

 

「……」

 

「黙っていてすまなかった。弦巻さんに伝えておいてくれ。「やっぱり俺はハロハピに関わってはならない」ってな。」

 

「待ってください!……行っちゃった。花音さん…これはどう言うことなんですか。私、訳が分からない…。」

 

「陽頼君がああなった原因は私にあるの。一人になった陽頼君に私は一生かけて償いをしなくちゃいけないの。」

 

「……え?」

 

「ごめんね……でもっ…」

 

(花音さんに涙が…)

 

「やっぱり秘密を抱えた人と一緒なんてイヤだよね……ごめんね、やっぱり……私もハロハピと関わっちゃダメだったみたい……。」

 

「花音さん!花音さんまで……」

 

「陽頼君を笑顔にしようとしてたのに……私…バカみたい………。」

 

「待ってください!花音さん!」

 

 

私は結局他人を巻き込んでひっかき回してしまった。ついさっきまで陽頼君を笑顔にしようとしていたのに。私の決意はものの数分で変わる程壊れやすいものだったらしい。




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