狂い、不条理   作:zennoo

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本編どうぞ


17ページ目:明かした先に

5/29 丁礼田陽頼

 

花音の言う通り、俺は誘拐事件をきっかけに諦めが速い性格になった。無理、無駄だと思ったものに希望を見出だしたりはしない。これまでの人生もそうだ。友達を作ったところでメリットはない。だから友達作りを諦めた。この世に希望は残されていない。だから希望を持つことを諦めた。

今回のハロハピの件でもそうだ。結局俺はあの場にいることができない。だからハロハピを抜ける。只それだけのこと。にもかかわらずだ。何故か釈然としない。何かモヤモヤする。しかもそのモヤモヤの正体が何なのかハッキリしないことが質が悪い。

もし俺が心の何処かで"笑顔になりたい"と思っているとしたら?まずそんな自分に反吐が出る。嫌われるものほど愛おしいってか?そんな冗談は止めていただきたい。

 

そんなことを思う昼休み、俺はいつも通り花音の隣で屋上で過ごしていたわけだが少しイレギュラーが入った。

 

 

「皆!いたわよ!」

 

「あ!ひよくんせんぱいとかのちゃんせんぱいだ!」

 

「ちょっと……二人とも速すぎ…」

 

「ふえぇっ!?なんで三人が……?」

 

「せんぱいがハロハピを勝手に抜けちゃってから会えなかったんだからね!なんで抜けたのか気になったんだもん!」

 

「勝手にって…それは語弊がある。抜けたのには訳がある。」

 

「訳があるなら話してほしいわ!私達何か出来るかもしれないわよ!」

 

「話したところでどうにか出来るものじゃ無い。気持ちはありがたいがな。」

 

「でも話してほしいわ!そしたらなんであなた達がハロハピを抜けなきゃいけなくなったのか分かるかもしれない!それに…またハロハピに入れるかもしれないわ!」

 

「こころちゃん……気持ちとしては嬉しいんだけど本当にどうしようもない話なの。それに、バンドに入るってことは全員の同意があってこそ。美咲ちゃんは絶対に納得しないよね?」

 

「え?みーくん!どういうことなの!?」

 

「っ!それは……その…陽頼先輩の話を少しだけ聞いて…信じられなくて……」

 

「話を少し聞いたの?それで拒絶したの?」

 

「…」

 

「美咲!答えて!」

 

「別に俺らは奥沢さんを責めたい訳じゃない。それに拒否したくなるのも無理はない。ごく普通の話だ。」

 

「普通じゃないよ!ねぇひよくんせんぱい、どんな話でも受け入れるから!」

 

「受け入れる覚悟があるのか?拒否して終わりだと思うが。だったら話してやる。今日の放課後、ハロハピのメンバー全員集めてくれ。花音、それで良いか?」

 

「うん。気が引けるけど、不信感持たれたままなのは私も嫌だもん。」

 

 

成り行きで決まってしまったが今までの過去を話すことになった。話す事でもうハロハピと関わることはなくなるだろう。せっかく掴んだ花音の居場所を奪うことになるのがなんとも言えないのだが今となってはいられない。これで最後だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後になって家にいるはずなのにこの時はなぜか緊張していた。過去の思い出したくない話をするなんて反吐が出る。気を失う覚悟で話さなければならなくなった俺の口下手を呪いたい。

 

 

「陽頼君、ハロハピの皆を連れてきたよ。」

 

「ありがとう。適当なソファーに座ってくれ。」

 

「あ、紅茶だすね。」

 

「頼む。俺はあれを…」

 

 

ハロハピのメンバーにもこの部屋の緊張感が伝わったのだろうかいつもの元気な感じはない。ただ黙り混むのみ。

 

 

「準備はできたみたいだね。それじゃ、話し始める前に皆に約束してほしいことがあるの。」

 

「何かしら?」

 

「他言無用って事だけ守ってほしいの。そしたら後は拒絶しても良いから。」

 

「そんなこと言わないでよかのちゃんせんぱい!私達は誰にも言わないし拒絶なんてしないよ!」

 

「えへへ…ありがとう。陽頼君、私口下手だから代わりに話せる?辛かったら途中で代わるね。」

 

「ああ。そんじゃまずはこの新聞記事を見てほしい。」

 

「これは…誘拐事件?しかも10年前の…。そういえば昔テレビで大々的に報道されてたような…」

 

「まああの時はそうだったよな。で、ここに被害者二名って書かれているが…」

 

「え?…まさかこの二人って花音先輩と陽頼先輩!?」

 

「察しがいいね奥沢さん。この阿久津って奴のグループに誘拐されて人質になったわけだ。…そこで俺は右足に銃弾を撃ち込まれ、花音は額に火傷を負った。もうこの傷は治らないってよ。」

 

「酷い…酷すぎるよ!その犯人グループはどうなったの!?」

 

「主犯の奴含め全員捕まったが…一人は死んだ。」

 

「死んだ…?どうしてなんだい?」

 

「俺が……あ…ああ…」

 

 

あの時の映像が脳内で鮮明に映像化される。だがこれで最後だと歯ぎしりをして話を進めた。

 

 

「陽頼?」

 

「銃で…頭を撃った……。」

 

「!」

 

「そりゃ驚くよな……花音が…逃げようとしていたところを…捕まってな…ハア…花音にナイフが…ハア…突き刺さる前に…落ちてた銃で……」

 

「陽頼?…様子が…」

 

「この話するとどうも呼吸がな……銃で弾いたあの感触は今でも……忘れられねえ。」

 

「陽頼…手が震えてるわよ?」

 

「分かってる…花音、後の説明は頼めるか?」

 

「うん……陽頼君、休んでてね。」

 

「ああ……そうさせて貰う。」

 

「ひよくんせんぱい……」

 

「それで…その後の話なんだけどね、この傷のせいで学校ではもう村八分でね。いじめは当たり前、教師も見て見ぬふりだったの。」

 

「花音先輩…嘘でしょ…?」

 

「私達が中学に入った後もいじめは続いてね…いじめなんてものじゃなかったね。とあるグループにほぼ毎日殴られ続けてそれはもう屈辱だったよ。」

 

「………」

 

 

無言が家中を支配する。まあこういう話は返す言葉もなくなるのも当然なのだろう。

 

 

「中学三年の夏ごろだったかな。かつての誘拐事件の犯行グループの一人、阿久津って奴がそのいじめグループを引き連れて私達の所に来たの。」

 

「グル…だったって事なんですか」

 

「美咲ちゃん察しがいいね。阿久津が中学の不良グループを金で雇って私達を襲わせてたらしいの。それで陽頼君の右頬が襲撃されてね……私は助けてあげられなかったの。陽頼君のこの包帯はその時につけられた傷を隠すためのものなんだ。」

 

「花音先輩…そんな…」

 

「それで阿久津がナイフを私に突き付けてきてね…目をつぶって手を振り払ったらそのナイフが阿久津の腹に刺さったの。それで阿久津は死んじゃった。」

 

「……」

 

「一応正当防衛とはなったんだけど……なんか心残りが……ね。これで私達がハロハピ加入を拒む理由が分かったでしょ?」

 

「花音と陽頼が入ってくれない理由は…誰も信用出来なくなったっていうのと人殺しだから私達が受け入れてくれないって思っていたからなの?」

 

「ああ…これで全部話した。俺達が人殺しだとバレた以上もうハロハピには関われねえな。君達に迷惑をかけるつもりはない。弦巻さん、俺達から手を引け。その方が…」

 

「違う…」

 

「ん?」

 

「違う!」

 

 

弦巻さんの強気な一言がこの空間の空気を一掃した。まさかとは思った。まさか俺達の過去を聞いてそれを拒否しない人がいるだなんてな。

 

 

「私は…笑顔を失った人達を見捨てることなんかできないの!人殺しがいるから迷惑なんて…そんな冷たいこと私には出来ないわ!笑顔を忘れた人達を見過ごす方のが私にはよっぽど辛いのよ!」

 

「弦巻さん…本気で言っているのか?本気で俺達を救うつもりか!俺を招き入れたことでどんな不条理が襲いかかるのか分からねえんだぞ!」

 

「それでも私はいいわ!そんな不条理があるんだったら笑顔ではね除ければいいのよ!」

 

「まじかよ……」

 

「ひよくんせんぱい!悲しいこと言わないでよ!ハロハピに入って一緒に笑顔になろうよ!もっと私達を頼ってよ!」

 

「陽頼、花音。今まで辛かったのは分かった。だけどこれからは幸せになるときのはずさ。そう思わないかい?」

 

「陽頼先輩、花音先輩…ごめんなさい!私、拒絶しちゃった…。だからその分二人の笑顔を取り戻します!ハロハピに…入ってください!」

 

 

この歓迎ムードは初めてだ。作田の偽りの笑顔とは違う本物の暖かさ。

思えば初めてハロハピのライブを見たとき俺が気を取られたのもハロハピの本物の笑顔のせいなのだろうか。少し納得してしまった。

 

 

「この10年…阿久津のつまらない復讐心に踊らされていた。俺らが今さら笑顔になりたいだなんて思ったら…今までの10年は何だったんだろうな。」

 

「ひよくんせんぱい!かのちゃんせんぱい!」

 

「どうしたの?」

 

「その10年を埋めるくらい私達が笑顔にしてあげる!」

 

「北沢さん…」

 

「名前で呼んでほしいな!これから私達の仲間になるんだから!」

 

「……入るだなんて言ってねえのに勝手に入ったことにされたんだが。」

 

「えへへ……陽頼君、これから忙しくなりそうだね。」

 

「ああ。そうだな。」

 

「そうと決まれば練習よ!皆!私の家にレッツゴー!」

 

「ああ…儚い」

 

 

曇り空は晴れた、ということでいいのだろうか。これからどんなイベントがあるのか…想像なんか出来っこない。

だがこれだけは分かる。

 

紛い物なんかじゃない、本物の仲間というのは心強い。




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