狂い、不条理   作:zennoo

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今回は暴力描写強めです。年齢が若い方は読むのをお控えください
それでも大丈夫という方は本編どうぞ


2ページ目:罪つきの回想

4/26 松原花音

 

私はこの日何事もなかったかのようにベッドから体を起こした。まるで昨日一日は何も害がなかったかのように。カーテンを通して太陽の光が優しくこの真っ白な寝室を包み込む。外からは車の音だったり土曜日ではしゃいでいる子供の明るい声が聞こえてくるがこの部屋の雰囲気には合いそうにない。ただぼんやりとした、守りたい雰囲気。

陽頼君はこの日もいつもと同じように私と同じベッドで寝ていた。

でもいつもと違う。普段は私よりも先に起きているはずなのに今日は私が先に起きた。しかも陽頼君はうなされていた。

 

 

「陽頼君……?陽頼君!大丈夫!?」

 

「ア"ア"ア"………アアア"ア"ア"!!っ!…もう朝か…。」

 

「良かった…ちゃんと起きたね。嫌な夢でも見たの?」

 

「…ああ。」

 

「そっか。」

 

「夢というよりはあの日の回想だ。俺が罪を背負ったあの日の事だ。」

 

「陽頼君もまだ忘れられないんだね。私もだよ。」

 

「そうだよな。忘れられる筈がねえ。」

 

 

平常心を保っている陽頼君の右手は震えている。あの時の感覚がまだ忘れられないのだと思う。私もあの時の額に残った熱さが忘れられない。それでも私は陽頼君を抱き寄せてあの時の傷を癒してあげる。

 

 

 

 

 

それが私が背負った罪だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽頼君と朝ごはんを食べながらあの日の事を回想する。

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忘れもしないあの日…私達二人は小学4年生で放課後に仲が良かったグループで一緒に遊んでいた。その帰りだった。私達の目の前に突如黒いワゴン車が止まった。そして車から数人の大きい男が現れ抵抗できる間も与えずに私達を車に無理矢理のせてどこかの廃墟ビルへ連れ去った。着いた場所は薄暗く、活気もない閑散とした部屋だった。後から分かったのだがこの男の集団は警察から身代金を押収することが目的だったらしい。でも今となってはどうでもよく感じてしまう。

 

 

 

廃墟ビルの中へ連れ去った後、集団は私達二人人質にとった。その後集団はカメラを回して喋り始めた。当時私達にはまだ難しい言葉はよく分からなかったが警察に何かを要求していることくらいは分かった。

 

 

「警察共!身代金百億を用意しろ!さもなくば…」

 

「うわああああ!!」

 

「ひより君!あつっ!いや…やめてええええ!!」

 

 

陽頼君には右足に銃弾を撃ち込み、私には額右側に高熱の何かを押し付けた。もうこの世のものとは思えないくらい熱かった。自分の顔に傷がつくとかそんな考えが先に及ぶ前にその痛みに耐えられないという感覚が襲ってきた。それとここで殺されるかもしれない恐怖。誰かの助けなんか宛にならない状況で助かろうなんて希望はなかった。

 

 

そんな拷問とも知れない苦しみにさらされ続けて30分後、ようやく警察が来た。警察は私達が大怪我をしている状況を飲み込み気付けば銃撃戦になっていた。陽頼君と一緒におうちに帰りたい。その一心で犯行グループが捕まるのを待っていた。だけど誰一人捕まる気配がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

銃撃戦が始まってしばらくすると私達に逃げるチャンスがやってきた。でも陽頼君の出血が酷くてあのときにはもう右足が使い物になっていなかったのが本人じゃない私にもわかった。自分に血がつくことを躊躇わず、私は陽頼君を背負って建物から脱出しようとした。今思えばこの判断がいけなかったんだと反省してもしきれない。

私が陽頼君のそばに駆け寄ろうとしたところを犯人に再度捕らえられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が必死に抵抗している間、乱闘により犯人の一人が銃を手放してしまう。本当に運が悪かった。その銃が陽頼君の手元まで撥ね飛ばされたのだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽頼君はその銃を手にとって

 

 

 

震える手で銃口を犯人に向け

 

 

 

頭を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで私に纏わりついていた力の入った腕がするすると抜けていくのがわかった。そのとき犯人が撃たれた後どんななりをしていたかなんて怖くて見れなかった。今でも分からない。でも陽頼君は見たはず。撃ってしまった罪悪感と怒りに満ちた目に焼き付いて離れてないはず。

 

 

その後犯行グループは警察に取り抑えられ私達は警察に保護された。陽頼君が銃を撃った件は正当防衛として処理されることになった。でも私達に与えられたハンデも大きかった。私の額にはもう治ることのない火傷痕が、陽頼君には身体的な発達障害と右足の不自由が与えられた。

何より私達は"罪"を背負った。

 

 

 

 

私達は普通に過ごすことが出来るわけだけど陽頼君にとってそんなことはどうでも良かったんだと思う。

いくら周りの人達が「普通に生活していいんだよ」と言ったところであの時の引き金の感触、罪人とは言え命を奪った事実を忘れられる訳じゃない。実際陽頼君は事件から10年たった今でも引き金を引いた右手が震えている。

私も後悔している。あの時私が逃げるような真似をしなければ陽頼君が銃を弾く必要なんてなかったんだから。優しくて明るかった目の色を暗くて光のない色に変えてしまったんだから。

 

 

 

陽頼君は命を奪った罪、私は大切な人に罪を擦り付けた罪を背負うことになった。

私達の小さい身体に。

 

 

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「…花音?どうしたんだ考え事か?」

 

「うん…あの日のことをちょっと思い出してて…」

 

「そうか…後一年の辛抱だ。」

 

「そうだね。後少しだから頑張ろ?」

 

「…ああ。」

 

 

転校といういじめの時の最終手段は失われた。だって親も先生も見て見ぬふりだから。余計な仕事をしたくないんだと思う。だから私達には"耐える"という選択肢しか残されてない。私は神様なんて信じない。神様がいたらこんな不条理な世界になってないんだから。でもあの暴力が私の罪への報復だとしたら…神様がいるって納得できるかもしれない。陽頼君は「罪を背負わなくていい」って言うかもしれない。優しい陽頼君だから。でも私が罪を背負ったのは事実。逃げられない事実。

今日は幸運なことにお休みの日。太陽の光がレースカーテン越しに柔らかく差し込む。陽頼君とおうちでゆっくり出来る幸せ。私達が背負った罪。今日も忘れられない。

 

 

罪を背負った私の、唯一の一時。




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