本編どうぞ
5/12丁礼田陽頼
昼休み、俺は屋上で花音を待っていた。今日は奴らが学校にいなかったために俺と花音はいつもより大分ましな学校生活を送っていた。奴らはどうせ受けたくない授業があるからだるいとか言うしょうもない理由で来ていないのだろう。
しかし奴らがいなかったからと言って学校生活が快適かと言われたらそうでもない。安全装置がかかった人間以外地雷に過ぎない。所詮学校だけじゃなく人間社会と言うものが敵だらけの戦場なのだと"あの日"から学んだ。
思い出したくもないがふとしたときに思い出してしまう。花音を待つ間俺は"あの日"を回想する。
この呪縛から解き放たれるのは何時なのだろうか。
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忘れもしない金曜日。それは俺達が誘拐事件から復学した最初の日だった。花音の額には火傷跡、俺の右腕にはロフストランドクラッチが様になってしまった。様になって教室に入った途端もう何時もの日常じゃないことに気付いた。
皆の…友達だと思っていた人達の視線が違う。迎え入れる目じゃなくて軽蔑する目だった。当時小学生でまだ人間という生き物に無頓着だった俺の頭は困惑で満たされていた。それでもいつも通り…というよりかは突如突き放される感覚が怖くて必死になって挨拶をした。
「みんなおはよう!」
「お、おう陽頼か……おはよう。」
「だ、大丈夫かよ…それ?」
「うん………少しね。」
どこかぎこちない。ぎこちないで済まなかったな。明らかに人を異物と見なしていたのが伝わる。
(アイツ…確かに足を怪我してるよな)
(イヒヒ~!だっせえなぁ!)
表面上取り繕っていたって所詮子供、裏で軽蔑しているのが俺でも手に取るように分かった。たかが足が一本使い物にならなかっただけ。それの何がダメなのか、当時の俺には分からなかった。日記を書いているこの時点ではもう悟っているのだが。
「鬼さんこっちこっち~wwあ、走れないかー!だってその足だもんな、アハハハハハ!!」
「お前誰にも追い付けねぇじゃん!ダサいんだよ!」
「……」
大人からすれば小学生の遊びでからかわれているだけの一人の少年にしか見えないはずだ。遊びで落ち込むなんて馬鹿馬鹿しいとしか考えられない人もいる。でも当時の俺にとっては仲間はずれにされていることに他ならなかった。いくら小学生同士の遊びだからといって今まで心地よかった居場所がもうなくなったのだから。
「ねぇ皆…僕の荷物知らない…?」
「は?お前の荷物なんか知るかよ!」
「さあ荷物が独り歩きしたんじゃねぇの?」
「アハハハハハ!」
遊びから始まった村八分は次第に学校生活全般に魔の手を伸ばした。この時点でもまだ俺は突き放された原因が分かっていなかった。今まで明るかった日常に雨雲がかかり始めた時期だった。
「ヒャッホーイ!!マヌケ君よ!見事引っ掛かったな!」
「みごとに水を被ったな!こりゃ傑作だ!」
「なんで……なんで僕ばっかり狙うの…?」
「全部てめえが悪いんだよ!てめえが足を怪我してるから標的になったんだよ!」
「アハハハハハ!!」
あの時の俺の目には涙が溜まっていたと思う。もう脳内が悲しみでいっぱいだった。
しかしそれと同時に確信したこともある。人間社会において皆と同じでなければ的にかけられる、ということだ。言い換えれば"出る杭は打たれる"ということを見に染みて感じた瞬間でもあった。人間は共同体として生まれた思想から外れたものを対象として徹底的に排除する生き物。皆違って皆良いなんて誰が考えたのやら。あの言葉は俺の中で綺麗事として登録された。
だがもう一つ、気になることがある。
「ひよりくん!大丈夫!?…誰が……誰がやったの!」
「はーい私でーす!」
「わあー正直者~!」
「アハハハハハ」
「許さない…絶対許さない!」
「あー笑いすぎて涙出ちゃった。」
「あんたの火傷跡とっても似合っているぜ…」
「アハハ!カッコいいー!」
「…」
花音の存在だ。あの地獄を耐えきることが出来た理由は花音がいたからということに違いない。でも俺よりダメージは大きかったはずだ。
花音も俺と同じ日に異物として扱われるハンデを背負わされた人だ。俺のもとに駆けつけてくれたときもすでに水で全身が濡れていたりあざがあったりと俺と同じく…いや、俺以上に傷つけられていた。明らかに身も心もボロボロだった。
それでも花音自身の心配より俺の心配をしていた。どんなに傷ついていても、どんなに辛くても。本来だったらあの場で俺がその事を察して気にかけてあげるべきだった。でもあの時の俺は…花音に甘えることしか能がなかった。…いや、それは今でも同じか。
傷だらけになった大切な人を癒すことをせずにさらに俺の心配という枷を付けてしまった。
俺のしたことは許されることではない。
「あっ、皆!一緒に遊ぼう!」
「…」
「……どうしたの?」
「悪いな…もう俺達は陽頼と花音と遊ぶことが出来ない。」
「なんで?何でなの!」
「私達も巻き込まれちゃうからだよ…自分勝手だけど、本当にごめん!」
「…そっか。なら仕方ないね。私帰るね…。」
「…ばいばい。皆…。」
正当だ。俺達と関わっていればいずれ俺達の友達も傷付けることになる。一瞬俺は皆が助けてくれるのを期待したが過度な期待はしない方がいいってことだ。「もう陽頼と花音と遊ぶことが出来ない。」この台詞を言ったのは正しい判断だと思う。
しかし現実というのは正しいと思った判断が辛いように出来ている。あの台詞を聞いて別れの挨拶を言うのは本当に辛かった。でも正しかった。
俺は一瞬別れの挨拶を言うのを躊躇ったのだが花音は迷わなかった。迷わずに別れた。飄々とした花音の表情の裏で何を思っていたのだろうか。恨みなのか、悲しみなのか。何にたいしての?それは花音にしか分からない。それでも分かるのは花音は泣いていたことくらいだった。無論俺もそうだったのだが。
いつしか花音の目は赤黒く濁ってしまった。花音はいつも俺に尽くしてくれる。それは孤独な俺にとってはすごく嬉しいのだ。ただし花音の目には俺以外写ってないような気がする。正確に言うと俺にたいしては純粋な愛を、有象無象には赤黒く濁った憎しみをその目に写していた。
花音の目が純粋で濁るようになった原因を作ったのは…俺だ。
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「あっ、陽頼君ここにいたんだね。安らぎの一時ってところかな?」
「まあ…そんなところだ。」
「卒業まで後10ヶ月だね。」
「そうだな。だが…俺達に希望はあるのか?」
「少なくともここにはないのかな。」
「そうだろうな…認めたくないが。」
「大好きだよ、陽頼君。」
「俺もだ…花音。」
優しい陽の光のもと愛を呟く。今日も花音の目は純粋で、濁っている。
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