はい。その、筆がね?あ〜いえ、なんでもないです……。
さて、プロデューサーが事故に遭ってしまってさぁ大変な283プロダクション、一人になってしまった“樋口円香プロデューサー”はどうなってしまうの〜〜??!!
それでは、2話よろしくお願いします。
夢を見た。
それは楽しくて、嬉しくて、とても幸福な夢。
夢を見る。
それは今すぐに幸せを感じられることは叶わなくなってしまった夢。
夢を見る。
それは、その全てがガラスがひび割れる様にバラバラに壊れてしまう、そんな夢。
「……ッ!!」
あまりの寝苦しさに樋口円香は深夜に目を覚ます。
季節は冬、更に今年は寒波に襲われているため寝苦しさを感じることなどは滅多にないはずだ。
ならなぜこんなに汗をかいているのか。
少し考えるだけではその問いの答えはすぐには出ない。
悪い夢でも見たのだろうか、と考えるが、その内容は思い出せない。
ただ、胸に残る気持ちの悪さは延々と残ったまま、抜けることはない。
ただただ。
「気持ち悪い…」
彼女はそう言い、汗でぐっしょり濡れた服を脱いだ。
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プロデューサー……一色翼が事故に遭ってから1ヶ月が経ち、景色はすっかり暖色の秋模様だ。
彼は今も眠っている。
この1ヶ月間、円香は翼の代わりにプロデューサーとして業務を行った。
そこで体感したのは彼がどれだけの仕事を一人で行っていたか、どれだけの責任を一人で負っていたか……どれだけ283プロダクションは彼の能力に依存していたか、だった。
それが顕著に現れたのは彼が居なくなってから2週間が経った頃。
3人から25人へ面倒を見る人数が増えたことによる極度のストレスによる睡眠不足、それは確実に彼女の身体を蝕み、苦しめていた。
突然の強い目眩に襲われた円香は倒れ、病院にて目を覚ました。
まだ意識が朦朧とする重たい頭を起こし、点滴のついた腕へと目を向ける。
すると視界の端で見慣れた姿が小動物のように動く。
見紛うこともない、その動きは福丸小糸のそれだった。
「ま、円香ちゃん?!大丈夫?!」
「……小糸?」
「う、うん!!お医者さん、呼ばないと!」
小糸は慌てた様子でナースコールのボタンを押す。
ノクチルのメンバーで看病をしてくれていたのだろうか。
小糸以外は真面目に看病してくれなさそうだ、と妙に頭は冷静に状況を整理する。
その冷静な思考はすぐに仕事の方向へと向ける。
「……みんなは?…私は……どれぐらい寝てたの」
「ね、寝てたのはそんなに長くなかったよ…!!2時間ぐらい!!」
「そう……ならまだ、大丈夫……」
のそのそと動き出そうとした円香の肩を掴んで小糸は言う。
「だめだよ!!今日は休まなきゃ……!!」
「……でも」
「円香ちゃん!!」
小糸の甲高い怒鳴り声が頭痛のする頭に響いて脳を揺らす。
その不快感に思わず顔をしかめる。
「ぴゃぁ?!」
「……ッ……ごめん、ちょっと一人にして」
「……ご、ごめんね」
小糸はそう言い残し、明らかに落ち込んだ様子の背を向けて病室を出ていった。
どうしても体調が悪いと他人に当たりそうになってしまうのは悪い癖だと思う。
今はそんなことでイライラしている場合ではないのに、あの人が居ないのに……。
小糸にはあとで謝らないと……。
急にまとまらなくなった思考に嫌気が差しすぐに考えることをやめる。
小糸が病室を出てからすぐ、医者が入ってきて結局一人にはなれなかった。
今の気分や体調などを聞かれたが、正直に「最悪です」だなんて答える訳がなく、無理をして一言告げた。
「大丈夫です」
と。
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更に2ヶ月が経った。
季節は冬、駅前の並木道はすっかりイルミネーションにより鮮やかな景色へと変わり、その中を手を繋いだカップルが歩いていく。
その横を円香は早歩きで通り過ぎる。
今は色恋に花を咲かせているわけにはいかない、そう思いながらも、そのカップルに目線を向けてしまい、彼女は静かに唇を噛んだ。
……彼はまだ目覚めていないのに。
円香が倒れてからは各々のユニットで適任者を選び、活動の方針決めと仕事の選別を手伝ってもらうことになった。
実は、これは最初に283プロのアイドルそれぞれから提案されていたものの、円香がそれぞれの活動に集中してほしい、と突っぱねた案だった。
そのためこのことが決まった際、円香はバツが悪そうな顔をした。
自分の不甲斐なさを戒めるように拳を強く握って。
イルミネーションスターズからは風野灯織、放課後クライマックスガールズからは有栖川夏葉、アルストロメリアからは大崎甘奈、アンティーカからは三峰結華、ストレイライトからは黛冬優子、シーズからは緋田美琴が選出された、円香はその6人のフォローをしながら、引き続き旧ノクチルの3人の面倒を見る。
また、その6人には、はづきさんより現在の案件依頼が共有され、案件を受けるか受けないかの判断が委ねられた。
そして、そのやり方は成功を納めた。
流石に何年も活動をしている彼女達の仕事選びの勘とリスク管理は完璧で、大きな問題を起こす、または起こされることもなく時間は進んだ。
そして、仕事が順調に進むようになり、段々とこなす仕事の量は増えていく。
まるで、プロデューサーへの気掛かりな気持ちを隠そうとしているようだった。
そして、大忙しだった年末年始が終わり。
智代子の提案で事務所の近くの居酒屋にて行われた打ち上げも盛り上がり、その盛り上がりが最高潮に達したところにはづきさんが息を切らしながら転がり込んできて、一言笑顔で告げた。
「み、皆さん!プロデューサーさんが!目を覚ましたって!!今、電話で!!」
その夜は大騒ぎのまま幕を閉じた。
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「……遅い」
円香は携帯の画面を見つめてそう呟く。
彼と約束をした時間から、そろそろ10分が過ぎようとしている。
といっても、円香も10分程度待てないわけではない、なぜ不満を持っているか、その理由は簡単だ。
彼女は待ち合わせの30分前に待ち合わせ場所に着いてしまっていた。
待ち合わせ場所に到着し、我に返った瞬間、自分が嫌になり踵を返しそうになったが、流石にそこまではしなかった。
……ということで、今彼女の精神状態は自分への羞恥心と、待ち合わせに遅れてくる彼への苛立ちでとんでもないことになっている。
そこに火に油を注ぐように走って登場するはもちろんこの男、プロデューサー、もとい一色翼だ。
電車を降りてからここまで走ってきたのだろう、いつもの“彼”なら絶対に崩れないであろう髪はもはや見るに耐えない状態だ。
「わ、悪い!遅れた…!!」
円香がその言葉に返すは静寂と鋭い視線。
「あー、えと、これには深……くはない……な…??だけど理由が…!!」
「何?まだ何も言ってないですが」
「け、敬語はやめてくれると……」
「……まぁ、理由ぐらいは」
「楽しみすぎて昨日寝れなくて……」
「もう良いです」
「は、はい……すみません……」
円香はその会話の心地の良さに微笑みを浮かべる。
「ふふ……冗談、私も早く来すぎてたから」
「あははっ、寛大な処置、助かります……遅刻に関しては本当に反省しておりますゆえ……」
「もう良いから……行きましょう」
「あぁ、行こうか」
「まずはカフェにでも行く?その様子なら朝ごはんも食べてきてないでしょ?」
「あ、確かに、走るのに必死で気づいてなかった…けど、腹減ったな」
「ちょっと待ってて調べるから」
「おっとその必要はない、ここら一帯のコーヒーの美味い店は誰よりも知ってるつもりだから……もちろんブラック以外も」
少し誇らしげに胸を張る彼に向かって手を差し出し、こう言う。
「ん……それなら連れて行って」
「もちろんだ」
翼は円香の手をできるだけ優しく握り、横に並ぶ。
ところで、どれぐらいの時間待ってたんだ?なんて他愛ない会話を始めて、一歩を踏み出した。
瞬間。
身体が沈む。
視界が揺らぐ。
先程まで繋がれていた手が簡単に解ける。
沈む円香には目もくれず、彼が遠ざかっていく。
記憶の中の私と共に。
そこで円香は気づいた。
あぁ、いつもの夢か、と。
今日はガラスが割れるんじゃないのか、まぁいつもワンパターンではつまらないか。
不思議と思考は妙に冷静で、その冷静さが気色悪く感じる。
その気色悪さと共に意識が底なし沼にハマったかのように沈んでいく。
そしてその感覚の中、円香は目を覚ました。
「……はぁ」
いつも通り、汗で体はベタベタだった。
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円香は相も変わらず、パソコンに向かって書類を作っている。
現実はドラマのように上手くは行かず、彼と会えるのはまだ少し先らしい。
身体検査や事情聴取、などイベントが盛りだくさんだそうだ。
心の奥底にある会いたいという感情を押し殺し、キーボードを叩く。
その叩く力は少しいつもより強く、割と大きな音を立てている。
実際に会えるとなっても、まずは親族優先で話が回るはずだ、まだ付き合い始めて数カ月の恋人など優先度はあまり高くないだろう……まぁ知り合ってからはそれなりに長いが。
ただ円香は彼がまず最初に会いたい、と言ってくれることに少し期待をしていたりするため、完全に待ちの姿勢に入っている。
まず呼ばれてもいないのに駆けつけるなんて……。
いや、実際会えるとなったら、駆けつけてしまうのだろう、と考え、見舞いの品は何が良いだろうか、とか、いつ頃退院できるんだろうか、など先のことで頭が一杯になり、仕事が手につかなくなった彼女はやれやれと頭に手を当て、給湯室へ向かう。
そして、慣れた手付きでコーヒーのドリップバッグをマグカップにかけ、お湯を注ぐ。
上がる湯気に乗り、鼻孔をくすぐる香りは微糖ではなく無糖の香り。
相変わらず味は苦手だが、ごちゃついた頭を整理するのには最適であると最近知った。
……彼もこのために好んでブラックを飲んでいたのだろうか。
いや好きじゃないとあんなに飲まないでしょ、とすぐ首を振り、苦笑いを浮かべながら淹れ終わったコーヒーを口に含む。
「んぅ、苦……」
その一言は誰かに反応されるわけでもなく、給湯室の空間に溶けて消えていった。
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一色翼との面会が可能になった。
その報告はアイドル達への報告と共に円香にも伝わる。
もうすっかり容態は安定し、仕事への復帰も1週間後にはできるほどの状態まで回復したらしい。
医者が言うには意識不明の状態が長く続いたのにも関わらず、後遺症が見られないのは奇跡に近いらしい。
相変わらず神に愛されているのかいないのか……と円香は苦笑を浮かべ、安堵の表情を浮かべる。
その表情を見てアイドル達……主にアンティーカは急にわざとらしく慌てて口を開く。
「あ、あ〜〜!!用事ば思い出したばい!!」
「おぉ、そうだった!!この後に絶対に外せない用事があったね」
「ふふ、用事さんっ」
「用事〜〜?ふふ〜、そんなのあったかなぁ〜〜」
「ふぇ、摩美々ーー?!?!」
もはやお決まりと言った流れまで行き、わちゃわちゃとし始めた所で三峰がおもむろに円香の前に躍り出る。
「アハハッ、ってことでアンティーカはちょいとここらへんで退散させてもらいますよ〜〜Pたんのことよろしくね〜〜!」
と、ウィンクをして「ほらほらアンティーカいくよ〜」と事務所を出ていく背を見て、その背を追うように各々下手くそな嘘をついてぞろぞろと事務所を出ていった。
残ったのは元ノクチルの面々のみ。
「あはー、みんな行っちゃったねー」
「ふふ、うちらもつくか、嘘」
「ぴぇ!う、嘘だって言っちゃだめなんじゃ…」
「それじゃ、円香先輩、雛菜達の代わりにプロデューサーの様子見てきてよー」
「きてよー」
「お、お願いするね!」
そんなくだらない茶番を繰り広げ、遂にそのメンバーですら事務所を出ていった。
客観的に見ればみんなに置いてかれたような様子だが、実際のところは円香は誰よりも先頭にいる。
そのことを自覚しているから彼女は一人微笑み、こう呟いた。
「ばかみたい」
その瞳を潤す涙が彼女の頬を伝うことはない、今はその時ではないから。
そうして、彼女は見舞いの品を買いに事務所を最後に後にした。
元々、お見舞いの品には目をつけており、特に迷うことなく買い物は終わり、病院に辿り着いた。
一歩一歩、病院に近づく。
そうするたびに心が浮きたち、足取りが軽くなる。
その様子はまるで過去のステージの上のようだ。
多くの観客の為ではない一人の観客の為に踊る“アイドル”だ。
受付を済ませ、病室へ向かい、ドアの前でひと呼吸を起き、ノックする。
コンコン、という音に返ってくるのは「どうぞ」という、あのうるさくて暑苦しい、でも温かい彼の声。
上がる心拍数に気づかないフリをしながら、一歩を踏み出した。
そして見えてきた彼は元気そうな顔を円香へ向けた。
「円香!来てくれたのか!」
「はい、みんなが譲ってくれて、これお花とお見舞いの品です」
「わざわざありがとうな!嬉しいよ」
いつもの元気な彼の姿を見て目が涙に覆われて世界が歪む。
彼が無事で良かった、本当に無事で……。
そうして、感情に呼応するように円香のその瞳から涙の線が一つ二つと落ちる。
「無事で……無事で良かった……!!」
そうしてゆっくりと身体を労るように優しく彼の身体を抱きしめた。
「ま、円香?!」
「心配で……心配で……!!ずっと、目覚めなくて……!!」
そこまで口に出したところで、急に感情に理性が追いつく。
……なんだろう、少し、違う……?
突然のことに驚いたような彼の反応、先程から崩れない“プロデューサー”としての口調、言動、その全てが円香心の中で引っかかる。
まるで、前に戻ってしまったような…。
そう、思ったところで彼の口が開かれる。
「こ、こんな状況、誰かに見られたらどうするんだ……!!」
え。
「え……何を……」
嫌。
「言って……」
そんな。
残念なことに円香の心情は汲み取られず、残酷に“プロデューサー”は告げる。
「円香はアイドルなんだから」
そうか、そうだったのか。
神に愛されていないのは彼じゃない、私だったんだ。
そこに遅ばせながら、担当医が歩いてきて、円香に現在の彼の状況の説明が始まる。
正直まともに聞いていなかった為、全ては聞き取れなかったが、一つ聞き取れることがあった。
それは。
「一色翼さんは現在、所謂記憶喪失になっています」
ということ、だった。
さて、遂に楽しくなって参りましたね、書きたいことを書いてるときの筆の乗り方は異常です、楽しくて楽しくて仕方がありません。
さぁ、プロデューサーは帰ってきたものの、一色翼は帰ってきていない、この状態に円香は一体どうなってしまうのか。
次回の更新をお待ちください。
(次は本当に早く投稿できるようがんばります)