遠坂には3人目の子供がいるそうです   作:アイス&コーン

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親の想い

「―――これは、どうするべきか……」

 

 そこには冬木のセカンドオーナーであり、遠坂の現当主でもある遠坂時臣が苦悩していた。

 

(りん)(さくら)(まこと)。この三人の中で次代の遠坂を継ぐに値するのは誰なのか」

 

 その苦悩の原因は、最近産まれてきた子供たちにある。

 といっても、この苦悩は悲観的なことに対するものではなく、むしろその逆の意味を孕んでおり、優秀すぎる三人の子供たちで誰を当主として指名するかという、世間からすれば嬉しい悩みである。

 しかし、嬉しい悩みだから簡単に解決するかと言われれば、そうではない。こんな素晴らしい悩みだからこそ、最良そして最適解を選ばなければならない。そういった別種のプレッシャーがある。

 

「凛は魔術回路、魔力が素晴らしい。

 これだけでも遠坂の当主たる資格はあるが、それに加えて五大元素(アベレージワン)という希少過ぎる才。

 そして桜は凛とほぼ同格の魔術回路と魔力がある。

 しかも属性が虚数というこれまたレアなもの。

 ……しかし、やはり遠坂の魔術と噛み合うかが未知数過ぎ、現段階では凛の方が当主としては相応しいだろう。

 最後に、真。

 魔術回路の数は20本と少ないが、その質は姉二人と比べても高い。

 魔力に関してはさらに桁違い、いや規格外というに相応しい。

 属性はノーブルとも呼ばれる風。

 凛や桜と比べても勝るとも劣らない。

 ………はぁ、やはり難しい問題だ」

 

 贅沢な悩みではあるが、そのせいで時臣はここ最近子供たちの事しか頭にない。

 仕事や魔術の研究、聖杯戦争への様々な準備がある、この忙しい時期に子供たちのことしか頭にないのである。字面だけ読み取れば子煩悩とも思われるだろう姿である。しかし、いつまでも悩んではいられない。第4次聖杯戦争が近いためだ。もし自分に()()な出来事が起こった時でも後を託せる後継者を選ぶ事は必須事項、いや義務である。だからこそ、この思考にもそろそろ決着を付けなければならないだろう。

 

 数分、いや数十分ほどの長い沈黙の中、時臣の脳内では激しい損得勘定、そしてその中から合理的な解答を模索し続けていた。

 

 しかしてその沈黙は、部屋へと入る乱入者により破られる。

 

「父上! 僕に外出の許可を下さい!」

 

 扉を豪快に音を立てながら侵入するのは誰あろう、先ほどまで思い煩っていた原因の一人、遠坂真だ。

 

「………真、部屋へ入る時は扉を3回ノックしなさいと毎日言っているだろう?」

「すみません! 今後気を付けます! それでは外出の許可を!」

「…………」

 

 目を爛々と輝かせながら時臣へと詰め寄る真。

 時臣は一瞬素が出そうになるが、それをぐっとこらえ余裕の笑みを浮かべながら理性的に諭す(優雅だから)。

 

「真、常日頃から言っている遠坂の家訓を忘れているのかい? 

 『常に余裕をもって優雅たれ』。

 遠坂の人間たるものこの家訓に相応しい行動を」

「外出の許可をお願いします!!」

「―――いいだろう」

「では、今日も冬木の平和を守るためパトロールへと行って参ります!」

 

 ずんずんと扉まで歩き、出る時にはペコリと頭を下げ嵐は去った。

 そして、時臣は先程までの思考にようやく結論を出した。

 

「当主は凛に任せよう。

 桜は才能は申し分ないが、よく考えてみれば私では虚数というのは手に負えない。

 たしか間桐の翁が養子を欲しがっていた筈だから、桜は養子に出そう。

 真は、とりあえず保留にするしかない。

 本来ならただの一般人とするところだが、真の言動はともかく才は本物だ。

 何も役割がないと言うのは勿体ない、どころか遠坂家にとって明らかな損失となるだろう。

 私が聖杯戦争へと出る前に、これにも答えを出すべきだ」

 

 時臣は自分の考えを、これまた念のためを思って紙へと記す。

 書いている紙は、遺書である。だがこれは別におかしなことではない。時臣は今のところは自分が死んだ場合に備えて、魔術の弟子である言峰綺礼に凛や真、そして妻を任せようと考えているが何かの勘違いで自分の意思と異なり意図しない結果になったり(遠坂のうっかり予防)、または何らかの事情で全てを語り終えていなかった時(遠坂のうっかり予防Ⅱ)などに備えて準備しているのだ。こういう証拠はあればあるほど勘違いやすれ違いは起こらないのだから。

 

 だからこそ早く真の処遇を決めたいところなのだが、今は何もアイディアがないので取り合えず溜まっていた表の仕事に掛かる時臣である。

 

◇ ■ ◇

 

 あれから約1ヶ月が経った今でも答えは出ない。

 時臣とて何も考えていない訳ではない、いやむしろ考えすぎなほど考えている。ただ、それが答えを出す方向に作用せず、思考の迷宮に入ってしまったかの如くに混乱してしまっているだけなのだ。

 

「………ここはもう諦めて真は一般人戻ってもらう方向で決定していいのか――?

 それとも新しく真が魔術の家系を創設する、というのもありはするが悪手だろう。

 恐らく真が生涯研究したとしても、それは私たち遠坂が何百年も前に到達した結果に過ぎないのだから。

 そんなものでは根源への到達などできはしない。

 そしてどこかへ婿に出そうにも、私の知り得る限り家格が低すぎる場所ばかり。

 名家でなければ、結局真のあの才能を遊ばせてしまうことになってしまう。

 これもやはり最良とは言い難い」

 

 遠坂時臣の長所は、努力家で諦めないところである。

 彼は魔術の才能に乏しかったが、そこで諦めるとはならず死に物狂いで努力した結果、時計塔でも“そこそこの魔術師”という評価を得ることが出来た。

 そんな時臣だからこそ、この問題に対して思考を止め半端な結論を出すことは誰よりも自分が許さない。

 

「集中力が切れている今、考えても埒が明かない。

 仕事も今はないだろう。

 ……紅茶でも飲んで一旦落ち着こうか」

 

 そうやって椅子から立とうとすると、ブオンという何かを素振りしているような音が聞こえてくる。

 気になりふと窓から外を覗くと、真がこの前買ってあげた剣を振り回している姿が目に入った。

 

「凛や桜はあまりおねだりしてこないが、真は本当によく物を欲しがってくる。

 前は英雄譚のような漫画、俺TUEEEE(?)ものの漫画、そして王道の主人公による漫画と色々……」

 

 あれ? と時臣は気づいた。

 そういえば剣以外では漫画しか買ってあげたことがないと。不覚であった。

 いくら現実が忙しいとはいえこんなものしか買ってあげれなかった自分に腹が立ち、そしてそんな俗物的なものばかり欲しがる真に魔術師とはどうあるべきかを理解させなければいけない。

 

 そんな風に思っていると、また素振りの音で思考を中断させられた。

 そして今度はその剣を振る姿に対して時臣は声に出して感心する。

 

「やはり真のあの身体能力は異常だな。

 生後三か月で逆立ちした時から片鱗はあったが、最近は目に見えて異常さが際立っている」

 

 ちなみに生後三か月で逆立ちをした後、逆立ちした状態から腕立て伏せをしたりさらに片手でそれをやるようになったりと色々訳が分からないことばかりされたが、時臣は慣れてしまった。

 これが異常なのかどうなのかは、ご近所さん達の反応から恐らく異常なのだろうと分かってはいるが妻はマイペースで「うちの子すごい!」としか言わないので遠坂家では既に日常となってしまっている。

 

「剣などこのご時世では使うことなどないだろうから、綺礼にでも頼んで八極拳でも習わせてみようか。

 うん、意外と良い案か……も………」

 

 その瞬間の時臣の内心を正しく表す言葉は、ずばり『頭に電撃が走るように閃いた』だろう。

 

「………そうだ。私としたことが頭が固くなっていた。

 私たち魔術師とは探求の徒であり、根源を目指す者だ。

 こういう考えは私は嫌いだが、極論魔術とは根源を目指すための『道具(手段)』と捉えることも可能だ。

 魔術師の最終目標である根源、私は今までそのための手段に固執し過ぎていた。

 根源を目指すことが出来るのなら、別に他のやり方でも構わないのだ」

 

 魔術師と魔術使いの違いとは何だろうか。

 それは、根源を目指すか目指さないかの違いだ。魔術使いはその得た力を、魔術師から言わせればくだらないことの為に振るうから魔術使いを軽蔑しているのだ。

 

 では、魔術使いがその力を根源を目指す為に使うようになったらどうだろう?

 それはもう『魔術師』と言えるのではないだろうか。

 

 ではさらに疑問を膨らませ、魔術という力以外で根源を目指す者達とは何というのだろうか?

 

「歴史を遡れば遠坂とは武術によって根源への到達を目指していた一族だ。

 ならばその意思を、私の次の代に継がせればいい。

 真ならば、あの才気溢れる我が子であれば必ず宇宙との同一化を果たし、『無の境地』へとたどり着いてくれるだろう」

 

 魔術という力を使わず、武術という技を使いゆくゆくは根源へとたどり着く者も、また『探求の徒』と呼べ、ある意味これも魔術師という存在の一側面なのではないか。

 

「遠坂を二つに分けよう。

 ()()の探求によって根源を目指す遠坂と、()()の鍛錬によって根源を目指す遠坂。

 凛を六代目『魔術』の遠坂の当主とし、真を初代『武術』の遠坂の当主に指名しよう。

 だがこれにはまだ問題も多い、聖杯戦争が始まってからでは遅い。

 今の内にこの案をもっと現実的なものとしなければならない」

 

 時臣はティータイムを取ろうと考えていたことなど忘れ、机にペンを走らせることだけに集中した。

 

 

 

 

 この判断が吉となるか凶となるか。

 第4次聖杯戦争で死んでしまった時臣には一生知ることは出来ないが、子の幸福を想い、何も知らずに入れた時臣はきっと幸福なまま逝ったのだろう。

 

 

 

 




次話は一気に時間が飛びます。
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