遠坂には3人目の子供がいるそうです   作:アイス&コーン

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最初はこんなコメディみたいな話書こうと思ってなかったんです。
ホントです。

でも気が付けば属性てんこ盛りのキャラを何人も書いてました。

すっごく気持ちよかったです(ツヤツヤ)。


始動

 ――身体がどろどろに溶けていく。

 世界と自分との境界線が無くなっていくような、もしくは世界と自分が繋がっているかのような、そんな不思議な感覚。

 

「……と、――なさい」

 

 不安感は不思議となく、むしろ安心感さえ感じられる。

 しかし、俺の理想には程遠い。俺は、こんな浅い場所で満足などしていられない。

 

「真、起きなさい」

 

 境界線がなくなるのではなく、世界と同一となることが必須条件だ。

 無の境地。それこそが俺の理想、俺の目標。だから世界ともっと繋がるように。世界と自分が同一となるように。

 

 ……あぁ、全く。今日はなんていい日なんだ。このままずっとこうしていたい―――

 

「―――起きなさいって言ってんでしょうがーーッ!!」

 

◇ ■ ◇

 

「起きなさいって言ってんでしょうが――ッ!!」

 

 拳を握りしめ、さらにその手を魔力で強化し、力強い大振りを実の弟に向けて放つ容赦のない人物は誰あろう、姉の遠坂凛である。

 

 しかしその大振りに振るった拳は空を切る。

 

「朝からなんだよ姉貴? 

 俺が起きてることなんて分かってるんだから叫ぶなよ、うるさいんだから」

 

 ポンポン、と背後から凛の肩を叩くのは真。

 まるで瞬間移動したかの如く目の前から姿を消したことに、しかしその程度で凛は狼狽えない。この有り得ない現象に慣れているから。

 

「――じゃあ私の声は聞こえてたのよね?」

 

「当たり前だろ」

 

「へぇー。軽く認めちゃうんだ~? 

 なんで私の声に反応しなかったのか、聞いてもいい?」

 

「面倒だからに決まってるだろ。

 朝から優雅を自称しているうるさい姉貴の声なんか聞いたら、せっかくのいい朝が台無しになっちゃうだろ」

 

 まるでただ本心を語っただけだと言うふうに飄々とする真(事実本心である)。

 そして対する凛は、平然としている。外面だけは、と注釈はつくが。勿論内面は怒り心頭である、特に一番腹が立つのは『自称:優雅』とかいうふざけた言葉にスイッチが入った。

 凛は弟にこと戦闘に関することでは自分では歯が立たないことを理解している。しかし、だからといって反撃の手が無い、ということはないのだ。

 

「これ、何だか分かる?」

 

 そう口にすると凛は懐から真っ黒のノート、『将来使う予定の技名集:刀編』と書かれた物を取り出す。

 するとそれを見た真は酷く狼狽した。

 

「……まさか、前から無いとは思っていたけど姉貴が持ってるなんてね――。返してくれよ」

 

 しかしそれも一瞬の反応、すぐに相手の罠であると悟り努めて感情を出さないよう心掛ける。

 

 だが、そんな見え透いた虚勢などある未来で『あかいあくま』と呼ばれる少女には通じない。

 凛はゆっくりと、まるで見せつけるようにノートのページを開く。

 

「へぇ~なになに? 

 『予備動作:居合の構え。詠唱:【刀とは振るうものではなく、ただ“斬る”ことのみにある。これはその究極………刮目せよ。一閃・音(ヘーデン・シ)―――」

 

「―――ハッ!!」

 

 ふっ、と凛の身体に一瞬風が過る。

 すると、凛が先ほどまで持っていたノートは真の手にあり、そしてそれを一瞬にして焼け焦げにした。

 

「趣味が悪いな姉貴。

 これは俺のトップシークレット、人の嫌がる事を進んでするなんて堕ちるところまで堕ちたな」

 

 若干早口でそう口にする真。

 気のせいでなければ冷や汗が顔から流れている。先ほどのノートが彼にとって相当大事なもので『とっぷしーくれっと』なのは本当なのだろう。

 

 だがそれも先ほど自身の手で消滅させたとあれば話は別だ。彼の心境はエロ本がお母さんに見つかりそうになるも間一髪で隠し通せた時の思春期の少年に近い。その胸中に占めているものは焦りから逆転した安堵という感情だけだろう。

 

 ――しかし、侮るなかれ思春期少年(boy)。其方が今相手にしているのはただのお母さんではなく、超☆歴戦のお母さんであるという事を。

 

「ふふ、ふふふ、うふふふふふふ」

 

「な、なんだよ………。

 その、勝利を確信したかのような笑いは」

 

「―――ねぇ真。

 魔術師っていうのはね、元来臆病なものなのよ。

 だから時には相手の嫌がる事だってやるし、外道な手段も用いる時もある。

 それが、魔術師の本質よ」

 

「…………」

 

 真は、感じた。

 いや、真の優秀すぎる直感が今自身の危機を感じ大きく警鐘を鳴らしていた。『戦いはまだ終わっていない』と。

 

「私が何を言いたいか分かる?

 つまりね、『臆病』な私がアンタに対して勝算があるって判断して、わざとノートを見せびらかしたのよ。

 そのノートをあんたがどうするかなんて想定内、いえ『計画通り』とでも言おうかしら?

 さてこれがどういう事か、アンタには分かる?」

 

「…………」

 

 真は沈黙を選ぶ。

 今下手に答えてそこからさらに事態が深刻化しないようにするためだ。

 

 だが、真の中で既に結論は出ていた。

 

(ノートのコピーを取ったか。厄介な……。

 だがまだ新たに現物があると分かればこちらもそれ相応の対応をするだけだ。

 何としても、あれが世に出回ることだけは避けたい。

 っち、このクソ姉貴が! 〇ね!)

 

 そのためならなんだってしてやる、と。

 もはや背水の陣だ、と思うと同時に悲壮な結末を思い浮かべる真は凛の一言一句を聞き逃さないようさらに集中する。

 

 ――しかし、続く言葉は真をさらなる絶望へと落とすことになった。

 

「真、あんたが考えてること当ててあげましょうか? 

 コピーでも取ったな、このクソ姉貴が。

 ってところでしょ?」

 

「! ……っは、それがなんだよ。俺の思考が読めて嬉しいのか?」

 

「そんなくだらない事で私が喜ぶわけないでしょ?

 そうじゃなくて、アンタの予想は外れてるって言いたいのよ」

 

 なに? と頭に疑問符が浮かぶ。

 

 一体どういうことなのか、と。

 

「――もう面倒くさくなっちゃったから答え合わせをしましょう。

 ノートP.13。そこにはアンタが考えた理想の刀のイラストと、その名前が書いてある」

 

「っ!?」

 

「名前は悪魔の王(ベリアル)半神半悪(サタン)、あとは~群魔の君主(ベルゼブブ)だったかしら?」

 

「な、え? ………………は??」

 

「次のページにはこの世界に存在する闇の秘密結社(笑)とかも蛇足で書かれてたわね。 

 確か名前はダークリユ」

 

「ああああぁぁぁぁああああああああああ!!!」

 

 超人にしか真似できないような速さで動く真。そしてそれを見切ることは出来ない凛。

 怒りに身を任せ拳を振るったのか、足で蹴ったのか、はたまた羞恥から体当たりをしたのだろうか。

 

 果たして、真の選んだものとは―――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、凛の前で綺麗にスライディングDO☆GE☆ZAをしている真の姿があった。

 もう一度言おう、先ほどまで毒舌家とさえ思える程ドライな言葉遣いをし、その掘りの深い端正な顔立ちで強キャラムーブをしていた遠坂真が、土下座をしているのである。

 

 ちなみに、その土下座は惚れ惚れするほど様になっている(どうでもいい)。

 

「やっと立場が理解できたようね、真?」

 

「はい、どうぞ私のことは犬とお呼びください」

 

「やだ。そこまでは求めてないわよ。

 して欲しいのは今のところ三回周ってワンをした後に私の紅茶を入れて朝食を作って帰ってきたら聖杯戦争のためにサーヴァントを呼ぶからその助手をしてもらうぐらいかしら。

 いいわね、真」

 

「仰せのままに」

 

 その後クールに、クールに! 三回回ってワンを実行し、その他にも命令され色々させられた後学校へと無事登校することになった真である。

 彼はどうやら自身の運命を受け入れたようだ。

 

◇ ■ ◇

 

「おい真。生徒会室は仮眠室ではないぞ、寝たければ保健室へ行け」

 

「………………」

 

「聞こえんのか? 

 いつもなし崩し的に許してはいるが、今日は許さんぞ。

 何もせんなら教室へ帰れ」

 

「………………」

 

「駄目、みたいだな。こりゃ」

 

「……の、ようだな。だが珍しいな、ここまでやつれた真は滅多に見んぞ」

 

「だよな。一体なにがあったんだか」

 

 真は学校へ来て凛と別れると、傍目には死人のような尋常ではない気配を漂わせながらも午前の授業を乗り越え、その後速攻で避難場所兼休憩室へとやってきたのだ。ここなら心が休まるかもしれないと。

 

 しかし、現実が彼を離さない。

 彼はこれからの生活を思うだけで、静かに目から汗が流れる程深い絶望を感じた。

 

「………てうわっ! 

 真が泣いてるぞ一誠! 大丈夫か?」

 

 汗である。

 

「何!? これはただ事ではないな、どうした? 

 何か俺たちに出来ることはないか?」

 

「…………これは、これは友達の話なんだが」

 

((これは(こいつ)の話だな))

 

 士郎、一誠は何もコンタクトを取らずともお互い同じ解釈をした。

 

「……そいつには姉貴がいるんだが、これからの人生はその姉貴に絶対服従しなければいけなくなったらしいんだ。

 どうすればいいと思う」

 

「待て、……いや待て。

 ホントに待ってくれ意味が分からない!」

 

「姉、というとあの女狐めのことか。

 確かに奴ならばそれぐらいのことはしてこよう」

 

「ってこっちは恐ろしいほど状況把握が早い!」

 

 士郎はとりあえずもっと具体的な情報が知りたいと思い真へ色々と聞いた。その間、真はずっと一誠に慰められながら。

 そしてやっと士郎も状況が分かると、訳が分からないとばかりに疑問を口にする。

 

「え? ノートのコピーは取られてないんだろ?

 何も最悪なことなんてないじゃないか。

 なんでそんなに落ち込んでるのか分からないぞ」

 

「………ふっ、これだから士郎は。

 甘い、甘すぎるぞ。

 俺にとってはまだコピーがあってそれで脅しつけられた方がマシだったよ」

 

「なんでさ! そっちが最悪だろう?」

 

「俺を、いやその友達をその友達の姉貴が追い詰めたいと考えているなら、その方法は確かに有効だ」

 

「まだその設定あったのか」

 

「設定言うな。

 ………ともかくそうだな。

 今の状況は、その姉貴が優秀だが制御のきかない弟に、暴れないよう首輪を付けた。

 って感じかな?」

 

 真がそのように言うも士郎はやっぱりよくわからない、と溜息をこぼす。しかし、一誠の方はこれまた理解が早かった。

 

「なるほど、確かにそれは妙手だな」

 

「どういうことだよ一誠?」

 

「ん? 衛宮は分かんか、これを仕組んだ奴の性根の腐り加減が。

 確かにこれは、コピーを取られて広められるよりも性質(タチ)が悪いやり口だというのが」

 

「だから、なんでだよ」

 

「いいか、衛宮? 

 重要な内容のコピーを持たれるというのと、重要な内容のものが全て頭に入っているという状態。

 この二つの大きな違いはずばり、奪えるか奪えないかだ。

 現物があるのならば、真であればどんな所に隠そうと必ず見つけ消滅させるだろう。

 ただし、記憶という頭の中にある情報を消す手段はない」

 

「おお、なるほど。

 やっぱり一誠は説明が上手いな!

 じゃあ真が病んでるのは奪えないからという訳か」

 

「まぁ、後は秘匿性が高い分、弟が背水の陣のような特攻をするのを事前に防げるという事は防げる。

 そしてその心理を使って、これからはそのちょっとの余裕を弄ばれて何でも命令し放題という利点がある」

 

「……命令し放題?」

 

「それはそうだろう。

 今の弟は追い詰められた手負いの獣ではなく、まだ余裕のあるそして理性を持った人間だ。

 追い詰められた時の何をやるか分からないという不安要素はなく、こちらの予想通りの動きしかできないとなれば、待っているのは調教だけだろう」

 

「………調、教」

 

 士郎はサァーッと血の気が引くという感覚を起こす。

 そして溜息を吐き落ち着かせると、未だ静かに泣いている真へと振り返る。

 

「俺、相談には乗るからな。

 頑張れ真!」

 

「あぁ、俺も相手が女狐と分かった今その件に関わりたくない。

 だがせめて、お前にいつでも生徒会室に立ち入っていい権利をやろう」

 

 それは応援だった。そして、遠回しな役には立てないという宣言でもあった。

 

 真はこれが日常になるのかもしれないと思うと、遂には絶対的な諦観を味わい、従順に従うだけの道を選んだ。

 

◇ ■ ◇

 

 これは有り得たかもしれない世界。

 

「これは………聖杯戦争? 

 なるほど、私はこれに呼ばれたのでしょう。

 ()()()にも許可は貰っているし、被害が出る前に急いで向かわなくては」

 

 これは最初から歯車が狂った世界。

 

「この人も、私に抱きしめられて()()()()()()()

 誰も、私に触れない。

 触れれば、死んでしまうから。

 ―――あぁ、誰か。誰でもいい。

 誰か私を救って(抱きしめて)

 

 そんな間違いだらけの世界で、もう一人異常の存在が聖杯戦争(冬木)に来る。

 

 それはこの世界でも特級の異物。

 

 あってはいけない、有り得てはいけない理。

 

「え、令呪ってマジかよ。

 オレは()()()()()()にも魔術にも関わるつもりなかったのに……。

 はぁ、でも令呪があるから参加しなくちゃいけないのか~。

 ――しょうがない、オレは平穏に過ごして適当にフェードアウトするか―」

 

 既に賽は投げられ、誰も後戻りすることは出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ここに運命(fate)は定まったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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