夕焼けの後を照らす月に。   作:永嶋 誘

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今回はオリキャラ成分多めかも?
タイトルからは分かりにくいかも知れませんが、NFO回となります。
用語説明の影響で長くなってしまったかも知れません。
それでは本編どうぞ。



Moon and Apple。

 今日は木曜日であり、蘭と共に授業をサボった日から二日経った。

 そして今は学校終わり、昨日と一昨日はバイトがあったのだが、今日は休みであり、私はモカちゃんのバイト先のコンビニに来ていた。だけどモカちゃんは今日、バンドの練習がある為に今日はバイトのシフトが入っていないとの事。

 

 私は現在、カップラーメンが陳列されている棚を眺めている。実を言うとこの後は蒼弥と会う約束をしており、蒼弥は独り立ちしてるお姉さんが実家に帰ってくる関係で途中で帰っちゃう事になってるけどNFOをプレイする為に一緒にネットカフェに行く予定。なぜ今日なのかと言うとお互いに都合のいい日が今日しか無かったから、私は明日バイトで、蒼弥は明日と土曜は部活があり、日曜日は友達と約束しているとの事。蒼弥は学校友達が多い方であり、後輩の子にも慕われている。だけど女性に免疫がない故に学校でも女の子とはあまり話せない模様(逆にそう言う所が女子の間で「可愛い」と評判らしい)。

 蒼弥は自分のパソコンを持っているけど、初めてネカフェに行く私に付き添って、パソコンとNFOの事を教えてくれるのだ。

 

 それで何故カップラーメンを眺めているのかと言うと、私はネカフェで一度はカップラーメンを食べたいと思っていたと言う淡白な理由からだ。まあ向こうでも売ってるとは思うけど、久しぶりにリサ先輩に会いたいと言う理由もある。久しぶりに……とは言っても学校で会う事はあるけど、基本一緒にいる事が多いお姉さんが「話しかけるな」と言う顔で私を睨み据えるのでリサ先輩とお姉さんには軽く挨拶をする程度に留まってしまう。

 完全にお姉さんの中でのヒエラルキーは私よりもミルちゃんの方が上らしい。まあミルちゃんを可愛がってくれるのは嬉しいから私としてはそれで構わないけど。

 

 それはそうとリサ先輩いないなぁ。もしかしたら今日はシフト入ってないのかな? と思っていると、突然背後から「ちょびん」と言う言葉と共に脇腹をくすぐられ、私は後ろを振り向く。

 

「わひゃ!? 何!? 誰!? ……ってリサ先輩!」

「ゆっづきー! いらっしゃーい☆」

 

 制服姿のリサ先輩は私に手を振り挨拶をしてくれた。

 すると私が眺めていたカップラーメンの棚に目をくばせ、私の顔を心配そうに見つめる。

 

「柚月ってさ、ちゃんとご飯食べてるの? いつもカップラーメンとかコンビニのお弁当で済ませてない……?」

「同じアパートに住んでるおばあちゃんと後輩の子が家に来てくれた時はご飯を作ってくれるんですけど、やっぱりコンビニのお弁当とかで済ませちゃう事が多いかもです……」

 

 私がそう言うとリサ先輩は「そっかぁ……」と自らの顎に人差し指をあてて悲しそうであり、独り立ちし、遠方の方に住んでいる我が子を憂う母親の様な顔をする。その慈愛に満ちた顔はまだ高校生にもかかわらず、事情により親元を離れてしまったと思う私の事を心配してくれているのをひしひしと感じる。

 

「またさ、柚月の家にご飯でも作りに行ってあげるよ」

「いえいえ! 気持ちは嬉しいですけどお構いなく!」

「いやいやお構うよー♪ 流石に心配になっちゃうしさー。遠くに住んでる柚月のお父さんもお母さんも柚月に何かあったら気が気じゃないと思うし、さ……。ここは一つ、おねーさんにお節介をやかせてよ」

「お父さん……お母さん……」

 

 私は思わず固まってしまう。そんな私をリサ先輩は心配そうに「……どうしたの?」と悲哀のこもった顔で見つめ、それに気づいた私は咄嗟に口を開く。

 

「あ、いえ! お父さんもお母さんも滅多に会えないので少しホームシックになってしまいましてー……。そうですよね! 私、リサ先輩とゆっくり話が出来たらなって思ってたので是非甘えさせてください!」

「やっぱりなかなか会えないってなると寂しくなっちゃうよね……。うんうん、またお邪魔させてもらうよ♪」

「私、バイト無い日は基本家で暇してるんでいつでも来てもらっていいですよ!」

「まあ流石にいきなりお邪魔するのも悪いし、また連絡するからさ。柚月は寂しくなったらいつでも相談のるから遠慮しないでアタシにLINEしてね」

 

 リサ先輩は時計を確認すると「まったねー☆」と事務所に向かった。やはり今日はシフトが入っていたみたいだ。リサ先輩は話しやすく、面倒見がいい為につい話し込んでしまったが、久しぶりにちゃんとあって話せたので私は胸がポカポカと暖かい気持ちに包まれた。

 

 ☆

 

 カップラーメンと塩おにぎり、チロルを購入した私はコンビニを後にするとネカフェに向かう。ネットカフェではドリンクバーもあると言う事で飲み物は買わなかった。

 ネカフェってどういう所なんだろう? 私のイメージではパソコンが使えて、漫画も読めて、映画も観れるんだっけ。ドリンクバーもあるし、食べ物も注文でき、あとシャワーも浴びれる。私は正にパラダイスなのでは? と思った。

 

 そんな思考の裏で私はふとリサ先輩との会話を思い出してしまう。

 私のお父さんとお母さんの事だ。もしも私に何かあったら二人は本当に気が気でなくなってくれるのだろうか、そして両親に何かあったら私はどういう感情になるのだろうか。嬉しい、悲しい、寂しい、悔しい、笑う、泣く、怒る……。

 

 きっと悲しんで泣く、のが正しいのだと思う。愛情を受けられなかったとしても、血の繋がった肉親なのだから。

 

 だけど今の両親の事は私はもう知らない。両親も今の私の事を知らない。

 だからと言うわけじゃないけど、こんな事を考えるのはもうよそう。両親の事も二年前、私の身に何があったのかも、考えた所でどうにかなる問題ではない。

 

 気分が落ち込んでしまい、俯きながら歩いていた私はふと顔を上げると、身長百七十三cmで白みを帯びた柔らかな金髪にライムグリーンのヘッドホンを頭にかけ、紺色のブレザー、その中に私が誕生日プレゼントであげた青いパーカーを着込んでおり、グレーのチェック柄のスラックスに歩きやすそうな白いスニーカーを履いた一人の中学生が私の目に飛び込んできた。

 あの制服は「対宝中学」で指定されている制服であり、私はあの子が誰なのか一目瞭然だった。

 

 私はその中学生に向かって走っていくと音楽を聴いて私の存在に気づいていないと思われるので、肩をトントンと叩き、人差し指を突き出す。

 背後に私の存在を感じたその男の子は頭にかけていたヘッドホンを首にかけ直すと、歩みを私に合わせ、車道側を歩く。

 ほっぺつんつんに引っかかってくれなかった事に対して私は憤りを感じた私は「むっ」としかめっ面になる。

 

「よ、柚月」

「蒼弥さぁ……。「よ」じゃないよ! もっと驚いてくれたり、ほっぺつんつんさせてくれてもいいじゃん!」

「前にも言ったろ? お前の思い通りにはならねーって」

 

 蒼弥は「お前の考えてる事なんてお見通しだ」と言わんばかりに目を閉じるとふっ、と鼻で笑う。

 なんか今日の蒼弥はどこか達観している様な……。いや、後輩の蒼弥くんは私に対してはちょっと生意気で軽口を叩くし、いつもこんなんだったな。だけどいつも思うのはそんな態度に私は嫌だとか不快だとか思う気持ちはまったくない。むしろ得体の知れない存在であるはずの私に対等に接してくれているのが嬉しい。

 

 私は先程の不毛な思考がすっかりと頭から抜けていた。それから私は自分でも何を思ったのか、蒼弥のブレザーの袖を掴むとちょいちょいと伸ばす。蒼弥は私の意図が分からない様できょとんと首をかしげると私に問う。

 

「なんだよこの手は……」

「あ、あのさ蒼弥……。手……繋がない?」

「やだやだ」

「やだって二回も言う必要ある!?」

「あるある」

「あるも二回!? あーもう! つぐさんとともちんは手繋いでくれたよ!? 蒼弥も繋いでくれたっていいじゃん!」

「そうは言うけど女性同士で繋ぐのと男女で繋ぐのとはわけが違うだろ……」

 

 蒼弥の言い分は言い得て妙だ。だけど本当は蒼弥と手が繋ぎたかったわけじゃない。蒼弥とするこういう不毛な会話とやり取りが心地いいと常々思うのだ。

 

 私は蒼弥の制服の袖を掴んだまま、二人で横に並んで歩いていると、蒼弥は口を開く。

 

「そういや昨日今日さ、学校で俺らのバンドに入ってくれる人がいないか聞いて回ったけど受験もあるし見事に全滅だったよ」

「え、なに蒼弥。私の為にわざわざ聞いて回ってくれたの?」

「あれ……モカ先輩から何も聞いてねーの?」

「バンド名は絶対ブルームーンがいいってこと以外は何も聞いてないよ?」

 

 蒼弥は「えぇ……」と困惑している。私が寝ちゃった後にそんな話をしてたんだ。「バンド組もう」なんて突拍子もない事を言っちゃったけど蒼弥は真摯に受け入れてくれたし、本当にいい子だなぁ。でもモカちゃんはなんで何も言ってくれなかったんだろう。何か考えがあっての事なのかな。

 モカちゃんには『練習中ごめんね( ;´꒳`;) 蒼弥ってバンドメンバーを学校で探してくれるってモカちゃんに言ってたの? v(・ 3・)v PSモカちゃんにNFOでフレンド申請送ってもいいかな?』とLINEを送っておいた。

 

 ☆

 

 私達はネカフェにたどり着くと中に入り、蒼弥はたまに友達と来るらしく、既に会員証を持っていたので、まだ持っていない私は店員さんに教えて貰いながら会員証を作ると、バインダーを受け取り、指定された二人用の個室になってるブースにやってきた。ここならきっと二人で連携を高めあえる、と私は思った。

 ドリンクとアイスはフリー(寒かったら毛布もある)なので私達はドリンクバーで飲み物を注ぎ、プラスチック製のコップを持ってシートに座るとパソコンを起動させ、マウスを操作し、既にパソコンにインストールされているNFOのアイコンをダブルクリックする。

 隣に座る蒼弥は既にアカウントを持っているので慣れた手つきでログインし、私は利用規約に同意したり、個人情報を入力していきIDを設定する所まで来た。まずはここからだ。

 

 とりあえずいくつか考えた単語を打っていくがことごとく、「このIDは既に使用されています」と表示され突っ返されてしまう。ならばこれではどうだと「ringo_moon91」と打ち込み、何とかパスする事が出来た。

 ネトゲを始めるにあたってアカウントを作るってだけでもこんなに大変なんだとは思わなかった。

 

 蒼弥はどうしているのだろうと隣の画面をチラ見する、何やら派手派手な装備を身にまとっている。その街は木々が立ち並び、妖精が漂い、オーロラの様な光がキラキラしたまるでおとぎ話の中のいかにもファンタジーと言った綺麗な街並みのフィールドにいるのが確認出来た。

 公式サイトで見た高い魔力を誇る種族であるエルフの領地である「ポーン」の主要都市、「フィーアの街」かな

 

 私も早くログインしようと思った所でモカちゃんからLINEの返事が来た。

 

『大丈夫だよ〜。だけどまーた蘭とともちん喧嘩しちゃってるよ〜……(;-ω-) あっ! 話がそれちゃった〜イケナイイケナイ 後輩くんにはそう言われたんだけどね〜。モカちゃんとしてはゆっづーと後輩くんが仲睦まじいのがすっごくいいなって思っちゃって何とか二人で頑張って欲しいと思っちゃったんだ〜(。-人-。) ゴメンネ ちなみにNFOのお名前のスペルは「PAN RUN」で〜。IDは「MocaMocaChanDesu」だよ〜。MMCDで覚えてね〜(覚える必要は(ヾノ・ω・`)ナィナィ)。それでフレンド検索で一番最初に出てくる子がモカちゃんのキャラだよ〜。それでは後輩くんとのおデート(*/ω\*)キャー!! お楽しみに〜(*・ω・*)ゝ』

 

 とりあえずモカちゃんのLINEについて言いたい事は沢山ある、だけどひとまずは落ち着いて返そうと思う。

 

『えー、蘭とともちんが喧嘩ぁ〜? ほんとあの二人は懲りないねぇ(あの二人そんなに仲悪かったっけとか思ったのは内緒)┐( ´−∀−`)┌ヤレヤレ つぐさんの胃が心配になるよ(^^;←お前が言うな やっぱり蒼弥と二人でやるのがベストインヘブンなのかなぁー……(´-ω-`) 蒼弥と私は一心同体だからその方がいいのかも知れないよね……() ありがとー! 今からログインして早速フレンド送り付けてやるから! ← それじゃおデート(ネトゲ内でだけどwww)楽しんできまーす(・ω・)ノシ』

 

 よし内容はこれで大丈夫だな、とモカちゃんに返信した。

 

 蒼弥も待たせてしまっているのでそろそろログインしないとなと思い、パソコンの操作を再開し、ヘッドホンをかけると場面を進めていき、やがてNFOの配信元である有名ゲームメーカー、「EXCEED THE LIMITS社(略称はそれぞれの単語のイニシャルを取ってETL)」の表記、ゲーム内で使用されているエンジン等の表記が流れ、壮大なBGMと共にオープニング映像が流れる。それを見た後にはようやく、このゲームでのプレイヤーの分身である、「キャラクターの作成」をする。まずは種族の選択だ。

 

 なになに……。「人間」「エルフ」「魔人」、「海人」「獣人」「ホビット」と。一番人気な種族は人間の様だけど、どうしようか。

 私は相談しようと、隣に座る蒼弥の脇腹をつつき、声をかける。

 

「ねえねえ蒼弥くん」

「ん? どうした?」

「種族って沢山あるけどどうしたらいいのかな?」

「柚月がどういうのやってみたいか、だな。剣とか斧使う戦士系のジョブがいいなら人間か魔人だし、魔法がいいならエルフか海人、盗賊がいいなら獣人種のワーキャットか小人族のホビットが……」

 

 んー……。やっぱり沢山あって迷うなぁ。剣もいいけど魔法にも惹かれるし、モカちゃんは一番強そうって理由で魔人にしてて蒼弥はエルフ……未来姉は何にしたのかな。

 でも私としては強くなりたいけどやっぱり楽しく遊びたいからなぁ。

 

「蒼弥と未来姉は一緒にやってる……んだよね。未来姉は何にしたの?」

「未来さんも俺と同じエルフだよ」

「未来姉もなんだ。……よし決めた。私もエルフにする!」

「いいのかよそんな簡単に決めて……」

「いいのいいの!」

 

 簡単に決めた私を蒼弥は不安な顔で見てくるが種族は二人と同じエルフにした。エルフと言えばロード・オ○・ザ・リングのレ○ラス様もそうだったよね。

 

 性別はモンファイと同じく男の子にし、後は見た目と「ストレングス」、「パーセプション」、「インテリジェンス」、「アジリティ」、「ラック」等のステータスだが、まずは見た目だ。

 

 どうするか、蒼弥にまたしても相談したが、こちらは自分でちゃんと考えて作った方がいいとの事なので頭をひねらせるが、いかんせんピンと来る物がない。

 モカちゃんやひーちゃん、つぐさん、翼ちゃんみたいな可愛い見た目にする? それともともちん、演劇部の先輩、しず子みたいな格好いい系? それか未来姉みたいな格好よくて可愛いキャラクターか……。

 

 試行錯誤を繰り広げていき、作成を始める、身長は現実での私より一cm高い百六十cmにし、尖った耳、細身な体型、色白な素肌、大きくキリッとしたつり上がった目付きに長いまつ毛……整った顔立ちで作っていく内に蘭みたいになったなと思い、髪型もマッシュで蘭より少し短め目な黒いショートボブ、メッシュの様な設定もできるので一部分ではなく、左側の大部分を赤く染め、頭頂部の髪を一部逆立て、二本の角の様にした。

 

 そして職業……ジョブだけど、エルフならやはり魔法職にした方がいいのだろうか、と私は蒼弥に聞く事にした。

 

「エルフにしたら魔法職以外はやめた方がいいの?」

「いやそんな事ねーよ? 俺はエルフだけど剣士系の「ドラゴスレイヤー」だし。まあ戦士職より魔法職の方が育成しやすいのは事実だけど、そこは自分がやりたいのでいいんじゃね?」

「そっかぁ……。じゃあ剣とか使いたいからナイトにしよ」

 

 職業はナイト、ステータスはナイトらしくストレングスとアジリティ、ラック、今後、魔法系のジョブをやる事を考え、インテリジェンスとパーセプションにも少々割り振った(ルーンの魔石と言う課金アイテムを使えばいつでも振り直せるとの事)。次は……なになに? スタートアップロールプレイ? ゲームを始めた時の主人公の境遇までもが決められるんだ……。ゲームはここまで進歩したんだなぁ、ロールプレイってこだわる人はとことんこだわるし、普段から様々なオンラインゲームをやってる人からしたらこういった選択肢があるのは当たり前の事なのかもしれない。

 

 私は誰も選んでいなさそうな「囚人」を選択し、本当の意味での最後、キャラクターの名前だ。

 こちらはもう既に決まっている、「Apple」と入力した。

 モンファイでもそうだけど何故アップルという名前なのか、まずは私の名前である柚月を縮めて「ユヅ」これだと捻りがない。

 そして柚子の英語名である「シトロン」も私は格好良すぎるなと思ってしまい、果物繋がりならその代表格である「リンゴ」ではどうかと思い、英語表記にしようと言う理由でアップルと言う名前にした。ただそれだけの理由だ。

 

 キャラクターの作成が終了し、ロード場面に切り替わった。結構長くなるとの事なので私はその間に漫画を数冊と私と蒼弥の新しい飲み物を取りに馳せ参じた。

 

 戻ってくるとロードは終わっており、このゲームの開始地点、領地「アイン」にある、フライクベルト大陸の最東端に位置する、「始まりの村」と言う村にやってきた。

 

 NPCである、「アタナ」と言う屈強な男性の人が説明してくれた(説明中アタナさんと似た顔でネイビーブルーのツナギを着た若い男の人が話を聞いていた私を凝視してた。アタナさんの息子なのだろうか、それともプレイヤーの人?)。

 フライクベルト大陸の北部、極寒の領地「クイーン」にある「悪寒の監獄」に囚人として服役していた私こと、アップルは王都「アイン」の上級王の取り計らいにより釈放され、私の身元引受人になってくれたのがこの村の村長を務める、「ダンケインさん」と言う人だそうだ。

 

 このフライクベルト大陸では争いが耐えない、それは種族間での差別、信仰する神、王位継承を巡り、大陸中心部「キング」で戦争が繰り広げられている(レイドPVPである、「王位戦争」ではプレイヤーもその戦争を体現できるらしい)。

 

 全員が全員争いたいと思っている訳ではなく、中には種族は問わず仲良くしたいと考えてる人が多く存在する(それはゲームの都合上、プレイヤーの人達が自由な種族同士で一緒にプレイする為に、と言う意味でもあるけど)。

 

 私は王位を巡る戦争にはあいにく興味無いし、差別なんて考えたくもない。

 ゲーム内の神様についてはこれから知って行ければいいとは思ってるけど。

 

 私の事を「トンガリ(エルフの呼称、理由は耳が尖っているから。人間とエルフは関係が良好とは言えない)」と呼びながらも最後には「冒険の神・アドヴェス(人間が主に信仰している神様。人間に知恵と勇気を授けたとされている)」のご加護を祈ってくれた。

 

 話も聞き終え、装備を確認する。上下とも「囚人の服」というみすぼらしい格好に両手には一応アクセサリー扱いである、「手枷(釈放されたので鎖は切られてる。囚人で始める物好きなプレイヤーはごく少数なので一応レアアイテムらしい……)」右手には「アイアンショートソード」左手には小さめな盾、「革のバックル」を装備している。

 

 とりあえず蘭にこんな格好させてるみたいで申し訳ない気持ちになってしまうから、武器は後回しにして、最初に洋服とか防具が欲しいな。

 

 そう思っていた私にアタナさんの話を聞いていた時に凝視してきた一人の男の人が近づいてきた。まさかゲームの中でナンパされる!? と思ったけど私は男の子でプレイしているしそれは無いかと思っていると、話しかけてきた。

 

「Hey. Friends! My name is「Tommy」!」

 

 気さくそうに話しかけてきた。どうやら外国の人なのかな? Tommy……トミーさんって言うんだ。私に何か用があるのだろうか、というよりも返事をした方がいいよね。

 

「H……Hello」

「Are you a beginner? I’ll give you this︰)」

 

 トミーさんはそう言うと、「貴方に贈り物が渡されました」とメッセージが出た。

 私は訳も分からないうちに受け取り、中身を確認する。トミーさんが着ている物と同じツナギの服だ。

 囚人の服からたった今貰った服に着替える(手枷は大き目のブレスレットみたいで気に入ったからそのまま)。トミーさんとはペアルックになってしまう。なんだかこれではトミーさんと私が親子みたいだ。だけどせっかくくれた物だ。

 私は「Thank you」と告げるとトミーさんは両手をかかげると魔法陣を展開し、転移魔法「トラヴェリング(このゲームでのファストトラベルの事。安全地帯に限り、一度行った事のある場所ならそれがどれだけ離れた場所であっても一瞬で行く事ができる)」を使用し、どこかへ消えていってしまった。

 

 ☆

 

 蒼弥は私がキャラを作っている間に、クエストに行ってしまい、もう少しかかるとの事、私は合流するまで村を見て回る事にした。

 石造りの建物、丸太で作られた階段とのどかな風景でまるで外国の田舎の様な風景だ。

 

 ここにはNPCはもちろんの事、人間を始め、様々なプレイヤーがいる。「ギルドメンバー募集! 初心者大歓迎! 詳細はwisにて」と言うメッセージをかかげた海人族の人、口から火を噴いてパフォーマンスをしている魔人族の人、四人組のホビットがじゃれあって(喧嘩?)いる。あ、物乞いの人もいる。

 

 色々な人がいるんだなと思っていると、クエストを終えた蒼弥が始まりの村にやってきた。

 

 このゲーム内では蒼弥は「アオ」と名乗っており、青みを帯びた白髪で前髪を左側のみ上げており、その部分を青く染め、マントの様な布が背中部分についた白い鎧を着ており、鎧には発光するサファイアが埋め込まれている。ちなみに他のお客さんの迷惑になると言う事でゲーム内のチャットで会話しようと言う事になった。

 

「あ、やっと来たのかね君!」

「お、おう……。あれアップル、お前その「コスチューム」どうしたんだよ?」

「なんか外国人のプレイヤーさんがくれたんだよね。良くない? 君もいいと思わない?」

「悪くはねーと思うけど。……ところでなんで俺の事「君」なんて呼ぶんだよ……」

「取ってきて読んだ恋愛漫画でね、ヒロインの女の子が主人公の男の子の事を「君」って読んでてアオくん、こういうのにキュンって来るかなぁって思ってさー(≧∇≦)ねえねえどうだったかな? (・ω・)」

「全然キュンとこねーよ……。とりあえずお前のチュートリアルクエストやっちまうぞ」

「えーと……どうすればいいのかな?」

「村長ダンケインの屋敷で下働きしてるジェイクって人から「ロゴロ鉱山」にいるリンダって人に手紙を渡すクエストを受けて……」

 

 アオに言われるがまま、私達は仲間を集う酒場、カンカンと武器を鍛えている武具屋、お酒や食べ物を売っている露店等を後でちゃんと見て回って行こうと思いながら人がごった返し、賑わう村を進んで行くと、村長ダンケインさんの住むお屋敷にたどり着くと中に入っていく、まず目に付いたのは飛行型モンスターである、「クロウ・スピーダー(大き目のカラス。集団で飛び回り、耳障りな鳴き声を出しながら人々を襲うモンスターでコアなファンからの人気がそこそこ高いらしい)」の剥製だった。何人か使用人の人はいるけど屋敷内を探し周り、ジェイクさんを見つける事が出来た。

 

 ジェイクさんは真ん中分けの茶髪にサスペンダーの付いた服を着ており口元に髭を生やしたダンディな人だった。その人からリンダさんへの手紙を受け取りチュートリアルクエスト、「気になる婦人へ」を受注する。

 

 ☆

 

 村を出て西側にあるロゴロ鉱山に向かい広大な自然が広がる「アゼミチ村道」を歩いていく、アオから途中にある薬草を拾う様に言われた私は言われるがままに拾っていき、生産系ジョブ「アルケミスト」のスキルで調合すると「HP回復ポット」と言うアイテムを作る事が出来た。

 ポットを複数作っていくと、アルケミストのランクがレベルアップした。スキルポイントを三個手に入れられたので調合を「I」から「II」にあげる。これでポットを使用した時の回復量が増加する。

 村道には野生生物こそいれど襲ってくる気配はない。万が一襲われてもアオがいてくれるし、大丈夫だろうと思っていると、突然金切り音の様な鳴き声が聞こえてくる。先程の村長の家で見た剥製のモンスター、「クロウ・スピーダー」が襲いかかってきたのだ。

 

 アオは炎が燃えさかる白い刀身の剣、「トゥルー・レッド」を鞘から抜くと、ドラゴンスレイヤーのスキルである「ドラゴニック・スケイル」を発動させる。全身を橙色のオーラが纏い、背中からは複数のトゲの様な物が生える。

 

 私も革の鞘から剣を抜き、左手のバックルを構える。

 クロウ・スピーダーはずる賢い性格の為に、アオを無視して低レベルの私に向かって突貫してくる。

 

「あれ……なんか私の方に向かってきてない!?」

「とりあえず「ブロック」のスキルを使えば防げるから大丈夫だ」

 

 村を出る前にスロットに複数のスキルをセットした。さっきのアルケミストの調合もそうだけど今アオの言った防御スキル「ブロック」と攻撃スキル「斬撃」も登録しておいた。

 

 私は左手のバックルで敵の攻撃を防ぐと「ジャストガード(敵の攻撃をタイミング良く防ぐと次の攻撃時、クリティカル上昇の恩恵を受けられる)」を成功させる事ができ、敵が怯んでいる所に右手に持った剣で切りつける。

 すると敵は力なく倒れ、声を絞り出すように鳴きながら息絶える。アオは私が一体の敵を倒している間に四匹倒していた。流石にレベルが高いだけはあるなと思った。

 倒した後、敵の亡骸は一瞬の閃光の元、「パァ」と飛び散る様に消えてしまったが、残った丸い光の球体に虫眼鏡のアイコンが表示される。これが俗に言う「ドロップアイテム」だ。

 

 ドロップしたアイテムを確認する。「クロウ・スピーダーの肉」、「クロウ・スピーダーの羽根」肉の方は「料理」に使えるけどカラスって食べられる部分なんてあるのかな……? まあそこはゲームだから現実とは違うだろうし、杞憂なのかも。羽根の方は「錬金素材」で「MP回復ポット」と組み合わせると「レビテーションポット(三十秒間のみ空中浮遊が可能)」が作れるんだ。空飛べるなんて凄いな、後でMP回復ポットの素材である、「青い薬草」を集めよう。

 

 初めての戦闘でレベルアップする事が出来た私は貰ったスキルポイントを使って強力な攻撃を放つ、斬撃のスキルをIからIIにランクアップさせ、耐久力も上げておいた。

 

 ☆

 

 そしてたどり着いたロゴロ鉱山、人の手が入っており、トロッコを走らせる為のレールが敷かれており、崩落防止の為か壁には木の柱が打ち付けられている。薄暗いが天井からランタンが吊るされているおかげで足元は見える。

 私達は村を出たあたりからパーティーチャットに切り替えており、会話は他の人には見えない様になっている。

 

「ねえアオ。ここ強いモンスター出るんじゃない? 私達二人で大丈夫なの?」

「大丈夫だろ。手紙届けるだけだし」

「そっか、そうだよねアオがいれば安心できるよ!」

 

 私の言葉にアオは満更でもなさそうだ。歩いていると、茶色いチョココロネの様な形をした「コワマ」と言う虫型のモンスターが尺取虫の様に地を這って近づいてくる。

 

 私はすかさずスキル・斬撃で撃退する。比較的弱い敵なので簡単に倒す事ができた。

 

 敵を倒し、進んでいる途中、私はふとゲーム内での未来姉の事が気になり、現実側で蒼弥に尋ねる。

 

「そういえば未来姉ってモンファイと同じ「カコ」って名前でやってるの?」

「いや違う。……実は未来さん、最近ログインできてねーんだ。お前も知ってると思うけど「保育園」の仕事が忙しいみたいで……。あの人の仕事が落ち着いた時にでも聞いてみろよ」

「……うん、そうするよ」

 

 蒼弥には未来姉は保育園で働いてるという事にしてある。未来姉も私に話を合わせてくれている。

 

 ログイン出来てないなら仕方ないかと私はゲームに戻る。

 

 

 




次回はNFOのあの子達が出てくるかも。
種族の解説等はそのうちに書いていきます。

それではご高覧ありがとうございました。

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