仮面ライダーエクシズ   作:八咫ノ烏

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一年以上すっぽかしててすいませんでした。
あの、本当に。

そのうえ戦闘パートありません今回。
マジですいません。


ep.10 わからないことだらけ

「穏健派、か。そんなものが存在するとして、ならばなぜそんな奴がレグルスなんぞに入っているのかという疑問は湧くがな」

 

 ここはアストライアの拠点の隅にある、こじんまりとした会議室。そこで雪村と篠崎、そして颯貴と霧峰と蒼樹の五人が話し合っていた。

 議題は先日倒したトレイターの口から判明した、レグルス内にいるとされる穏健派の存在である。

 

「そも、我々に対する総攻撃案に反対し続けるというのが……。単に戦力不足だからという理由なのか、他になにかあるのか」

 

 穏健派が存在し、彼らがレグルスとアストライアの全面戦争に反対し続けていたという噂。どういうわけでそんなものがいるのかは不明だが、それを信じるのであればレグルスの穏健派と連携して大半がこれに当たるであろう過激派を壊滅させることも視野に入れたっていいわけだ。

 アストライアの戦力は三人。相手のギアよりずっと良い性能のものを使用しているとはいえ、数の差というのはそれを簡単にひっくり返し得る。

 

「ともかく俺個人としては、協力するのは反対だ。いくら穏健派だとして、犯罪組織に加担しているという事実は変わりない」

 

 だが、いくら穏健派とて結局はアストライアとは敵対している状態にある。そのような相手と接触したとて、いいように利用されるのがオチだと篠崎は考えているらしい。

 そもそもとしてどのように接触するのか、それが穏健派なのか穏健派の皮を被った過激派なのかをどのようにして見分けるのか。そういった根本的な問題が存在している以上、迂闊に接触しようとするのは確かに悪手だ。

 

 そんな篠崎の論を補強するかのように、颯貴は顎に手を当てながら口を開く。

 

「いくら穏健派とはいえ、レグルスに所属している犯罪者です。恐らく何らかのメリットがあるか、彼らにとって崇高な目的があるはず。そんな人たちに私たちと協力してほしいと言ったところで突っぱねられるのがオチでしょう」

 

 彼の指摘ももっともだ。いくら穏健派とはいえ所詮は犯罪組織に所属している凶悪犯である。敵対関係にあるアストライアと素直に協力関係を築くのは難しいだろう。

 

「現段階では、とてもではないですが信用に値するとは思えませんね」

 

 そう言って言葉を結び、颯貴は篠崎へ視線をやった。それを受けた篠崎は、ちらりと雪村の顔を覗く。難しい表情を浮かべているところから察するに、どうやら彼女も協力の件に関してあまり良い気はしていないようだ。

 それに少し安堵したような表情を浮かべ──なにせ雪村は一度やると決めたら大抵は大問題が起こるまで意見を変えずに押し通すから──篠崎はふぅと溜め息をついて口を開く。

 

「そうだな……。まぁこの件は一旦保留にしておこうか。現段階では信用出来ないというのは私も颯貴も同じだが、将来的にこれがひっくり返る可能性があるからな。なにせ不確定要素が多過ぎて判断に困る」

 

 篠崎は悩ましげな表情を浮かべながらそう話を締めくくり、コーヒーを口にして一息吐いた。

 

「というよりも穏健派がどうこう以前に、あの例のクソガキをどうにかするのが先なんだがな……」

 

 あのクソガキ。以前仮面ライダーを誘い出して襲ってきた自称レグルスの幹部であり、数年前から行方不明となっていた少年である清水悠真のことだろう。

 

「そうっすね……。彼を何とかして助け出すなり倒すなりすれば情報を聞き出せるかもしれないし」

 

 霧峰の言う通り、彼を倒せば何かしらの情報は得られる事だろう。少なくともどのような人間が他にいるのか、目的がそもそも何なのかなどは確実に判明する事になる。

 

「きっと親御さんも心配されているでしょうし、早いところ倒して連れ戻してあげないとですね」

 

 蒼樹は当時のニュースを思い出しながらそう呟いた。彼の両親が涙ながらに子供の目撃情報などを求めている映像や無事を祈るコメントは、全くの無関係であった当時の蒼樹ですら胸が締め付けられる思いがするほど悲痛であった。あれから何年も経ち、未だに帰ってこない子供を想い続ける彼の両親の胸中は察するに余りある。

 そんな彼の言葉に、残念ながら雪村は苦い表情を浮かべながら首を横に振った。

 

「それがねぇ……。早く居場所を特定してほしい〜って警察に急かしてるんだけど、なかなか厳しいみたいなのよね」

 

 あの時以外に彼の目撃情報はない。監視カメラを利用してその後を掴もうとしたらしいが、残念な事にある点を境に全く映らなくなってしまっているらしい。その周辺は高級住宅街であることから犯罪組織の根城があるとは考えにくく、車か何かを利用して遠く離れた地へと移動したのではというのが現時点での見解らしい。

 それを聞いた颯貴は、わからないのならば仕方がないと言葉を零した後に新たな疑問を口にする。

 

「そもそもどうして行方不明となったのでしょうね。件のニュースが出た際はいなくなった時間帯から誘拐されたという説が有力視されていたはずですが、であれば誘拐した者は何をもって彼を誘拐しレグルスに入れた、もしくは入れさせたのでしょう」

 

 颯貴が口にした二つの疑問点は、現在捜査中の警察の頭を悩ませているタネである。夕方の下校時間にふらりと姿を消して以降行方不明という状況にある以上、誘拐説が有力視されるのはおかしな話ではない。

 

 彼はどこかへ一人で遊びに行くほど活発な子供ではなくむしろ家で過ごす方が好きという大人しめな性格であり、そもそもその日は習い事の予定があったらしくそのような事をするとは思えない。であれば、どう考えても家出か誘拐の二択になる。だが先に述べた通り彼は大人しい性格であり、家庭内でもそのような素振りを見せたことはないという。

 

 ならば消去法で誘拐された説が有力視されるのは当然の話であった。

 

 はずなのだが。

 

「蒼樹くん曰く、自由を奪うつもりなら〜だなんて言ってたみたいだけど……。仮に誘拐されてるんだったら自由を奪ってるのってレグルスであって私たちじゃないよね」

 

 雪村が指摘した部分がどうにも引っ掛かる。誘拐されている身だというのに、自分たちに向かって自由を奪うななどというセリフを吐くものだろうか。どちらかといえば救いを求める言葉を吐くのではないだろうか。

 

 そもそも、仮面ライダーを誘い出すために一芝居打つほどに敵視されるような謂れはない。

 レグルスとアストライアが敵対状態にある、という一点を除いて。

 

「今所属している組織、レグルスが彼にとって居心地の良い場所であるのかもしれません。洗脳されている、脅されている、などの可能性を除けばですが……。彼と蒼樹くんや霧峰さんに接点が無い以上、敵視される理由は私たちとレグルスの敵対関係にあるとしか思えません」

 

 颯貴は頭の中で次々に推論を重ね、それを口にする。結局机上の空論でしかないが、清水悠真の意思で戦っているのではというそれは奇しくも蒼樹の感じていたものと同じであった。

 

「……篠崎さん達には伝えたんですけど、僕の目には彼が本気で敵意を向けてきているように見えました」

 

 颯貴の顔を見つめながら、当時の事を思い返す。何週間か経った今でも、思い出して寒気がするほどの殺意と憎悪が込められた視線。

 あれが演技だとは思えない。思わず体を震わせながら再度口を開く。

 

「あの憎悪に満ちた目と、容赦無い攻撃。無理にやらされているものとは思えなかったし、もし洗脳とかその手のことをされていたのだとしてもあんなことが出来るとは……」

 

 そこで言葉を切り、蒼樹は深い溜め息を吐く。初めて殺されかけたときのことを思い出して平静を装えるわけもなく、彼の額には汗が滲んでいた。

 そんな蒼樹の様子に雪村は心配そうな表情を浮かべながら、彼に一度帰るよう促した。

 

「最近出ずっぱりだし、今日はもうお家でゆっくり休もう。空いた穴は霧峰くんと久留くんが埋めてくれるから」

「いや、別にそこまで疲れてるわけじゃなくて……」

「ま、たまにはこんなところじゃなくてお家で家族と過ごすのも大事だと思うっすよ。ここと違ってリラックスできるでしょうしね」

 

 困り顔で遠慮した蒼樹に、霧峰はそう言った。家に帰れば、いきなりサイレンが鳴って出動しなければならないかもしれないなどという意識を頭の片隅に置いておく必要もない。少なくとも今の彼に必要なのは心の底からリラックスできる場所だろう。

 好意を無碍にするのは忍びなく、蒼樹は軽く頭を下げて会議室を出ていった。それを見送ったのち、篠崎は頭をポリポリと掻きながら呟いた。

 

「にわかには信じ難いが、蒼樹の発言を第一に考えるならば彼は行方不明となった日にレグルスと接触し、彼自身の意思で加入したことになるわけだ。そして目的は自由を得るため、と推測される」

「ん~、矛盾してるようにしか思えないっすね」

 

 蒼樹と颯貴の主張を元に広げた篠崎の推測を、霧峰は難しい表情を浮かべながらそう否定する。

 

「どう考えたって今の方が不自由だと思いません? 自由に外出歩けるわけでもないんすから」

 

 彼の言う通り、自由を求めるためにレグルスに入ったというのであればそれは悪手だとしか言いようが無い。

 今の彼は、見つからぬように影をコソコソと歩くかどこかに引き籠らねばならない。そもそも行方不明となっていて捜索されているこの状況下で、果たして本当に自由などと言えるのだろうか。

 

「それでも現状を維持したいと言うにはそれなりの事情があるはず」

 

 そんな状況になってまで自由を求めるからには、相応の事情があるはずだ。

 雪村の呟きに、各々が黙り込んで考えを巡らせ始めた。

 

 静寂が場を支配する。

 

「……物事は、もう少し単純なのかもしれません」

 

 先にそれを破ったのは颯貴だった。一体何を言い出すのか、という驚愕がわずかに混じった視線を受けつつ、彼は自身の頭に浮かんだある仮設を口にする。

 

「彼が子供だ、という点をすっかり忘れていました。その行動に合理性を求めることがそもそも間違っているのかもしれません」

「どういうことだ」

 

 懐疑の視線を颯貴に送る篠崎。子供だからその行為に合理性を求めることが間違い、というのはどういうことなのだろうか。いくら子供であろうと、考える頭があるはずだ。それが犯罪組織の幹部になっているほどの子であればなおさらだ。

 だが、颯貴は続く言葉でそれを否定する。

 

「どれだけ大人びているように見えてもまだ精神的に未成熟、ということです。全ての選択が非合理的だと吐き捨てているわけではありません。ですが、その全てが合理的な理由あってのものだと言えないのもまた事実です」

 

 今までは全て自分たちの知り得る情報を元に、自分たちの目線で推測していた。だが、相手は子供。まだ精神的にも肉体的にも幼い、もしくは幼かった彼の目線に立って物事を見れば状況は簡単に変わるかもしれない。颯貴が指摘しているのはそういう点だ。

 自由を得たいと強く願い、そしてようやく得た自由が仮初のものだとしてもそれにしがみつこうとしているところから察するに、彼が失踪する以前に抱えていた自由への渇望は相当大きいものだったはずだ。

 

「彼は何らかの手段でレグルスに接触され、そして勧誘を受けた。その誘いを受ける代わりに、自由を求めた。仮説に仮説を重ねて飛躍させたものですが、恐らくこんなところかと」

 

 そう言葉を締めくくり、颯貴は反応を待つ。みな、あまり肯定的でもないが否定的でもない。何とも言えない、といった風な微妙な雰囲気が場に漂い始める。

 それを察知した雪村は、うーんと唸りながら口を開いた。

 

「まぁ一応矛盾してるところとかは無さそうだし、あり得なくは無い……かな。実際にそうかは置いておくとしてね」

 

 まぁ結局のところ、颯貴も言った通りただの仮説に過ぎない。そうだと決めつけて行動するのは迂闊だ。

 そんな雪村の言葉にさもありなんと頷いた颯貴を横目に、霧峰は呟く。

 

「……そもそもどうしてそこまでして自由を求めてるんすかね。自分の人生を賭けてまで得たいと思うほど自由を求めてるって相当じゃないすか?」

「そういうのって、大体お決まりみたいな感じじゃない?」

 

 霧峰が浮かべた疑問に、雪村はそう返しながら篠崎へと視線を移した。

 

「家庭環境の問題、か」

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 精神的疲労を心配され、先に帰らされた蒼樹。家に着いた彼はリビングにある椅子に座り込み、かなり考え込んでいた。

 

「……どうやったらあの鎧を貫けるんだろう」

 

 頭に浮かべているのは、悠真の怪人態であるあの巨人の攻略法。分厚い鎧を纏うそれに仕掛けた攻撃は一撃もまともに入ることはなく、むしろそれを倍にして返されている。

 このまま彼に突撃を仕掛けたとて、ボコボコにされておしまいだ。

 

「そもそも出力が低過ぎるんだよな、きっと……。10%ってどういうことなんだろ」

 

 蒼樹の言う通り、現在エクシズギアが出せる出力は本来のエネルギーの10%程度でしかない。

 どうしてそんな事になっているのかは不明──単にまだ尋ねていないだけで、そんなに深い意味合いは無いかもしれないが──だが、ともかくそれをどうにか上げてもらわないと歯が立たないことだけは確かだった。

 

「雪村さんの口振りから察するに、わざと抑えてるんだろうから出力を上げられないわけはない……。となると問題は倒したあとのこと、な気がするな」

 

 出力を今以上に上げられる余地があるのであれば、あの巨人と対等に渡り合うどころか圧倒できてしまう可能性がある。であれば今考えるべきは、勝てるかどうかではなく戦いが終わったあとの悠真の扱いだ。

 

 彼は何らかの理由で自由を求めている。それを奪うということは、彼は再び何かしらに縛られてしまうことになるわけだ。

 それが宿題だとか勉強だとか、そういった誰もが鬱陶しいと思うようなことであれば良い。

 

 問題は、そうでなかった時のこと。例えば家でDVを受けていたとか、誰かに虐められていたとか、そういったときだ。

 気軽に家に返すべきでない状況にあった場合、アストライアとしてはどう動くつもりなのだろうか。

 

「……保護、とかかなぁ」

 

 思いつくのはそれくらいだ。恐らく月宮家にはそれほどの余裕がないため、他のメンバーの家に押し付けることになるのだろう。

 それが、彼のためになるのだろうか。

 

「正しい行いなんだと信じたい……けど、だな」

 

 結果的に悠真が不幸に晒されるのであればいい気はしない。

 彼にも、幸せになる権利はある。

 もしかしたら、あの組織にいる方が幸せなのかもしれない。

 

 だが、倒すしかない。

 倒さなければならない。

 

「それでも割り切らなくちゃいけないんだろうな。そうじゃなくちゃ、無関係の人まで巻き込まれるし……」

 

 ときには諦めも肝心だ。蒼樹の言う通り、被害がこれ以上拡大するのを黙って見ているというわけにもいかないのも事実。

 

「……倒したあとのことは倒してから、か」

 

 天井を見つめ、ふぅと息を吐く。

 

 ふと、どうしてこんな難しいことを考えなくてはならないのだろう、という思考が蒼樹の頭をもたげた。

 そもそも彼はまだ高校一年生になったばかりの身であり、このような複雑な状況に身を置くような年齢ではない。普通であれば今頃は何も知らぬままゲームをしたり昼寝をしたりしていたことだろう。

 

「それもこれも全部こいつのせいなんだよな……」

 

 エクシズギアを手に取り、それをまじまじと見つめながら呟いた。あの日あの場所で出会ってから今に至るまで何度も力を貸してくれたそれについて、まだ蒼樹は何も知らない。

 

 どうして自分なんかが選ばれてしまったのか。

 資格持ちを選別する基準は何なのか。

 どうしてそんな面倒なセキュリティをかけているのか。

 そもそもこれは一体何のために作られたものなのか。

 

 知っているのは使い方くらいで、それ以外のことは何も知らないのだ。エクシズギアとの付き合いもそろそろ一か月になろうというのにおかしな話だろう。少なくとも、どうして選ばれたのかくらいは知る権利があるはずだ。

 

「そろそろ教えてくれてもいいと思うんだけど」

 

 そんな言葉を誰に聞かせるでもなく投げかけた瞬間、リビングのドアが開く音がした。蒼樹は急いでエクシズギアを懐に仕舞い込み、平静を装う。

 

「ただいま~」

 

 帰ってきたのは姉の紅羽だった。結っていた髪を解き、雑にヘアゴムを放り投げる。

 見られてしまっただろうかと気が気でない蒼樹を他所に、紅羽はドカッと蒼樹の正面にある椅子に座り込んだ。そのまましばらく黙り込んだままスマホを弄っていたが、ふとした瞬間にその虚ろな目は蒼樹の方へ向けられる。

 

「ところであんた何かあったの?」

「こっちのセリフではあるけど……。どうしたのさ、そんな顔して」

 

 紅羽の質問に、蒼樹は苦笑を浮かべながらそう返す。机に突っ伏したままの彼女の表情はかなり酷い。目元に深いくまが出来ており、どこか血色も悪いようにも見える。一体どうしたのかと聞きたいのは蒼樹の方である。

 そんな蒼樹の心配からくる疑問に、紅羽は手をひらひらと振りながら答えを返した。

 

「あぁ、私は単に疲れてるだけだから……。で、あんたこそなんか悩んでそうな顏浮かべてたけど」

「いやちょっとゲームで苦戦してて。ふて寝しようと思ってたとこだったんだ」

 

 答えをはぐらかされた。そんなことを考えつつ、蒼樹も同じことをし返した。内容が内容だから仕方がないとはいえ、どこか申し訳なさを抱いて思わず顔をプイと逸らす。

 正直なところ、今置かれている状況を話して助言を得たい。きっとそれなりに的確なアドバイスをしてくれるだろうし、そうでなかったとしても心の支えになってくれることだろう。だが、それをしてしまうと彼女までこの戦いに巻き込んでしまうことになるのだ。そんなことを望んでいるわけではない。

 

 そんなことを考えながら、窓の方を見つめて溜め息を吐く。その蒼樹の表情を見て、紅羽は優しい笑みを浮かべて口を開いた。

 

「ふ~ん……。あんたもまだまだ子供っぽいとこあるのね」

「うるさいバカ。部屋で昼寝してくる」

 

 フンッと不服そうに鼻を鳴らして蒼樹はリビングを出ていった。それを目で追いつつ、紅羽は深い溜め息を吐く。

 

「そうだよ、まだ子供なんだよね」

 

 そう言って目を伏せる。何か思うところがあるのだろうか。そのまましばらく黙ったまま、時間だけが静かに流れる。

 そのまま寝てしまおうかと思ったようだが、どうやらそうはいかないらしい。机の上に置いたままにされた蒼樹のスマホが突如喧しい音楽を奏で始めた。それを不快そうな表情を浮かべながら手に取り、その音楽を止めようと試みる。

 が、それは叶わない。

 

「……電話掛かってきてんじゃん」

 

 誰かからの着信であるらしい。それを止めるには勝手に拒否するしかないため、紅羽は諦めて椅子から立ち上がった。

 

「し……しのざきさん、篠崎さんね。高校のお友達さんかな」

 

 リビングを出て、蒼樹の自室がある二階に続く階段を上りながら彼女はそんなことを呑気に宣った。蒼樹の友達といえば伊月くらいしか知っている人がいないが、彼以外にもちゃんと交友関係を持っていることに少しだけ安心する。

 

「蒼樹~。あんたのスマホに篠崎さんって人から電話掛かってきてるよ」

 

 そう言いながらノックもそこそこにドアを開け放ち、蒼樹が眠っているベッド目掛けて彼のスマホを放り投げた。ありがと、という蒼樹の感謝の言葉によろしいと言わんばかりに首を縦に振って彼に背を向けた。

 ドアをゆっくりと閉めつつ、ふと湧いてきた疑問を口にする。

 

「……普通友達にさん付けするかぁ?」

 

 異性相手ならありえる話だが、しかし蒼樹が異性と交遊関係を持つとはあまりにも思えない。モテるモテないという話ではなく、彼が異性を若干苦手としている節があるからだ。曰くどう接したらいいのかわからないらしい。

 さておき、だとすれば彼がさん付けをするような相手とは一体何者なのだろうか。

 

「篠崎って……?」

 

 そう呟きながら、蒼樹の部屋へ視線を送る紅羽。

 その視線はなぜか鋭さを湛えていた。

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