仮面ライダーエクシズ   作:八咫ノ烏

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更新頻度を上げるなどと言っておきながら一か月以上間が開いてしまいました。
色々と忙しくてなかなか執筆に手を付けられなかったんです。ほとんどブルアカのせい
反省はしてます。


それはそれとして四話です。


ep.4 蠢く影

 白い無機質な部屋。そこにある男が机に足を乗せて苛立ちを露わにしていた。

 

「あいつらに良いようにやられやがってあのカスどもが!!」

 

 眉間に皺を寄せ不快感を露わにしながら吠え、拳を机に叩き付けると溜め息を吐く。

 苛立つのも仕方がない。なにせ差し向けた連中が軒並みエクシズとグリントによって倒された上に、身柄を取り押さえられてしまったのだから。

 とはいえ、そのまま男を放置していると怒りに任せて部屋を破壊しかねない。その怒り様を見ていた女はそう判断すると、男に落ち着くようにジェスチャーを送る。

 

「私らはともかく下が勝てるわけないじゃん。戦う能力どうこう以前にギアの性能で負けてるんだから」

「んなことはわかってんだよ」

「なら落ち着きなよ。怒っても負けた事実が変わるわけでもないし、そもそも倒せって言われたわけでもないし」

 

 女は冷静にそう言い返し、パックの紅茶をストローで啜る。その様を見て男はより一層深い溜め息を吐くと、スマホを取り出してある人物から送られたメッセージを確認する。

 

「エクシズとグリントのデータを大体で良いから取れ、ねえ」

 

 彼らが下っ端を襲わせたのもそれが目的であった。まあ、現状は下っ端の使っているギアで太刀打ちすることは不可能という予想していた結論に収まったわけだが。

 それでも他に何か能力があるのであれば、なんとかしてそれを引き出してどれほどのものなのかを確認したいところである。

 

「こんなデータいるのかよ」

「攻略するのに必要なんでしょ。初見で突っ込んで負けたらこの組織終わりじゃん」

 

 そう言って女は男の顔を見る。女のごもっともな発言に男は言い返すことはしなかったものの、不満げな表情を浮かべていた。

 

「データなんざなくとも俺が直接あいつらとやりあえばそれで全部が終わるだろうが」

 

 よほど自分の腕に自信があるのだろう。あんな連中なんざすぐにこうよ、と言いながら首を斬るジェスチャーをしてみせた。

 しかし女がそれに頷くことはなく、

 

「あんた自分の立場わかってる?」

 

 とだけ返して男を黙らせた。女は男が手を挙げて降参のポーズを取っているのを流し目で見て、はぁと溜め息を吐いてから彼に指を指した。

 

「頼むから私たちがゴーサイン出すまでちょっかいかけないで」

「んな釘刺さなくともいいじゃねえか」

「わかってるならいいわ」

 

 そう言い残して女は部屋から去っていった。そして部屋に残された男は女に釘を刺されたことに対する恨みを溜め息に変換して口から吐き出した。

 やがて怒りが収まったのか、机から足を下ろすとスマホを取り出してどこかへ電話をかけた。

 

「おう。要件はわかるな。……その通り、エクシズたちだ。頼むぞ」

 

 その後いくつかやり取りを交わして電話を切る。

 

「いい気になるなよクソ仮面共。その時が来たら俺が……」

 

 静かに呟いた男の顔には獰猛な笑みが張り付いていた。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 大きなハンマーを担いだ化け物がいる、という噂を受けて蒼樹たちが調査に出向いてから一週間が経った。本命の化け物に相見えることは叶わなかったが、しかしレグルスの構成員を数名捕まえることができた。収穫としてはまずまず、といったところである。

 それに加え蒼樹がアストライアに馴染んできた。最近では暇さえあればアストライアの拠点を訪れて誰かと談笑するようになっている。

 

 今日ももれなくアストライアの拠点を訪れており、談話室にいた雪村と会話していた。

 

「蒼樹くんも結構仮面ライダーエクシズが板についてきたんじゃない?」

 

 雪村がコーヒーを口にしながら蒼樹に話しかける。蒼樹はその言葉に多分、と曖昧な言葉でお茶を濁した。

 この一週間が平和に過ぎていったかと聞かれると答えは否である。さすがに毎日のようにトレイターが現れたとかそんな無茶苦茶な事は起きていないが、それでも二、三件はトレイターに関する事件が起きていた。

 蒼樹はその全ての戦闘行為に参加していたため、これまで八回は戦っていることになる。彼自身は出来ることなら戦いたくないというスタンスを変えていないが、なってしまった以上は戦わなくてはいけないのだ。

 

 その過程で、彼は随分と戦い慣れてきていた。それでも今まで数年間戦っていた霧峰に比べたらまだまだなのだが。

 雪村はその様子を指してエクシズが板についたと言って褒めたのだろう。しかし蒼樹はあまり嬉しくないようで、複雑な表情を顔に張り付かせると

 

「あまり嬉しい言葉ではないんですけどね」

 

 と返した。雪村は彼の言葉に同意を示す様に何度か頷いて

 

「望んでエクシズになったんじゃないもんね」

 

 と言って少し表情を曇らせる。彼女としてもあまり蒼樹を酷使するようなことはしないよう気をつけているのだが、それでもエクシズが板についてしまうほどに戦わせてしまっているということに対する罪悪感を抱いているのだ。

 

「ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって」

 

 雪村は少々申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。それを聞いた蒼樹は謝られたことに驚いたのか少し目を見開いた。そして彼は初めて雪村と会話した時のことを思い出す。

 

 彼女は蒼樹に対して「無理に戦う必要はない」と言っていた。その後にきちんとアストライアに加入してほしい旨を伝えてはいたが、それも彼女の本心でないことは前置きで蒼樹に伝えていたのだ。

 そのことをきちんと覚えている蒼樹は「いやいや」と言いながら手を横に振る。

 

「結局戦うことにしたのは僕自身ですから。雪村さんは何も悪くないです」

 

 全部僕のせいですよ、と付け加えて机の上に置かれていたドーナッツを口の中に放り込んだ。雪村が上で経営しているカフェであるパナケイアで出すための試作品というだけあってかなり甘い。それでも彼女が初めに出してきたあのコーヒーよりはマシなのだが。

 

「あ、もしかしてそれ甘かった?」

「極度の甘党でもない限り胸焼けすると思います」

 

 そうバッサリと切り捨てる蒼樹。口にしたからには責任をもって食べ切ったが、二度と食べるまいと心で誓った。

 その蒼樹の様子を見て不満気にだいぶマイルドにしたはずなんだけどな、とぶつぶつ呟きながら頭をかいた。彼女にとっては渾身の出来だったようだ。

 

「雪村さんいます~?」

 

 談話室にひょっこりと顔を出しながらある男性が声をかけた。雪村はその声を聞くとすぐに表情を変えて体を起こす。

 

「ん、いるよ。もしかして外っ面ができたの?」

 

 彼女がそう問いかけると男性はこくりと頷いた。なんの外っ面なのだろうか、と首を傾げる蒼樹。アストライアには関係のないものなのかもしれないし、何かの隠語なのかもしれない。今のところそのようなことがあるとは思えないが、実はこの組織は裏社会的なものに染まっている、なんてこともあるかもしれない。

 

 そんな突拍子もない方面へと考えを広げていく彼の目の前で、雪村はいくつか口頭で指示を出す。それを受けた男性は軽くお辞儀をしてその部屋から去って行ってしまった。

 

「さっきの外っ面ってどういう意味なんです?」

 

 おずおずと疑問を投げかける。返ってきた答えがヤクザ系のそれだったらどうしよう、と内心ビクついていた彼に返ってきた答えは至極真っ当なものだった。

 

「え? 新しいギアの外装だよ」

「新しいギア……ですか?」

 

 蒼樹は思っていたものとは違う答えが返ってきて驚き、思わず聞き返した。

 

「うん。つい最近システムの開発が終わってね。あとはギア作ってその中に突っ込んで微調整って感じなの」

 

 彼女の言葉を聞いて蒼樹はなるほどと頷いた。一瞬だけまだ仮面ライダーが必要なのかという疑問が沸いたが、よく考えてみれば確かに今でこそ二人だけでなんとかなっているがこれから先もそうとは限らないのだ。戦力は多ければ多い方が安心感はある。

 

 だが。

 

「ま、出来たところで使える人がいないんじゃ文字通り宝の持ち腐れなんだけどね~」

 

 結局は雪村の言う通りで、使える者がいなければ意味がないのである。エクシズギアやグリントギアの使用者が奇跡的に見つかったとはいえ、そのギアも同じように事が運ぶとは限らない。全ては神のみぞ知る、といったところだ。

 

「それでもないよりはマシでしょう」

「そうなんだけどね。今回は何日で見つけられることやら」

 

 神社に願懸けしに行こうかなぁと言葉を付け加えて力無く笑う。今まで資格者を探すのに相当苦労してきたのだろうことを察することは容易である。

 それを察した蒼樹は微笑みかけ、彼女を励ます様に肩を数回叩いて見せた。彼の意図に気が付いた雪村は口を開いて感謝を述べようとするが、そのタイミングで蒼樹に出動命令を下す放送がかかり感謝の言葉を遮る。

 

「……タイミング悪いなぁ。空気の読めないやつらだね、まったくもう」

「出た以上は仕方がないですよ。行ってきます」

 

 腰を上げ、頭を下げてから部屋を出ていった。一人残された雪村は頬を軽く叩き、次いで頭を勢い良く横に振りだした。傍から見たら気でも狂ったのかと思われそうな珍行動であるが、決して気が狂ったわけではない。単に彼女なりに気合を入れているだけなのである。

 

「子供のはずの蒼樹くんも頑張ってくれてるんだから私も頑張らなきゃね」

 

 全てはトレイターもといレグルスから市民を守るために。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 篠崎が運転する移動用の車に揺られ、霧峰と蒼樹はトレイターが現れたという現場へと向かう。

 

「あとどれくらいで着くんすか?」

「大体数分だ。用意して待っていろ」

 

 短い会話しか交わされない。緊張感が漂う車内で、蒼樹は体をガチガチに固めながら外を眺めていた。

 何度か同じ様な状況に身を置いてはいたものの、やはり簡単に慣れることができるものではない。なにせ今から戦場に行くのだから慣れろというのも無理がある話だ。

 

「あれだな。撥ね飛ばすぞ」

 

 篠崎は数十メートル先に虎のようなトレイターの姿を認め、一瞬の躊躇もなくその判断を下した。他二人──特に霧峰は以前にも同じ経験をしたことがあるため冷静に受け身の体勢を取る。

 

「あ……? んだあの車」

 

 その車の進路上にいたトレイターは、まさか車の運転手が自分を撥ね飛ばそうとしていることなど全く想像すらせず、徐々に近づいてくるそれに違和感を持つだけであった。

 

「衝撃まであと四」

 

 篠崎が口でおおよそのカウントをし出す。と同時に妙な違和感を覚え眉を顰めた。しかし今更スピードを緩めることもできない。そんなものは後で考えれば良いことなのだ。

 

「三」

「おかしいよなあの車」

 

 ここでようやくトレイターが一向に減速する気配のない車に危機感を持つ。しかし今それを感じたところで後の祭りである。

 

「二」

 

 蒼樹は強く目を瞑り、霧峰は歯を食いしばって来たる衝撃に構えた。トレイターは車に背を向け車から逃げる姿勢を取る。

 

「一」

 

 トレイターとの距離が詰まった。

 

 そしてゼロ、と篠崎が口にした瞬間に車のフロントから鈍い音がして衝撃が彼らを襲った。いくら超人的な力を持つトレイターとはいえ、総重量が一トンを優に超える物体が時速六十キロを超える速さでぶつかったらどうしようもない。

 無慈悲にも撥ねられて数メートルほど宙を舞い、追加でグルグルと地面を転がった。生身の人間であれば即死しているか血まみれでグロテスクな光景が広がっているであろう事故なのだろうが、ただの打撲で済んでいるのだからそこは流石といったところである。

 

 そして車の方はというと、さして凹んだ部分があるわけでもなく、さも何も事故などありませんでしたよとでも言いたげな状態で佇んでいた。はっきり言うとすれば無傷である。

 

「突撃だ!!」

 

 篠崎の号令に合わせて車から霧峰と蒼樹が飛び出した。

 

「いってえ……よくも撥ねてくれたなこの野郎!!」

 

 吹き飛ばされたトレイターが悪態をつきながら、自身に向かってくる蒼樹と霧峰を指差した。

 

「ただじゃ済まさねえぞ……。きっちりお返ししてやらぁ!!」

 

 まるでどこかのヤクザのような威嚇をするトレイター。一般人であれば底知れぬ恐怖を感じていたのだろうが、今彼が相手にしているのは一般人ではなく仮面ライダーだ。この程度で恐怖を感じるほど二人はやわではない。

 霧峰はその言葉を聞いて鼻で笑うと、

 

「やれるもんならやってみなよ。こっちも全力でいくからさ」

 

 と挑発し返し、懐からギアを取り出した。蒼樹もそれに続いてギアを取り出そうとしたが、霧峰がそれを手で制する。

 どういうわけなのか問おうとしたが、それよりも先に霧峰が理由を口にした。

 

「前みたいに後ろから、ってこともあるかもしれないから周り見ててほしいんだ」

「見張りってことですか」

「いきなり後ろからズドン、なんて嫌だからさ。頼んだよ」

 

 そう言って霧峰はサムズアップをしてから一歩前に踏み出した。蒼樹は彼の指示通り物陰に身を隠し、辺りをきょろきょろと見回し始める。

 彼が安全であろう場所へ逃げたのを確認してから、霧峰はギアにカードを挿入する。

 

《EXCEED system stand by!!》

「言っとくけど、大人しく降参するなら今のうちだよ」

 

 戦い始めたら容赦はしない、という意思表示でもあり言葉通りの降伏勧告でもある。トレイターがその勧告を受け入れるわけもなく、足元に転がっていた石ころを霧峰の方へ向けて蹴り飛ばした。

 結果としては明後日の方向へと飛んで行ったが、それでも霧峰の表情は厳しくなっていく。

 

「降参する気はないってことで良いんだね」

「降参するように見えるとしたら眼科に行った方がいいぜ」

「なら君はムショに行くべきだね。そんなのに手を出してるんだからさ」

 

 いくつか言葉の応酬を重ね、霧峰は排除するしかないという結論に達しギアを腰に当てた。自動的にベルトが巻き付き、騒がしい待機音声が鳴り始める。

 

《Make some noise! Ready to drive The EXCEED system!》

「変身ッ!!」

《Ok! Drive The EXCEED system! Its bullets pierce even the darkness》

 

 装甲を完全に纏うよりも早く駆け出し、トレイターの顔面に握った拳を叩き付けた。不意打ちを食らったトレイターは少々よろけたが、すぐに反撃のために手から自慢の爪を生やしてそれを振り下ろそうとする。

 だがそれが振り下ろされるより早く、がら空きなトレイターの胸元に何かがあてがえられた。

 

「甘いね」

「なッ!?」

 

 グリントの持つ銃の銃口だった。いつの間に、とトレイターは驚愕のあまり一瞬動きを止めてしまう。

 グリントがその一瞬の隙を逃すはずもなく、グッとトリガーを引き弾丸を数発撃ち込んだ。

 

「ガァッ!?」

 

 撃ち込まれた箇所を摩りながら後ろへとよろけたトレイター。しかしそれで終わるはずもなく、反撃だと言わんばかりに姿勢を低くするともう一度グリントに飛び掛かる。

 

「ばかみたいに突っ込んだところでっ!!」

 

 冷静に数歩下がりながら、銃を構える。トレイターの爪が振るわれるより早くそれの射程圏外へと避けているのはさすがとしか言い様がない。

 だが今回に至っては彼の読みは甘かった。トレイターの狙いは彼の体ではない。

 

「ふんっ!!」

 

 トレイターの振るった爪は的確にグリントの持つ銃の一つに直撃し、それを弾いてトレイターの後ろへと飛ばしてみせた。グリントは指から離れたそれを反射的に目で追ってしまう。

 まずい、と彼が感じた時には遅かった。

 

「──ッラァ!!」

「グゥッ……!!」

 

 着地と共にあと一歩の距離を詰めたトレイターは容赦なくグリントの顎を狙って蹴り上げた。それを食らってしまったグリントは若干視界が霞むのを感じつつ、それでも気を緩めることなく追撃として振るわれた爪をかわした。

 

「読みが甘かったかな」

 

 ふぅ、と息を漏らして距離と取る。トレイターの持つ武器は鋭い爪だ。対してグリントの武装は銃のみ。

 であれば距離を取りつつ銃で撃っていれば、時間こそかかるだろうが勝てるはずだ。

 

「でもそんなの相手がさせてくれないよねぇ!!」

 

 そう叫んで脳裏に浮かんだ甘い考えを捨て、銃を乱射しながらトレイターとの距離を詰めた。

 トレイターは咄嗟に腕を交差させて防御の姿勢を取り、思わず目を細める。そのままの姿勢でグリントが近づくのを待ち、爪の射程圏内に入った瞬間に切り裂いてやろうという魂胆である。

 

 そして彼らの距離が縮まり、銃の乱射が止んだ。トレイターは爪を振るってやろうと腕を振り上げたが、目の前にグリントの姿はない。

 

「うおおおおッ!!」

 

 トレイターの頭上から降り注ぐ雄叫び。それに反応したトレイターが上を向いた瞬間、その顔面にグリントの足裏が叩き付けられた。

 彼が状況を理解する前にゴンと後頭部から鈍い音がする。地面に激突したのだ。

 

「回収完了、と」

 

 若干混乱の中にいるトレイターをそのままに、グリントは吹っ飛ばされていた銃を回収した。彼はトレイターの顔面を踏み台にして飛び越えたのだ。

 してやったり、という表情を仮面の奥で浮かべるグリント。だがそんな得意げな表情もすぐに消え去ることとなる。

 

「霧峰さん! ちょっとヤバいかもしれないです!」

 

 通信機越しでもわかるほど焦っている蒼樹の声が霧峰の耳に入る。どうしたのかと聞く前に蒼樹がさらに告げる。

 

「あれ絶対レグルスの人たちです!!」

 

 蒼樹の視界には三人ほどグリントとトレイターの交戦現場に向かってくる不審人物が入っていた。みな腕に例のブレスレットを着けているため、トレイターになろうとしていることは間違いない。おそらくグリントを挟み撃ちにして討ち取ってやろうという計画なのだろう。

 一瞬でそう判断した蒼樹は迷うことなく物陰から飛び出し、彼らの前へと立ち塞がる。

 

「ここから先へは行かせません」

《EXCEED system stand by!!》

 

 ギアを取り出してカードを差し込み、流れるように腰に当てた。普段の彼であれば話し合いでなんとかできないか試みるのだが、今回は彼にその気はないらしい。

 相手も話し合う気は全くないようで、一言も話さずに懐から赤いカードを取り出すとそれをスラッシュした。

 

《Are you ready for resonance?》

 

 互いに臨戦態勢に入る。蒼樹はやはり話し合う気はないか、と心の中で呟きつつゆっくりと息を吐く。

 

《Make some noise! Ready to drive The EXCEED system!》

 

 流れ出すエクシズギアの待機音声。場の状況にしてはいささか明るすぎるが、そんなことを気にしていられるほど悠長ではない。

 

「変身!!」

「実行」

 

 両者同時にそれぞれの変身シークエンスを完了させた。蒼樹は白い光に、男たちは黒い靄に包まれそれぞれの装甲をその身に纏っていく。

 

《Ok. Execute The R.C.system. Go on a rampage of twisted emotions and destruction》

《Ok! Drive The EXCEED system! Defeat the enemy and open a path of life》

 

 トレイターは主犯格であろう男は以前エクシズが相手をしたカマキリに、それ以外は蟻に似たトレイターへと変化した。

 エクシズは内心全員がアントトレイターというわけではないことに驚いた。なにせ一週間前に襲ってきたのはただの蟻軍団だったからだ。

 

「……抑えきれるかな、これ」

 

 三対一という数的に不利なこの状況。それにそのうちの一人はそれなりに力のあるトレイターだ。彼の後ろで戦っている霧峰に負担をかけさせないためにここで抑えておきたいところなのだが、どこまでやれるかという不安が湧き上がってくるのも仕方のない話だろう。

 

 その不安げな呟きを通信機越しに聞いていたグリントは状況はわかったと言わんばかりに頷いた。

 

「さっさと終わらせた方が良さそうだ」

 

 くるりと銃を回しながら息を整え、再びトレイターへと接近する。トレイターは再び立ち上がり、接近してくるグリントの姿を認めると腹の底から叫んでグリントに向かって突撃し出した。

 

「オラァァァ!!」

 

 勇ましい気合と共にすれ違いざまに爪を振るうが、グリントはそれをひらりとかわすと銃のトリガーを引きトレイターに銃弾の雨を浴びせる。

 だがバースト射撃では少々打撃力に欠けるところがある。そう判断したグリントは銃を操作した。

 

「正真正銘の全力射撃だ!!」

 

 先ほどまでの断続的な発射音とは全く違う、バララララッという凄まじい炸裂音が響く。その弾丸の全てに被弾してしまったトレイターは火花を散らしながら後退し、限界が近いのか地面に膝をついた。

 

「仕上げと行こうか!!」

《OK!! Glint!! OverDrive!!》

 

 グリントは意気揚々とギアを操作し、トドメの一撃を加えるためのエネルギーが二丁の銃へと集まっていく。

 それを構え、引き金を引こうとした彼の耳にエクシズの何やら苦戦している声が届く。

 

「クソッ……!! 待て!!」

 

 何事かと思い振り返ったグリント。彼の視界に、カマキリトレイターを羽交い絞めにしているエクシズの姿が映る。その下には腹を彼に踏まれているアントトレイターが一人。

 そしてもう一人のアントトレイターはというと。

 

「抜けちゃったのか」

 

 グリントの方へと単身突撃していた。グリントは先ほどのエクシズの待てという発言の意味を理解してなるほど、と頷く。さすがに一人で抑えるには無理があったのだろう。

 抜けてしまったものは仕方ない。

 

「ま、それくらいならね」

 

 どうとでもなる。そう心の中で付け加えつつ、銃口をそれぞれトラトレイターとアントトレイターに向け照準を合わせた。

 

「大した問題にはならない!!」

 

 そう叫び、トリガーを引く。それぞれの銃に集まっていたエネルギーが一気に発射され、トラトレイターとアントトレイターを容赦なく貫きそれらを爆散させた。

 

「いっちょ上がりってね」

 

 どこか余裕すら感じる発言をしながら銃をくるりと回して腰のホルスターにしまった。

 

 残るは今エクシズが抑えている二人のトレイターである。トレイターたちは、目の前で仲間を爆散させられた怒りをそのまま力に変えてエクシズの拘束から抜け出した。

 

「やばっ……」

 

 エクシズは焦りつつ腰から筒を引き抜き、剣と化したそれをすぐさま振るってカマキリトレイターを袈裟斬りにする。

 斬られた箇所から火花を散らしつつよろめくカマキリと交代するかのように、今度はアントトレイターがナイフを振りかぶって突っ込んできた。

 

「せい!!」

 

 少々気の抜けるような声で剣を再び振るってアントトレイターが手に持っていたナイフを弾き飛ばす。狼狽えたアントトレイターの胸元に蹴りを入れ、力の限り吹っ飛ばした。

 エクシズはふう、と息を整えてギアを操作する。

 

「もうこれで終わらせます」

《OK!! Exceeds!! OverDrive!!》

 

 そう宣言したエクシズに応えるかのように剣の光量が増していく。それを見たカマキリトレイターは大急ぎで剣を抜き、それを振り被りながらエクシズの方へと走り出した。

 

「ふぅ……ッ!!」

 

 鋭く息を吐き出して地面を蹴り、カマキリトレイターとの距離を詰めた。カマキリトレイターは振り被った剣をエクシズに向かって振り下ろす。

 エクシズは冷静に剣をカマキリトレイターの剣に当てた。そこから鍔迫り合いに移る、ということはなく。

 

「よいしょ!!」

 

 気の抜ける掛け声と共に剣を振り抜いた。エクシズの剣はカマキリトレイターの剣を容易く切断し、そのままトレイターの腹を一文字に斬り捨てる。

 エクシズはそこで止まらず、カマキリトレイターの爆発を背に残っていたアントトレイターの方へと駆け出した。

 

 アントトレイターは自身に勝ち目がないことを悟り、背を向けて逃走しているところであった。

 その背中目掛けてエクシズは手に持っていた剣の両方を投擲。見事にトレイターに命中し、しかしトレイターを倒すほどのエネルギーがなかったのか爆散はせず、地面に倒れ込む程度で済んでしまった。

 

「ならもう一回!!」

《OK!! Exceeds!! OverDrive!!》

 

 即座にもう一度ギアを操作した。エネルギーがエクシズの足に集まっていく。

 

「やああああ!!!!」

 

 裂帛の気合を放って宙へ飛び、ちょうど立ち会がったところであるトレイターの胸板に容赦なく蹴りを入れた。

 トレイターは地面を数回転がり、力なく地面に這いつくばって爆散した。

 

 完全に撃破したことを確認したエクシズはギアを腰から取って変身を解除する。

 

「お疲れ~」

 

 こちらも変身を解除した霧峰が蒼樹に労いの言葉をかける。労われた当の本人は少し申し訳なさそうな表情を浮かべ、軽く溜め息を吐いてから

 

「一人抜けさせてしまってすいません……」

 

 と謝罪する。そのせいで霧峰は余計な負担をかけてしまった、と感じているのだろう。

 その言葉を聞いた霧峰は「え」と素っ頓狂な声を出して少しの間固まり、蒼樹が言わんとしていることを理解した瞬間に朗らかに笑った。

 

「あれくらい良いよ別に。負担にはならないから」

「……ありがとうございます」

「良いの良いの」

 

 霧峰は蒼樹の頭を乱暴に撫でながら篠崎と連絡を取る。車の中で待機していた彼からはどこか緊迫した雰囲気を感じさせる言葉が掛けられた。

 

『反省会は後でもできるだろう。早く車に戻れ』

「何をそんなに急いでるんすか? マスコミでもいるんです?」

 

 篠崎の言葉から何か面倒ごとが起きているのだと感じ取った霧峰はそう問いかける。アストライアがマスコミによって存在が暴かれるのは非常にマズい。

 まだ警察と鉢合わせた程度であれば繋がりがあるためどうとでもなるが、マスコミだった場合隠蔽するのが難しくなる。下手をすれば生放送で中継中という可能性もあるのだ。

 

 そこまで一気に連想した霧峰は一人で顔を青ざめさせるが、篠崎からの返答はそれとは全く別のものであった。

 

『襲われていたはずの被害者がいない。おかしいとは思わないか?』

「どっかに逃げたんじゃないんすか? よくある話でしょ」

『いや、我々がここに来た時からいなかった。あの虎もどき以外には誰も、な』

 

 霧峰の言う通り、この現場に被害者はいなかった。車で突撃する際に篠崎が抱いていた違和感の正体はこれだった。

 それを聞いた霧峰は蒼樹と目を見合わせ、急いで車の方へ向かう。

 

 なぜ初めから被害者がいなかったのか。殺された後なのであれば遺体が近くに見つかるはずだが、それすらもない。

 であるならば。三人が辿り着いた結論はどれも似たようなであった。

 

「まさか嵌められた……? でも一体、何のために……?」

 

 蒼樹の呟きに返すことができる言葉はなく、彼らは車に乗り込むとすぐにその場を離脱していった。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 そして彼らが離脱した車をひっそりと見つめる影が一つ。

 

「あれが僕らの敵……」

 

 そう呟いて身を隠す。その少年は先ほどの戦いをずっと観察していたのだ。

 手元のスマホには変身する前の彼ら、霧峰と蒼樹の素顔の写真が保存されていた。彼らから気付かれないように遠くから隠し撮りしたのだろう。

 

「こんな奴らが僕の自由を……」

 

 忌々し気に呟き、まるで後ろで戦闘の後始末をしているアストライアの実動隊員から逃げるように、早歩きでその場を去る。

 やがてそれらが見えなくなり、恵九味市の大通りに出た。帰宅ラッシュということもあってかなりの交通量がある。その様子を横目に歩道を歩き、あるものに目が入り歩みを止める。

 

「……へえ」

 

 それはただの看板であった。誰かの講演会や催事の宣伝、指名手配犯や行方不明になった子供の情報が書かれたなど。様々なポスターが張られてある。

 

「壊滅的だなこの絵。描いたやつ絵のセンスないよ、これ」

 

 警察が作成したのであろう指名手配犯の似顔絵を見てそう呟いた。確かにこの絵を見て犯人を捜せと言われても少々無理がある出来だ。

 追加で嘲る様に鼻で笑うと、ズボンからスマホを取り出してどこかに電話をかける。

 

「わかるだろうけど僕だよ。お前からやれって言われたの終わったからさ。迎え、寄越してよ。GPSで居場所わかるでしょ」

 

 電話相手にそれだけ伝えて電話を切った。

 そこから数分後、白い車が彼の待つ歩道に止まり、彼を乗せるとどこかへ走り去っていく。

 アストライアの知らぬところで、着々と魔の手が伸びつつあった。




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